WIPO Arbitration and Mediation Center
紛争処理パネル裁定
ムーンムーン株式会社 対 保田 望
事件番号 D2015-0434
1. 紛争当事者
申立人: ムーンムーン株式会社
申立人代理人: 弁護士 髙橋 喜一
同 平野 敬
被申立人: 保田 望
被申立人代理人: 弁護士 野口 眞寿
2. ドメイン名および登録機関
係争のドメイン名:<moonx2.com>
本件ドメイン名の登録機関:GMOインターネット株式会社
3. 手続の経過
本件申立書は、2015年3月10日にWIPO仲裁調停センター(以下「センター」)へ提出された。申立人は、申立書及び証拠が日本語であるため、日本語を理解するパネリストを希望した。
センターは2015年3月10日に、申立人に対し、申立人の主張が、登録標章に基づくものであるか、登録されていない標章に基づくものであるかが明確ではないとしてメールにより確認を行った。これに対し、申立人は、2015年3月11日に、申立書の補正書を提出した。
センターは2015年3月12日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を登録機関GMOインターネット株式会社に要請した。2015年3月16日にGMOインターネット株式会社はメールによりセンターへ登録確認の返答をし、保田望がドメイン名登録者であることを確認し、同人の連絡先細目を提供した。
センターは申立書および補正書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則(以下,「補則」)における方式要件を充足していることを確認した。
手続規則第2条(a)項および第4条(a)項に従い、センターは本件申立を被申立人に通知し、2015年3月26日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条(a)項に従い、答弁書の提出期限は2015年4月15日であった。答弁書は2015年4月15日に提出された。
センターは、花水征一を単独のパネリストとして本件について2015年4月23日に指名した。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認した。手続規則第7条の要請に従い、紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した。
4. 背景となる事実
申立人は、2011年7月13日に電化製品の販売等を目的として日本国熊本県熊本市に設立された会社である。
被申立人は、申立人の設立時から2014年6月30日まで申立人の取締役に就任していた。
被申立人は、申立人の会社設立前である2011年7月6日に、申立人の公式ウェブサイトに使用するために本件ドメイン名を登録し、本件ドメインの登録費用及び維持費用を負担した。申立人は、被申立人の取締役退任時に被申立人に当該費用を返済した。
本件ドメイン名は申立人の設立時から2014年9月頃まで申立人の公式ウェブサイトとして使用された。
被申立人が申立人の取締役を退任した後も登録名は被申立人のままであり、被申立人はID及びパスワードの保有を継続している。
2014年9月頃から被申立人が本件ドメインを使用して、申立人に対する被申立人の主張を発信するようになったことから、申立人は、東京地方裁判所に本件ドメイン名の使用の差止めを求める仮処分の申請を行った。東京地方裁判所は、被申立人の発信内容は、申立人の社会的評価を低下させるものであり、被申立人は申立人に損害を加える目的で本件ドメインを使用していたものというべきであり、本件ドメインは申立人の商号に類似し、その使用は不正競争防止法2条1項12号の不正競争に該当するとして、被申立人に対し、仮処分により本件ドメイン名の使用の差止めを命じた。
5. 当事者の主張
A. 申立人
A1. 本件ドメイン名が、申立人が権利を有する商標および役務商標(サービスマーク)と同一または混同させるような類似性を有していること
申立人は「Moonx2」及び「ムーンムーン」という標示そのものを商標登録していないが、以下の理由により、本件ドメイン及び「ムーンムーン」は、もっぱら申立人の提供する商品および役務を表示する符号として需要者の間に広く認識されており、日本法上は不正競争防止法2条1項1号に基づき法律上保護されるべき符号であるとし、その根拠として申立人は次の主張をする。
本件ドメインを申立人の公式ウェブサイトに遅くとも2011年10月から2014年9月頃まで使用し、本件ドメインの文字列は、申立人を示すものとして、需要者の間に広く認識されるに至った。
法務省オンライン登記情報検索サービスによれば、「ムーンムーン」を商号とする会社は日本で申立人のみであり、「moonmoon」又は「moonx2」を商号とする会社は存在しない。
独立行政法人工業所有権情報・研修館の提供する商標検索によれば、商品分類及び役務分類において「ムーンムーン」を称呼とする商標は登録されておらず、本件ドメイン及び「ムーンムーン」が他の登録された商標を指示している可能性はない。
以上から、申立人は、本件ドメインが申立人の商品および役務を指示する符号であることは明らかであり、申立人は本件ドメインについて本手続きを申し立てる資格を有する。
A2. 被申立人は、当該ドメイン名に対して何らの権利または正当な利益を有していないこと
申立人は、被申立人が権利または正当な利益を有さず、もっぱら不正の目的で占有している理由について、上記4「背景となる事実」に記載の事情に加えて、以下のように主張する。
申立人は、被申立人が2014年6月30日に申立人の取締役を退任した後も本件ドメインの管理ID及びパスワードの引継ぎを行わず、申立人の営業を妨害する数々の行為を行い始め、その一環として、被申立人は、上記管理ID及びパスワードを悪用して、2014年9月頃から、本件ドメインのウェブサイトを不正に改ざんして、申立人やその関係者を誹謗注所する記事を投稿するようになったと主張する。
また、申立人は、2014年9月14日に、被申立人は申立人の承諾なく、本件ドメインのホスティング先サーバを、申立人が契約していたエックスサーバ株式会社のものから、GMOペパボ株式会社のサーバへと移転させたため、申立人は本件ドメイン下に置かれたファイルに対して何ら修正や削除ができなくなり、権利の行使を妨害されるとともに、多大な営業上の損害を受けたと主張する。
申立人は、このような営業妨害行為につき、東京地方裁判所に対して損害賠償請求等の訴訟を提起し、継続中であると主張する。
B. 被申立人
B.1 被申立人は、本件ドメインに対して正当な利益を有しており、不正の目的で使用されたものでないこと
被申立人は、申立人の設立時取締役を務めたものであり、申立人の株主でもあり、本件ドメイン名を申立人の設立より前に自己名義で取得し、被申立人は、複数の企業に出資しており、経営が軌道に乗ってきた際には取締役を退任することが予定されていたところ、申立人には被申立人のほかにドメインの管理・運用ができる者がいなかったため、被申立人が管理運営を行い、申立人のウェブサイトに使用するために申立人に本件ドメインの使用を許諾したと主張する。
被申立人は、申立人代表者が定款に目的として記載されていない事業に多額の金銭支出をするようになったために申立人代表者と被申立人との間において紛争が生じ、2014年6月30日に申立人の取締役を退任したが、引き続き株主として、申立人代表者に定款に記載のない事業を行わないよう再三にわたって申し入れたが、申立人代表者は被申立人の申し入れを一切聞き入れなかったため、利害関係者に事実を明らかにするために本件ドメインを使用して意見を申立人のウェブサイトに掲載したと主張する。
したがって、被申立人は、被申立人による本件ドメインの使用はなんら申立人に害を加える目的で行っているものではないと主張する。
6. 審理および事実認定
本件において、申立人は本件ドメインおよび「ムーンムーン」は、もっぱら申立人の提供する商品および役務を表示する符号として需要者の間に広く認識され、周知表示となっているから、商標登録を受けていないが、申立人は不正競争防止法2条1項1号に基づき法律上保護されるべき利益を有すると主張する。しかし、同法の法的保護を受けるには、需要者の間に広く認識されているいること(周知性)の要件があることが必要であるところ、申立人は、この点に関し、上記したような主張をしているが、以下に述べるように、周知性に関する証明がなされているとは言えない。
申立人は、本件ドメイン又は「ムーンムーン」が申立人の製品又は役務を指示する符号であるとして需要者の間に広く認識されていることを、当該表示を用いて製品等を販売した期間、販売数量、広告の種類・規模、消費者調査等により示さなければならないが、そのような証拠は提出されていない。
申立人は、本件ドメインを含むドメインの使用差止め求める仮処分の認容決定の写しを提出するが、本認容決定は、被申立人の行為が不正競争防止法2条1項12号の不正競争に該当することを認定したものであり、同条は、周知性をその保護の要件としていない点で申立人が権利を主張する同条同項1号とは異なり、本件ドメイン及び「ムーンムーン」が申立人の商品等表示として需要者の間に広く認識されていることを認定したものではないから、申立人の上記主張を根拠づける証拠とはならない。
申立人はその他、申立人に関する履歴全部事項証明書、申立人ウェブサイトのコピー、申立人以外に「ムーンムーン」を商号とする会社は日本国内に存在しないこと及び「moommoom」又は「moonx2」を商号とする会社が存在しないことを示す登記情報検索サービス結果及び「ムーンムーン」を称呼とする商標が登録されていないことを示す商標検索結果を提出するが、いずれも申立人の主張を基礎づける証拠として十分であるとはいえない。
上記の理由により、不正競争防止法第2条1項1号に該当する商品等表示として法的保護の対象となるとの証明はなく、申立人は基本方針の4(a) (i)の要件を満たしていないと認められる。当該要件は請求が認められるための必須不可欠の要件であるから、他の争点につき判断するまでもなく申立人の申立は認められない。
7. 裁定
以上の理由により、申立人は、本件ドメインが、申立人が権利を有する商標と同一または混同を生じさせるような類似性を有することの立証ができなかった。よって、<moonx2.com>の移転を求める申立人の請求は認められず。申立を棄却する。
Yukukazu Hanamizu
パネリスト
日付: 2015年5月7日