WIPO Arbitration and Mediation Center

紛争処理パネル裁定

KDDI株式会社 対 大平健一(Kenichi Ohira)

事件番号 D2021-1189

1. 紛争当事者

申立人は、KDDI株式会社であり、その住所地は日本国である。申立人の代理人は、弁護士法人内田・鮫島法律事務所であり、その住所地は日本国である。

被申立人は、<大平健一(Kenichi Ohira) であり、その住所地は日本国である。

2. ドメイン名および登録機関

紛争の対象であるドメイン名:<kddimobile.com>。

本件ドメイン名の登録機関:GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.com。

3. 手続の経過

本件申立書は、2021年4月19日にWIPO仲裁調停センター(以下「センター」)へ提出された。センターは2021年4月19日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を上記登録機関に要請した。登録機関は2021年4月20日にメールによりセンターへ登録確認の返答をし、申立書に記載された被申立人および連絡先細目と異なる情報を当該ドメイン名の登録者として公開した。センターは申立人へ2021年4月22日に登録機関により公開されたドメイン名登録者および連絡先細目を通知し、申立人は申立書を修正することができる旨案内した。申立人は修正版申立書を2021年4月23日にセンターへ提出した。

センターは申立書および修正版申立書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下「手続規則」)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則(以下「補則」)における方式要件を充足していることを確認した。

手続規則第2条および第4条に従い、センターは本件申立を被申立人に通知し、2021年4月26日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条に従い答弁書の提出期限は2021年5月16日であった。センターは被申立人から2021年4月23日と 2021年4月27日に電子メールを受領した。センターは2021年5月10日に答弁書を受領した。

センターは2021年5月20日に加藤照雄(Teruo Kato)を単独のパネリストとして本件について指名した。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認した。手続規則第7条の要請に従い、紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した。

紛争処理パネルは2021年6月1日に、申立人と被申立人それぞれに補足説明を求める手続き命令第1号を発出し、被申立人は2021年6月6日に、申立人は2021年6月9日に、これに対する回答書を提出した。

紛争処理パネルは2021年6月23日に、登録機関に対し、紛争の対象であるドメイン名の譲渡の有無の確認、そして有の場合の譲受人についての情報提供、を求める手続き命令第2号を発出し、登録機関は2021年6月30日にこれに対する回答書を提出した。

4. 背景となる事実

申立人によると、申立人は主として通信事業を営み、「ここ数年は5兆円を超える売上を計上しており(中略),2020年3月期の売上は日本国内の企業で22位(通信業の企業では日本国内第3位)」の企業とされている。

申立人は2003年4月4日付登録の標準文字からなる「KDDI」との文字商標登録第4658806号にかかる日本国商標権を保有し、当該商標権にかかる指定役務には「広告及びこれに関する情報の提供」(第35類)、「インターネットによる商品売買代金の回収代行」(第36類)、「建築一式工事」(第37類)、「移動体電話による通信」(第38類)、「鉄道による輸送及びこれらに関する情報の提供」(第39類)、「布地・被服又は毛皮の加工処理(乾燥処理を含む。)」(第40類)、「技芸・スポーツ又は知識の教授」(第41類)及び「美容又は理容に関する情報の提供」(第42類)が含まれる。

争いの対象であるドメイン名は<kddimobile.com>であり、登録機関によると、これは2006年3月27日に作成され、登録者(Registrant)として被申立人の氏名が記載され、被申立人が従前居住していた東京都内の住所がその連絡先として現在も記載されている。被申立人によると、被申立人は本件ドメイン名を2018年5月5日に取得したとされる。

被申立人は2019年3月に第三者へ本件ドメイン名を譲渡したとするが、かかる譲渡に関わる記載は登録機関の登録情報には表れていない。被申立人は2020年に隣接県に転居し、その変更後住所は登録機関の登録情報には反映されていない。

申立人が提出した証拠によると、本件ドメイン名は「韓国まとめ情報サイトモドゥモヨ(모두 모여)」「韓国好きのみんな集まれ!」とするサイト画面を表示する。そのトップ画面の右上には「MODEMOYO公式」「MODEMOYO楽天市場店」へのリンクが貼られている。

5. 当事者の主張

A. 申立人

申立人は、本件ドメイン名は申立人が有する商標および役務商標に同一または混同させるような類似性を有し、また、被申立人は本件ドメイン名について権利または正当な利益を有さず、更に、本件ドメイン名は不正の目的で登録かつ使用されていると主張し、本件ドメイン名の申立人への移転を求めている。

B. 被申立人

被申立人は、2019年3月の譲渡以降は被申立人は本件ドメイン保有者でも管理者ではないことから被申立人として相応しくなく、申立人による本件申し立ては無効であり、また、被申立人は本件ドメインについては権利も利益も持たず、更に、その登録・使用が不正の目的か否かについて述べる立場にはないと主張し、申立人により求められた救済措置の棄却を求めている。

6. 審理および認定

6.1 手続き面について

A. はじめに

本件紛争処理は処理方針、手続規則、補則の枠組みにての本件ドメイン名の登録の帰趨についての決定をその目的とするものであり、不正競争防止法違反、商標権侵害等の法令上の問題を取り扱うものではない。またその登録の帰趨の決定のための事実認定に際しての立証水準は”balance of probabilities”であり、主張される事実が真である確率と偽である確率を比較し、前者が後者を上回ると紛争処理パネルが判断すればその立証がなされたこととなる。( WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected URRP Questions, Third edition (以下「WIPO Overview 3.0」)第 4.2 パラグラフ)

B. 被申立人から第三者への譲渡について

被申立人によると、従前申立人の米国拠点が「KDDI Mobile」の名で提供していた携帯電話事業が2016年3月31日でもって終了し、それに伴い申立人が本件ドメイン名を手放したことからこれが入手可能となり、2018年5月5日に被申立人がこれを取得し、2019年3月1日に被申立人はその登録をGMOデジロック株式会社(バリュードメイン)(以下「バリュードメイン」)を通じて第三者に移管したとされる。

その譲渡の際の手続きについて、被申立人は、譲渡先が同じくバリュードメインに持つユーザー(アカウント)名が「事前にチャットワークというアプリで指定され」、これをバリュードメインのサイトで入力して移動ボタンをクリックして完了したとする。

また、被申立人は、バリュードメイン内でのドメイン譲渡は、譲渡する側は相手の名前や住所や連絡先という個人情報を知ることができない仕組みになっていると主張する。

被申立人はこの裏付け資料として2021年1月12日付のバリュードメインのカスタマーサポートから被申立人宛ての回答の写しを提出し、そこには「ドメイン<kddimobile.com>につきまして、2019年3月1日に他ユーザー様へドメインのユーザ間移動にて、移動されており、現在お客様にて管理されていない状況を確認いたしました。ドメインのユーザー間移動につきましては、WHOIS情報は変更されずに引き継がれる情報でございます。そのため、移動先様にてWHOIS情報変更の手続きを行っていない状態であるようにお見受けいたします。そのため本件につきまして、弊社からドメイン<kddimopbile.com>管理ユーザー様に対し、本件ドメイン名のWHOIS情報変更の依頼通知を行わせていただきましたことをご報告申し上げます。」とある。

さらに、被申立人は2021年6月3日付のバリュードメインのカスタマーサポートから被申立人宛ての回答の写しを提出し、そこには「大変恐縮ではございますが、ドメインのユーザー間移動を行われた際には、前回案内しております通りお支払い履歴の旧レイアウトで表示される内容のみが確認可能となり、移動先ユーザー様の指名はできかねてしまいます。また、個人情報保護の観点より弊社から移動先ユーザー様の指名を開示することもできかねますこと、何卒ご了承いただきますようお願いいたします。」とある。

また、手続き命令第2号への登録機関からの回答によれば、当該譲渡は登録機関の関係会社であるバリュードメインが仲介したものではなく、同社の関知なく、両者が同社のシステム上で手続きを済ませたことが認められる。

以上の事情から、当紛争処理パネルは、①被申立人が何等かの方法で第三者と本件ドメイン名の譲渡について当事者間の交渉を経て合意に至り、②譲渡手続き時にその第三者は被申立人と同じくバリュードメインの「ユーザー」であり、③その譲渡手続きはバリュードメインのシステムにてユーザー間移動として2019年3月1日に完了し、④その譲渡手続きの際にその第三者の氏名等の情報はバリュードメインのシステムには表示されず、⑤同日以降はその第三者が本件ドメイン名の実質的な所有者、運営・管理者(以下「実質的所有者」)として存在する、と認定する。

また、申立人提出資料によると、申立人が2021年1月6日付で被申立人に内容証明郵便で送付した通知書について、2021年1月9日に被申立人は、被申立人代理人から送られてきた同文面を同日チャットワークで現在の所有者に送った旨述べており、⑥被申立人と実質的所有者は会員制のチャットワークにて、少なくもとも譲渡があった2019年3月と上記の2021年1月において、第三者を介しない直接のやりとりをしていた事実が認められる。

C. UDRP紛争処理手続きにおける被申立人と実質的所有者ついて

被申立人は、自身が実質的所有者ではないことを理由として、申立人による本件申立は無効である旨主張する。

この点、取扱規則第1条(定義)は、「被申立人」を「提起された申し⽴ての対象となっている、登録済みドメイン名の所有者(the holder of a domain-name registration against which a complaint is initiated)」と定義するが、そのドメイン名の「所有者(holder)」については特に定義を付していない。また、取扱規則には「被申立人」がWhoIs登録に記載された登録者(Registrant)であることを要する旨の定めは見当たらない。そして、UDRPにおいては、事件の当事者たる被申立人が誰であるかの決定は紛争処理パネルに裁量が与えられているとされる。(WIPO Overview 3.04.4パラグラフ)

登録者以外に実質的所有者が存在する場合において、その実質的所有者を「被申立人」として正式に認定するか、その際に登録者は被申立人ではないと認定するか、については、ケースバイケースで当該紛争処理パネルが裁量を行使して決定しているところ、近年のUDRPの事例を見るに、紛争処理パネルは総じて、(i) その実質的所有者のアイデンティティが開示されているかどうか、(ii) その実質的所有者が自らの立場についての反論を提出しているかどうか、(iii) 登録者と実質的所有者の関係がクリアーであるか、等を考慮している。(Bryan Cave Leighton Paisner LLP v. Job, WIPO Case No. D2020-0592。)

本件においては、被申立人は実質的所有者のアイデンティティを示しておらず、手続命令第1号への回答において被申立人はその実質的所有者とはビジネス上も私的にも関係はない旨返答し、譲渡手続きに際してバリュードメインのシステムでは譲受者の氏名等は画面表示されなかったとする。その一方で、被申立人は2019年3月頃に譲渡に関する交渉と手続きを実質的所有者と相対で行ったことが窺われ、譲渡後も2021年1月にチャットワークで直接のやりとりをしていたことが認められる等、両者の関係はその別離が明確とは言い難い。また、実質的所有者からの反論も提出されていない。

以上に鑑み、本件紛争処理手続きの観点からは両者は一体と看做すべきであり、また、本件での被申立人は登録者である大平健一(Kenichi Ohira)であると認定する。よって被申立人による本件申立は無効との主張は採用できない。また、本裁定の文中で「被申立人」に言及する際には文脈に応じてそこに実質的所有者を含めるものとする。

D. 実質的所有者について

実質的所有者が誰なのかに関して、本件ドメイン名で表示されるサイトとそれにリンクされたサイトから以下の事実が認められる。

1. インスタグラム「モドゥモヨ」との関連

1. 当該ドメイン名から得られるサイト画面には「プロフィール」として「ニックネーム:いちごミルク韓国で生まれ韓国コスメオタクである管理人、いちごミルクが韓国好きのみんなのために韓国コスメから韓国に関する色んな情報をまとめて載せています^^ 気になることとかこんな情報ほしいって気軽にコメントしてくれたら嬉しいな~あと、ツイッターとインスタもあるからフォローしてくださいね!」の記載があり、その下にはツイッターとインスタグラムへのリンクのアイコンが置かれている。

2. そのインスタグラムへのリンクを辿ると、インスタグラムのサイトにつながり、そこには「lovekoreacomeon18(中略)モドゥモヨ韓国まとめ情報📣モドゥモヨは韓国語で “みんな集まれ❗”コスメ×プチプラ💄ファッション👢グルメ🌶️旅行✈️エンタメ🎤韓国好きなみんな~サイトも遊びに来てね💕↓↓↓<kddimobile.com>」と、本件ドメイン名を含めて表示される。同様にハンドルネームと思しき「lovekoreacomeon18」を辿ると本件ドメイン名がそこに表示される。

3. その<kddimobile.com>の表示を辿ると、本件ドメイン名のトップサイトに戻ることから、本件ドメイン名上のサイトと上記インスタグラムのサイトは相互の行き来が可能となっている。

2. 「MODEMOYO公式」との関連

1. 本件ドメイン名上のサイトのトップ・ページの右上に「MODEMOYO公式」へのリンクが置かれており、そのリンクを辿ると、MODEMOYOの名での化粧品等のネット販売のサイトに繋がる。(“www.modemoyo.shop”)

2. そのサイトの「About」の箇所を辿ると「当ショップ「MODEMOYO(モドゥモヨ)」は韓国コスメ通販サイトです。スキンケア・基礎化粧品、日焼け・UVケア、ベースメイク、メイクアップ、ヘアケア、ボディケア、美容グッズなどを取り扱っております。”モドゥモヨ”は韓国語でみんな集まれと言う意味を持ち、韓国コスメ好きの皆さんとの懸け橋になればと思います。MODEMOYO(モドゥモヨ) | 韓国コスメ通販サイトLink 韓国まとめ情報サイト モドゥモヨLink MODEMOYO楽天市場店」との記載がある。

3. その「Link 韓国まとめ情報サイト モドゥモヨ」を辿ると、本件ドメイン名のトップサイトに繋がることから、本件ドメイン名上のサイトと「MODEMOYO公式」は相互の行き来が可能となっている。

4. 「MODEMOYO公式」のサイトの中に「特定商取引法に基づく表記」の欄があり、そこには会社名と事業者の氏名に続き、福岡市内の住所と電話番号の記載がある

5. 「MODEMOYO公式」のサイトの中に「お問い合わせについて」の欄があり、そこには「MODEMOYO【楽天市場店】」の後に上記と同一の福岡市内の住所の記載がある。

3. 「MODEMOYO楽天市場店」との関連

1. 本件ドメイン名上のサイトのトップ・ページの右上には「MODEMOYO楽天市場店」へのリンクが置かれており、そのリンクを辿ると、MODEMOYOの名での化粧品等のネット販売のサイトに繋がる。(“www.rakuten.ne.jp/gold/hakatagenkiya/”)

2. そのサイトの「About」の箇所を辿ると「当ショップ「MODEMOYO(モドゥモヨ)」は韓国コスメ通販サイトです。スキンケア・基礎化粧品、日焼け・UVケア、ベースメイク、メイクアップ、ヘアケア、ボディケア、美容グッズなどを取り扱っております。”モドゥモヨ”は韓国語でみんな集まれと言う意味を持ち、韓国コスメ好きの皆さんとの懸け橋になればと思います。MODEMOYO(モドゥモヨ) | 韓国コスメ通販サイトLink 韓国まとめ情報サイト モドゥモヨLink MODEMOYO楽天市場店」との記載がある。

3. その「Link 韓国まとめ情報サイト モドゥモヨ」を辿ると、本件紛争ドメイン名のトップサイトに繋がることから、当該ドメインと「MODEMOYO楽天市場店」は相互の行き来が可能となっている。

4. 「MODEMOYO楽天市場店」のサイトの中に「お問い合わせについて」の欄があり、そこにはMODEMOYO【楽天市場店】の上記と同一の所在地の記載がある。

以上のことから、本件ドメイン名は、上記のインスタグラム、「公式」店舗、楽天市場店と一体的に運用管理されており、それら全体の管理運営者が上記の福岡市所在の会社であることが推認される。

この点に関し、手続命令第2号への登録機関による返答に含まれたバリュードメインからの報告にはドメイン現所有者として福岡市所在の会社名が挙げられており、その商号は上記の関連サイトの運営者として挙げられているものと一致する。

E. 実質的所有者の本件手続き参加機会について

手続規則第10条(b)は紛争処理パネルに「各当事者が自身の主張を述べるための公平な機会」が与えられるための努力を求めているところ、本件では被申立人(登録者)が自らが被申立人の立場にあることを否定し、紛争の実体面についての主張をしていないことから、実質的所有者に手続き参加機会が与えられていたかについて検討する。

既述の通り、被申立人が提出したバリュードメインからの2021年1月12日付メッセージには、「弊社からドメイン<kddimopbile.com>管理ユーザー様に対し、当該ドメインのWHOIS情報変更の依頼通知を行わせていただきましたことをご報告申し上げます」とあり、実質的所有者は2021年1月12日頃に登録情報の変更のリマインドを受けていたもののこれを怠っていたことが認められる。

また、既述の通り、実質的所有者は2021年1月9日頃に、申立人代理弁護人が登録者宛てに送付した2021年1月6日付内容証明郵便による通知書の文面を登録者経由で受領していたことが認められる。

更に、申立人からの申立を受けたセンターが、2021年4月26日に本件ドメインネーム上のサイト(「韓国まとめ情報サイトモドゥモヨ(모두 모여)」)の「お問い合わせ」欄にて、「これは、ドメイン名<kddimobile.com>に関連して、WIPO仲裁調停センターに大平健一(Kenichi Ohira)に対してUDRPの申し立てが行われたことをお知らせするものです。手続きの正式な開始通知が、記録の登録者とその技術、管理、および/または請求の連絡先に電子メールで送信されました。答弁書の提出期限は2021年5月16日です。(中略)WIPO仲裁調停センター」から成る日本語のメッセージを投稿し、これに対して同「お問い合わせ」欄に、「ありがとうございます。メッセージは送信されました。」との表示があった事実が認められる。

以上のことから、実質的所有者は2019年3月1日に本件ドメイン名を取得した際に登録情報を更新すべきところこれをせず、その後2021年1月にバリュードメインから変更登録の要請を受けたがこれを行わず、またその頃に本件ドメイン名に関して申立人との間で紛争が生じていることを登録人経由で知らされ、更に2021年4月下旬にセンターから当該ドメインに関する紛争が正式に開始したことの通知を受け、その際に答弁書の提出期限が2021年5月16日であったことを知っていた、あるいは知り得たにも拘わらず、これらに対応しなかったことが認められる。

以上を鑑みるに、実質的所有者にも手続規則第10条(b)記載の「各当事者が自身の主張を述べるための公平な機会」が与えられていたと言うべきである。

6.2 実体面について

A. 同一または混同を引き起こすほどに類似しているかどうか

紛争処理パネルは、まず(a)申立人が登録商標を保有しているか、そして(b)紛争の対象であるドメイン名がその登録商標と同一または混同を引き起こすほどに類似しているかについて判定しなければならない。

まず上記(a)については、申立人は2003年4月4日付登録の標準文字からなる「KDDI」との文字商標登録第4658806 号にかかる日本国商標権を保有し、当該商標権にかかる指定役務には,「広告及びこれに関する情報の提供」(第35類)、「インターネットによる商品売買代金の回収代行」(第36類)、「建築一式工事」(第37類)、「移動体電話による通信」(第38類)、「鉄道による輸送及びこれらに関する情報の提供」(第39類)、「布地・被服又は毛皮の加工処理(乾燥処理を含む。)」(第40類)、「技芸・スポーツ又は知識の教授」(第41類)及び「美容又は理容に関する情報の提供」(第42類)が含まれることを示す証拠を提出し、当紛争処理パネルは申立人がかかるKDDI商標の保有者であることを認定した。

続いて上記(b)について、当紛争処理パネルは本件ドメイン名と上記の申立人が保有するKDDI商標の比較を行った。

これに関して、WIPO Overview 3.01.11.1パラグラフは、ドメイン名の中に含まれる(“.com”, “.club”, “.nyc”のような)トップレベルドメイン(TLD)は登録に際して標準的に求められるものであり、第一のテスト(同一性・混同性)の目的上考慮されないとしており、本件においてもこの確立された標準を不適用とすべき格別の理由はなく、よって通常通りTLDは考慮外とする。

続いて、TLD以外の紛争対象ドメイン名を見るに、これは申立人が保有するKDDI商標と「mobile」という語から構成されるところ、この「mobile」は一般的な語であり、紛争対象ドメイン名の中で認識可能なものはKDDIと認定する。そしてこの認識可能な箇所は申立人保有の登録商標と同一である。

このようにドメイン名の中に申立人保有の登録商標全体が含まれている場合において、他の語が追加されていた場合でもその類似性の認定を妨げないことはUDRPのパネリストの間で確立されている。(Salvatore Ferragamo S.p.A v. Ying ChouWIPO Case No. D2013-2034Salvatore Ferragamo S.p.A. v. Haonan HongWIPO Case No. D2013-2040Salvatore Ferragamo S.p.A. v. Brian E. NielsenWIPO Case No. D2014-1123;及び Salvatore Ferragamo S.p.A. v. Wei HuanWIPO Case No. D2014-1290。)

以上に鑑み、当紛争処理パネルは、本件ドメイン名は申立人が保有する登録商標と混同を引き起こすほど類似しており、よって処理方針第4条(a)(i)所定の第一要件は充足されていると認定する。

B. 権利または正当な利益を有しているかどうか

処理方針第4条 (c)は、以下の状況のいずれかが認められる場合には、被申立人がそのドメイン名についての権利または正当な利益を有していることが⽴証されたものとする旨の定めがある。即ち、

(i) 被申立人が、この紛争についての通知を受ける前に、善意による商品またはサービスの提供を⾏うために、そのドメイン名またはこれに対応する名称を使⽤していたとき、またはその使⽤準備をしていたことを⽴証可能なとき、

(ii) 被申立人(個⼈、会社または団体として)が、その商標権を保有していなくても、そのドメイン名の名称で⼀般に知られていたとき、

(iii) 被申立人によるそのドメイン名の使⽤が、消費者の誤認に乗じて商業的利益を得るためにあるいは問題とされている商標を汚し貶めるような意図で使⽤されているのではなく、正当な⾮商業的使⽤または公正な使⽤(fair use)であるとき。

これに係るUDRPのパネルのコンセンサスは、ドメイン名についての権利または正当な利益を被申立人が持っていないことを疎明する(making out a prima facie case)義務は申立人の側にあり、そしてこの疎明がなされたならば、反証の義務が被申立人に移るとされる。(WIPO Overview 3.02.1パラグラフ)

本件において申立人は「相手方が、本件について通知を受ける以前に,善意による商品もしくは役務(サービス)の提供を行うために,<kddimobile.com>もしくはこれに対応する名称を使用していたか,または,使用のための明白な準備をしていたという証拠はない。」、「また,相手方が(個人,会社または団体として)当該ドメイン名の名称で一般に知られていたという事情もない。」、「相手方が,当該ドメイン名を,正当にして非商業的にまたは公正に使用しているという事情も認められない。」と主張し、更に「相手方は,かかる著名な申立人の名称にフリーライドして消費者の誤認を惹き起こすことにより商業的利益を得る意図を有していたものと解する他ない。」と主張し、かかる主張を裏付けるものとして複数の資料を証拠として提出している。

当紛争処理パネルはかかる提出資料を吟味し、それらが上記の申立人による疎明に求められる立証水準を満たしていると判定した。

他方、被申立人は、その答弁書において、当該ドメインの管理者・使用者ではないので権利も利益もない旨主張しており、被申立人による反証はなされていない。

また、実質的所有者は本件紛争処理手続きの存在を認識していたと認められ、それへの参加が可能であったもののこれを行わなかったことから、上記の反証はなされていない。また、当紛争処理パネルが認定した本件ドメイン名の使用状況には以下の問題点が見られる。

処理方針第4条(c)(i)については、WIPO Overview 3.0には処理方針第4条(c)(i)の該当が認められた例の中に当該ドメイン名が登録されていたことが挙げられているところ(WIPO Overview 3.0 第2.2パラグラフ)、本件においては、実質的所有者は当該ドメイン名の2019年3月の取得後に自らの氏名等の登録情報の更改を行わず、2021年1月にその手続きをとるべくバリュードメインから要請があったにも拘わらずこれを怠っており、被申立人のかかる対応を見るに、善意の商品またはサービスの提供のために当該ドメインを先行使用していたとは考えづらい。

また、処理方針第4条(c)(ii)にて想定されている状況に関して、日本で一般的に利用されている検索エンジンにて“kddimobile”をキーワードとして検索したところ、申立人に関するヒットは多数あったところ、韓国製化粧品等に関するヒットは本件ドメイン名のサイトが検索結果の下位に示されたに留まり、被申立人が本件ドメイン名の名称で一般に知られていたとは考えづらい。

さらに、処理方針第4条(c)(iii)に言う非商業的使⽤は本件には該当しない。また、フェアー・ユースについては、当該ドメイン名の使用が登録商標の所有者との関係(affiliation)を事実に反して示唆する場合には、それはフェアーとは考慮されないのがUDRPパネルの間での原則とされる。(WIPO Overview 3.02.5パラフラフ) また、申立人保有の登録商標とドメイン名が同一である場合には黙示の関係性(implied affiliation)のリスクが高いとされ(同第2.5.1パラグラフ)、さらに、登録商標に追加の語を付した場合においても、それが実質的に登録商標保有者によるスポンサーシップまたはお墨付き(endorsement)を示唆する場合には、総じてフェアー・ユースとは認定されない。(同第2.5.1パラグラフ)

本件では、本件ドメイン名のサイトの中でKDDIの名称が積極的に使用されているものではないが、インスタグラムや他の関連サイトでは、当該ドメイン名のサイトの訪問を勧誘するリンク箇所に本件ドメイン名が明らかにかつ頻繁に表記されており、上記のフェアー・ユースの認定に対して慎重なUDRPパネルのスタンスからも、これらをフェアー・ユースと見ることはできない。

以上のことから、当紛争処理パネルは、権利または正当な利益について被申立人はこれを有せず、第二の要件が充足されていると認定する。

C. ドメイン名が悪意で登録かつ使用されていること

第三の要件を充足するためには、申立人は紛争対象ドメイン名が悪意で登録され、悪意で使用されていることを立証しなければならない。この目的のために、処理方針第4条(b)は悪意の登録かつ使用とされる場合の非限定の例を複数掲げており、その中に以下が含まれる。

「(iv) そのドメイン名の使⽤により、あなたが商業的利益を得る⽬的のために、そのウェブサイトもしくはオンラインロケーションの、またはそれらに登場する製品・サービスの、出所(ソース)・スポンサーシップ・取引提携関係・推奨について、申⽴⼈の標章との混同の虞れを⽣じさせることにより、インターネットのユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに意図的に引き寄せるために、使⽤しているとき。」

この点について申立人は、「相手方は,対象ドメインを使用して運営しているウェブサイトにおいて,多数の化粧品等の広告を行っている。これはいわゆるアフィリエイト広告であり,当該ドメイン名の使用によって、商業的利益を得るために、そのウェブサイトの出所、スポンサーシップ、取引提携関係等について、申立人の標章との混同のおそれを生じさせて、インターネットのユーザーをそのウェブサイトに、誘導しようと意図的に企てたものである。」と主張する。

被申立人の答弁書は、被申立人は当該ドメインの管理者・使用者ではないので、不正目的か否かを述べる立場にないとする。

まず悪意の登録について、申立人が保有するKDDI登録商標は2003年4月4日に日本で登録されており、これが被申立人が当該ドメイン名を取得した2018年5月5日、そして被申立人が実質的所有者に譲渡した2019年3月1日よりも前であったこと、および、その登録商標はかかる取得・譲渡の前から日本において広く知られていたことが認められる。よって、被申立人は2018年5月5日と2019年3月1日の両時点において申立人の登録商標を認識した上で取得・譲渡に及んだと認定する。

続いて悪意の使用について、その「使用されている」の原文は“is being used”といわゆる現在進行形で記載されており、よってその対象期間は2021年4月19日の申立人による申立書提出日を始点として一定期間遡るものと解する。

この点、被申立人が管理するインスタグラムのサイトには現時点においても、「サイトも遊びに来てね💕↓↓↓ kddimobile.com」の記載があり、本件ドメイン名を明示することでインターネット訪問者に注意を喚起し、訪問者が本件ドメイン名を意識した上で他のサイトから本件ドメイン名上のサイトに移動することを積極的に勧誘していることが認められる。また、本件ドメイン名のサイトは楽天での店舗と他のオンライン販売店舗との相互の行き来ができ、被申立人がその営む事業の促進のためのツールとして本件ドメイン名を積極的に利用していることが認められる。

さらに、実質的所有者が2019年3月の本件ドメイン名の取得以来自らの正体を登録機関に登録せず、また2021年1月のバリュードメインからの登録の要請にも対応せず、更には2021年4月26日のセンターからの本件紛争開始の通知にも反応せず、そして申立人主張内容への実体的な反論を被申立人が正式な答弁として行っていないことは、被申立人が本件ドメイン名を意図的に未登録のまま、悪意で使用し続けていることを示している。

以上に鑑み、当紛争処理パネルは第三の要件が満たされていると認定する。

7. 裁定

以上の理由により、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは本件ドメイン名<kddimobile.com>を申立人へ移転することを命じる。

加藤照雄(Teruo Kato)
パネリスト
日付:2021年7月1日