注意: 以下の情報は PCT ニュースレターに当初掲載された時点では正しいものでしたが、一部の情報はすでに適用されない可能性があります。例えば、関係する PCT ニュースレターが発行されて以降、PCT 規則、実施細則、そしてPCT 様式に修正が行われた可能性があります。また、特定の手数料の変更や特定の出版物への参照は、すでに有効ではない場合があります。PCT 規則への言及がある場合は常に、実務アドバイスの掲載日に施行されている規則がその後修正されていないか慎重にご確認下さい。

出願時に願書に記載されていた発明者の住所が PCT 規則 92 の 2 に基づく要請によりその記録が変更された場合の第三者によるその情報の利用

Q: 願書の第 III 欄に発明者の自宅住所が記載された国際出願を提出しました。その後 (出願人ではない)当発明者から、記載した自宅住所を連絡可能な職場住所に変更する要請をしてほしいとの依頼がありました。PCT 規則 92 の 2 に基づく変更の記録を国際事務局に要請した場合、国際出願の公開時にその自宅住所は第三者に閲覧可能になるのでしょうか?

A: 一般的に発明者の住所については、発明者 (又は複数の発明者) の氏名と住所が公開の技術的な準備が完了する前に提出されていれば、発明者の氏名は、国際出願の公開時に PATENTSCOPE 上の関連する国際出願の「PCT 書誌情報 (PCT Biblio.Data)」タブから、公衆に利用可能にされます (PCT 規則48.2(b)(i) 参照)。ただし発明者の住所は、書誌情報としては公開されません。以前は、発明者の住所も書誌情報タブから公衆に利用可能にされていました。しかしながら 2009 年 1 月以降は、個人情報保護の観点から、個人の住所情報がインターネットの検索エンジンによって検索されたり、表示されたりしないように、発明者の住所情報は書誌情報タブ上で表示されることはありません。

しかしながら、発明者の住所は、イメージ形式のみとはいえ、公開された国際出願の表紙、並びに発明者の住所が記載された他の特定の書類から第三者が閲覧可能です。「国際事務局が保有する一件書類の関連書類 (Related Documents on file at the International Bureau)」タブから利用できる願書(PCT/RO/101) に加えて、他の利用可能な書類には PCT 規則 4.17(i) に基づく発明者の特定に関する申立てや PCT 規則 4.17(iv) に基づく発明者である旨の申立てがあります。これら両方の申立ては、PATENTSCOPE の「公開された国際出願 (Published International Application)」タブに、個別の書類として含まれます。

あなたの事例では、国際事務局 (IB) が、公開の技術的な準備が完了する前に PCT 規則 92 の 2 に基づく発明者の住所の変更の記録を行う要請を受理した場合には、公開される国際出願の表紙に記載される発明者の住所は、自宅住所ではなく職場住所になります。

しかしながら、発明者の住所の変更を確認するための様式 PCT/IB/306 (変更の記録の通知) (出願時に願書に記載された発明者の住所並びに新住所も含む) は、「国際事務局が保有する一件書類の関連書類」タブから、PATENTSCOPE 上で第三者に閲覧可能になります。ただし、それはイメージ形式に限り閲覧可能であって、電子的に検索可能な形式では閲覧できません。同様に (発明者の住所記載を必要とする) PCT 規則 4.17(iv) に基づく発明者である旨の申立てを提出した場合で、発明者の自宅住所が当該申立てに記載されていた場合であっても、PCT 規則 48.2(a)(x) に従い、その住所もまたPATENTSCOPE 上で検索不可能なイメージ形式に限って、第三者に閲覧可能になります。

発明者の自宅住所がすでに出願に含まれている場合、その情報を国際出願から完全に削除することは簡単ではありません。PCT 規則 94.1(e) に基づき、出願人は公衆による一件書類の利用の対象から特定の機密情報の省略を請求することができますが、その請求が許可されるのはそれが十分な根拠に基づいている場合に限ります。かかる省略1が妥当であるとされるためには厳しい基準の充足が必要となるため、許可を得られるのは非常に稀なケースか例外的なケースに限定される可能性が高いでしょう (特定の情報の省略の請求についての詳細は、PCT ニュースレター2016 年 7-8 月号をご参照下さい)。

ですから国際出願を提出する前に、欠陥又は問題を生じさせずに国際出願に含まれるべきではない機密情報があるのか考慮することが重要です。国際出願日の認定において発明者の氏名と住所を提供することが PCT に基づく要件として定められているわけではありませんが、これらの情報を願書に記載することを強くお勧めします。それは指定 (又は選択) 国としての大多数の PCT 締約国は、この情報を必要とするためです。国際出願時に発明者の氏名や住所を提供することで、国内段階での問題や遅滞を避けることができます。国際出願に関しては、通常は発明者の職場住所を記載することができますが、当該出願が国内段階に移行した後は、自宅住所に代わって職場住所が認められるかどうかは、関連する指定官庁の国内法により決定される点にご留意下さい。発明者の氏名と住所を記載する要件に関する詳細は、PCT ニュースレター 2012 年 12 月号の実務アドバイスをご参照下さい。また PCT 出願人の手引 附属書 B (www.wipo.int/pct/ja/guide/index.html) も、各締約国又は各政府間機関が指定 (又は選択) された場合における、発明者の氏名と住所の提出期間の要件に関する情報を提供しています。

  1. PCT 規則 94.1(e) に従い、IB は次のことを認める必要があります。当該情報が国際出願について公衆に周知する目的に明らかに資さないこと、当該情報の公衆による利用により、いずれかの者の個人的な又は経済的な利益が明らかに損なわれること、及び当該情報を利用する優先的な公共の利益がないこと。