Refik Anadol Studioとサーペンタイン・ギャラリーの厚意により提供。撮影はHugo Glendinning氏)

データで「描く」: メディア・アーティストのRefik Anadol氏が生成AIで制作するアートとそのプロセス

著者: James Nurton氏、フリーランス・ライター

2024/12/01

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生成AIの登場により根本的な変化が起きているのは、テクノロジーの分野だけではありません。アートの制作方法や、アートに対する考え方も根本的に変えつつあります。その革命の最前線に立つのがRefik Anadol氏です。

Refik Anadol氏はトルコ系アメリカ人のメディア・アーティスト、デザイナーであり、データと人工知能に美の観点から取り組む先駆者です。人間と機械が交わる領域における創造性についての試みを重ねており、データ・ドリブンの機械学習アルゴリズムを用いて記憶をデジタル化し、抽象的で色彩豊かな環境アートを制作しています。その作品は、これまでにニューヨーク近代美術館 (MoMA)、ポンピドゥー・センター・メス、オーストラリアのビクトリア国立美術館、ヴェネチア・ビエンナーレで展示されてきました。

Anadol氏は、アートと科学とテクノロジーの収斂、生成系AIの持つ可能性、そして植物相と動物相の画像を用いて自然を再構築する手法についてWIPOマガジンに語りました。

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Efsun Erkilic氏
Refik Anadol氏。

ご自身のお仕事をどのように表現されますか?

まず、私はメディア・アーティストでありアート・ディレクターです。私はコンピューター・プログラミングを始め、ソフトウェアを制作しそれを使って自分の想像力を拡張することで、これまで見えなかったものを可視化できることを知ったのです。機械が相互通信に使用する要素をデジタル顔料に変え、アート作品を制作することができるのです。

私はコンピューターが大好きです。最初はコンピューター・ゲームから始め、高校生の頃からずっと機械を使用したアートの構築作業に取り組んでいます。

自作のソフトウェアを使用してアート制作を始めたのは2008年です。音、視覚、インターネットなどの私たちを取り巻くデータを顔料化するという着想を得た頃、「データ・ペインティング (データを絵の具にする)」という造語を作りました。この世界の定量化できるものはすべてアート作品になり得ると私は考えています。データはただの数字の集合体ではなく、記憶がひとつのフォルムをとったものであり、あらゆる形状やフォルムをとることが可能なのです。

「機械が夢を見られるとしたら、何が起こるのだろうか? もしそれが可能なら、現実とそうでないものを誰が定義するのだろうか?」

制作プロセスについてお聞かせください。

多くの場合、私の作品は私たちの身の回りにあるデータからインスピレーションを得ています。私の制作チームでは目的に特化した公開済みの大規模データセットを活用し、生成系AIを用いて機械学習アルゴリズムをトレーニングします。これにより、自然や都市生活、文化を視覚化します。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの発生以降、私は、可能な限り大規模なデータセットを収集・編集して自然を人工的に保存することに力を注いでいます。

人工知能 (AI) および生成AIについてはかなり前から取り組まれていますね。

人工知能を手がけ始めたのは、Googleのアーティスト・イン・レジデンス・プログラムに参加した2016年です。刺激に満ちたこの素晴らしい1年間で、私とチームメンバーはアルゴリズムの使い方を学びました。私たちの最初のプロジェクトではトルコのオープンソース・ライブラリのSaltを用いてArchive Dreamingプロジェクトを制作しました。これは公開データを使用して制作された初のAIアート作品でした。

「機械が夢を見られるとしたら、何が起こるのだろうか? もしそれが可能なら、現実とそうでないものを誰が定義するのだろうか?」という疑問がありました。機械は夢を見られる、というアイデアが基本的な出発点でした。過去数年に渡って計算能力は著しく向上しており、今まで私たち��遺してきたデータセットを新たな体験へ変えるという手法にはまったく新しい展望がもたらされています��

「AIには意識というものはまだありません。しかし、私たちはAIが将来的に一定レベルの意識を獲得することを期待しています。」

私たちはニューヨーク近代美術館 (MoMA) で、「Unsupervised」という題名の、絶えず変化を続けるAI作品の展示を行いました。これは2023年10月末まで展示されました。来場者は、AIが無限の夢を見続けている状況を体験します。このインスタレーションのために私たちが制作したソフトウェアは、視覚、音、気候にまつわるデータを使用しています。これまでの私たちの展示の中で最も意欲的な作品であり、開発過程ではライブ・ペインティングやその他の作品も制作しました。

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© 2022 The Museum of Modern Art (写真: Refik Anadol氏)
インスタレーションの様子。Refik Anadol: Unsupervised、ニューヨーク近代美術館 (2022年11月19日~2023年3月5日)

AIは、独立した創造性を有することができるのでしょうか?

AIには意識というものはまだありません。AIが意思決定力を持つことを人々は恐れていますが、現時点では、AIは過去の傾向に基づいて未来に起こりそうなことを予測しているにすぎません。しかし、私たちはAIが将来的に一定レベルの意識を獲得することを期待しています。これは、私たちがAIの名前と、作品に使用したアルゴリズムおよびデータを明記している理由のひとつです。MoMAの展示では来場者に制作プロセスをより深く理解してもらうため、私たちが使用したデータソースとAIによるその使用方法を記すためのスクリーンを1面設けました。

あなたの作品において、人間による入力と生成AIとのバランスはどのようなものですか?

バランスはおよそ50対50です。私の作品は、人間と機械による真のコラボレーションです。私は生成AIについて非常に楽観的に捉えています。なぜなら、生成AIは私たちの記憶を強化する可能性を有しているからです。アーティストとして私たちはこの可能性を利用できます。たとえば、このデジタル時代において自然を表現することで、私たちの作品を目にした人々は自然の世界に身を置いた時の感覚を思い出すことができるのです。生成AIは画像、音、テキスト、あるいは香りのデータさえも使用してアルゴリズムをトレーニングできます。

AIによる想像を制作することは、何かを入力すると何かの出力を得られるというような単純なものではありません。プロジェクトごとにゼロから構築を始めるため、私たちがデータ収集とトレーニング・プロセスを完了するまでに数か月を要します。まずデータをキュレーションして、それをAIのトレーニングに使用します。次に、皮肉なことですが、AIに対して、あまり学習しすぎず意図的に夢を見て独自の想像を作り出すようにと教えます。私たちは既存のモデルは使用しません。これが私たちの作品と他のAI作品との重要な違いです。機械の意識の中にカメラが存在すると考えてみてください。私たちがプログラムしているのはそういうものです。AIが学習を深めるほどに、10次元から24次元の情報が蓄積されるのです。

私たちは2014年から使用しているソフトウェアで、データという絵の具に浸して使うこのような「絵筆」の制作に取り組んでいます。私はこれを「AIデータ・ペインティング」と呼んでいます。機械の「意識」の中から情報を取り出し、デジタル・キャンバスに変換します。AIデータ彫刻のように3D彫刻という形状をとることもあれば、没入空間や公共建築といった形状をとることもあります。

私たちはさまざまな試みを行いますが、アート上の意図が何であれ、その多くは機能しなかったり、不満足な結果になったりします。成功より失敗の方がはるかに多いです。しかし私たちはこの媒体を使用したアートの表現方法を絶えず学び続けています。

「私たちの文化遺産を豊かにするためにこうしたデータを利用する、新しい方法を見つけたいと考えています。」

そのような観点から、あなたにとって特に印象深いプロジェクトは他に何がありますか?

ロサンゼルスで準備を進めている「DATALAND」という美術館のための調査において、私は幸運にも、ブラジルのアクレ州にあるアマゾン熱帯雨林に住む��ワナワ族の素晴らしい指導者たちとともに時間を過ごすことができました。

ヤワナワ族の学びのあり方や自然界についての知識に私は深い感銘を受けました。彼らとの敬意に満ちたコ・クリエーション (共同制作) を行うこと、彼らの言語を保存することを中心に据えて、私たちはともにオープンソースのAI熱帯雨林モデルを開発しました。このモデルを使えば、人々の集合的記憶をもとに、絶滅した植物相や動物相を生成AIが「再構築」することさえ可能です。

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(Refik Anadol Studio)
ヤワナワの風

現在、私たちは人類の記憶を保存するためにデータソースを使用する方法について、さらにクリエイティブで新しい手法の探求を続けています。現代では膨大なデータが日々生成されており、これらをただゴミ箱へ送るとすれば非常に残念なことです。私たちの文化遺産を豊かにするためにこうしたデータを利用する、新しい方法を見つけたいと考えています。

そのような経緯で、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーで行われた展示「Echoes of the Earth: Living Archive」で使用されたあなたのオープンソースの「Large Nature Model」が登場したのでしょうか? 

そうです。私たちは自然の画像と音にフォーカスした初のオープンソース生成AIモデルである、「Large Nature Model」(大規模自然モデル) の開発を進めています。この研究のために、スミソニアン協会、ナショナル・ジオグラフィック誌、ロンドン自然史博物館などの組織によるデータ、それから世界中の多様な熱帯雨林から得たデータを含めて、5億を超えるオープンソースの画像データを倫理的に使用しています。

「私たちは、誰かの個人的な情報を制作に使用することは決してありません。この点については細心の注意を払っています。」

自然に対する興味のあり方が変化したのは8年前です。私生活のパートナーでありスタジオの共同設立者でもあるEfsunからアマゾン川流域の文化を紹介され、同地域の素晴らしさと重要性を理解したのです。 この啓示がきっかけで、自然界の動きのダイナミクスに対する尽きぬ興味が芽生えました。私は2010年から自然界で見られる動きについて探求を続けています。水、風、気象パターンに関わるデータに基づくシミュレーションを制作し、このシミュレーションを「データの顔料化」と呼んでいます。パンデミックは私たちに独特の困難をもたらしました。自然環境へ出かけられなくなったのです。そこで、「代わりに屋内に自然を持ち込めないだろうか?」という疑問が生まれました。私たちは自然界のデータのアーカイブを開始し、これまでに40億を超える植物相と動物相の画像を収集しています。

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(写真: Refik Anadol Studioとサーペンタイン・ギャラリーの厚意により提供。撮影はHugo Glendinning氏)
2024年にロンドンのサーペンタイン・ノース・ギャラリーで行われたRefik Anadol氏による「Echoes of the Earth: Living Archive」のインスタレーションの様子。

そのような仕事には、大規模なチームが必要ではありませんか?

私たちのチームは、多様なバックグラウンドを持つ15人のメンバーで構成されています。建築家、デザイナー、AIエンジニア、データ・サイエンティスト、ミュージシャン、哲学者、神経科学者、その他さまざまです。私たちの共通の夢は、データで表わされた人間性を物語る新たな言語を翻訳し、アートの形にするということです。

クリエイティブ・プロセスではどの程度までご自身が指揮監督されているのでしょうか?

私は現場で直接関与しています。すべてのパラメーターひとつひとつの設定に私が関わります。こうすることで私の作品とのつながりを保ち、作品を自分のものにしています。

生成AIのトレーニングに使用されるデータの出自は一大論争になっています。先に述べられたオリジナル・データはどこから得ているのですか?

一部の作品では、米航空宇宙局 (NASA) のジェット推進研究所 (JPL) やMoMAなどの機関と提携し、その素晴らしいデータセットを使用しています。Zaha Hadid Architects社ガウディが設計したカサ・バトリョ邸からデータの共有を受けたこともありました。それ以外のケースでは、公開データを使用します。アーカイブも巨大なインスピレーションの源泉です。しかし究極的には自然が私たちのインスピレーションの源泉です。

私たちは、誰かの個人的な情報を制作に使用することは決してありません。どちらかといえば、人間性に属する物事の方にフォーカスしています。この点については細心の注意を払っています。通常、私たちはオープンソースのソフトウェアを取得し、それをもとに開発と改善を進めます。それから、神経科学者や植物学者とこのソフトウェアを共有します。こうすることで彼らの研究の支援もしています。ソフトウェア開発は単にデジタル・アート制作のためだけではありません。

他人があなたの作品を承認なしに共有したり、複製したり、使用したりすることについては否定的ですか?

もちろん否定的です。私はカリフォルニア大学ロサンゼルス校のデザイン・メディア・アート学科で教える教育者でもあり、自身の知識を伝えることで学生の成長を手助けしています。しかし、オープン・シェアを行うと、これまで以上に多くの人々が私の作品を引用の言及なしに複製することがわかりました。批評家でさえこのような行為を行います。私の作品を許可なしに使用する人が増えれば増えるほど、私には作品を保護する責任があるということを強く感じています。世界中のコレクターの間で私の作品の価値が高まっているからこそ、特にそのように感じます。保護を講じなければやがて野放し状態となり、誰も前に進めようとしなくなります。

私たちはプロジェクトに年単位の時間をかけて取り組んでいます。だから誰かがアイデアを模倣しているのを見るのは辛いものです。私がチームメンバーとともにその��品に費やした時間とエネルギーが完全に否定されてしまうからです。研究者が自身が行った科学的作業に対する権利の帰属を認められるのと同様に、アーティストも自身の創造性に対する権利の帰属を認められなければなりません。このような理由から著作権は非常に重要なものです。

「互いに知識やベストプラクティスを共有すれば、私たち皆にとって、進化を続ける生成AIの世界を進むためにも、自身のアートの完全性と独創性を保つためにも役に立ちます。」

他のアーティストが生成AIに取り組むにあたってのヒントはありますか?

データ入力を理解し、管理することは不可欠です。使用するデータセットを注意深くキュレーションすることで、あなたの芸術に対するものの見方に沿う出力を確保できるだけでなく、他者の知的財産を尊重することにもなります。透明性の確保と倫理上の配慮も不可欠です。私は、私のデータの出自を明確に把握しており、必要な許可を得ています。このようなやり方により私自身の作品を保護できるだけでなく、私の作品を鑑賞する人々やコラボレーションの相手と信頼関係を築くことができます。

最後に、アーティストの皆さんにはぜひ幅広いコミュニティと関わることをおすすめします。互いに知識やベストプラクティスを共有すれば、私たち皆にとって、進化を続ける生成AIの世界を進むためにも、自身のアートの完全性と独創性を保つためにも役に立ちます。

現在はどのようなプロジェクトに取り組んでいますか?

ロサンゼルスのDATALANDが次の目標です。また、私たちのスタジオにとって10周年という重要な節目でもあります。DATALANDは、Refik Anadol Studioによるアート領域でのリーダーシップのもとに、視覚による世界創造、科学、技術、学術界の各領域における革新者が一堂に会するものとなるでしょう。アート作品を並べる場ではありますが、それに加えて研究や教育へもフォーカスし、オープンソースの実践を称える目的も有します。AI時代を歩む将来世代に対し、ひとつの模範を示すものとなります。

AIと知的財産 について詳しく知りたい方は、ぜひ出発点としてWIPOの情報をご活用ください。WIPOでは知的財産と最先端テクノロジーについて取り上げています。また、人工知能を含む先端技術が知的財産に与える影響について議論し、それを促進するWIPO対話 (WIPO Conversation) も定期的に開催しています。革新技術の分野では、生成AIに関する最新のWIPOのPatent Landscape Report (特許ランドスケープ・レポート) において、生成AIテクノロジーについての包括的な知識と特許取得のトレンドを提供しています。