PCTニュースレター 07-08/2024: 実務アドバイス
注意: 以下の情報は PCT ニュースレターに当初掲載された時点では正しいものでしたが、一部の情報はすでに適用されない可能性があります。例えば、関係する PCT ニュースレターが発行されて以降、PCT 規則、実施細則、そしてPCT 様式に修正が行われた可能性があります。また、特定の手数料の変更や特定の出版物への参照は、すでに有効ではない場合があります。PCT 規則への言及がある場合は常に、実務アドバイスの掲載日に施行されている規則がその後修正されていないか慎重にご確認下さい。
国際出願において使用される複数言語(mixed languages)
Q: 欧州特許庁 (EPO) を受理官庁として、独語でPCT出願をしたいと考えています。発明はデジタル通信分野であり、当方の出願書類ドラフトには英語の専門用語が多数含まれています。この技術分野では英語が一般的に使用されているため、専門用語の翻訳は困難です。また、キーワードの翻訳は変に見えるでしょうし、不正確で簡潔さを欠く危険性があります。PCT手続において、英語の専門用語を使用していることが問題になる可能性はありますか?
A: 一般にPCTは、国際出願の明細書と請求の範囲は、受理官庁が認める単一の言語で提出することを要求しています。国際出願のいずれかの部分が、受理官庁が認めていない言語で記載されている場合には、当該受理官庁は、PCT規則19.4に基づき、国際事務局の受理官庁に出願を転送する義務があります。この実務アドバイスのケースのように、明細書と請求の範囲において二つの言語が使用され、受理官庁が両言語を認めている場合には、英語の専門用語を使用していることが出願の欠陥とみなされるか否かの判断は、受理官庁に委ねられます。
最近まで、受理官庁が全ての言語を認めている場合における、複数言語で提出された国際出願の取扱いに関するPCT規則の特別な規定は存在しませんでした。2024年7月1日に発効した新しいPCT規則26.3の3(e) は、受理官庁がこのような国際出願に対処するための法的根拠を提供しています。この規則に基づき、国際出願の明細書と請求の範囲が複数の言語で提出されている場合で、それらの全ての言語を受理官庁が認めるときは、受理官庁は出願人に対し、出願全体が単一の言語となるように、該当部分の翻訳文を提出するよう求めることができます。この単一の言語は、次の全てを満たす言語である必要があります:①出願時における明細書又は請求の範囲に含まれている言語のうちの一つであること、②国際調査を行う国際調査機関 (ISA) が認める言語であること、③且つ国際公開言語であることです。
しかしながら、受理官庁は、出願人に対して、明細書と請求の範囲を単一の言語にするよう翻訳文の提出を求める前に、まず、当該国際出願において、翻訳文の提出を求めることが適切か否かを検討すべきです。英語の専門用語の使用については、特定の技術分野では一般的に英語の専門用語を使用することは広く認識されています。このような実務は、国際出願における出願言語が英語でないPCT出願でも認められています。出願において出願の言語とは異なる言語で専門的な語彙が使用されていても、それが発明の開示の理解を助けるものであれば許容されます。この例としては、言語中立用語 (コンピュータのコーディング言語など)、科学出版物の引用や翻訳技術に関する発明などがあります。例えば、翻訳技術分野の出願において、単語が多言語で表示されたコンピュータ画面を示す図面は受理されるべきであり、受理官庁は、通常は出願人にそれらの用語の翻訳を求めることはありません (PCT受理官庁ガイドライン65B項をご参照下さい)。
一方、受理官庁が、明細書の部分及び/又は請求の範囲の部分を (国際出願の他の部分と一致させるために) 独語に翻訳することが出願の理解を高めるであろうという結論に達した場合には、受理官庁は、当該官庁が国際出願を受理した日から1か月以内に翻訳文を提出することを出願人に求めます。これにより認定された国際出願日が繰り下がることはありませんが、余分な出願後の手続、遅延や弁理士費用を避けるために、出願前に当該部分の翻訳文を提出することが望ましいです。さらに、受理官庁は、必要な翻訳文を受領するまで調査の写しをISAに送付することはありません。一般的に、受理官庁が明細書及び/又は請求の範囲の一部の翻訳文を要求する状況は、国際調査の目的で出願全体の翻訳文を要求する状況に比べ、比較的稀であると予想されます。
要約や図面の文言に関して、もしそれらが全て出願の言語で記載されておらず、翻訳文の提出が適切であろう場合には、これは方式欠陥として扱われPCT規則26.3の3(a) に従い、国際出願日に影響を与えることなく受理官庁に対し補充を行うことができます。
覚えておいていただきたいのは、ISAの実体審査官と異なり、受理官庁の方式審査官は、通常は技術的専門性を有しておらず、国際出願の関連する技術分野において出願書類にある単語が翻訳を必要とするか否かを常に判断できるとは限らないことです。受理官庁は、新PCT規則26.3の3(e) に基づき、特定の用語について翻訳文が必要か否かを判断するある程度の柔軟性は有しているとはいえ、出願人が翻訳文の提出を求められた場合に、上述した理由のため単語を翻訳できない、又は翻訳すべきではないと考えるときには、受理官庁に連絡し協議することが可能です。