Graphenel社: ベトナムの先駆的なグラフェン製造企業

2021年9月

Catherine Jewell氏、WIPO情報・デジタルアウトリーチ部 (Information and Digital Outreach Division)

ホーチミン市にあるGraphenel JSC社は、グラフェンの大規模生産とその応用に特化したテクノロジー企業です。同社の海外事業開発を担当するJane Phung氏に、グラフェン製造に対する同社の新しいアプローチ、ベトナムで誕生したばかりのグラフェン市場で同社が直面している課題、グラフェンを用いた素材の大手産業サプライヤーになるという同社の野心的目標を支える上で知的財産 (IP) が果たす役割について聞きました。

Graphenel JSC社は2011年にTuan Le氏 (左) とJat Le氏 (右) が設立しました。重点分野は、バイオエレクトロニクス、セメント、電池でのグラフェンの利用です。「特に、電池業界に注目しています。グラフェンに関する情報を電池市場に提供し、グラフェンを使用した電池の開発・商品化により環境保護に貢献したいと考えています」と、Graphenel JSC社の海外事業開発マネージャーであるJane Phung氏は言います。 (写真: Graphenel JSC社提供)

会社設立の経緯について教えてください。

当社は、Tuan Le最高経営責任者 (CEO) とJat Le最高計画責任者が2011年に設立しました。2人は一緒に学び、化学とナノマテリアルを専攻しました。卒業後、NanoLifeというナノマテリアルを中心に扱う会社を設立しました。その後、グラフェンとその優れた特性が注目されると、グラフェンに特化するようになり、社名をGraphenel JSCに変更しました。

当時、グラフェンは珍しく、製造コストも高額でした。そこで、私の同僚たちが、より低コストでグラフェンを製造する方法を探ることにしました。7年ほど研究を続け、何度も試行錯誤を繰り返した結果、グラフェンの新しい製造法が見つかりました。簡単に言うと、化粧品の製造などに使われる動物性脂肪を精製し、費用対効果の高い方法でグラフェンを大量生産します。通常、1グラムのグラフェンには精製された動物性脂肪1キログラムが必要で、1回の製造サイクルで6キログラムのグラフェンが製造できます。このサイクルは2日ほどかかります。

事業モデルについてもう少し詳しく教えてください。

確立されたグラフェン市場がある他の国と違って、ベトナムではグラフェンとその優れた性質に詳しい人はほとんどいません。ですから、事業を拡大するために、当社のネットワークを利用して、事業内容を市場に伝えています。新素材を取り扱う研究者に当社のグラフェン製品を販売します。すると彼らが一緒に働いている企業に当社を紹介してくれるのです。これにより、当社の素材がもたらす付加価値について理解を深めてもらい、顧客を増やすことができます。

最近、新しい協力プログラムを立ち上げ、グラフェンを使った新しい素材や製品を、大学、研究所、小企業と共同開発しています。プログラムのパートナーは、当社のグラフェン製品を投入材料として使用することに同意しています。これは双方にメリットがあります。彼らは当社の製品とノウハウを利用して研究を進めることができ、当社は研究プロジェクトで得られた市場性のある成果物を商業化する機会を得られます。このプログラムにより、製品開発プロセスと市場開拓が加速することを期待しています。

これまでに、2つの大学と民間企業1社と合意しています。

現在、いくつかの製品を開発中で、2022年末までに商品化したいと考えています。

ベトナムではグラフェンに対する旺盛な需要がありますか。

世界的に見ると、需要はそれほど大きくありませんが、当社が収益を生むだけの需要はあります。もちろん、今後、当社の顧客がいる国内とオーストラリア、フランスに加え、他の輸出市場でもシェアの拡大を目指します。

グラフェンの使用により、建築・建設セクターのカーボンフットプリントの削減が可能になるでしょう。このセクターでは、セメント製造が世界の二酸化炭素排出量の約6%を占めています。また、建築やインフラ設計で、より環境に配慮したアプローチが広がるでしょう。

グラフェンのどのような用途に注目していますか。

(写真: Graphenel JSC社提供)

現在の最優先課題は、Ton Duc Thang大学と共同で行っている、セメント製造にグラフェン混合物を使用し、建物の強度と耐久性を高める研究です。テスト結果は、セメントの圧縮強度が最大40%、引張強度が最大30%高まることを示しています。グラフェンの使用により、建築・建設セクターのカーボンフットプリントの削減が可能になるでしょう。このセクターでは、セメント製造が世界の二酸化炭素排出量の約6%を占めています。また、建築やインフラ設計で、より環境に配慮したアプローチが広がるでしょう。

さらに、別の2つのプロジェクトにも取り組んでいます。1つめは、グラフェンをウェアラブル医療機器に取り入れて装着している人の健康状態をモニタリングする、米国とベトナムの共同事業です。グラフェンは高伝導性素材で、他の素材に埋め込まれると電気信号を伝導し、強力なセンサーとして機能します。バイオエレクトロニクスなど、さまざまな用途があります。一般に、グラフェンは複合材料をスマート化します。

もう1つは、韓国の全北大学校との共同プロジェクトで、グラフェンを利用して電池のライフサイクルと耐久性を高める方法を研究者と共に探っています。

ベトナム企業からの反応はいかがですか。

ベトナムの大企業と話をしていますが、当社の研究への関心は非常に高く、グラフェンで実現できることに大きな期待が寄せられています。しかし、グラフェンを自社製品に使用する際のコストについて、漠然とした懸念があります。また、産業規模の需要を満たせるだけの、安定した確実なグラフェンの調達源が必要であるとも指摘しています。そうしたニーズに応えることができれば、今後の見通しは明るいでしょう。このため、当社は製造能力を拡大しています。

知的財産はGraphenel社でどのような役割を果たしていますか。

知的財産 (IP) は当社にとって極めて重要で、資金を調達する上で中心的役割を果たしています。グラフェンはベトナム市場ではまだ珍しく、必要な資金を呼び込む唯一の方法は、当社の製造プロセスの有効性を投資家に示すことでした。ベトナム国家知的財産庁に特許出願を申請していたおかげで、当社はこれを実現できました。特許出願と、当社の共同設立者の優れた経歴と経験により、投資家に当社のプロセスを信頼してもらえるようになりました。

当社のイノベーションに価値があると分かったとき、すぐにその価値を守る必要があることを理解しました。ベトナムのグラフェン市場は十分に発達していませんが、世界の多くの企業がグラフェンを製造しており、当社が競争力を維持するには、知財の保護が不可欠であることは明らかでした。

2019年9月に出願を申請しました。現在は手続き中ですが、2021年内には特許が付与されるという確証が得られることを期待しています。

Graphenel社にとって、大学の研究者との協力が重要である理由は何ですか。

理由は簡単で、大学の研究者はグラフェンに関する知識を学生に伝え、学生はそれをさまざまな製品に応用することができるからです。大学の研究者は、グラフェンの重要性と、グラフェンが製品にもたらす付加価値を理解しています。査読付きの研究論文と研究者同士の交流を通じて、グラフェンに関する知識とグラフェンの潜在的な用途が、ベトナム内外の研究者に伝わるでしょう。このようにして、グラフェンと当社の製品が知られるようになります。

Graphenel社は現在、1年間にグラフェン層を100キログラム、グラフェン・ナノプレートレットを1トン、酸化グラフェンを10キログラムほど製造しています。今年末までに製造能力を10倍に高めることを目指しています。 (写真: Graphenel JSC社提供)

大学と協力する際、知的財産をどのように保護していますか。

機密保持契約やその他の取り決めを組み合わせ、当社のパートナーは当社の製造プロセスに関する詳細を公開しないことに同意しています。通常、パートナーとの協力に際し、当社のプロセスの概要を伝えますが、中核となる詳細については開示しません。パートナーは何が行われているかは知っていますが、模倣できるほど十分な情報は得られません。

グラフェンにはいくつかの種類があり、それぞれ特性が異なります。どのような種類の素材を製造していますか。

当社が製造しているのは最も加工度の低いグラフェンです。酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、グラフェン層、グラフェン・ナノプレートレットの4つの製品を取り扱っています。いずれも粉末製品で、同じ目的で利用することができますが、特定の製品に適した形態があります。

例えば、グラフェン・ナノプレートレットは、セメント混合物や一部の水処理製品に最適で、酸化グラフェンと還元型酸化グラフェンはどちらかと言えばセンサーや電池での使用に適しています。グラフェン層は、当社のサポートなしでグラフェンを加工できる企業に販売しています。

知的財産は当社にとって極めて重要で、資金を調達する上で中心的役割を果たしています。

Graphenel社では、年間どのくらいグラフェンを製造していますか。

現在は、グラフェン層を100キログラム、グラフェン・ナノプレートレットを1トン、酸化グラフェンを10キログラムほど製造していますが、製造を拡大しているところです。現在、フルタイムの従業員は5人で、工場で勤務するパートタイムの従業員は増えています。今年末までに製造能力を10倍に高める予定です。

直面している主な課題は何ですか。

先ほど述べたように、グラフェンとグラフェンの特性に対する認知度を高めることが大きな課題です。また、海外市場に参入する際には、見込み客の間で当社の信頼度が低いという問題にも直面しました。知財に対する当社の取組みが、彼らの疑問を払拭する重要な要因となり、実際に、いくつかの海外企業と率直な対話を行うことができました。当社のプロセスを詳しく知りたいと思ってもらうことができ、実際にプロセスを知ったお客様には、最初に想像していたより興味深いと感じてもらえました。

コストも課題です。グラフェンのコストはこの10年間で大幅に低下しましたが、企業が大量に使用するにはまだ高額です。ですから、コストをさらに引き下げる方法を見つける必要があります。また、グラフェンを製品に利用することの潜在的メリットを見込み客に示す努力を続ける必要があります。

品質管理も重要な課題です。ベトナムにはまだ、グラフェンの品質基準を管理する機関がありません。当社は、他国のグラフェン製品を基準にして当社の製品を評価することで、この課題を克服しようとしています。新しい市場を開拓するときは、その市場の基準にも注目します。現時点では、当社の素材が説明したとおりの機能をきちんと果たすことに注力しています。国内基準がないので、品質について話をするのは容易ではありません。ですから、他の業界が理解し、信頼できるようなグラフェンの品質基準が設定され、実行されることに期待しています。そうなって初めて、お客様に当社の製品の品質を信頼していただけるでしょう。当社は、この点について国内当局に働きかけています。正しい方向に向かっていると思いますが、市場に進出するにはペースを上げる必要があります。

グラフェンについて

2004年、英国マンチェスター大学の研究者Andre Geim氏とKostya Novoselov氏が初めてグラフェンの分離に成功しました。2人は粘着テープを使って、グラファイトを炭素の層に分けました。この研究は2010年にノーベル物理学賞を受賞しました。

「驚異の素材 (wonder material) 」ともてはやされたグラフェンは、炭素原子1個分の厚みで六角形の格子状に並んだ層で、さまざまな興味深い特性を備えています。「グラフェンは想像しうる最も薄い素材です。単位重量当たりの表面積は最大で、グラフェン1グラムで複数のサッカー場をカバーすることができます[…]また、これまで測定された中で最も強度が高い素材です」とAndre Geim氏は2010年10月にネイチャー誌のインタビューで語りました。

グラフェンの強度は鉄の約200倍で、熱伝導性と導電性に優れ、「興味深い光吸収性」があります。他の要素と組み合わせることで、より優れた特性を持つ異なる素材を作り出すことができます。その用途は、建造物から医療用センサー、電池まで多岐にわたります。

Graphene-infoによると、グラフェンは「まさに世界を変える可能性がある素材で、ほぼすべての産業に取り入れられる無限の可能性を秘めています。」

「驚異の素材 (wonder material) 」ともてはやされたグラフェンは、炭素原子1個分の厚みで六角形の格子状に並んだ層で、さまざまな興味深い特性を備えています。 (写真: m_pavlov / iStock / Getty Images Plus)

グラフェン素材の商品化を支援するために何をすべきでしょうか。なぜ、これが政策担当者にとって重要な課題なのでしょうか。

政策担当者は、グラフェン市場が拡大するための政策環境を構築する上で、極めて重要な役割を担っています。これには、市場が信頼できるグラフェン製造の品質基準を設定することが含まれます。グラフェンの商品化について定める法的枠組みを明確にすることにもなります。

国内市場と輸出市場の両方について、税制優遇措置など、国内のグラフェン製造を支援する政策に期待しています。こうした政策があれば、国内のグラフェン製造企業は他国の企業と競争することができるでしょう。政府が何らかの形でグラフェンの国内製造を支援できれば素晴らしいと思います。

当社のイノベーションに価値があると分かったとき、すぐにその価値を守る必要があることを理解しました。

グラフェンとその可能性は過大視されていませんか。

そのようなことはありません。グラフェンは実際、さまざまなセクターで利用することができますが、これは他の素材も同じです。問題は、最適な用途がまだ十分に理解されていないことです。グラフェンの未来は明るいと思いますが、それは永遠に続くでしょうか。私には分かりません。他に素晴らしい新素材が現れて、将来競合することになる可能性は十分にあります。

最も期待している、グラフェン素材の新しい用途を教えてください。

個人的には、電池に非常に期待しています。現在、多くの機器に電池が使用されています。ですから、グラフェンを利用して電池のライフサイクルを延ばし、充電速度、容量と持続時間を改善できれば素晴らしいと思います。つまり、毎年捨てる電池の数を減らし、環境保護に貢献できることになります。

今後の計画について教えてください。

バイオエレクトロニクス、セメント、電池の分野で開発を続ける予定です。特に、電池業界に注目しています。グラフェンに関する情報を電池市場に提供し、グラフェンを使用した電池の開発・商品化により環境保護に貢献したいと考えています。

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