生体材料:自然の宝庫を解き放つ

2020年3月

著者 Catherine Jewell、WIPO出版部

先駆的な材料技術者で、次々と発明をする起業家でもあるOded Shoseyov教授にとって、自然とはインスピレーションの源です。過去30年間、自然の秘密を解き放ち、特に持続可能性において石油系合成材料よりも大きな利益をもたらす興味深い植物性の新しい材料を発見してきました。Shoseyov教授は、自身の最も重要な発明の一部を紹介し、その発明の利益を社会で広くアクセス可能とする際に知的財産権が担う重要な役割について強調しています。

先駆的な材料技術者、Oded Shoseyov教授は62件の特許を取得しており、企業14社の科学的創立者でもあります。Shoseyov教授は次のように述べています。「大学には、エンジニアや科学者に対して教育や教育以上の責任があると思います。 科学的発見により、非常に多くの人々の生活に影響を与える機会ができます 。」(写真:Oded Shoseyov提供)

植物ナノテクノロジーを始めたきっかけは何ですか?

私は農家に生まれ、常に農業に興味を持っていました。私の家族は130年以上にわたってブドウ園を経営してきました。私は化学の研究を始め、それから農業とタンパク質の生物工学に進みました。1990年、ヘブライ大学農学部で植物分子生物学の教授として勤務し始めました。現在は、比較的大きな研究所をヘブライ大学で運営しており、そこでは多くの学生がタンパク質工学とナノバイオテクノロジーに取り組んでいます。

私は常に植物に注目してきましたが、私の研究は産業や医療分野にも及びます。例えば、何年も前から、人間から供給された遺伝子を使用して植物で人間のコラーゲンを生産する方法を開発してきました。私は自分の研究を植物に限定しませんが、いつも植物に立ち戻ってタンパク質を生産したり、植物由来の材料を使って複合物を作ったりしてきました。植物は非常に効率的です。植物は私たち人間のために酸素などのあらゆるものを生産してくれますし、非常に資源が豊富です。

過去30年間、Shoseyov教授は自然の秘密を解き放ち、特に持続可能性において石油系合成材料よりも大きな利益をもたらす興味深い植物性の新しい材料を発見してきました。例えば、タバコ植物を遺伝子組換えすることで、植物性コラーゲンを生成する方法を発見しました。(写真:Oded Shoseyov提供)

個人名義で特許を62件取得した連続発明家として、最初に特許について知るきっかけは何でしたか?

これは長い話であり、自然には起こりませんでした。私が若い科学者として研究を始めたとき、主に重視していたことは、科学論文を発表し、在職期間を確保することでした。しかし、エルサレムのヘブライ大学に勤務し始めて間もなく、私が相談していた会社の共同創設者とたまたま昼食をとったのですが、その際に、自分の研究結果に対する特許出願が提出されるまで、科学論文の発表を延期している自分に気づきました。また同時に、研究用途を見つけるための多額の研究助成金を提供し、そして、私が有用な研究用途を見つけた場合は、会社を設立し、その4%の株とライセンスの使用料に関する公平な取り分を与えるという約束をその共同創設者に取り付けました。言うまでもなく、私は有益な研究用途を見つけました。これにより、Futurageneを設立することとなりました。同社は後に、ブラジル最大の製紙会社の1つであるSuzano社によって1億ドルで買収されました。この会社の設立は大成功でしたが、私は自分の研究でもっと多くのことができることを実感しました。科学論文で終わる必要はないのです。これが、私にとって、特許や特許が経済を推進する上で担う重要な役割について知ることとなる最初の体験でした。

Oded Shoseyov氏に関する詳細情報

Shoseyov 教授は、200本以上の学術論文を執筆または共同執筆しており、62件の特許を取得しています。

同教授は企業14社の科学的創立者です。この14社には以下の企業が含まれます。:

  • Futuragene Limited、紙パルプ産業用の遺伝子組換えユーカリ植物を開発している。
  • Collplant Limited、組織工学および再生医療で使用される医療用インプラント用の遺伝子組換え植物でヒト組換えI型コラーゲンを生成している。
  • Biobetter Limited、タバコ植物で治療用抗体を生産している。
  • GemmaCert Limited、医療用大麻製品の標準化を保証するスマートなソリューションを提供している。
  • SP-Nano materials Limited、複合材料産業向けのタンパク質ベースのナノコーティング溶液を製造している。
  • Melodea Limited、構造用フォーム、複合材、接着剤用の製紙スラッジからCNCを開発かつ製造している。
  • Valentis Nanotech Limited、食品パッケージおよび農業用のナノバイオベースの透明フィルムを開発かつ製造している。
  • Paulee CleanTec LimitedAshPoopieのデバイスを使用してペット廃棄物の収集と処分の分野で世界的リーダーになること、そして、その子会社であるEpic-Cleantechを通じて人間の廃棄物を無臭の無菌有機肥料に変換することを目指している。
  • Smart Resilin Limited、製造業者がレシリンを製品に組み込んで、より優れた耐疲労性と弾性特性を得られるように、レシリンを分離する方法を開発している。
  • Sensogenic Limited、食物アレルギー診断装置を開発している。
  • Karme Yosef Winery、現代のブドウ栽培の第一人者であるAmi Bravdo教授と教え子であるOded Shoseyov氏によって1999年に設立された。

どのような研究用途を見つけましたか?

この特定の用途により、紙パルプ産業向けのユーカリ植物の発展を加速させることが可能になりました。ユーカリ植物は、ブラジルで規制当局の承認を得た最初の市販の遺伝子組み換え林業植物でした。それ以来、私はMelodeaやCollplantなど、数々の会社を設立してきました(ボックス参照)。日々の経営業務には関与していませんが、コンサルタント、理事会メンバー、または主任科学者として、いまも企業で役割を担っています。

あなたの発明に共通の要素はありますか?

(写真: StockRocket / iStock / Getty Images Plus)

自然は持続可能な機能材料を開発するために何十億年もの進化を遂げてきました。

Shoseyov教授は述べました。

あります。私の発明は全て、特に材料科学と生体材料に関連しています。生体材料は合成材料よりもはるかに優れています。サウジアラビアの元石油相がかつて述べたように、石器時代は石不足で終わることはありませんでした。同様に、石油時代は私たちが石油を使い果たすよりもはるか前に終わるでしょう。そして、これには十分な理由があることを付け加えておきます。つまり、生体材料の方がはるかに優れているということです。私たちはただ単純に自然のシステムがどのように機能するかを調べ、学ぶことが必要です。そして、イノベーションを起こさなければなりません!

自然は持続可能な機能材料を作り出すために何十億年もの進化を遂げてきました。現代化学の200年の間に、科学者は自然と同じような進化を遂げることができませんでした。そのため、海に新しいプラスチックの島が浮かんでいるのです。したがって、何か違うことをする必要があります。しかし、車輪を再発明する必要があるという意味ではありません。私はいつもこのように言っています。

新しいアイデアが欲しいなら古い本を開きなさい!その本は30億年以上の進化の中で書かれてきました。そして、本にある文章は全ての生物のDNAです。必要なのは、そのDNAコードを読んで、そこから私たちの進歩を始めることです。

生体材料の研究の魅力とは何ですか?

生体材料の強さと機能性は、生体材料が自己組織化するという事実に由来しています。生体材料はボトムアップで構築されています。整形外科医が体内に埋め込む人工インプラントは、その機械的特性が周囲の組織に適合しないため、失敗することがよくあります。なぜでしょう? それは、人工インプラントが、自己組織化されていないからです。私の頭を取って、それを私の首にねじ込んだり、私の皮膚を取って、私の体に接着したりする人は誰もいません。自然界では、すべての生物が自己組織化して組織や臓器を作る細胞から作られています。それが生命体です。そして、それがモノを構築するための正しい方法なのです。

セルロースナノクリスタル(cellulose nano crystals、CNC)とその用途について教えてください。

CNCは優秀です。自然界で最も豊富な素材であるセルロース繊維に由来します。 再生可能で、砂糖からできていますが、CNCは重量ベースで鋼の約10倍の強度があり、興味深い多くの用途に利用できます。CNCを3パーセントの濃度で水と混ぜ合わせると、CNCは液晶に変わり、その溶液を紙、プラスチック、コンクリートなどの表面に適用すると、水が蒸発するにつれて、結晶が自己集合して非常に強力な 透明フィルムを形成します。また、油や酸素に対するバリアも作り出します。これは素晴らしいパッケージングソリューションになります。かつて、標準的なジュースの容器は、ポリマー(ポリエチレンやPETなど)のラミネート、アルミニウム、段ボールから作られていました。これらは、非常に優れたパッケージのソリューションですが、リサイクルはできません。

私の会社の1つであるMelodeaは、100パーセントリサイクル可能なセルロースを使用したより良い安価な代替品を発見しました。Melodeaは、私の研究室で開発された特許技術を中心に設立されました。CNCの開発と製造を行い、顧客と協力してさまざまな用途を開発しています。彼ら(顧客)はニーズをより良く理解し、市場へのチャネルがあるため、これは重要です。例えば、MelodeaはスウェーデンのHolmen社、ブラジルのKlabin 社と協力して、CNCベースのバイオパッケージを工業規模で生産しています。

実際に、Melodeaとそのパートナーは、大きな環境問題、すなわち、製紙産業によって毎年生成される何百万トンものスラッジにも取り組んでいます。ヨーロッパだけでも年間1,100万トンのスラッジが発生しています。しかし、Melodeaとパートナーにとって、スラッジは非消費型製品向けの環境に優しいパッケージに変換するための貴重な原料です。ただし、食品の包装については、安全上の理由からバージンパルプを使用しています。

CNCは繊維製品の強化にも使用できます。綿糸を取り、CNCの薄層でコーティングすると、重量にわずか1パーセント追加するだけで、靭性は500パーセントも増加します。同様に、CNCでガラスをコーティングすると、強度が増すため、軽量で耐久性のあるフロントガラスなどを必要とするガラス建設や航空業界に対して、有用な選択肢を提供することになります。

受賞歴

Shoseyov 教授の受賞歴:

  • 2002年Outstanding Scientist Polak Award
  • 1999年、2010年 The Kay Award for Innovative and Applied Research
  • 2012年The Israel Prime Minister Citation for Entrepreneurship and Innovation
  • 2018年The Presidential Award for his contribution to the Economy and Society of Israel

自然は他にどのような秘密をあなたに教えてくれましたか?

私たちは、レシリンというネコノミが身長の200倍ジャンプできるようにするタンパク質の研究を進めています。地球上で最高のゴムです!レシリンは、短い距離を飛ぶトンボのような昆虫など、節足動物にあります。様々なパートナーと協力して、レシリンの中敷やタッチスクリーンなどの柔軟な電子機器を備えた運動靴を開発しています。これらの目的のために、私たちは、レシリン遺伝子を細菌(E.coli)に埋め込み、それを発酵させることにより、費用効果の高い方法でレシリンを生産することができます。将来的には、環境に優しいタイヤの生産を目指していますが、大量生産するためには、工場において高収率で生産し、コストを下げる必要があります。私たちは現在このミッションに取り組んでおり、やがて実現するでしょう。

Melodea社とそのパートナーは、毎年製紙産業によって生成される何百万トンものスラッジを、非消費型製品の環境に優しいパッケージに変換することで、大きな環境問題に取り組んでいます。 (写真:Oded Shoseyov提供)

植物性コラーゲンの研究はどのようにして生まれましたか?

皮膚を活性化させる製品(例えば、皮膚充填剤の使用など)は、ますます人気が高まっています。パーソナルケアに特化した会社が、哺乳類のコラーゲンやヒアルロン酸に代わる、より安全かつ安価で効果的な代替品を探していたため、私は植物でコラーゲンを作ることができるかどうかを調べ始めました。そのためには、単一の機能性タンパク質を作るために5つのヒト遺伝子を採取する必要があり、複雑な挑戦となりました。私はその方法について短い論文を書き、最終的にはテクノロジーインキュベーターの支援を得て、概念実証を行い、会社を設立しました。これがCollplantの始まりです。

植物性のコラーゲンはどのように生成するのですか?

Shoseyov教授と自身のチームは、短い距離を飛ぶトンボのような昆
虫など、節足動物が持つ タンパク質であるレシリンの研究をしていま
す。教授はそれを「世界で最高のゴム」と呼んでいます。将来的には、
環境に優しいタイヤの生産に使用することを目指しています。
(写真:coopder1 / iStockphoto;enot-poloskun / iStockphoto)

タバコ植物の遺伝子組み換えを行いました(タバコ植物は食物連鎖に含まれていないため)が、これには現在、コラーゲンの生成に必要な5つのヒト遺伝子が含まれています。私たちはイスラエル全土に所有する25,000平方メートルの温室で種子からタバコ植物を繁殖させ、その苗木を農家に配布し、成長させます。収穫後、葉は冷却トラックでCollplantの工場に運ばれます。そして、工場で粉砕された葉から汁を抽出し、コラーゲンを濃縮します。その後、クリーンルームで精製し、様々な医療用インプラントを作ります。私たちは最近、糖尿病足病性潰瘍および腱炎を治療するための注射剤の臨床試験を完了し、欧州連合とイスラエルで規制当局の承認を確保しました。

また、組織や臓器の3Dプリンティング用植物性コラーゲンバイオインクも開発しました。まだ前臨床段階ではありますが、米国企業であるUnited Therapeuticsと3D Systemsの2社と共に、人間の肺を3Dプリントするという興味深いプロジェクトを進めています。2024年頃にはそれを紹介できるでしょう。

あなたの企業にとって知的財産権はどの程度重要ですか?

ビジネス資産として、知的財産権はスタッフと同じくらい重要です。知的財産権があるからこそUnited Therapeuticsや3D Systemsなどのパートナーと協力して、素晴らしいことを達成できます。知的財産権や知的財産権による保護がなければ、私の会社は脆弱になり、投資家を惹きつけることは実質的に不可能になります。規制と同様に、知的財産権は重要なツールです。知的財産権がなければ、私たちはこの地球上で健全な社会を維持する能力を失う危険を冒すことになります。

ご自身の研究を商品化することはなぜ重要だったのですか?

大学には、エンジニアや科学者に対して教育や教育以上の責任があると思います。 科学的発見があれば、非常に多くの人々の生活に影響を与える機会ができます。商品化と知的財産保護は、これらの発見を確実に実現する唯一の方法です。

ビジネス資産として、知的財産権はスタッフと同じくらい重要です。知的財産権があれば、パートナーと協力して、素晴らしいことを達成できます。知的財産権と知的財産権による保護がなければ、[...]投資家を惹きつけることは実質的に不可能になります。

今後のプロジェクトについて教えてください。

ヘブライ大学にある私の研究室では、主に植物システムを改善して食品産業および医薬品産業向けの動物性タンパク質を生産することに焦点を当てたプロジェクトをいくつか展開しています。また、優れた機械的特性を備えた新しいバイオベースの複合材料や、新しい3Dプリント技術も開発しています。

あなたに最も大きなインスピレーションを与えた人物とその理由について教えてください。

間違いなくレオナルド・ダ・ビンチです。彼は究極の学際的な科学者であり発明家でした。

研究者や起業家を志望する若者に向けたアドバイスはありますか?

否定する人からは距離を置きましょう。そして、常に最高の目標を目指し、賢い人と協働しましょう。

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