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「Dai Dai」: シャキーラとバーナ・ボーイによるワールドカップ公式ソングと知的財産権との関係

著者: Nora Manthey(WIPOマガジン編集者)

2026/06/25

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Shakira (シャキーラ) とBurna Boy (バーナ・ボーイ) の「Dai Dai」は、FIFAワールドカップ2026の公式ソングです。この作品は、世界的な認知度を反映して、可能な限り多様な知的財産権で保護されています。しかし、今回のロイヤリティは、チャリティーという一面も兼ね備えています。

グラミー賞受賞シンガーソングライターのシャキーラが、FIFAワールドカップ2026の公式ソング「Dai Dai」で、世界の舞台にカムバックを果たします。「ワールドカップの女王」と称される彼女がワールドカップの公式ソングを手がけるのは、2010年の南アフリカ大会のテーマソング「Waka Waka (This Time for Africa) 」以来で、今回で2回目となります。「Waka Waka」は、ワールドカップ公式ソングのなかで、最多のストリーミング回数を誇る楽曲の1つです。Spotifyだけで10億回を超える再生回数を記録しましたが、後述するとおり、物議をかもしたこともありました。

今年の夏に米国、メキシコ、カナダの3か国で開催される今大会のテーマソング「Dai Dai」は、イタリア語の「さあ行こう!」、「頑張れ!」に由来し、全力を尽くすように相手を鼓舞するときのフレーズです。歌詞のなかでは、これとほぼ同じ意味を表す言葉が、英語、スペイン語、イタリア語、フランス語、日本語で登場します。

会場や自宅で観戦するファンにとって、ワールドカップの公式ソングは身近な存在ですが、世界を視野に収める「Dai Dai」の事例をみれば、音楽の分野には何層にもわたって知的財産 (IP) 権が積み重なっていることが分かります。

「Dai Dai」の著作権

「Dai Dai」に適用される権利の筆頭は、ソングライターに帰属する作品、つまりその根底にある曲と歌詞に対する著作権です。

これほど知名度が高い楽曲であれば、クレジットは明確で、分かりやすく記載されているだろうと思われるかもしれません。でも、ネットをちょっと検索してみれば、楽曲のメタデータの扱いは一筋縄ではいかないことが分かってきます。そのような状況は、たとえトップレベルの楽曲といえども、何ら変わるところはないのです。

「Dai Dai」に関していえば、シャキーラとナイジェリアのシンガーソングライター、バーナ・ボーイが、他のさまざまな共同制作者やプロデューサーととともにクレジットされています。Spotifyの公式データでは、バーナ・ボーイとシャキーラは、この曲のパフォーマーとして登録されています。

ソニー・ミュージックパブリッシング (SMP) に提供されたデータによれば、バーナ・ボーイは、本名のDamini Ebunoluwa Ogulu名義で、5%の共同制作者としても登録されています。SMPは、Shakira Mebarak (シャキーラ・メバラク) 、Ed Sheeran (エド・シーラン) 、Jon Bellion (ジョン・ベリオン) の名前を作詞・作曲者として明記しています。さらに、ソングライターとして、Ahmed Saghir (アーメド・サギール) とAlexander “A.C.” Castillo Vasquez (アレクサンダー “A.C.” カスティージョ・バスケス) の両氏も名を連ねています。シャキーラと "A.C."氏はまた、プロデューサーとしてもクレジットされています。

作詞・作曲のクレジットとは別に、音源または原盤権というものが存在します。これを保有し、コントロールする権利は、通常、資金を提供したレコード会社に帰属します。「Dai Dai」は、Sony Music LatinとAce Entertainmentにより2026年5月15日にリリースされました。登録情報には、「2026 Ace Entertainment有限会社: Sony Music Entertainment US Latin社の独占的ライセンスの下で [リリースする] 」と記されています。つまり、ソニーは音源の販売や配信の役割を担うことになるわけです。

「Dai Dai」のストリーミング配信

「Dai Dai」は、主要なストリーミングプラットフォームのすべてで配信されています。このようなプラットフォームは、ストリーミングによる作品の公演をカバーする「利用可能化権 (making available right) 」の対象となります。この権利は、「デジタル演奏権 (digital performance right) 」としても知られているものです。

この分野も原盤権の対象となり、録音された楽曲自体の利用に適用されます。また、出版権はその基となる楽曲にも及びます。こうした権利の保有者はすべて、これに由来するロイヤリティを得ることができるのですが、後述するように、「Dai Dai」の場合は少々事情が異なります。

ユーザーがオンライン上でコンテンツを作成するようになったことで、状況は新たな展開を見せています。ファンが楽曲を自身の動画に組み込む場合、プラットフォーム側は二次利用権と呼ばれるものを通じてこれを管理します。保護された録音や楽曲が使用されたことをコンテンツ識別システムやコンテンツライセンシング・システムが検知すると、そこから発生する収益が権利者に還元されます。しかし、関連するコンテンツがすぐに削除されるわけではありません。つまり、私的な利用を管理することによって、収益源へと転化することを狙った仕組みになっているのです。

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Getty Images/Robert Okine
バーナ・ボーイのパフォーマンス (2025年12月17日、トロント、スコシアバンク・アリーナ)。

過去の大会の数字を見れば、それがなぜ重要なのかを理解することができます。「Waka Waka (This Time for Africa) 」は、Spotifyで最も多くストリーミング再生されたFIFAワールドカップ公式ソングとして、ギネス世界記録に認定されており、その再生回数は、YouTubeだけで40億回を超えています。

このように成功を収めたものの、そこに至るまでにはさまざまな紆余曲折がありました。FIFAがアフリカ大陸で初めて開催されるワールドカップの公式ソングをコロンビアのポップスター、シャキーラに依頼すると、開会式にアフリカの代表者を起用すべきだと抗議する声が巻き起こりました。それに応えて、FIFAとシャキーラのチームは、南アフリカのバンド、Freshly Ground (フレッシュリー・グラウンド) を招き入れたほか、式典には地元のアーティストも加わりました。

さらに、「Waka Waka」は、そのサビの部分がカメルーンのグループ、Golden Sounds (ゴールデン・サウンズ) の1980年代のヒット曲「Zangaléwa」の盗用だとする盗作疑惑にも直面しました。世論の強い風当たりと著作権紛争の可能性に直面したソニー・ミュージックとシャキーラの事務所は、「Zangaléwa」の制作者と法廷外で和解交渉を行い、「Waka Waka」の共同制作者としてクレジットすることで決着しました。

シャキーラやバーナ・ボーイが今大会で披露するライブパフォーマンス

ライブでパフォーマンスを披露すれば、パフォーマーに対する権利が発生します。それは、録画や放送などによってパフォーマンスを一般に公開するかどうか、また、どのような方法で公開するかをアーティストがコントロールできる権利です。シャキーラは、2014年ブラジル大会での「La La La」、2006年ドイツ大会での「Hips Don't Lie」と、これまでに2度、ワールドカップの閉会式でパフォーマンスを披露しています。

このようなイベントの場合、「パフォーマンス権」 (および関連するすべての権利) は通常、アーティストと主催者 (この場合はFIFA) との間の契約によって取り決められます。このような契約には、楽曲やパフォーマンスに関してFIFAが行うことができる行為と、楽曲の作詞・作曲者やパフォーマーおよびその代理人に対する報酬について規定されています。これは契約による枠組であり、主催者がこのように大規模なショーを催行するために必要とする権限の法的な基盤となるものです。

スポーツに携わる組織は、放送権やメディア権からの収入に大きく依存しています

規模について言えば、シャキーラは、2026年7月19日に開催される決勝戦 (ニュージャージー州メットライフ・スタジアム) において、FIFAワールドカップ史上初となるハーフタイムショーで「Dai Dai」を披露する予定です。このショーでは、マドンナやBTSとの共演も予定されています。このようなショーからは高額のギャラが期待されますが、今回のパフォーマンスはチャリティーとして行われる予定です。Global Citizenの関係者がニューヨーク・タイムズに明かしたところによれば、シャキーラを含め共演する3組のアーティストは、いずれも出演料を受け取らず、この時間をすべてFIFA Global Citizen Education Fundに寄付するとのことです。

FIFAからは、このパフォーマンスを通じたGlobal Citizen Education Fundへの支援がどの程度になるかは明らかにされていません。同ファンドは、子どもたちに教育とサッカーの機会を広げるために1億米ドルの資金調達を目指すプロジェクトです。

ワールドカップ決勝戦ハーフタイムショーの放送

パフォーマンスをテレビでライブ放映する場合に関係してくるのは、放送権やメディア権です。音楽パフォーマンスのライブ放送では、複数の関係者の権利が同時に絡んできます。すなわち、楽曲の制作に関してはソングライターと出版社が、音源の利用に関してはその保有者が、さらには、パフォーマー自身も権利者となります。

FIFAワールドカップに由来するすべての権利は、本来的にはFIFAに帰属するものですが、テレビ局やメディア各社はFIFAを通じてこのような権利を確保します。トップクラスのスポーツイベントをライブで独占放送する権利を獲得するためには、往々にして多額の出費を伴います。

FIFAのリストには、今大会の公式放送局として、ニュージーランドからノルウェー、メキシコまで、広範囲にわたる101の事業者が記載されています。

スポーツに携わる組織は、このような放送権やメディア権からの収益に大きく依存しており、その収益をアスリートへの支援や草の根レベルの育成プログラムに再投資しています。それゆえ、違法なストリーミングは、権利の保有者だけでなく、本来であれば受益者であるはずのアスリートやファンをも欺く行為といえるのです。ある調査によれば、著作権の侵害行為による損失額は、世界全体で毎年280億米ドルにのぼるものと推定されています。

FIFAスポンサー企業による「Dai Dai」の商業利用

大会の公式ソングは、放送を離れても商業的な資産になります。ここで重要なのは、スポンサーシップのメリットを最大限に引き出すことです。イベント主催者は、このようにして、自らの資産の使用を商業パートナー (公式スポンサー) に許諾し、大会関連のマーケティングキャンペーンを展開できるようにします。楽曲は、単なる音楽作品という孤立した領域を超えて、より広範なブランディングの世界を構成する一要素になります。

コカ・コーラが2010年にK’naan (ケイナーン) の「Wavin’ Flag」で展開したキャンペーンは、全世界での販売促進のために楽曲をライセンスした典型的な事例です。このケースでは、「Wavin’ Flag」がワールドカップの非公式テーマソングとなりました。

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Getty Images/Amin Mohammad Jamali
FIFAワールドカップ2014の決勝戦に先立ってマラカナン・スタジアム (リオ・デ・ジャネイロ) で開催された閉会式で、パフォーマンスを披露するシャキーラ (2014年7月13日)。

「Dai Dai」のような公式ソングの場合、FIFAは必要とされる許諾を保証し、ライセンシングの流れを管理します。それによって、パートナー企業は、自社のキャンペーンに楽曲を使用できるようになるのです。

権利保有者にとっては、新たなライセンスとロイヤリティ収入源を確保できることになり、スポンサーにとっては、大会がもたらす高揚感を利益につなげる手段となります。このようにスポンサーに許諾することができるのは、作曲と録音に係る著作権という、基盤となる2つの同じ著作権があるからです。

FIFAワールドカップ2026™公式アルバムで使われる「Dai Dai」

「Dai Dai」は、開催各国のアーティストの楽曲を集めた大会公式アルバムにも収録されています。楽曲を録音物に複製することは、録音権 (mechanical rights) の適用対象となります。これは、物理的またはデジタル的な形式で、音楽作品の複製や頒布などを行う権利をいいます。このような形式で楽曲を複製する場合は、その都度録音に関する許諾を得なければならず、出版社や作詞・作曲者に対して、ライセンスに対応するロイヤリティを支払う必要が生じます。これは、アルバムが販売、ストリーミング配信、または無償配布されるか否かにかかわらず適用されます。

シャキーラが「Dai Dai」から得るロイヤリティは、Global Citizen Education Fundに寄付されます

このアルバムのブランディングそのものが注目に値します。FIFAワールドカップ2026™の公式アルバムに「™」と明記していること自体が、その呼称に関してFIFAが商標権を主張していることを示しています。

FIFA Global Citizen Education Fundに寄付されるロイヤリティ

ある楽曲のライフサイクルにおいては、多くの時点でロイヤリティが発生します。しかし、今回のケースでは、最終的な到達地点が少しばかり異なります。

シャキーラが「Dai Dai」から手にするロイヤリティは、彼女の出演料と同じく、FIFA Global Citizen Education Fundに振り向けられています。また、近く開催される「Las Mujeres Ya No Lloran (もう女性は泣かない) 」ツアーでも、チケット1枚につき1米ドルがこのファンドに寄付される予定です。

さらに、FIFAのプレスリリースでは、最初に集まった25万ドルの寄付に対して、ソニー・ミュージックが同額を上乗せする「マッチング寄付」を行うことも発表されています。この取り組みの目標は、今年のワールドカップ大会を通じて1億米ドルを集め、FIFAが200か国以上で進めている「学校にサッカーを (Football for Schools) 」プログラムを支援することにあります。

公式発表において、シャキーラは、「歌を作ることと学校を作ること、この2つにこれまでの人生を捧げてきました。FIFAワールドカップの舞台で、この2つが1つになります。マドンナやBTSとともに、今回のワールドカップ大会のために、そしてFIFA Global Citizen Education Fundを通じて支援する世界中の子どもたちのために制作した『Dai Dai』を披露します」と語っています。「この世界最大のステージで、『子どもたちの教育への投資』の重要性についての確かな意識を、皆が共有できるよう願っています」

スポーツと知的財産については、WIPOマガジン特集号もあわせてご覧ください。また、アーティストが自身の作品を保護するために商標を活用している事例として、「Taylor Swiftの商標戦略」もご参照ください。