注意: 以下の情報は PCT ニュースレターに当初掲載された時点では正しいものでしたが、一部の情報はすでに適用されない可能性があります。例えば、関係する PCT ニュースレターが発行されて以降、PCT 規則、実施細則、そしてPCT 様式に修正が行われた可能性があります。また、特定の手数料の変更や特定の出版物への参照は、すでに有効ではない場合があります。PCT 規則への言及がある場合は常に、実務アドバイスの掲載日に施行されている規則がその後修正されていないか慎重にご確認下さい。

国際出願の早期国内段階手続の申請

Q: 当方は、シンガポール知的所有権庁 (IPOS) (RO/SG) にPCT出願を行い、国際調査機関 (ISA/SG) としてIPOSを選択しました。国際調査報告とISAの見解 (WO/ISA)を受け取ったところで、結果は肯定的でクレームのいくつかは特許可能であると判断されました。特に競合他社がいるオーストラリア、中国と欧州諸国の一部の特定の国々で迅速に特許を付与してもらいと思っており、現状における最善策を検討しています。早期手続のスキームについて聞きました。アドバイスしてもらえるでしょうか?

A: 出願人は、PCT第22条(1) に基づく全ての必要な手続を行い、国内段階に早期移行して、PCT第23条(2) に規定されている通り、関係する官庁に対して国内段階手続を早期に開始するよう請求することができますが、出願の早期手続を受けられるとは限りません。ただし、特許審査ハイウェイ (PPH) のようなスキームを活用することにより、出願人が国内段階の早期移行を希望する官庁は、クレームのいくつかは特許可能であるとの先の判断を考慮して、出願の手続を早期に進めることが可能となります。PPHは、ワークシェアリングスキームであり、出願人は、所定の条件の下、出願が早期に処理されるよう申請することができます。PPHの枠組みでは、対応する出願の少なくとも一つのクレームが先行庁(Office of Earlier Examination (OEE)) により特許可能である、そしてそのクレームが「十分に対応している」ものと判断された場合に、出願人は後続庁 (Office of Later Examination (OLE)) に早期審査を申請することができます。

出願人にとってPPHスキームを利用するメリットは、より速やかに特許保護を取得することができ、グローバルポートフォリオをより迅速且つより予見性の高い方法で構築することができる点です。また、一般に全体の審査費用は、通常の手続と比べて低くなっており、拒絶理由を通知するオフィスアクションの回数は減少し、PPH申請をしない出願に比べて高い特許査定率となっています。なお、PPHによる手続を提供する官庁の大半は、申請する際の手数料は課していません。

ただし、出願人は、先行庁の国内成果物又は広域成果物を利用したPPHの利用とPCT-PPHの利用を区別する必要があります。PCT-PPHについては、早期審査ではPCT成果物を利用しますが、それはPCT出願が肯定的なWO/ISA、又は肯定的な国際予備審査機関 (IPEA) の見解、若しくは肯定的な特許性に関する国際予備報告 (IPRP) (PCT第II章 (Chapter II of the Patent Cooperation Treaty)) を受け取った場合です。少なくとも一つのクレームが新規性、進歩性又は産業上の利用可能性に関するPCT基準を満たしている必要があります。加えて、国内 (又は広域) 段階出願での全てのクレームは、PCT基準を満たすと判断されたクレームと十分に対応していなければなりません。つまり、そのクレームは、PCT出願に記載されているものと同一か同様の範囲、若しくはより狭い範囲である必要があります。あるPCT-PPH参加庁からの国際調査の結果及び/又は審査結果が利用可能であれば、国内段階移行してから別の適格なPCT-PPH参加庁が特許を付与するまでの時間を短縮できるはずです。

異なる参加庁間で多くの二庁間PCT-PPHの合意があり、要件、ガイドラインや様式も異なりますが、全参加庁はいくつかの共通したポリシーを共有しており、参加官庁に以下の点を奨励しています。

  • 最大限ワークシェアリングに努める。
  • PPHの申請から特許付与の最終決定まで全手続における審査を迅速に行う。及び
  • 審査の全過程において出願人と効率的且つタイムリーな通信を行う。

各参加庁の実施手続に関する様式やガイダンスの詳細は、以下のPPHのリンクをご参照下さい。

/pct/en/filing/pct_pph.html (英語版)

この事例での出願に関しては、ISA/SGからの肯定的な見解を受け取っている点を踏まえ、PCT-PPHプログラムの手続を申請することができます。上述のウェブページにある二庁間合意を確認すると、IPOSは、欧州特許庁 (EPO) 及び中国国家知識産権局 (CNIPA) (並びに国立工業所有権機関 (INPI) (ブラジル)) と二庁間PPHの合意を提携しています。すなわち、出願人が関心のある国の二か国 (中国及び欧州特許の対象となる国) については、それぞれの二庁間合意を通してISA/SGからの肯定的な見解を利用し、国内/広域段階での早期手続を申請することができます。

オーストラリア特許庁に関しては、IPOS及びオーストラリア特許庁の双方がグローバルPPH試行プログラムの参加庁となっています。グローバルPPHでは、統一された基準の下、ある参加庁からのPCT成果物をはじめとする成果物を利用して、別のどの参加庁 (現在27庁) に対しても早期手続を申請することができます。また、グローバルPPHは、先行庁が参加庁である場合やISA又はIPEAである場合のPCT成果物を利用した審査も含みます。一連の資格要件を満たしていれば、二庁間合意のPPHネットワークの実施を簡素化することができます。なお、欧州特許庁及び中国は、グローバルPPHの参加庁ではない点にご留意下さい。

PCT-PPHの利用可能性は、出願の国際調査 (及び/又は予備審査) を実施するため選択した官庁により決定されるため、ISAを選択する時点でPPHの利用可能性をすでに考慮しておく価値があるでしょう。この事例ではRO/SGに出願しましたが、例えば、オーストラリア特許庁と二庁間合意のあるISA/EPを選択することもできました。一方、EPOとCNIPAは、IP5 (五大特許庁) PPH試行プログラムの参加庁です。IP5 PPHは、五大特許庁間 (CNIPA, EPO, 日本国特許庁、韓国知的所有権庁及び米国特許商標庁 (USPTO)) 間の多数国間合意です。

他の多数国間PPH合意には、PROSUR1 やAlianza del Pacíficoもあります。上述した全てのプログラム (PPH、グローバル PPH、IP5 PPH、PROSUR-PPH 及び Alianza del Pacífico) の詳細は、以下のリンクに掲載されています。

/pct/en/filing/pct_pph.html (英語版)

PPHの利用は一般に多くのメリットがありますが、利用の申請に伴う条件には、所定の制限があることも意味します。PPHによって審査が迅速に実施されるためには、クレームは、対応する出願のクレームと同一又はより狭い範囲であることが必要になるため、PPHの申請と共に、クレームの補正も提出する必要のある場合も意味します。また、一部の官庁では、他の補助的な書類も必要となることがあります。例えば、米国では、クレームの補正又は新規のクレームが提出される場合、出願人は、そのクレームが先行庁での出願で認められた/特許可能であると判断されたクレームに十分対応していること、そしてその補正は、クレームの範囲内であることを証明する必要があります。

なお、EPOによるPACE又はUSPTOでのTrack OneにようにPPHとは異なりますが、追加の早期審査スキームを提供している一部の官庁もあります。特許法や現地の実務の違いを考慮して、出願人が国によって異なるクレームの範囲を含めたい状況であれば、(PPHではない) 別の審査手続を請求する方がより適切なこともあるでしょう。

(訳者注: 日本国特許庁が管理しているPPHに関するサイトhttps://www.jpo.go.jp/toppage/pph-portal-j/index.html もご参照下さい。)

  1. PPH-PROSUR合意に関する実務アドバイスが、PCT ニュースレター 2017 年1月号https://www.wipo.int/edocs/pctndocs/en/2017/pct_news_2017_1.pdf (英語版) /pct/ja/newslett/2017/newslett_2017.pdf#page=5 (日本語版) に掲載されています。