WIPO Arbitration and Mediation Center

紛争処理パネル裁定

株式会社日本経済新聞社 対 kazuma yamazaki, uver-inc および 株式会社日経フィナンシャルトライ

事件番号 D2021-0919

1. 紛争当事者

申立人は、株式会社日本経済新聞社であり、その住所地は日本国である。申立人の代理人は、東啓綜合法律事務所であり、その住所地は日本国である。

被申立人は、kazuma yamazaki, uver-inc および 株式会社日経フィナンシャルトライであり、その住所地は日本国である。

2. ドメイン名および登録機関

紛争の対象であるドメイン名:<nikkei-financial.tokyo>。

本件ドメイン名の登録機関:GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.com。

3. 手続の経過

本件申立書は、2021年3月26日にWIPO仲裁調停センター(以下「センター」)へ提出された。センターは2021年3月26日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を上記登録機関に要請した。登録機関は2021年3月29日にメールによりセンターへ登録確認の返答をし、申立書に記載された被申立人および連絡先細目と異なる情報を当該ドメイン名の登録者として公開した。センターは申立人へ2021年4月14日に登録機関により公開されたドメイン名登録者および連絡先細目を通知し、それに伴い申立人は申立書を補正することができる旨案内した。申立人は申立書補正版を2021年4月16日にセンターへ提出した。

センターは申立書および補正書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則 (以下,「補則」)における方式要件を充足していることを確認した。

手続規則第2条および第4条に従い、センターは本件申立を被申立人に通知し、2021年4月20日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条に従い答弁書の提出期限は2021年5月10日であったが、被申立人は返信を全く提出せず、よってセンターは2021年5月11日に被申立人の懈怠を通知した。

センターは、2021年5月12日、2021年5月13日および2021年5月14日に株式会社日経フィナンシャルトライからの電子メールを受領した(後述)。2021年5月14日にセンターは両当事者に、もし和解を模索したいのであれば、申立人は本件紛争手続きの一時停止の要請を提出すべきである旨通知した。これに関し、そこに特定された期日までに申立人からのかかる要請は受領されなかった。

センターは、加藤照雄(Teruo Kato)を単独のパネリストとして本件について2021年6月4日に指名した。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認した。手続規則第7条の要請に従い、紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した。

4. 背景となる事実

申立人によると、申立人は1876年に日本の経済情報を報道する日刊紙を創刊して以降、新聞やウェブサイト等で幅広い経済情報を提供しており、申立人は1946年に社名を日本経済新聞社に改めて以降その営業表示として「日経」及び「NIKKEI」を使用し、申立人のグループ会社は、「日経BP」、「日経サイエンス」、「日経ナショナルジオグラフィック」、「日経メディアマーケティング」、「日経リサーチ」、「日経金融工学研究所」、「ラジオNIKKEI」等、「日経」及び「NIKKEI」を冠した表示を使用しているとされる。

申立人は、1995年1月31日付登録の「NIKKEI」の商標登録第3021671号(指定役務:第36類(株式市況に関する情報の提供,⾦融市況に関する評価・分析及び情報の提供,財務情報の提供))他の日本国登録商標を保有しているとする。

争いの対象であるドメイン名は<nikkei-financial.tokyo>であり、登録機関によると、これは2016年7月7日に作成され、直近の登録ではuver-incのkazuma yamazakiが登録者として記載されている。

申立人によると、上記登録者はホームページ作成を業として行っている会社であり、本件ドメイン名を使用したウェッブサイトは上記登録者とは別の2016年6月2日設立の「株式会社日経ファイナンシャルトライ」のウェブページとして使用されているとされる。

答弁書回答期限であった2021年5月10日までに答弁書は提出されなかったが、2021年5月12日に「日経フィナンシャルトライ<[…]@nikkei-financial.tokyo>」のメールアドレスから、「回答が遅くなり申し訳ございません。新たなドメインを取得したので、移管の作業を現在行っております。移管完了後にご報告致します。」とのメール、また2021年5月13日および2021年5月14日に「この度の申立書の件ですが、ドメインの移管は今月中に変更完了するように、手配しております。社名変更については、半年間の猶予を頂きたいと存じます。サイトの名称及び登記変更を猶予期間内に行うように進めて参ります。」とのメールがセンターに届いている。

申立人が提出した2021年2月9日時点での本件ドメイン名でのウェブサイトのスクリーンショットには、「株式会社日経ファイナンシャルトライ」が営むとされるファクタリング事業等の紹介が同社自身の名においてなされている。

現時点で当該ドメイン名にインターネット・アクセスすると、「ドメインウェブの設定が見つかりません」から始まるエラー・メッセージが表示される。

5. 当事者の主張

A. 申立人

申立人は、本件ドメイン名は申立人が有する登録商標に同一または混同させるような類似性を有し、また、被申立人は当該ドメイン名について権利または正当な利益を有さず、更に、当該ドメイン名は不正の目的で登録かつ使用されていると主張し、本件ドメイン名の申立人への移転を求めている。

B. 被申立人

被申立人は上記の「4.背景となる事実」に記した4通のセンター宛てのメール以外は返信しておらず、正式な答弁書も提出していない。

6. 審理および認定

6.1 手続き面について

本件ドメイン名の実体的な所有者

既述の通り本件ドメイン名の登録者の情報には「株式会社日経ファイナンシャルトライ」の記載がないところ、申立人が提出した証拠によると、ファクタリング業他を目的とする同一の商号の法人が東京都内に所在していることが認められる。

また申立人が提出した2021年2月9日時点での本件ドメイン名でのウェブサイト画面記録によると、同サイトでは「株式会社日経ファイナンシャルトライ」が営むとされるファクタリング事業等の紹介が同社自身の名においてなされている。。

加えて、既述のように2021年5月12日に「日経フィナンシャルトライ<[…]@nikkei-financial.tokyo>」のメールアドレスから、「回答が遅くなり申し訳ございません。新たなドメインを取得したので、移管の作業を現在行っております。移管完了後にご報告致します。」他のメールがセンターに届いている。

以上の事実を鑑みるに、本件ドメイン名の登録者(Registrant)はuver-incのkazuma yamazakiとされるものの、その実体的な所有者は「株式会社日経ファイナンシャルトライ」であると認められる。よって、本件ドメイン名の登録の帰趨を取り扱う本件紛争処理裁定の観点からは、登録者であるuver-incのkazuma yamazakiと、実体的な所有者である「株式会社日経ファイナンシャルトライ」は実質的には一体と看做すことができ、よって両者のいずれもが本件紛争処理手続きにおける被申立人となり得る。

この点、取扱規則第1条(定義)は「被申立人」を「提起された申し⽴ての対象となっている、登録済みドメイン名の所有者(the holder of a domain-name registration against which a complaint is initiated)」と定義するが、その「所有者(holder)」について特に制限を付していない。また、取扱規則には「被申立人」が「登録者(Registrant)」であることを要する旨の定めは見当たらない。よって、本件においての上記解釈は取扱規則に整合するものと言える。

以上のことから、以下本裁定書の文中で「被申立人」に言及する際にその中に「株式会社日経ファイナンシャルトライ」を含めるものとする。

手続規則上パネルに求められる手続きの公平の実施の観点からは、2021年4月20日にセンターは本件申立がなされたことを本件ドメインネーム上のサイトの「お問い合わせ」欄に投稿しており、また2021年5月12日、5月13日と同5月14日に「日経フィナンシャルトライ<[…]@nikkei-financial.tokyo>」から本件紛争手続き開始を受けたメールがセンターに送られていることから、被申立人には手続規則第10条(b)記載の「各当事者が自身の主張を述べるための公平な機会」が与えられていたと認める。

また、被申立人株式会社日経フィナンシャルトライは2021年5月14日にセンターに送ったメールの中で「社名変更については、半年間の猶予を頂きたい」と求めるところ, かかる商号変更は本件紛争手続きの対象外であり、よってこの目的のために本件紛争手続きを一時停止する必要はない。

6.2 実態面について

A. 同一または混同を引き起こすほどに類似しているかどうか

紛争処理パネルは処理方針第4条(a)(i)に沿って、まず申立人が登録商標を保有しているかどうか、そして紛争の対象であるドメイン名がその登録商標と同一または混同を引き起こすほどに類似しているかどうか、の順で判定する(第一の要件)。

まず登録商標について、申立人は1995年1月31日登録の「NIKKEI」の商標登録第3021671号(指定役務区分第36類(株式市況に関する情報の提供,⾦融市況に関する評価・分析及び情報の提供,財務情報の提供)他の日本国商標権を保有することを示す証拠を提出しており、当紛争処理パネルは申立人がかかるNIKKEI商標の保有者であることを認める。

続いて同一性・類似性について、当紛争処理パネルは本件ドメイン名と上記の申立人が保有するNIKKEI商標の比較を行う。

これに関して、WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, Third Edition (“WIPO Overview 3.0”)のパラグラフ1.11.1は、ドメイン名の中に含まれる“.com”, “.club”, “.nyc”等のトップ・レベル・ドメイン(TLD)は登録に際して標準的に求められるものであり、いわゆる「new gTLDs」の場合を含み、これは第一の要件(同一性・類似性)の検討の目的上は考慮しないとする。これに沿い、本件においてもTLDである“.tokyo”は考慮外とする。

続いて、TLD以外の紛争対象ドメイン名を見るに、申立人が保有するNIKKEI商標と、“-”(ハイフン)と、“financial”という語から構成されるところ、“-”には特段の意味はなく、また“financial”は一般的な語であり、よって、紛争対象ドメイン名の中で識別力を持つものは “nikkei” と認める。また、ドメイン名にはそもそも大文字・小文字の区別がないことから、この箇所は申立人保有の登録商標と同一となる。

この点、このようにドメイン名の中に申立人保有の登録商標の全体が含まれる場合、それに他の語が追加されていても、その追加は類似性の認定を妨げないことは、UDRPのパネルの間で広く支持されている。(Salvatore Ferragamo S.p.A v. Ying Chou, WIPO Case No. D2013-2034;Salvatore Ferragamo S.p.A. v. Haonan Hong, WIPO Case No. D2013-2040;Salvatore Ferragamo S.p.A. v. Brian E. Nielsen, WIPO Case No. D2014-1123;及び Salvatore Ferragamo S.p.A. v. Wei Huan, WIPO Case No. D2014-1290参照。)

以上に鑑み、当紛争処理パネルは本件ドメイン名は、申立人が保有する登録商標と混同を引き起こすほど類似しており、よって処理方針第4条(a)(i)所定の第一の要件は充足されたと認定する。

B. 権利または正当な利益を有しているかどうか

第二の要件をうたう処理方針第4条(a)(ii) について、その第4条(c)に、以下の状況のいずれかが認められる場合には、被申立人がそのドメイン名についての権利または正当な利益を有していることが⽴証されたものとする旨の定めがある。即ち、

(i) 被申立人が、この紛争についての通知を受ける前に、善意による商品またはサービスの提供を⾏うために、そのドメイン名またはこれに対応する名称を使⽤していたとき、またはその使⽤準備をしていたことを⽴証可能なとき、

(ii) 被申立人(個⼈、会社または団体として)が、その商標権を保有していなくても、そのドメイン名の名称で⼀般に知られていたとき、

(iii) 被申立人によるそのドメイン名の使⽤が、消費者の誤認に乗じて商業的利益を得るためにあるいは問題とされている商標を汚し貶めるような意図で使⽤されているのではなく、正当な⾮商業的使⽤または公正な使⽤であるとき。

これに係るUDRPのパネルのコンセンサスは、まず、対象ドメイン名についての権利または正当な利益を被申立人が持っていないことを疎明する義務が申立人の側にあり、そして一旦この疎明がなされたならば、挙証義務は被申立人に移るとされる。(WIPO Overview 3.0のパラグラフ2.1参照。)

本件において申立人は、「日経フィナンシャルトライ」や本件ドメイン名の全部又は一部は商標登録されておらず、被申立人は商標権を有せず、被申立人の営業場所には「日経フィナンシャルトライ」の看板や表示もなく、本件ドメイン名が、被申立人の営業や商品、役務等を表示するものとして需要者の間に広く認識されているという事情もないと主張する。さらに、申立人は、被申立人が平成28年に株式会社エクセルホールディングスから新設分割により設立された会社であり、従前「日経」の表示は用いていなかったにも拘わらず、設立以後、被申立人は商号に「日経」を用いるようになったものであり、被申立人が申立人営業表示である「日経」を使用することに合理的な理由は何ら存在せず、したがって、被申立人は、本件ドメイン名を用いる権利又は正当な利益を有しないと主張し、かかる主張を裏付けるものとして複数の資料を提出している。

当紛争処理パネルはかかる提出資料を検討し、上記主張の疎明に求められる水準が満たされていると判定した。

他方、被申立人は正式な答弁書を提出しておらず、上記の申立人による主張に対する異議を表明する機会があったにも拘わらずこれを行っていない。

更に、被申立人株式会社日経フィナンシャルトライは、2021年5月12日に「新たなドメインを取得したので、移管の作業を現在行っております。」、5月14日に「この度の申立書の件ですが、ドメインの移管は今月中に変更完了するように、手配しております。社名変更については、半年間の猶予を頂きたいと存じます。サイトの名称及び登記変更を猶予期間内に行うように進めて参ります。」とのメッセージをセンターに送っており、これらは本件ドメインについて不具合があったことを被申立人が認めているものと解される。

以上を鑑みるに、被申立人に移った挙証義務が果たされたとは言えず、よって当紛争処理パネルは第二の要件が充足されたと認定する。

C. ドメイン名が悪意で、登録かつ使用されていること

処理方針第4条(a)(iii)にうたわれる第三の要件については、申立人は紛争対象ドメイン名が悪意で登録され、悪意で使用されていることを立証しなければならない。この目的のために、処理指針第4条(b)は悪意の登録かつ使用であることの証拠として非限定の例を複数掲げており、その中に以下が含まれる。

「(iv) そのドメイン名の使⽤により、あなたが商業的利益を得る⽬的のために、そのウェブサイトもしくはオンラインロケーションの、またはそれらに登場する製品・サービスの、出所(ソース)・スポンサーシップ・取引提携関係・推奨について、申⽴⼈の標章との混同の虞れを⽣じさせることにより、インターネットのユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに意図的に引き寄せるために、使⽤しているとき。」

これに関連して、申立人は、「日経」及び「NIKKEI」は申立人の営業等を表示する名称として遍く需要者の間に浸透して周知されており、かつ著名であるところ、被申立人が敢えて本件ドメイン名の使用を開始した意図は、本件商標及び申立人営業表示と類似した本件ドメイン名を用いることにより、被申立人のウェブサイト又はウェブサイト記載の役務(サービス)の出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨について、本件商標又は申立人営業表示との混同のおそれを生じさせ、被申立人が申立人の信用や名声にただ乗りしてインターネットのユーザーを被申立人のウェブサイトに誘導し、商業的利益を得ることにあるといわざるをえない、等主張する。

他方、被申立人は既述のセンター宛てのメール4通を除いて、主張・反論を述べていない。

上記を踏まえての当紛争処理パネルの見解は以下の通りである。

まず悪意の登録について、申立人が保有するNIKKEI登録商標は、被申立人が本件ドメイン名を取得した2016年7月7日の前である1995年1月31日に日本で登録されたていたこと、そして申立人の登録商標はかかる取得・譲渡の前から日本において広く知られていたことが認定され、よって被申立人はその取得の時点において申立人の登録商標を認識していたことが認められる。

続いて悪意の利用について、現時点で本件ドメイン名にアクセスするとエラー・メッセージが表示されるが、申立人が提出した2021年2月9日時点での本件ドメイン名でのウェブサイト画面記録には同サイトで被申立人が営むとされるファクタリング事業等の紹介がなされている。。

また、既述のように、被申立人株式会社日経フィナンシャルトライがセンターに対して、「新たなドメインを取得したので、移管の作業を現在行っております。」、「この度の申立書の件ですが、ドメインの移管は今月中に変更完了するように、手配しております。」と述べていることから、申立人が主張するような態様での被申立人による本件ドメイン名の利用が最近までなされていたことが認められる。

さらに、申立人は本件紛争手続きに先立ち、2020年7月10日に被申立人(株式会社日経フィナンシャルトライ)宛てに、被申立人の商号や本件ドメイン名の使用が商標権侵害及び不正競争防止法違反であることを内容証明郵便でもって通告しこれが受領されたが、被申立人からの反応が得られなかったこと、また被申立人はその後2020年12月9日と同12月22日に改めて内容証明郵便を発送したが、これらは受取人不在のまま申立人に返送されたことを主張し、かかる通告、発送、返送を裏付ける資料を申立書と共に提出している。

本裁定は上記内容証明に記載された商標権侵害、不正競争防止法違反の主張の可否を判断するものではないが、被申立人が2020年7月10日頃に本件ドメイン名の使用の即時中止の要請を申立人から受けたものの申立人に返答せず、本件紛争審議開始日まで本件ドメイン名の使用を継続していたことが見られる。

上記の事情に鑑み、当紛争処理パネルは第三の要件が満たされたと認定する。

7. 裁定

以上の理由により、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは本件ドメイン名<nikkei-financial.tokyo>を申立人へ移転することを命じる。

加藤照雄(Teruo Kato)
パネリスト
日付:2021年6月18日