REP Fitness社

フィットネス機器のパフォーマンスを大きく左右するデザイン

著者: Louis MeunierWIPO ハーグ制度 情報・促進課コンサルタント

2026/05/26

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ダンベルというものは、特に手を加えない限り、それ以上の何ものでもありません。しかし、REP Fitness社 (米コロラド州) にとって、グリップの形状や可変式ウエイトのロック機構は、単なるデザイン上のオプションではなく、保護すべき資産なのです。では、同社ではそれをどのように保護しているのでしょうか。

アスリートたちは、混み合ったジムで、ラック、ベンチ、ケーブルマシンの間を素早く移動して、重量の調整や、次のセットの準備をします。パフォーマンスは、キログラム単位の重量と反復回数で測定されます。しかし、バーベルが持ち上げられるずっと前から、パフォーマンスは、他の至るところで既に始まっているのです。つまり、ベンチの角度やハンドルの形状は適切か、またフレームの安定性は十分か、といったことです。

デザインに対する注目度の高まりは、知的財産 (IP) の動向からも見て取ることができます。 WIPOが最近実施した調査 によると、スポーツに関連する意匠の出願件数は、2016年から25年までの間に年平均で8.3%増加しています。これは、全セクター平均の4%よりも高い伸び率となっており、特にフィットネスマシンやジム機器の分野で大きく伸びています。このことから、マーケットが急拡大する中で、製品の形状、人間工学上の配慮、そしてユーザーに対する差別化が一層重要になってきていることがうかがわれます。

REP Fitness社は、コロラド州を拠点として、筋力トレーニング機器を扱っています。同社にとって、意匠はあらゆる事業運営と不可分の要素であり、決して付け足しのような存在ではありません。Ryan、ShaneのMcGrotty兄弟がCrossFitのコミュニティ向けにトレーニング機器の販売を始めたのは2012年ことでした。ささやかなガレージからスタートした兄弟の事業は、その後200人を超える従業員を擁するまでに成長しました。

多くの人にとって、ダンベルというものは、それ以上の何ものでもありません。しかし、熱心にトレーニングに取り組む人々は、その細部にまでこだわりを持っています。

現在、REP社は、ホームジムやブティックスタジオ (特化型のジム)、公共施設 (学校、警察・消防署、軍事訓練施設など) に向けて、ラック、ベンチ、ダンベル、ケーブルシステムのデザインを手掛けています。

同社は、英国と欧州への事業拡大に伴い、WIPOの「意匠の国際登録に関するハーグ制度」の活用を通じて意匠の国際的なポートフォリオも構築し、主要製品の外観と機能的な仕組みを保護しています。

トレーニング機器のパフォーマンスを左右するデザイン

「多くの人にとって、ダンベルはそれ以上の何ものでもありません」と、REP社の社内知財顧問であり、米国の弁理士でもあるBrad Hattenbach氏は言います。「しかし、熱心にトレーニングに取り組む人々は、その細部にまでこだわりを持っています。どのようにすれば、バランスを取りやすく、コンパクトで、安全かつ迅速に調整できる機器を実現できるか。これこそがデザインの神髄であり、機器の性能に直接影響するものです」

フィットネスマシンやトレーニング用品において、意匠は、人間工学的な配慮、調整機能、安定性、スペースの有効活用に大きく影響します。機器をデザインする際には、人間の動きを科学的に解析し、その結果を反映しなければなりません。また、繰り返しのストレスに耐え、大きな荷重を安全に支えることが求められます。調整ピンの位置が適切でなかったり、シートが不安定だったりすると、トレーニング効果やユーザーの安全性が損なわれる可能性があります。

REP社では、このような検討プロセスを制度として定着させてきました。そして2025年には、製品構成全体を定期的に見直すために、専任のチームを立ち上げました。この見直しでは毎回、外観的な特徴点を修正すれば意匠保護が可能になるかもしれないとの観点から、検討が行われています。この場で投げかけられる疑問は、「グリップの形状を改善できないか」、「ローレット加工は最適か」、「摩擦が発生する箇所について、ユーザーから報告が上がっていないか」といった実務的なものです。

フィードバックを寄せてくるのは、社内のフィットネス愛好家、競技アスリート、当該分野の有識者、そして活発なオンラインコミュニティです。試作品のテストは社内で行われます。担当する従業員自身も本格的なウエイトリフターです。Hattenbach氏によれば、同社のスタッフの多くは競技アスリートまたは経験豊富なウエイトリフターとのことで、このようなスタッフから、ジムに置かれた試作品について、その印象や、違和感がないか、改善すべき点はないかなどについて、意見を求めています。

また同社は、複数のアスリートが同時並行的にトレーニングを行い、身体的にハードなセッションが実行されるジムやトレーニング施設から、定期的にフィードバックを収集しています。

私たちの製品が模倣されたことは、これまでに何度もあります。反響が大きな製品は、発表した途端に模倣されるかもしれません。

KNGDM Sports Performance (コロラド州) では、将来性が期待される若手からプロ選手まで、さまざまなレベルのアスリートがコーチから指導を受けています。機器のデザインは、ここで行われるトレーニングセッションの構成に直接影響します。

KNGDMの共同創設者であるJoe Parker氏は、「機器のデザインに合わせてトレーニングのメニューを考案しなければなりません」と言います。「つまり、エクササイズの種目をどこまで増やせるか、一度に最大で何人まで指導できるか、そして、いかに効率的にトレーニングメニューを消化できるか、ということです」

特に、多機能システムを導入すれば、トレーニングの効率は劇的に向上します。Parker氏は、ケーブル機能を統合したラックシステムを例に挙げて、次のように説明しています。「まだ懸垂ができないようであれば、すぐにその場でラットプルダウンに切り替えることができます。そうすることでセッションの流れがスムーズになり、ジム内をあちこち移動しなくても、筋力レベルの異なるさまざまなアスリートに指導できるようになります」

こうして誕生したのが、複数のエクササイズを組み合わせて1つのユニットにしたトレーニング機器で、使いやすいハンドルを備え、調整も容易です。また、激しい使用が繰り返されても耐えられる構造になっています。このような特徴は競合企業の目に留まり、模倣を招きます。

コンパクトなパワー: 可変式ダンベル

REP社の可変式「ぺピンダンベル」は、どのようにしてデザインがパフォーマンスを差別化する要因となり、保護すべき資産となり得るかを示す好例といえます。このダンベルは、WIPOのハーグ制度を利用して国際登録 (DM/240 993) されています。コンパクトなモジュール形式で、幅広い重量に対応可能です。

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REP Fitness社
ぺピン (Pepin) ダンベル

1組のダンベルで、軽量から超重量まで段階的に調整することができるので、もはや壁一面に何十個もの固定式ダンベル並べる必要はありません。超重量級になると、ダンベル1個で最大56kgに達し、占有面積はヨガマット並みになります。ですから、一般的なダンベルラックを設置するために、ジムのコーナーの1つが丸ごと使えなくなってしまうことがあります。

REP社の社外顧問であるShane Percival氏は、「コンパクトであることは絶対条件です」と言います。「本格的なリフター向けにデザインされていますが、重量級を扱うこのようなリフターであっても、ガレージや空きスペースでトレーニングすることがあります。コンパクトな形状なので、限られたスペースを占拠することなく機能性を発揮します」

デザインを行う際は、プレートの形状、位置合わせとロック機構、ハンドルのバランス、プレートの着脱を安全にサポートするドッキングシステムについての方針を固めますが、コンパクトな形状は、このような設計思想に裏付けられているのです。こうした特徴は、見た目にも明らかなものですが、実際に製品を使用する際のパフォーマンスにも影響します。

権利が侵害されたときに、相手側に連絡を取り、ハーグ制度に基づく登録証を提示して、権利を保護することができました。

たとえ従来型の固定式ダンベルであっても、デザイン上のごくわずかな相違が重要であることを認識できるものです。Parker氏をはじめKNGDMの関係者は、REP社のウレタン製ダンベルを使用しています。「側面がフラットになっているので、非常に使い勝手が良く、手または足を高くした状態での腕立て伏せ (elevated push-ups) などの動作にも応用できます。シンプルな器具ながら、とても高い汎用性を備えています」とParker氏はコメントしています。

優れた汎用性は、リスクをもたらす要因でもあります。Hattenbach氏は、「模倣されたことは何度もあります」と率直に認めています。「反響が大きな製品は、発表した途端に模倣される可能性があります」。模倣品は、オンラインプラットフォーム上に出回ったり、第三者である販売業者に取り込まれたりする恐れがあります。

同氏はさらに、小売業者やオンライン販売業者に対して通知を送らざるを得なかったこともあるとし、「意匠登録は、当社独自の形状や機構を模倣した製品が販売された際に、その差止めを要求するための具体的な根拠となります。登録していなければ、権利を主張することは、はるかに困難になります」と言います。

このケースで同社が重視するのは、ぺピンダンベルならではの形態的特徴や、プレートの形状、調整機構を保護することです。

多機能フィットネスベンチ: ペガサスシート

REP社製品のもう1つの例として、フラット・プルダウン・ペガサスシートアタッチメントがあります。この製品も国際意匠登録 ( DM/237 368 ) されています。標準的なベンチと比べてこの製品が傑出しているのは、個々のユーザーやエクササイズに合わせてシートとレッグローラーを素早く調整できることにあります。1台のマシンで複数の機能をこなすことができるので、個別に機器を取り揃える必要がありません。

このように、形状、角度、機構などにみられる特徴的なデザイン要素によって、このシートの高い汎用性と安全性が確保されています。同社は、ハーグ制度を通じてこうしたデザイン要素を意匠登録することにより、外観をそのままコピーした類似機能の製品として模倣されないよう、手立てを講じています。

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REP Fitness社
ペガサス (Pegasus) シート

Hattenbach氏は、ペガサスシートを市場に送り出した時点では、これに匹敵する製品は他に存在しなかったと言います。「しかし、ほどなくして、そっくりな製品が出回るようになりました。私たちは、相手側に連絡を取り、ハーグ制度に基づく登録証を提示して、権利を保護することができました。一部の業者はすぐに販売を中止しましたが、法的文書で申し入れるよう要求してくる業者もありました」

このような経験から、REP社は、手遅れになる前に幅広く意匠登録申請を行う必要性について、強く認識しました。ハーグ制度を利用して意匠登録すれば、単一の国際出願により複数の市場で保護を求めることができるので、製品サイクルの高速化と、世界市場での製品の一斉投入が可能になります。

REP社のエクササイズ機器デザインはコロラドの山々から着想

REP社では、個々の製品レベルにとどまらず、製造する製品全体にわたって、同社のものであると一目で分かるような表現方法の構築にも力をつぎ込んできました。その目的は、同社製品ができ合いの部品を組み立てたものではなく、一貫性のあるシステムとしてデザインされていると明示することにあります。

コロラド州の景観から着想を得た要素もあります。フラットアイアンやロングスピークといった、地元の山々を想起させる角張った形状もその1つです。その他のモチーフとしては、六角形の「蜂の巣」パターンや円形の「タービン」模様などがあり、これらは構造部材や装飾部材に見ることができます。

このような特徴は、製品の一貫性とブランドの認知度を高めるとともに、製作者の意図を伝えるものでもあります。「どこにでもある部材をただ仕入れて、それに自社の名前を付けているわけではありません。デザインシステムを構築しているのです」とHattenbach氏は言います。

フィットネス市場には、次々と新しい機器が登場します。特定のデザイン要素を一貫して採用することによって、このようなマーケットで、製品の高品質をアピールすることができます。それだけでなく、こうした特徴は国際的に登録することも可能で、自社製品を防衛するための有効な手段ともなります。

フィットネス分野で意匠保護が重要な理由は?

フィットネス分野では、意匠の出願件数が急増しています。このことから、機器の優劣に関する判断基準が、単に機能面だけでなく、限られたスペースをいかに有効活用できるか、そして、個別ユーザーやトレーニングのニーズにいかに的確に応えられるかといった面に重点を移してきたことが分かります。

衣料品や純粋に装飾的な消費財とは違って、筋力トレーニング機器は、高負荷の下で繰り返しストレスが加えられる環境で使用されるものです。形状のわずかな違いが、荷重の伝わり方、継手の調整、そしてユーザーの姿勢に影響することがあります。このような状況において、意匠は、機器の安全性や効率と密接に関係しています。

しかし、調整レバー、シートの輪郭、プレートやフレームの形状など、機器の性能に関係する特徴の多くは見ればすぐに分かるものなので、まさにその理由から、模倣することも容易です。製品サイクルの短期化に伴い、新しいデザインには瞬く間に注目が集まるようになり、以前にも増して模倣が横行する可能性があります。

REP社の社外顧問Percival氏は、ハーグ制度による出願は同社にとって実効的な手段であるとした上で、「これにより、迅速に対策を講じ、早い段階で権利を保護し、より自信を持ってグローバルに製品を展開することができるようになります。ハーグ制度を通じて出願すれば、各国で個別に出願する場合と比べ、コストと時間の両面において有利で、ポートフォリオの管理も明確に行うことができます」と説明しています。

スポーツ・フィットネス業界は、REP社の事例から、さまざまな教訓を得ることができます。技術的なメカニズムや先端素材だけにイノベーションが存在するわけではありません。機器の外観、感触、そして負荷がかかった状態での機能などを選択していく創造的なプロセスも、イノベーションということができます。

このような選択の結果、機器の安定性が高くなり、人間工学により適合し、スペース利用の効率化が図られるならば、パフォーマンスの向上につながったことになります。これがビジネス的に成功すると模倣品が現れますが、意匠を登録し、戦略的に管理すれば、知的財産資産に転化することが可能になります。

ガレージジムでトレーニングするアスリートにとって、ダンベルの違いを測る基準は、操作の快適さ、バランスの良さ、スペース利用の効率性といった要因であるかもしれません。グローバル市場に参入しようとする成長企業にとっては、まさにその違いこそが、ブランドアイデンティティを決定づけ、国際的な保護を正当化する要因となるかもしれないのです。これは、単にある製品を保護していくだけの話ではありません。市場全体として、イノベーションとブランドアイデンティティとを長期的に支援していくことでもあるのです。

筋力トレーニングにおいて、ウエイト (重り) は目に見えるものであるかもしれません。しかし、往々にして、その背後にあるデザインのプロセスが、リフティングにおける安全性と効率性の向上や適応性の改善を通じて、より大きな「ウエイト」を担っていることがあるのです。

著者について: Louis Meunier氏は、国際協力、戦略的コミュニケーションおよびメディアが融合する分野で20年の経験を持つコンサルタントです。同氏は、WIPOの上級情報担当官 (Senior Information Officer) として、ハーグ制度の認知度向上と効果的な利用促進に向けて、データに基づくコミュニケーション戦略やアウトリーチ戦略に取り組んでいます。