WIPO Arbitration and Mediation Center

紛争処理パネル裁定

Costco Wholesale Corporation and Costco Wholesale Membership, Inc.

対 Motoyasu Kato, Lia Corporation (リア株式会社)

事件番号 D2011-0930

1. 紛争当事者

申立人:コストコ・ホールセール・コーポレーション(Costco Wholesale Corporation)及びコストコホールセール・メンバーシップ・インク(Costco Wholesale Membership, Inc.)、アメリカ合衆国ワシントン州。 申立人の代理人: Law Office of Mark J. Nielsen、アメリカ合衆国。

被申立人:Motoyasu Kato, Lia Corporation (リア株式会社),日本国東京都。

2. ドメイン名および登録機関

紛争の対象であるドメイン名:<costcoshopper.com> (以下、「本件ドメイン名」という)。

本件ドメイン名の登録機関:GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.com。

3. 手続の概要

本件申立書は、2011年5月27日にWIPO仲裁調停センター(以下「センター」という。)に提出された。センターは、2011年5月30日にメールにて本件ドメイン名の登録確認を登録機関GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.comに要請した。同登録機関は2011年6月1日にメールにてセンターへ登録確認の返答をし、申立書に記載された被申立人及び連絡先細目と異なる情報を本件ドメイン名の登録者として公開した。センターは2011年6月1日に登録機関により公開されたドメイン名登録者及び連絡先細目を申立人に通知した。それに伴い、申立人は申立書を訂正することができるものと通知された。申立人は2011年6月1日に申立書の補正書をセンターへ提出した。

センターは2011年6月1日に申立人及び被申立人双方に対し、手続の使用言語についてメールにより英語及び日本語の二ヶ国語にて通知を行った。申立人は、2011年6月1日に手続の使用言語を英語にするよう要請する要請書を提出した。これに対し、被申立人は、2011年6月3日に手続の使用言語を日本語にするよう要請する要請書を提出した。

センターは申立書および補正書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」という。)及びWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則 (以下,「補則」という。)における方式要件を充足していることを確認した。

手続規則第2条(a)項および第4条(a)項に従い、センターは本件申立てを被申立人に通知し、2011年6月6日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条(a)項に従い、答弁書の提出期限は2011年6月26日であった。答弁書は、2011年6月24日にセンターに提出された。

被申立人が2011年6月3日に提出した要請書に対し、センターは暫定的に、英語により提出された申立書を受理し、英語及び日本語で本件手続を進め、日本語又は英語による答弁書を受理するとし、手続の使用言語についての最終的な判断は紛争処理パネルによる判断に委ねる旨通知した。

センターは、2011年7月5日にHaig Oghigianを本件における単独のパネリストとして指名した(以下、「本件紛争処理パネル」という。)。本件紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認したうえで、手続規則第7条の要請に従い、センターに承諾書及び公平と独立に関する宣言を提出した。

4. 使用言語について

本件ドメイン名登録合意の言語は日本語であることから、統一ドメイン名紛争方針(以下、「紛争方針」という。)第11条より、本紛争処理手続の使用言語は日本語とする。

この点、申立人は、本件ドメイン名をURLとするウェブサイトに、英語表記の商品名がいくつか掲載されていること、及び.com のLTDが英語の「commercial」を語源とすること等を理由に、本件紛争手続の使用言語を英語にするべきであると主張している。

しかし、本件ウェブサイトでは、(ア)商品説明や特定商取引法に基づく表記等、通販サイトとしての基幹部分が日本語で記載されており、日本での利用者を対象とした通販サイドであることが明白である点、(イ)本件ウェブサイト上に通販コンテンツを公開後のアクセス件数のうち、95%以上が日本からのアクセスであること、及び、(ウ)被申立人は日本に本店所在地を有する会社であり、海外に支店を有していないこと、が証拠上認められることから、被申立人は英語に精通していないものと解される。

したがって、紛争方針第11条に定められる原則通り、本件紛争処理手続の使用言語は本件ドメイン名登録合意の言語である日本語とすることが相当である。

5. 背景となる事実

申立人は、高品質な優良ブランド商品を低価格で提供する世界的な会員制倉庫型店であり、現在アメリカ合衆国及びプエルトリコで425箇所、並びにオーストラリア、カナダ、日本、韓国、メキシコ、台湾及びイギリスにおける150箇所以上を含む、世界で580箇所に倉庫店を出店している。申立人は、1983年に初めての倉庫店を出店して以来、一貫してCOSTCOの商標及び商号を用いてビジネスを展開しており、現在では年間760億米ドルにも上る売上げを誇る全米でも屈指の小売店となっている。

申立人は、世界各国で、「COSTCO」の語について、複数の商標を所有しており、この中には以下の日本の商標も含まれている(附属書類H)。

- COSTCOの商標で、日本国内の商標登録番号が5143423、3043955、3028027のもの

- COSTCO WHOLESALE & Designの商標で、日本国内の商標登録番号が5143422のもの

また、申立人は、カナダの利用者のために、“www.costco.ca”の公式ウェブサイトを開設しており、申立人のイギリス、メキシコ、日本、台湾、韓国及びオーストラリアの各現地法人はそれぞれの国の利用者のために、公式ウェブサイトを運営している。

被申立人は、その業務の一つとして、インターネットを利用した日用品雑貨・光学機器等の販売業に従事しており、本件ドメイン名をURLとするウェブサイトでは、2008年に他界したアダルト女優飯島愛が提案する美容・風俗雑貨の販売を行っている。

6. 当事者の主張

A. 申立人の主張

申立人の主張は以下のとおりである。

被申立人の登録にかかる本件ドメイン名は、申立人の商標「COSTCO」と同一である(「処理方針」第4条(a)項(i)、「手続規則」第3条(b)項(viii)、(b)項(ix)(1))。なお、本件ドメイン名に含まれる「shopper」という一般名詞は本件ドメイン名及び申立人の有する商標「COSTCO」との類似性を緩和するものとは評価できないどころか、申立人の著名な商標「COSTCO」と相俟って、本件ドメイン名と申立人の商標との関連性を誤認・混同させる効果を生じさせている。

このような消費者の誤認に乗じて商品を販売し、利益を得ていることは明らかであり、その使用を正当な使用ということはできない。なお、申立人は、被申立人に対して、本件ドメイン名や「COSTCO」という語を含んだドメイン名の使用を許諾したことはなく、被申立人は申立人の商標「COSTCO」に関する権利は取得していない。したがって、被申立人は、本件ドメイン名についての権利又は正当な利益を有していない(「処理方針」第4条(a)項(ii)、「手続規則」第3条(b)項(ix)(2))。

申立人の商標「COSTCO」は1985年に商標登録して以来、有効に当該商標を有し、申立人によってのみ使用されてきた。他方で、被申立人は、申立人が日本で業務を展開してから約10年後の2009年9月15日に本件ドメイン名を取得している。申立人の名称の知名度の高さ及び本件ドメイン取得時に申立人は既に日本及び米国で登録されている商標を含む複数の商標の保有者であった事実を考慮すると、申立人は本件ドメイン取得時において、申立人の当該商標に対する権利につき認識していたと察することができる。申立人は本件ドメイン名についての権利又は正当な利益を有していないことから、本件ドメイン名を使用する唯一の目的は営利のために本件ドメイン名をURLとするウェブサイトを運営することにある。また、被申立人は、本件ドメイン名を用いて申立人が運営するウェブサイトと競合関係にある通販サイトを運営するために登録し、使用している。さらには、被申立人は本件ドメイン名をURLとするウェブサイトにて、アダルト女優が提唱する風俗雑貨、美容用品を取り扱っており、この種のサイトは多くの利用者が不快に感じるものであり、申立人は積極的に賛同しない。したがって、被申立人は本件ドメイン名を不正な目的で登録、使用している(処理方針第4条(a)項(iii)、第4条(b)項、手続規則第3条(b)項(ix)(3))。

以上の理由より、申立人は、処理方針第4条(i)項に基づき、紛争処理パネルに対し、本件ドメイン名を申立人に移転する裁定を求める。

B. 被申立人の主張

申立書の陳述・主張内容に対する被申立人の答弁・反論等は以下のとおりである。

被申立人が当該ドメイン上にウェブサイトを公開した2009年11月17日から、本件申立ての通知を受領した2011年6月6日までの期間、「COSTCO」という商標のキーワードを含むアクセスは一切なく、日本の有名人であった「飯島愛」の「飯島」というキーワードを含む検索流入が全体の訪問数の22.7%を占めている事実に鑑みれば、本件ドメイン名は、ユーザーに対し、「COSTCO」という商標を関連するような印象を与えることはなく、また混同させるような類似性を有しているとはいえない。

被申立人は、当該ドメインを使用する際、「cost+co+shopper」という単語の羅列として本件ドメイン名を認識しており、本件申立ての通知を受けるまで「costco」を一つの単語として認識したことはない。実際、当該ドメイン上のウェブサイト内に「COSTCO」という商標を用いた広告等は一切なかった。したがって、被申立人は、当該ドメインを、正当にして公正に使用しており、その際に、消費者の誤認を惹き起こすことにより、営業的利益を得る意図、又は、当該商標若しくは役務商標の価値を毀損する意図は有していない。

さらには、被申立人は、本申立ての通知を受けた後、直ちに当該ドメインから全コンテンツを消去し、現在当該ドメインの利用を完全に停止している。被申立人には今後当該ドメインを利用する意思も更新手続を行う意思もない。当該ドメインは、通常より安く取得できるドメイン取得キャンペーンにおいて、大量に購入したドメインの一つであって、被申立人が何らかの目的を持って当該ドメインを取得したわけではない。

したがって、被申立人は不正な目的で当該ドメインを登録・使用しているのではない。

7. 検討及び判断

本件申立書の対象である本件ドメイン名が登録されるに際して適用された登録合意書には、「処理方針」が組み込まれているので、本件紛争は「処理方針」の対象となる。よって、紛争処理パネルは本件申立てを「処理方針」に従って裁定する権限を有する。

申立人は、「処理方針」第4条(a)項所定の三要件、すなわち、(1)本件ドメイン名は、申立人が権利を有する商品商標又は役務商標と同一又は混同させるような類似性を有するものであること、(2)被申立人は、本件ドメイン名の権利又は正当な所有権を有していないこと、及び(3)本件ドメイン名は不誠実に登録、使用されていること、を主張している。そこで、以下、かかる三要件が充足されているかを個別に検討する。

申立人が権利を有する商品商標又は役務商標と同一又は混同させるような類似性

申立人は、被申立人の登録にかかる本件ドメイン名は、申立人の商標「COSTCO」と同一である(「処理方針」第4条(a)項(i)、「手続規則」第3条(b)項(viii)、(b)項(ix)(1))と主張する。

上記ドメイン名の「shopper」の部分は、買い物客を意味する普通名称にすぎないものであること、大文字小文字の区別は商標の同一性の判断において考慮しなくてもよいこと、及び「.com」の表示はドメイン名の種類を示すもので特別の識別力がないことに鑑みれば、被申立人が保有するドメイン名で識別力を有する要部は、「costco」の部分である。そして、「costco」の表示は申立人の保有する著名商標と同一である。したがって、本件ドメイン名と申立人が権利を有する商標は、少なくとも混同させるような類似性があることは明らかである。

よって、申立人は処理方針第4条(a)項の第一要件を充足している。

権利又は正当な利益の欠如

申立人は、被申立人は当該ドメイン名について権利又は正当な利益を有さない(処理方針第4条(a)項(ii)、手続規則第3条(b)項(ix)(2))と主張する。

この点、処理方針第4条(c)項(i)は、被申立人がこの紛争についての通知を受ける前に、商品又はサービスの提供を善意で行うにあたり、そのドメイン名又はこれに対応する名称を使用していたとき、又はその使用準備をしていたことを立証可能なときは、被申立人はドメイン名についての権利又は正当な利益を有していることが立証されたものとする旨定めている。そして、ここでいう「善意」に該当するための要件の一つとして、当該ウェブサイトに被申立人と商標を有する者との関係が正確に開示されていなければならないと解される(Philip Morris Incorporated v. Alex Tsypkin, WIPO事件番号 D2002-0946; Oki Data Americas, Inc. v. ASD, Inc. , WIPO事件番号 D2001-0903等)。

被申立人は、「COSTCO」若しくはこれに類似する商標権又は商号権を取得しておらず、申立人よりかかる商標権のライセンスを取得したこともない。また、当該ウェブサイトには、被申立人と商標を有する者である申立人との関係は開示されていない。そして、被申立人は、「COSTCO」という語を含む本件ドメイン名を使用し、当該ドメイン名をURLとするウェブサイトを通じて、申立人と同様に、小売業に従事しており、少なくともこれにより、被申立人が商業的利益を得ていることは確かである。してみれば、被申立人は、処理方針第4条(c)項(i)でいう「善意」に該当せず、本件ドメイン名の権利又は正当な利益を有していない。

よって、申立人は処理方針第4条(a)項の第二要件を充足している。

不誠実な登録、使用

申立人は、被申立人が本件ドメイン名を不誠実に登録、使用している(処理方針第4条(a)項(iii)、第4条(b)項、手続規則第3条(b)項(ix)(3))と主張する。

申立人は、日本においても9店舗を構えて事業を展開し、200万人以上の利用者が会員として登録しており、相当程度の知名度を有していることが認められる。そして、被申立人は、かかる前提のもとで、少なくとも被告の商標と混同させるような類似性を有する本件ドメイン名を使用して、申立人の商品を販売している。してみれば、被申立人は申立人の知名度に便乗すべく本件ドメイン名の登録申請を行ったことが推認される。

これに対し、被申立人は、本件ドメイン名は、通常より安く取得できるドメイン取得キャンペーンにおいて、大量に購入したドメインの一つであって、何らかの目的を持って当該ドメインを取得したわけではなく、被申立人は、当該ドメインを登録・使用する際、「cost+co+shopper」という単語の羅列として認識していたにすぎないと反論している。

しかし、被申立人のように、その事業の遂行の過程において、大量のドメインを取得している業者は、そのようなドメインを取得する際に、当該ドメイン名が第三者の商標その他の権利を侵害するか否か調査をする義務があり、そのような調査義務を果たさずに第三者の商標その他の権利を侵害するドメイン名を登録・使用し続けた場合は、不誠実な登録、使用をしたと看做されるものと解される。(Mobile Communication Service Inc. v. WebReg, RN, WIPO事件番号 D2005-1304; Media General Communications, Inc. v. Rarenames, WebReg, WIPO事件番号. D2006-0964等)。

本件において、申立人は、被申立人が本件ドメインを取得する約10年前から日本で業務を展開しており、2008年6月20日には既に日本でも「COSTCO」の商標を申請している。してみれば、インターネット上の調査をすれば容易に申立人の当該商標の存在について、認識し得たはずである。にもかかわらず、そのような調査義務を果たさずに本件ドメイン名を登録し、使用続けている行為は、本件ドメイン名を不誠実に登録、使用しているものといえる。被申立人が、特にドメイン取得の基準等は設けていないことからも、被申立人が上記のような調査義務を果たしていないことが推認される。

よって、被申立人は、本件ドメイン名を不誠実に登録、使用しているものといえる。

以上より、申立人は処理方針第4条(a)項の第三要件を充足している。

小括

以下認定のとおりであるので、本件ドメイン名の紛争処理については、被申立人が取得したドメイン名を、申立人に移転するのが相当である。

8. 裁定

以上の理由により、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条に従い、本件紛争処理パネルは本件ドメイン名<costcoshopper.com>を申立人へ移転することを命じる。

Haig Oghigian
パネリスト
日付: 2011年7月19日