キム・チャンス・ウイスキー: 韓国産ウイスキーを確立した1人の技術者の飽くなき探求

韓国発、世界で愛されるウイスキー

KIMCHANGSOO WHISKY DISTILLERY Co. Ltd. (キム・チャンス・ウイスキー蒸留所) は、2020年に設立された、韓国で最初期のウイスキー蒸留所の1つです。Kim Chang-soo代表が1人で運営するこの蒸留所は、設立からわずか3年で、初回限定版336本をリリースし、1本200米ドルを上回る価格で即時完売しました。それは、過去10年間にわたる途方もない努力が結実した驚異的な成功でした。

ウイスキー作りの技を極める: 不屈の努力によって成就するまでのプロセス

大学では中国語を専攻したものの、Kim Chang-soo氏は、自分の手でウイスキーを作りたいという燃え盛る野望を抱いていました。そして、大学を卒業するとすぐに、バーテンダーとして働き始めました。アルコール飲料や酒造業界についての知識を深めるのがその目的です。この経験から多くのことを学んだものの、彼の夢の実現は、依然としてもどかしいほどはるか遠くにありました。

白くて丸いロゴが入った黒いシャツを着て、キム・チャンス・ウイスキーのボトルを手にして立っているKim Chang-soo氏。バックは、倉庫内に積まれたウイスキー樽。
(写真: The Whisky Exchange)

蓄えたわずか9,000米ドルの資金とキャンプ用のテントだけをたよりに、Kim Chang-soo氏は、何世代にもわたってウイスキーが受け継がれてきたスコットランドに向けて旅立ちました。ウイスキー蒸留所で仕事を見つけることを望んでいたものの、彼を受け入れてくれるところはありませんでした。100を超える酒蔵から拒絶され、肉体的にも精神的にも困憊の極致に達していました。

希望が失せようとするなか、アジアの同胞と偶然に出会ったことで、彼の運命は大きく転換します。2人は会話を交わしました。運命のいたずらとでもいうのでしょうか、この見も知らぬアジアの同胞は、よく知られた日本のウイスキーベンチャー企業で働いていたのです。

この思いもかけぬ幸運な出会いは、彼にとって人生の転機になりました。日本でウイスキー作りの技術を習得し、スキルに磨きをかけて韓国に戻りました。

韓国産シングルモルトウイスキーのレガシーを築く

韓国に戻ってはみたものの、ウイスキーに関する専門知識を苦労して身に付けたにもかかわらず、蒸留所を設立するという夢の実現は容易なことではありませんでした。

待ち受けていた最大の壁は、どのようにして資金を調達するかということでした。

ウイスキー蒸留設備の建設には多額の投資を必要とします。しかし、いまだ海のものとも山のものともつかぬウイスキー蒸留ベンチャーのような事業への支援を求めたところで、地元の投資家の理解を得るのは、途方もなく困難なことが分かってきました。

Kim Chang-soo氏は韓国と日本の間を何度も往復し、ウイスキー作りの専門知識にさらに磨きをかけるために、たゆまぬ努力を続けました。そして、ついにソウルの汝矣島 (ヨイド) に小さなバーをオープンしました。それは、韓国産ウイスキーへの夢を常連客と共有する場となりました。

このようにして培われた人脈と、志を同じくする人々からの支援があったからこそ、自らの野望を現実のものにできたのです。

ウイスキーの蒸留: 小さな蒸留設備で洗練されたテイストを実現

2020年、Kim Chang-soo氏が1人きりで運営するウイスキー蒸留所が、ソウルでようやく操業を開始しました。

近代的なウイスキー蒸留所内にある、一式の輝く銅製の蒸留釜と蒸留塔。金属製の梁と製造用の機器に囲まれている。
(写真: The Whisky Exchange)

コストを最小限に抑えるとともに、蒸留プロセスを継続的に管理するため、設置する小規模な蒸留設備は自分自身で設計・製作しました。

同氏は、「蒸留設備が小規模であれば、蒸留過程での銅との接触が大きくなって、スピリッツの風味が向上する」と言います。

また、各々のバッチに注がれるきめの細かい職人技を強調し、自分の蒸留所で作るウイスキーは、小規模なレストランで職人が手作りするパスタのようなものだと言います。その対極にあるのが、工場で大量生産するパスタです。

「ウイスキーの風味は、何千もの繊細な判断を経て作り出されるものです。そのような判断を完璧に行うには、何年にもわたって辛抱強く継続しなければなりません。この小さな蒸留設備によってあらゆる要素を綿密に調整し、比類ない深みと個性を備えた真の意味での地元産スピリッツを生み出しています」
Kim Chang-soo氏

キム・チャンス・ウイスキー: 製造者の商標を冠したブランド

Kim Chang-soo氏が初めて韓国産ウイスキーの夢について語った際、たいていは、不可能だという回答が返ってきました。それでも、揺らぐことのない技術への執念に駆り立てられて、同氏はくじけることなく、長年にわたる苦難を乗り越えることができました。今日では、細心の注意を払って、自分自身でウイスキー製造の全工程を管理・監督しています。

ウイスキーのネーミングを考えるに当たって、自らがこれまで辿ってきた驚くべき経験を本当の意味で体現できる名称は1つしかないと感じていました。それは、彼自身の名前、「キム・チャンス」でした。

マドリッド制度を活用して韓国産ウイスキーをグローバル展開

「キム・チャンス・ウイスキー」は2023年11月に韓国で商標登録され、国内で急速に知名度を上げました。そして、海外市場でも同様の手続きを行う必要が生じました。

国際的な商標保護が不可欠でした。

以前から国内の商標問題に関して同社に助言してきたWIPOマドリッド制度のコンサルタント (彼自身もキム・チャンス・ウイスキーの愛好家) は、国際商標登録のためWIPOのマドリッド制度を利用することをKim Chang-soo氏に提案しました。

Kim Chang-soo氏はすぐに、この制度を利用すれば、単一の手続きによって複数国での商標保護が可能になり、便利で費用も抑えられる方法であると認識しました。その結果、「キム・チャンス」ブランドは、世界市場で力強くスタートを切ることができたのです。

青い作業服姿で、積み重ねたウイスキー樽の前に立つKim Chang-soo氏。ウイスキー樽は、明るい照明の倉庫で、黄色い金属製のラックに並べられている。
(写真: Yoon Dong Gil, Studio Adaptor)

2024年3月3日、「キム・チャンス・ウイスキー」は、マドリッド制度を利用して、オーストラリア、中国、EU、インド、日本、シンガポール、タイ、英国、米国、ベトナムの各国・地域において商標登録され、ニース国際分類第33類の「穀物を主原料とする蒸留酒」 (ウイスキー、ウイスキーベースのリキュール、スピリッツ、フレーバードウイスキー) として保護されています。

この戦略的な市場選択には、Kim Chang-soo氏の野心が強く反映されています。英国、EU、米国、オーストラリア、インド、日本など、ウイスキー市場として既に名声を確立したマーケット (とりわけウイスキーの世界で中心的な存在とみなされる英米欧の3市場) は、キム・チャンス・ウイスキーが業界の一流企業と肩を並べる存在となるよう期待を込めて選択しました。他方、足下におけるウイスキー消費量の増大と今後の可能性を勘案して、中国、シンガポール、タイ、ベトナムなどの高成長市場も選択に含めています。このように、同氏は、世界展開に際して、バランスのとれたアプローチをとるようにしました。

EUと英国における物品・サービス保護制度へのすり合わせ

「キム・チャンス・ウイスキー蒸留所」の国際商標登録が実体審査のために欧州連合知的財産庁 (EUIPO) と英国知的財産庁 (UKIPO) に送られましたが、ここで想定外の事態が発生しました。スコッチウイスキー協会 (SWA) の弁護士から、警告のEメールが届いたのです。

それは、第33類で指定する商品の1つである「フレーバードウイスキー」に端を発するものでした。EUと英国のウイスキー規制における「ウイスキー」は、フレーバーを加えてはならないという厳格な法的定義に準拠する必要があります。SWAの法定代理人は、キム・チャンス・ウイスキー蒸留所に対し、EUと英国の法域における商標出願を行うに当たって、「フレーバードウイスキー」という文言を削除するよう強く進言しました。

単一国での商標出願であれば、キム・チャンス・ウイスキー蒸留所には、この問題を解決するために現地代理人を任命する必要が生じたはずで、さらなる費用の増加や遅延を余儀なくされたかもしれません。しかし、マドリッド制度を利用して出願したことによって、同社はWIPO経由で「限定 (limitation)」申請を行い、問題を迅速に解決することができました。これは、EUおよび英国での指定に限っては「フレーバードウイスキー」の文言を削除する一方、これら両国・地域以外のすべての市場で保護を求める際には、この文言を維持するというものです。

その結果、EUと英国の双方で首尾よく保護を確保することができました。マドリッド制度を利用すれば、法域によって内容を異にする商標課題に、企業が効率的かつ柔軟に対処できることが実証されたのです。

倉庫内にある樽の上に置かれたキム・チャンス・ウイスキーのボトルの写真。ボトルの横には、販売時にウイスキーを収める箱が立てて置いてある。
(写真: BGF Retail)

商標登録から1年も経ずして、既に「キム・チャンス・ウイスキー」は、オーストラリア、中国、EU、シンガポール、英国、米国、ベトナムの各市場で保護されています。インドとタイでは未だ登録に向けた審査中であり、日本では特許庁の最終決定待ちの段階ですが、Kim Chang-soo氏は、これらの市場でも問題なく保護を確保できると考えています。

キム・チャンス・ウイスキーの「次なる一手」は?

Kim Chang-soo氏は、単に需要に応えるだけで満足しているわけではありません。レガシーを構築しようとしているのです。

キム・チャンス・ウイスキーは先般、英国で、ある大手輸入業者と販売契約を締結しました。これにより、世界で最も影響力のあるウイスキー市場の一角を占める英国において、舌の肥えた愛好家に製品を届けることができるようになったのです。同社にとっては極めて大きな一歩を印すものでした。

現在、韓国に古くから伝わる蒸留酒「ソジュ (soju) 」の歴史的な中心地である安東 (アンドン) に、第2の蒸留所の建設が進められています。これは、単なる生産能力の増強にとどまらず、韓国で受け継がれてきた豊かな蒸留の伝統と急成長を遂げるウイスキーの未来との懸け橋となる象徴的な取り組みです。

さらに先を見据えて思い描くのは、真の意味での「原料から瓶詰めまで (grain-to-glass) 」の韓国産ウイスキーを作ることです。そして、文字通り、既に大麦の播種を行っています。今年は、醴泉 (イェチョン) にある13万坪 (pyeong) に及ぶ広大な畑から、初めて大麦が収穫できそうです。100%韓国産のウイスキーを作るというKim Chang-soo氏の夢が、また一歩実現に近づきます。

2023年に約300本を限定販売してから、世界的な成功を収めた今日に至るまで、キム・チャンス・ウイスキーは、イノベーションの精神と卓越性の追求を体現してきました。Kim Chang-soo氏の確固たる決意と戦略的な国際商標保護対策とが相まって、同社は新たな国に版図を広げ、世界の舞台で、さらに実力に磨きをかけていく態勢を整えています。

キム・チャンス・ウイスキーの国際商標登録の詳細については、こちらをご覧ください。

マドリッド制度について

マドリッド制度は、単一の言語による単一の出願を提出し、手数料一式を支払うことで、最大130か国で商標を登録することができる、便利で費用対効果の高いソリューションです。

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