アルサドゥ織りは、クウェートやアラビア半島で古くから伝わる伝統工芸であり、何千年もの間、ベドウィンの遊牧生活に欠かせない存在でした。熟練した女性職人の手によって生み出されるこの織物は、表現力豊かな芸術様式として、クウェートの文化的アイデンティティの象徴ともなっています。
アルサドゥが世界的に認知されることは、その保存と発展にとって極めて重要です。国際的なデザイナーとの提携機会が生まれ、資金やリソースが確保されることで、最終的には、相互の結びつきがますます緊密になっている世界において、この工芸の持続可能性と成長が保証されます。
2020年、アルサドゥの伝統織物が国連教育科学文化機関 (ユネスコ) の「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に登録されました。その2年後に、アルサドゥ協会は世界知的所有権機関 (WIPO) からアドホック・オブザーバーの地位を授与されました。
当協会は、非営利協同組合であり、クウェートの伝統的な織物芸術、およびそれに関連する技能、ならびにクウェートの文化的アイデンティティの象徴としての地位を保護し促進することを目的としています。2022年に、当協会は、クウェートの非政府組織 (NGO) として初めて (湾岸協力会議加盟国では2番目)、ユネスコの無形文化遺産保護に関する政府間委員会に助言サービスを提供する認定を受けました。
当協会は、アルサドゥ織りの可能性を追求することで、現代的なデザインや創造性に新たなインスピレーションを与え、文化的・経済的発展を促進することを目指しています。昔から、女性たちは幼い頃から母親の手伝いをしながら羊毛を紡ぎ、染色、織りの技を学んできました。アルサドゥ織物は主に家族のテント装飾として作られています。
当協会は、伝統的なアルサドゥの織物の生産を支援しています。また、壁掛け、テーブルランナー、クッション、家具カバーのほか、書類フォルダー、しおり、バッグ、靴、衣類といった様々な日用品など、現代の消費者にアピールする現代的な織物の生産も奨励しています。
熟練したクウェートの織工は、多くが80代となっており、当協会では、こうした織工たちと協力しながら貴重な知識と技能の記録に取り組んでいます。こうした豊かな伝統芸は、何世代にもわたって新しい織工や繊維職人にインスピレーションを与えていくことでしょう。
知的財産によるアルサドゥ工芸の保護
アルサドゥの団体商標
2022年、当協会は、増加を続ける知的財産 (IP) のポートフォリオにアルサドゥの団体商標を追加しました。この商標によって、アルサドゥ織り独自の伝統的な技術、品質、素材が守られます。この商標とその使用ガイドラインを通じて、新世代の織工が伝統の製法、色、模様を正しく継承できるよう支援しています。
この団体商標は、新世代のアルサドゥの織工たちの作品を保護し、クウェート先住民の公式工芸品として国際的な工芸品のコンテストや見本市で展示するのに役立ちます。
パートナーシップによる団体商標の活用
2022年6月、当協会は活動を拡大し、国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR) と提携し、この団体商標を用いてエジプトの難民女性へのアルサドゥ織り技術研修を実施しました。
このプログラムの目的は、生計を立てる機会を難民女性たちに与えることによって、経済的エンパワーメントや地域社会との統合を促進することに加え、当協会の知的財産権を尊重しながら、技術や関連するノウハウをさらに保護し、持続可能な開発を促進することでした。女性たちは、当協会のために織物を生産するほか、UNHCRのパートナーであるMADE51からの委託作業を受けることもできます。
アルサドゥ協会の工芸品における著作権の使用方法
当協会は、Anne-Rhona Crichton著「アルサドゥ: ベドウィン織りの技法 (Al Sadu: the Techniques of Bedouin Weaving)」 (1989年)、John Gillow著「砂漠から町へ: クウェートの伝統織り (From Desert to Town: Traditional Weaving of Kuwait)」 (2009年)、Altaf Al Sabah著「クウェートの伝統: 文化の創造的表現 (Kuwait Traditions: Creative Expressions of a Culture)」 (2001年) および「イブジャド: クウェートの砂漠の華やかなテントの仕切りと織物 (Ibjad: Ornate Tent Dividers and Weavings of the Kuwait Desert)」 (2006年) などの、工芸に関する知識、ノウハウ、技術を研究して文書化し、このトピックに関する多数の出版物を出版しています。
これらの書籍を出版することによって、当協会は、将来の世代のために、この工芸と、クウェートの豊かな繊維遺産を守り、保存しています。
2023年、アルサドゥの技術を称えるため、19万個の色付きレンガを用いた「アルサドゥ通り」がクウェート市で建設されました。伝統と現代的なデザインが融合したこの通りは、活気あふれるアルサドゥのモチーフ、特に馴染み深い「シャジャラ模様」からインスピレーションを得ています。通りの独特なデザインは、クウェート国立図書館に登録され、著作権で保護されています。
当協会は、Insijプログラムの一環として、伝統的なアルサドゥの織りの方法を学びたい人に対してコースを提供しています。その目的は、この工芸の知識とそれに関連するスキルを将来の世代に伝えることです。実践的なワークショップやガイダンスは、クウェートの新しい繊維アーティストやアルサドゥの織工が技術を磨くのに役立ちます。
5段階のこのプログラムは、熟練したアルサドゥの織工の奥深いノウハウ、技術、知識を中心に構成されています。プログラム自体と同様に、当協会の教育マニュアル、授業内容、カリキュラムは、著作権によって保護されています。これには、伝統的な織物の技術に関する図、写真、動画が含まれます。Insijコースは、中東・北アフリカの数か国にライセンス供与され、輸出されています。
教育への取り組み
当協会は、クウェート教育省と協力し、織物芸術の研修コースも提供しています。2018年より、このコースは、芸術教育学部のカリキュラムの一部となっています。集中コースは、同省の「トレーナー養成」プログラムに基づき、国の7つの教育地区でそれぞれ無料提供されています。カリキュラムや研修用動画などの教材は、当協会が開発しました。
これらのコースを通じて、アルサドゥ織りのノウハウが公立の学校と共有され、クウェート全土の教育を充実させています。
この共同作業のために作成されたカリキュラムや媒体は、著作権で保護されています。2022年、無形文化遺産の保護のための政府間委員会は、保護のためのグッド・プラクティス登録簿に「織物芸術に関するトレーナー養成」プログラムを含めました。
将来の展望
当協会の活動が国際的に認められれる中、この工芸への関心も高まりを見せています。当協会では、伝統を未来へと継承し続けるためのプラットフォームを提供しています。
当協会の使命は、クウェートの織物遺産を称え、文化的アイデンティティを育むことです。アルサドゥ織りは、絶え間なく変化する世界において、伝統の強さを証明し続けています。