注意: 以下の情報は PCT ニュースレターに当初掲載された時点では正しいものでしたが、一部の情報はすでに適用されない可能性があります。例えば、関係する PCT ニュースレターが発行されて以降、PCT 規則、実施細則、そしてPCT 様式に修正が行われた可能性があります。また、特定の手数料の変更や特定の出版物への参照は、すでに有効ではない場合があります。PCT 規則への言及がある場合は常に、実務アドバイスの掲載日に施行されている規則がその後修正されていないか慎重にご確認下さい。

優先権書類提出に利用可能な様々なオプション

Q: 二つの先の出願、うち一つは米国、もう一つはカナダに出願されたもの、に基づく優先権主張を伴う国際出願を行う予定です。受理官庁としてカナダ知的所有権庁、米国特許商標庁又は国際事務局のいずれかを選択することができます。受理官庁の選択により、優先権書類の謄本の提出の要件を満たすために利用可能なオプションにどのように影響が及ぶでしょうか。考慮すべき特別の事項がありますか。

A: 優先権書類の要求を満たすには基本的に次の三通りの方法があります。

  1. 先の出願の優先権の認証謄本を受理官庁又は国際事務局に送付する。このオプションは常に利用可能です(PCT 規則 17.1(a))。
  2. 受理官庁に対し、先の出願の謄本を作成し及び国際事務局に送付するよう請求する。このオプションは、先の出願が提出された官庁であって、当該官庁が受理官庁として機能する場合に利用可能です(PCT 規則 17.1(b))。
  3. 国際事務局に対し、先の出願の謄本を電子図書館から入手するよう請求する。このオプションは、選択された受理官庁に関わらず、先の出願が WIPO 優先権デジタルアクセスサービス(「DAS」又は「PDAS」)の参加庁に提出されている場合に利用可能です(PCT 規則 17.1(bの 2))。

紙の願書様式(PCT/RO/101)には、受理官庁による電子図書館からの優先権書類の入手可能性についても言及されていますが、現在、このサービスを提供している受理官庁は存在しません(国内出願についての優先権書類交換を行っている官庁であっても同サービスを提供していません)ので、この記述は無視しなければなりません。PCT-SAFE のインターフェースにおいてはこのオプションはグレー表示されており選択することはできません。

受理官庁としてのカナダ知的所有権庁に国際出願を行うことを選択する場合、最も実務的なオプションは、受理官庁に対し先のカナダ出願の謄本を(国際事務局に)提出することを請求し、さらに、米国特許商標庁から先の米国出願の認証謄本を入手するか又は国際事務局に対し DAS を通して謄本を取得するよう請求します。

受理官庁としての米国特許商標庁に出願することを選択する場合、米国特許商標庁に対し先の米国出願の謄本を(国際事務局に)提出することを請求するこができます。カナダ知的所有権庁はまだ DAS の参加庁ではないので、カナダ出願についてはカナダ知的所有権庁から認証謄本を取得し、受理官庁としての米国特許商標庁、又は、好ましくは国際出願後に謄本を受理した場合には国際事務局に送付する選択肢のみです。

受理官庁としての国際事務局に出願することを選択する場合、カナダ知的所有権庁からカナダ出願の認証謄本を取得する必要がありますが、米国出願については米国特許商標庁から認証謄本を取得するか、又は、国際事務局に対し DAS 経由の謄本の取得を請求する選択肢があります。

(該当する場合)特定の優先権書類の送付又は取得に関連する一つのボックスのみにチェックをすることが要求されており、選択したオプションが実際にその出願について利用可能であることが確保されていなければなりません。もし一以上のボックスをチェックした場合あるいは選択したオプションが利用可能でない場合、受理官庁又は国際事務局から意図を明確にするための追加の対応を求められることになるでしょう。

DAS 及び認証謄本の選択

米国特許商標庁、欧州特許庁、日本国特許庁及び韓国知的所有権庁の間の優先権書類交換システム(PDX)の利用経験がある方には、優先権書類の要件を満たすための DAS 利用の可能性は非常に魅力的に見えるでしょう。このサービスは無料であり、認証謄本の請求、受理、転送の心配をする必要がありません。しかし、DAS 手続を理解することが不可欠です。なぜなら、手続は PDX と同じではなく、国際事務局が認証謄本を国際公開の日前に受理した場合に提出期間内に受理したとみなす旨の PCT 規則 17.1(a)のただし書きは PCT 規則 17.1(bの 2)に基づく要件には適用されません

PDX システムは官庁同士の信頼に基づいた二庁間合意に基づき運用されています。DAS はPCT 出願に対して利用することは可能ですが、特別の実務上の関係を有していない官庁間のパリルート出願を第一に考えて設計されたもので、出願人が特別にある出願の転送を許可することを可能とする追加のセキュリティ機能を含んでいます。DAS の中心のシステムは国際事務局によって運用されていますが、国際事務局が他の国内官庁であれば行うであろうすべての関連手続なしに PCT 目的の書類の取得又は送付を実施することはできません。

国際事務局に電子図書館からの優先権書類の取得の請求を行うことを決めた場合、PCT 規則17.1(b の 2)の要件を満たすために次のステップのすべてを行う必要があり、請求は最先の優先日から 16 ヶ月以内に行われなければなりません。

(a) 先の出願が提出された官庁に当該出願が DAS で利用できるよう請求します。この準備は参加庁間で異なりますのでそれぞれの官庁のウェブサイトで詳細をチェックすべきです。しかし、本件の場合、米国特許商標庁への第1国出願ですので、様式 PTO/SB/39(又は様式PTO/SB/01 の関連ボックスにチェック)を米国特許商標庁に提出します。DAS 経由の米国優先権書類へのアクセスを許可するための許可証の詳細については次のサイトでご覧いただけます。

http://www.uspto.gov/web/patents/pdx/permitting_access.pdf

(b) [このステップは第1国出願の官庁としての米国特許商標庁に特有のものです-他のほとんどの官庁については、更なるユーザーの指示なしに、ステップ(a)の一部として同等の手続が自動的に行われます。] 次の WIPO の DAS ウェブポータルに入り、

https://webaccess.wipo.int/priority_documents/en/

WIPO デジタルアクセスサービスに当該出願を登録するために関連情報を入力します。「アクセスコード」は米国出願のための確認番号で、EFS-Web 電子確認受領書及び出願受領書に記載されています。当該出願が米国特許商標庁によって無事登録されたかどうかを示した Eメールを待ちます-一般的に1営業日かかります。無効な E メールアドレスが登録されるのを避けるために登録手続の過程で要求される E メールアドレスの入力の際には注意が必要です。

(c) 再びウェブポータルに入り、「Update Access Control List(更新アクセスコントロールリスト)」タブを使って、国際事務局に先の出願へのアクセス権を設定します。

(d) 願書の第 VI 欄のボックス又は PCT-SAFE の対応するボックスにチェックを入れることにより、又は、別途国際事務局にその旨を請求することにより(この目的のために使用する文例については、PCT Newsletter No.01/2010 第 4-5 ページ参照)、国際事務局に対し、該当優先権書類を取得するよう請求します。

ステップ(a)から(c)は相互依存しており、この順序でのみ進めることができます。ステップ(d)の前に(a)から(c)のステップを完了させることにより、国際事務局への追加の連絡を行わなくて済むようにすることを強くお勧めします。当該ステップが完了していない場合、国際事務局が最初に取得を試みた際、該当優先権書類にアクセスできず、国際事務局への追加の連絡が必要になる可能性があります。すべての問題発生のリスクをなくすために、国際出願前又は少なくとも出願の記録の写しを受理官庁から国際事務局が受理するであろうタイミングの前までに、(a)から(c)のステップを実行しておくべきです。

より多くの官庁が、特に、一つの認証謄本のみ要求され、願書の関連ボックスにチェックを入れることにより受理官庁から容易に提供される PCT 制度よりはむしろ、多数の優先権書類を扱う必要があるパリルート出願に対する DAS サービスに参加するようになれば、DAS は将来、優先権書類の取得方法としてどんどん普及していくでしょう。国際事務局は DAS の利用プロセスの簡易化を考えています。さらに、また規則 17.1(a)に基づき適用される 16 ヶ月の提出期限への同様の柔軟性を提供し、国際公開の日前に国際事務局が実際に受理した場合に提出期限内に受理したとみなすことができるよう、規則 17.1(b の 2)の改正の提案を検討していますが、当分の間、出願人は先の出願が提出された官庁に関して適用される DAS 手続を十分認識し、提出期限を厳守することが重要です。