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裁判所での係争: Ed Sheeran氏は音楽著作権裁判で勝訴、原告は控訴

2023年9月

著者: Hayleigh Bosher氏、英国ブルーネル・ユニバーシティ・ロンドン 知的財産法准教授兼副学部長

これまでにどのような経過をたどったのでしょうか?

Ed Sheeran氏は、自身の楽曲「Thinking Out Loud」が、Marvin Gaye氏が共作・演奏した楽曲「Let’s Get It On」の盗作だとする米国の音楽著作権裁判でみごとに勝訴しました。

シンガーソングライターのEd Sheeran氏は、著作
権裁判の当事者となったアーティストの1人です。
英国や米国では、こうした裁判に巻き込まれるア
ーティストが増え続けています。最近では、
2023年5月、ニューヨークの裁判所で、同氏の
「Thinking Out Loud」は「Let's Get It On」
の著作権を侵害していないとの判断が下されました。
「Let's Get It On」はMarvin Gaye氏が他のアーティ
ストと共同制作・演奏した曲です。
(写真: Harald Krichel-CC BY-SA 3.0)

音楽業界全体を揺るがした「Blurred Lines」の著作権を巡る裁判が終結してから10年が経過しましたが、この判決は今でも強い影響を残しています。Robin ThickeとPharrell Williamsの両氏は、その楽曲である「Blurred Lines」がMarvin Gaye氏の楽曲「Got To Give It Up」の盗作 (コピー) であるとするMarvin Gaye Estateの主張を受け、2013年8月、非侵害宣言を求める訴えを提起しました。

審理と2日間の評議を経て、陪審員はThickeとWilliamsの両氏に著作権侵害の責任があるとの評決を下し、2人に対して、Gaye Estateに730万米ドルを支払うよう命じました。これは、当時の音楽著作権関連では史上最高の賠償額でした。pdf2018年3月、米国控訴裁判所はこの評決を支持しましたが、損害賠償額は530万米ドルに減額されました。また、「Blurred Lines」の印税の50%を将来にわたって支払うよう命じました。

この判決には賛否両論が巻き起こりました。とりわけ議論を呼んだのは、曲のスタイルの類似性に焦点が当てられていることでした。反対意見を付したNguyen判事は、この判決により、「被告が音楽のスタイルを著作権で保護することが不適切に認められることになった」と警告しました。また、Williams氏は「インスピレーションを受ける自由を失ったら、ある日ふと顔を上げたとき、私たちが知っているエンターテインメント業界は訴訟で身動きがとれなくなっているかもしれない」と危惧しています。筆者のポッドキャスト『Whose Song Is It Anyway?』の取材に対して、米国の名だたる著作権弁護士William Patry氏は、この判決を「連邦司法の汚点」と評しています。

インスピレーションを受ける自由を失ったら、ある日ふと顔を上げたとき、私たちが知っているエンターテインメント業界は訴訟で身動きがとれなくなっているかもしれません。

Pharrell Williams

Williams氏が抱いた恐怖は、多くのソングライターにとって他人事ではありませんでした。一例を挙げるならば、Mark Ronson氏、Bruno Mars氏、Drake氏、Olivia Rodrigo氏、Dua Lipa氏、Justin Bieber氏などです。(SpotifyとApple Musicで、著作権の問題に関係する曲を収録した「Copyright in the Music Industry (音楽業界における著作権)」というプレイリストを見ることができます)

Ed Sheeran氏は、米英の両国でいくつかの係争に巻き込まれています。2016年には、自身の楽曲「Photograph」に対して、「Xファクター」の優勝者であるMatt Cardle氏の楽曲「Amazing」を盗作したという疑惑がかけられました。このときには、共同制作者のJohnny McDaid氏とともに、1,600万ポンドで和解に持ち込みました。2018年には、Tim McGraw、Faith Hillの両氏との共作「The Rest of Our Life」がSean CareyとBeau Goldenの両氏の楽曲「When I Found You」の盗作だという別の申し立てを解決しました。また同年、英国を中心として展開された、自身の楽曲「Shape of You」がSam Chokri氏の「Oh Why」の著作権を侵害しているとの申し立てに反論しています。今回の裁判では、これまで和解に持ち込んできた案件がSheeran氏に対する類似事実の証拠として提示され、同氏にとっては悩みの種となりました。2022年になって、Sheeran氏が意図的にも、また無意識的にも、盗作した事実はないという判断が高等法院から下されました。これにより、Sheeran氏自身のみならず、潜在的には音楽業界にとっても、潮目が変わり始めています

「Let’s Get It On」と「Thinking Out Loud」との係争

「Thinking Out Loud」は、Ed Sheeran氏とAmy Wadge氏の共作で、2015年に書かれています。「Let's Get It On」は、Marvin Gaye氏とEd Townsend氏による1973年の作品です。

Ed Townsend氏の娘Kathryn Townsend Griffin氏は、2003年にEd氏が亡くなったときに、同氏の音楽作品の持分の3分の1を継承しました。彼女はまた、異母兄弟のDavid氏が2005年に亡くなったときに、彼が保有していた持分を相続しています。この訴訟は、2017年7月にKathryn Townsend Griffin氏、Ed Townsend氏の妹Helen Mcdonald氏、およびTownsend氏の妻Cherrigale Townsend氏の遺産管理人によって、Ed Sheeran氏とAmy Wadge氏を相手取って提起されました (Griffin et al v Sheeran et al  (Griffin氏ほか対Sheeran氏ほか事件))。これ以外にも、同じ曲を巡って、投資銀行家David Pullman氏が所有する会社Structured Asset Sales社が提訴しています。同社は、Townsend氏の全曲目から得られる印税の1/3を受けています。

略式判決が却下された後、Griffin氏対Sheeran氏事件は2023年4月に米マンハッタン連邦裁判所で審理されました。判決が下されるまでに、訴訟に6年間、審理に6日間、陪審員による評議に3時間が費やされました。

著作権は [中略]、コピーから保護することと、クリエイターが過去の作品を踏まえてそこからインスピレーションを得られるようにすることとの間で適切なバランスをとる必要があります。

著作権は、対象となる原著作物を保護し、これに報酬を与えることを通じて、創造性を促進することを目的とするものです。そのためには、盗作から保護することと、クリエイターが既存の作品を踏まえてそこからインスピレーションを得られるようにすることとの間で適切なバランスをとる必要があります。著作権は、独自性を有すオリジナル要素のコピーを規制するものであり、インスピレーションを妨げたり、オリジナルでない要素のコピーを規制したりするものではありません。この判決のポイントは、2つの曲には似ているところもあるものの、該当する箇所は保護されていない要素であり、誰でも自由に使用できるということでした。

この判決のポイントは、2つの曲には似ているところもあるものの、該当する箇所は保護されていない要素であり、誰でも自由に使用できるということでした。

それにしても、盗作された事実があるのかを判断するのに、これほどの長い時間とこれほど多くの専門家を必要とするものでしょうか。それとも、「Blurred Lines」が私たちと音楽業界を著作権の原則から逸脱させたのでしょうか。

これらの曲には顕著な類似点があるのでしょうか?

米国の法律において著作権侵害が認められるには、原告は、被告が実際に原告の作品をコピーしたこと、そして、コピーの結果として、原告の作品中の保護可能な要素と被告の作品との間に顕著な類似性が認められることを証明する必要があります。作品中に保護可能な要素と不可能な要素の双方がある場合、保護対象となり得ない要素を判断材料から取り除いて分析しなければなりません。裁判では、残された保護可能な要素を取り上げて、顕著な類似性が認められるか否かに絞り込んだ判断が行われます。

この裁判の場合は、こうした状況下で当たり前になっていたように、音楽論の専門家による報告書が両当事者から提出されました。原告 (Griffin氏) 側代表のAlexander Stewart氏の報告書は、「Thinking Out Loud」には「Let's Get It On」からのコピーが認められると結論づけており、類似点として、ベースのメロディー、ドラムパート、ハーモニー、そして、全体的な形のなかでの構造的な配置、4コード進行のグルーヴのわずかなシフトなどを指摘しています。

一方、Sheeran氏側の証人であるLawrence Ferrara氏からは、これと相反する内容の報告書が提出されました。その主張は、2つの曲の間には、構造、ハーモニー、リズム、メロディー、歌詞において、顕著な類似性は認められないというものでした。そして、類似点とされている内容は、「Let's Get It On」が作られる前から存在していた表現であると指摘しています。したがって、Sheeran氏の主張は、2つの曲の間で類似する要素は、著作権の保護対象とはならない一般的なものなので、両者に顕著な類似性は認められないというものでした。

Griffin et al v Sheeran et al 事件では、「Let's Get It On」で使用されているコード進行が一般的であるかどうかが争点になりました。(写真: MarsBars / E+)

裁判では、「Let's Get It On」で使用されているコード進行が一般的なものであるかどうかが争われました。Townsend氏側は、「Let's Get It On」が制作される以前の曲で、これと同じコード進行を使っている曲が少なくとも13曲あり、少なくとも2種類のギター教本に掲載されているという事実をSheeran氏側の専門家が突き止めたことを認めざるを得ませんでした。また、その4コード進行の和声リズム (2番目と4番目のコードが先取りされているか、または拍の前に配置されているか) が保護対象となりうるかについても争点となりました。Sheeran氏側は、これはごく普通に使われているテクニックだと言いましたが、Townsend氏側は特別なものであると主張しました。

裁判終了後、裁判官は陪審員に、2つの曲がどれほど類似していたとしても、独立創作 (independent creation) は、著作権侵害の責任に対する完全な抗弁となることを改めて説明しました。陪審員の評決は、3時間足らずの評議の後に下されました。その内容は、Sheeran氏の「Thinking Out Loud」は独立して創作された楽曲であって、「Let's Get It On」の著作権の侵害には当たらないというものでした。

Sheeran氏の「Thinking Out Loud」を巡っては、これ以外にも、Structured Asset Sales社から、その持分に基づいた訴訟が提起されていましたが、2023年5月16日には、米連邦地方裁判所のLouis Stanton判事により、これを却下する決定が下されています。同判事は、Sheeran氏による著作権侵害として申し立てられた「Let's Get It On」の該当箇所は、一般的な要素であり、著作権保護の対象とはならないと判断しました。そして、コード進行と和声リズムは楽曲を創造する際には当たり前の構成要素であると強調しました。

しかし、これで終わりではありません

しかし、これでSheeran氏が直面する問題が解決したわけではなく、音楽の著作権を巡る裁判の増加傾向に歯止めがかかったわけでもありません。Townsend氏側は2023年6月1日、控訴状を提出しました。控訴状には控訴理由が記載されていないため、詳細については今後の推移を見守る必要があります。

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