パワー半導体の知財戦略:FLOSFIAはいかにPCTを活用して事業を世界に展開しているか

2026年8月24日

FLOSFIA chip
Image: FLOSFIA Inc.
株式会社FLOSFIAの取締役会長で共同創業者の 人羅俊実さんに

株式会社FLOSFIAの取締役会長で共同創業者の 人羅俊実さんに、PCT制度の活用状況を伺いました。(インタビューは2026年2月京都大学桂キャンパス近隣の本社(京都市)にて実施)

ポイント

  1. 株式会社FLOSFIAは社内に知財の体制を構築し、事業化の構想をもとに必要な知財を取得することにより、自社のビジネスを守るとともに、世界トップ企業との提携、独自の収益モデルを可能にしている。いずれも、その成立にはグローバルでの知財の存在が大きかった。
  2. PCT制度を将来の事業を見据えて計画的に利用。国内移行の際に必要な国を選択することにより事業に必要な技術を必要な国で権利を取得することができ、使い勝手がよく、活用している。

―御社の事業について教えてください。

FLOSFIAは2011年の創業当初から知財を重視しており、京都大学のMist CVD法の事業化を目的として設立されたディープテック系スタートアップです。当初は水のろ過への利用を想定していましたが、現在は酸化ガリウムをシリコンの代わりとした、パワー半導体への利用を考えています。酸化ガリウムを用いたパワー半導体は、シリコンと比較してエネルギー損失を最大で半分に削減するとともに、より低コストで環境負荷の少ない製造を実現しています。

知財ポートフォリオの構築と拡大を重視し、事業展開と並行して出願を積み重ねてきて、800件以上の特許出願をしています。

大学発技術の事業化としては、通常は装置を製作して販売する、あるいは技術移転を行うモデルが多いですが、海外のスタートアップでは全工程を自社で抱え、品質改善を重ねながら業界トップに至る例もあり、同社としても、知財を多数保有し、ポートフォリオを形成したうえで事業を展開しています。三菱重工やデンソーなど多くの世界トップ企業と提携をし、共同モデル事業と呼ぶ独自のビジネスモデルでの収益化にも成功しています。いずれも、当社が事業領域において強く、グローバルでの知財ポートフォリオを保有していることが前提となっています。

―知財の取得方針を教えてください。

創業当初は特許事務所に依頼して出願していましたが、全体的な構想を理解してもらうのが難しく、また費用もかかるため、社内に知財部門を立ち上げて、内製に移行しました。自社でパテントマップを作成し、技術動向を把握しながら出願戦略を組み立てることで、スピード感を持って出願できるようになりました。

ノウハウとして秘匿すべき領域を切り分けた上で、積極的に特許出願を行っています。出願後も、一連の審査の過程を通じて、社内で定めた重点分野のポートフォリオが強化されていくことを意識しています。

-PCTの活用状況とPCTに対する評価を教えてください。

自社出願をすることにより費用を抑えることができ、また判断が迅速になされて、適切に活用していると考えています。国際調査報告(ISR)は社内で有効に活用しており、技術動向や権利化可能性の判断に役立ててます。年間予算の中にPCT費用をあらかじめ組み込むことで、計画的な出願を実現しています。

スタートアップの減免制度を出願時に利用できるようになった点は便利になったと評価しています。

PCTの国内移行や海外の移行国の選定は、ビジネスモデルと市場規模を基準としています。米国と中国は基本的に対象とし、案件によっては欧州も選択し、規模の経済が働く市場を重視しています。当社のようなディープテック領域においては、将来の技術・ビジネスの競争環境が不明な場合が多いこともあり、PCTの制度を積極的に活用して、請求項の内容や移行国の判断を遅らせるようにしています。

―知財人材の育成はどのようにされていますか。

知財人材については、当初からゴールイメージを持って体制構築を進めてきました。米国のスタートアップのような資金調達力がない中で、外部依存ではコストと工数の負担が大きいため内製化を目指したことがきっかけで、知財部門の機能は社内に定着しています。

知財部門では知財経験のある中途人材が中心となって活躍しています。

私も含め、経営者が知財に強い関心を持っている点が同社の特徴であり、知財の投資も前向きに行っています。先行して特許出願を行い、海外を含めてポートフォリオを構築すれば、他社出願との関係でも権利者側の立場を維持できると考えています。

Representatives of FLOSFIA speaking during the WIPO Global Awards 2026 ceremony
2026年7月には、2026 WIPO Global Awardsにおいて、環境部門の受賞企業に選出されました。 (写真: WIPO/Berrod)