ストーリーだけでなく、その衣装のおかげで永遠に語り継がれるテレビ番組があります。例えば、フレンズでJennifer Anistonが演じたRachelです。シーズン3で彼女が着用したミントグリーンのドレスは、今でも話題に上ります。あるいはセックス・アンド・ザ・シティのキャリー・ブラッドショー (Sarah Jessica Parker) はどうでしょう。デザイナーブランドがひしめく彼女のワードローブの中でも、ディオールのニュースペーパー柄ドレスは特に印象的でした。
12月18日にシーズン5が公開されるNetflixシリーズ「エミリー、パリへ行く (Emily in Paris) 」についても、同じことが言えます。今回、Emily Cooper (Lily Collins) はイタリアへ旅立ちます–Sophia Loren、Anita Pallenberg及びSharon Stoneへのオマージュが込められた彼女の眩いばかりのワードローブは、既にVogueなどのファッション誌で話題をさらっています。
WIPOマガジンはこの盛り上がり (バズ) に着目し、テレビで見られるファッションが知的財産 (IP) によってどのように形成され、保護されているのかを探ります。
ファッションとテレビの深い関わりは今に始まったことではありません。2009年には、米国の人気ティーンドラマゴシップ・ガールに触発されたアパレルコレクションを、ファッションデザイナーのAnna Suiが量販店ターゲット (Target) のために制作しました。
1998年から2004年まで放送されたセックス・アンド・ザ・シティでは、Carrie Bradshawといえばマノロ・ブラニクの靴、と言えるほど代名詞的な存在でした。2008年の映画版では、 Mr. Bigがブラニクの当時新作だった「ハンギシ (Hangisi) 」パンプスを使ってCarrieにプロポーズし、この靴を世界で最も憧れられる靴へと押し上げました。それ以来、ハンギシは100種類以上の色や素材で展開されています。ブラニクは、ハンギシの10周年とそれを有名にした瞬間を記念して、同番組に捧げるカプセルコレクションまで発表しました。ブラニクは、ハンギシの10周年とそれを有名にした瞬間を記念して、同番組に捧げるカプセルコレクションまで発表しました。
ファッションにおける熱狂的なファン心理は、お気に入りのキャラクターの服装を真似るという形で現れることがよくあります。ファッション主導のテレビ番組の成功は、一つのテンプレートを確立しました。すなわち、衣服がシリーズの中心的な要素となる場合、それは保護に値する資産になるということです。
「エミリー、パリへ行く」はこのモデルを熱狂的に取り入れています。その衣装は入念にキュレーションされ、戦略的にライセンス展開され、ますます収益化されています。同番組のIP戦略は、現代のスクリーン・ファッションにおいて、著作権、意匠、商標、ライセンスがどのように融合しているかを示す貴重なケーススタディとなっています。
著作権 エミリー、パリへ行く
Emily Cooperは単なるキャラクターではなく一つの「ブランド」であり、彼女のワードローブは視聴者が彼女を理解する上で中心的な役割を果たしています。優れた衣装デザインはキャラクターの詳細を伝え、アイデンティティや社会的地位から個人の成長まで、あらゆるものを表現することができます。同番組のリード・コスチューム・デザイナーであるMarylin Fitoussi氏について、InStyle誌は、「有名ブランドであるかトレンドであるかに関わらず、服を通じてアイデンティティとキャラクターを作り出す仕事をしている」と評しています。
例えば、Emilyの初期の折衷的なルックには、エッフェル塔がプリントされたブラウスが登場しました。これは、パリにいる「アメリカ人 (「パリのアメリカ人」的存在) 」としての部外者的な高揚感と、パリのオートクチュールに対する無知を強調するものでした。しかしシーズン3になると、Emilyはより控えめなパリジャン・スタイルを取り入れるようになります。これは彼女がフランス文化に馴染んできたことを反映しており、Fitoussi氏はFrançoise HardyやJane Birkinといったアイコンからインスピレーションを得ています。
「エミリー、パリへ行く」の美学を作り上げるために、Fitoussi氏は特注品 (ビスポーク) を使用したり、有名デザイナーや新進気鋭のデザイナーと協力して各キャラクターの世界観を構築したりしています。全ての独創的な衣装デザインと同様に、Fitoussi氏の作品はEUにおいては著作権–具体的には衣装デザイナーの著作者人格権など–によって保護されており、彼女が所有権を保持し、その創造的ビジョンの同一性が守られることが保証されています。
しかし、テレビ衣装の著作権による保護は法的に複雑です。米国では、衣服は「実用品 (useful article) 」として扱われます。つまり、米国最高裁判所の スター・アスレティカ対バーシティ・ブランズ事件 (Star Athletica v. Varsity Brands) の判決にある通り、衣服から分離して独立して存在できる装飾的要素 (刺繍やグラフィックアートなど) のみが、著作権保護の対象となります。シルエット、カッティング、全体的なスタイルは保護されないままであり、ロゴや商標が組み込まれていない限り、多くのテレビ衣装はコピーに対して脆弱な状態にあります。
一方、欧州の著作権法では、特に2019年の欧州司法裁判所によるコフェメル判決 (Cofemel decision) 以降は、著作者の知的創造を表現するあらゆるファッションデザインに著作権を認めています。その結果、映画やテレビのために制作されたものを含む芸術的なファッションデザインは、その主題が独創的であり、かつ十分な明確性と客観性をもって識別可能であれば、著作物としての資格を得る可能性があります。
EUの意匠登録制度 (共同体意匠制度) の下では、衣装は3年間有効な「非登録EU意匠 (unregistered EU design)」としての権利の恩恵を受けることができます。また、登録要件を満たす衣装であれば、「登録EU意匠 (registered EU design) 」として最大25年間保護される可能性があります。
「エミリー、パリへ行く」のような世界的に配信される番組にとって、こうした法域による違いは、並行的なIP戦略を必要とします。フランチェスカ・モンタルボが Cardozo Arts and Entertainment Law Journal (第32巻) で指摘しているように、米国では保護されない可能性のある衣装でも、EUではデザイナーに付与される権利を通じて、強力な意匠権および著作権の保護を享受できるのです。
戦略的パートナーシップとコラボレーション
同番組の初代衣装デザイナーであるPatricia Field–セックス・アンド・ザ・シティやプラダを着た悪魔も手掛けた業界のレジェンド– は、ヨーロッパのファッション界とのコネクションを持つFitoussi氏を衣装コンサルタントとして雇い入れました。
Fitoussi氏はシーズン3から指揮を執り、オートクチュール、ヨーロッパの新興レーベル、そして大胆な演劇性を融合させ、一目でそれと分かるルックを作り続けています。番組の衣装の多くは、WeinsantoやGermanierといったパリのブランドから調達されていますが、特注品もあり–その一つ一つについて画面に登場させるための権利処理や合意が必要となります。
こうした権利を確保するために、「エミリー、パリへ行く」には戦略的パートナーシップが必要です。Business of Fashionによると、シーズン3の衣装だけでも250ブランドから14,000点を超える数のファッションアイテムが取り入れられました。同シリーズは、前述のブランドに加え、Egon LabやLudovic de Saint Serninといった新進デザイナーに世界的な露出の機会を提供したと報じられています。Netflixは190カ国以上で視聴可能であり、画面に一度映るだけで、検索数や売上の急激な増加につながる可能性があります。
これは良心的なプロダクト・プレイスメント (product placement) と呼べるかもしれません。Elevated Livingの記事でFitoussi氏は、キャラクターの美学に合うと自身が信じるデザインを持つファッションブランドと、どのように協力しているかを説明しています。例えば、スイスの高級ブランドThadenは、彼女が「番組で最も忘れがたいファッションの瞬間を作り上げる」のを助けました。
画面への登場が保証されているわけではありませんが、この「獲得型プレイスメント (earned placement) 」モデルは、デザイナーには絶大な知名度を、番組にはユニークでキャラクターにふさわしいアイテムを提供します。
ただし、目に見える形で商標が表示されているアイテムの場合、通常は体系的なプロダクト・プレイスメント契約が必要となり、番組プロデューサーは画面に登場させるために限定的なライセンスや許諾を求める必要があります。
脚本のあるコンテンツで商標登録された商品を使用するには許可が必要であり、無許可でロゴや特徴的なブランド識別子を表示することは、侵害の懸念を引き起こす可能性があります。明確な協力体制を確立することで、テレビ制作側は法的コンプライアンスを確保しつつ、憧れを抱かせ、かつリアリティのあるワードローブを提示することができるのです。
Audrey Hepburnのクラシックな衣装へのオマージュ
現代ファッションにとどまらず、「エミリー、パリへ行く」は過去にも目を向けています。番組の中で視覚的に–そして法的に–最も目を引く衣装のいくつかは、オードリー・ヘプバーンのアイコニックなルックにインスパイアされたものです。
Art of Costumeのインタビューで、フィトゥシは、シーズン1以来、ヘプバーンの映画衣装を意図的に再解釈することで、彼女へのオマージュを捧げてきたと説明しています。
シーズン1では、1957年のミュージカル映画パリの恋人 (Funny Face) を参照し、ヘプバーンの全身黒のシルエットをよりモダンなスタイルで再構築しました。シーズン4では、1953年のロマンティック・コメディローマの休日 (Roman Holiday) の仕立てをアップデートし、1963年のシャレード (Charade) のアルペン・スタイルを取り入れました。
これらのオマージュは、制作側が著作権の境界線をどのように乗り越えなければならないかを浮き彫りにしています。米国およびEU法の下では、著作権で保護された衣装を複製することは二次的著作物 (derivative work) に該当し、権利者の許可が必要となる場合があります。その代わり、Fitoussi氏と彼女のチームは、生地、プロポーション、スタイリングのディテールを調整し、「それと分かる」けれど「法的には別物」である衣装を作り出しています。
「エミリー、パリへ行く」の衣装部門の仕事は、社会の文化的記憶を参照する際に衣装デザイナーが利用できるクリエイティブな余地を示しています。–ルック・アンド・フィール (雰囲気) を模倣したり、シルエットやテーマ要素を参照したりすることは、具体的な芸術的表現がコピーされていない限り、一般的に許容されます。
これは、アイコニックな衣装は依然として知的財産によって保護されており、そのレガシー (遺産) には法的な配慮を持ってアプローチしなければならないことを思い出させてくれます。
エミリー、パリへ行く マーチャンダイジングとライセンス
「エミリー、パリへ行く」は、パリのアトリエ、新進デザイナー、世界的リテーラーとの強力なライセンス・イニシアチブやコラボレーションを通じて、そのファッション・アイデンティティを拡張しており、ファンは番組にインスパイアされたアパレルを購入することができます。
これらの公式ライセンス商品は、シリーズの美学を反映しつつ、「エミリー、パリへ行く」のブランドや関連イメージが、適切な管理の下で、ブランド価値を高める形で使用されることを保証しています。
商品のライセンス供与は二つの目的を果たします。一つは、正規の商品と無許可の複製品を区別してブランドを保護すること。もう一つは収益を生み出すことです。これらのコレクションの成功は、明確に定義されたIP契約に支えられ、衣装がスクリーンから店舗へとシームレスに移行するという、より広範な業界のトレンドを反映しています。
スタジオはまた、架空のキャラクターなど、シリーズから生まれる知的財産も保護しています。キャラクターの要素がライセンスやマーチャンダイジングの機会に組み込まれるにつれ、この慣行はますます重要になっています。
2023年、ある第三者が、番組に登場する架空のクチュリエの名前である「ピエール・カドー (Pierre Cadault) 」をファッション商品のEU商標として登録しました。翌年、制作側はこの出願が悪意 (bad faith) に基づくものとして、その無効化に成功しました。
この事例は、架空のファッションハウスであっても現実的な商業価値を獲得しうること、そして「エミリー、パリへ行く」に紐づく将来のライセンス契約、商品ライン、ブランド拡張を確保するためには、架空のキャラクターの商標を保護する価値があることを示しています。
このマーチャンダイジングとライセンスの展開は、番組の枠を超えて広がっています。最近のシーズンでは、NetflixとGoogleのコラボレーションによる「ショッパブル (購入可能) ・コンテンツ」体験が導入されました。これにより、視聴者は画像認識技術を通じてエミリーの衣装を特定し、類似の商品を購入できるようになりました。このイノベーションは、IPを収益エンジンへと変え、スクリーンで着用された衣服を商業製品へと変化させます。
「エミリー、パリへ行く」のようなファッション重視の作品において、IPは後付けの考えではなく、クリエイティブな投資を保護し、ブランド関係を管理し、新たな収益機会を可能にするインフラなのです。
カスタム衣装デザインの保護、高級ブランド配置の権利交渉、架空のキャラクターから生まれた商標の行使、あるいは歴史的なファッションアイコンの再解釈など、いずれにおいても、この番組はIPがいかにしてスクリーン上のファッションを形成し、守ることができるかを浮き彫りにしています。
創造性と法戦略を融合させることで、「エミリー、パリへ行く」はより広範な真実を明らかにしています。現代のテレビにおいて、最も記憶に残るルックとは、優れたデザインであるだけでなく、しっかりと保護されたものなのです。
ファッションにおける知的財産の詳細については、WIPOの専用ページをご覧ください。