PCTニュースレター 10/2009: 実務アドバイス
注意: 以下の情報は PCT ニュースレターに当初掲載された時点では正しいものでしたが、一部の情報はすでに適用されない可能性があります。例えば、関係する PCT ニュースレターが発行されて以降、PCT 規則、実施細則、そしてPCT 様式に修正が行われた可能性があります。また、特定の手数料の変更や特定の出版物への参照は、すでに有効ではない場合があります。PCT 規則への言及がある場合は常に、実務アドバイスの掲載日に施行されている規則がその後修正されていないか慎重にご確認下さい。
受理官庁に適用される優先権の回復のための基準による受理官庁の選択
Q: 国際出願を提出したいのですが、12 ヶ月の優先期間が過ぎているので、PCT 規則 26 の2.3 に基づく優先権の回復を請求するつもりです。私は出願を、受理官庁としてのイギリス知的所有権庁(特許庁の運営名称)(RO/GB)、欧州特許庁(RO/EP)又は国際事務局(RO/IB)に対して提出することが可能です。それぞれの官庁に PCT 規則 26 の 2.3 は適用されていますが、出願と優先権の回復の請求の提出先を決定する場合に、どのような注意事項があるのでしょうか。
A: 基本的に、国内移行するつもりの国が、国際出願を出願する予定の受理官庁(RO)が行った優先権の回復を認めるのか検討する必要があります。そして RO に対して回復を請求する方が容易か、国内移行して指定官庁(DO)に請求する方が容易か検討します。
根本的な事項として、かなり多くの DO が優先権の回復を全く認めない、若しくは、PCT で規定されている形で認めていないということです。関係する規則と国内法令との不適合を規則 49 の 3.1(g) に基づき通知している官庁の一覧は次のアドレスでご覧いただけます。
http://www.wipo.int/pct/en/texts/reservations/res_incomp.html
国内移行するつもりの官庁が全て、この一覧中にあるのならば、優先権の回復を求める利点は、おそらく全くないでしょう。優先権主張がなくても出願が有効になるのか、保護を求めようとしている官庁で優先権を救済する特定の国内規定が存在するのかについて、慎重に検討する必要があります。
少なくともそれらの官庁の一つが、原則的に、優先権の回復を認めているのであれば、国内段階で更なる手続きをすることなく許可される、最も簡単な手続きを進めることは価値があります。その際に、PCT では、回復の承認を決定するための二つの基準のどちらを用いるのかを、個々の官庁が決定できることを念頭に置く必要があります。このことは、RO としての手続きと、(より容易な代わりの基準が採用される可能性はあります。)DO としての手続きの両方に適用されます。DO が優先権の回復を行うか否かは、RO が十分に厳しい基準に基づいて、決定を行っているのかに一般的に掛かってきます。そうでなければ、国内段階の幾つかの官庁で、更なる個々の回復の請求が必要になります。
PCT 規則 26 の 2.3 が適用される全ての RO は(例外は 17 の RO)、出願人からの優先権の回復請求を決定する際に、次の基準のうち少なくとも一つを適用しなければなりません。
- 状況により必要とされる相当な注意を払ったにもかかわらず、優先期間内に国際出願が提出されなかった。
- 故意ではなく、優先期間内に国際出願が提出されなかった。
ご質問にある RO の場合には、RO/GB は「故意ではない」のみを適用することを通知しています。RO/EP は「相当な注意」のみを適用することを通知しています。そして、RO/IB は両方の基準を適用します。「PCT 規則 26 の 2.3 及び 49 の 3.2 に基づく、受理官庁(RO)及び指定官庁(DO)による優先権の回復」の一覧には、回復が各官庁に適用されている場合には、PCT のそれぞれの RO 及び DO によって適用される基準が記載されています。この一覧はPCT 関連資料のページでご覧いただけます。
http://www.wipo.int/pct/en/texts/restoration.html
RO は回復のための両方の基準を適用し、個別ケースに応じて、出願人が適用される基準を選択できるようにすることも可能です。両方の基準が適用される場合には、出願人の請求若しくは RO の判断で、最初に「相当な注意」の基準を適用し、この基準を満たさないと判断した場合に、「故意ではない」の基準を用います。この運用は RO/IB が行っているものです。
RO/EP及びRO/IBが適用している相当な注意の基準を満たせば、故意ではないの基準よりも厳格な基準であることから、最も色々な国に採用される結果となります。つまり、ROが相当な注意に基づいて優先権の回復を行った場合には、一般的に1、全てのDOで有効になります(PCT規則 49 の 3.1(a))。ただし、PCT規則 49 の 3.1(g) に基づく不適合の通知を提出しているDOは対象外になります。このように、可能であれば、この基準を満たすことが出願人の利益になります。
故意ではないの基準はより緩やかな基準になります。RO がこの基準に基づいて優先権の回復を行った場合には、この基準、若しくは、出願人からみてこの基準より有利な基準に基づいて優先権の回復を行うことが規定されている国内法令が適用される指定官庁でのみ、その決定は有効になります(PCT 規則 49 の 3.1(b))。一方、国内移行するつもりの全ての DOがこの基準を採用しているのであれば、この基準を満たしていることを証明する方が容易で、場合によっては安くなります。
相当な注意が適用される官庁に国際出願を提出したい場合には、優先期間に出願を提出できなかった状況、及び、その特定の状況が基準を満たす可能性を検討することが重要です。優先権の回復を請求する場合には、期限内に国際出願が提出されなかった理由を記載する必要があります。そのために、場合によって、国際出願を準備し提出するために取った措置を含む、期限内に国際出願を提出できなかったことに関する事実や状況の概要を提出します。相当な注意にも関わらず、国際出願が優先期間内に提出されなかったことを判断するために、申立て又は証拠によって立証される理由を RO は要求することが可能です。つまり、優先期間が過ぎてしまわないように、その状況において、全ての合理的な注意を払っていたのかについて説明します(PCT 受理官庁ガイドライン、第 166 号 F 及び第 166 号 G 参照)。
個々の請求は一件一件検討されます。RO/EP の場合のように、RO が相当な注意の基準のみを適用する場合であって、状況によって必要とされる相当な注意を払ったにもかかわらず優先期間に出願を提出できなかったと納得できる証拠を提出できなかった場合には、この段階で、優先権主張は回復されません。しかし、出願と優先権の回復の請求を RO/EP に提出し、RO/EP が相当な注意の基準を満たしていないと判断して、優先権の回復が行われなかったとしても、DO はその拒否の決定を毎回検査することが可能です。ただし、DO が PCT 規則 49の 3.1(g) に基づく不適合を通知している場合には検査することはありません。
RO が相当な注意を理由に優先権主張の回復を行わないと思われる場合には、故意ではないの基準に基づき、優先権が回復される可能性が高い RO/GB に国際出願を提出することができます。この基準のためには、一般的に、優先期間に提出しなかったのは意図的ではないこ とを示す説明を提出すれば十分です(本当に該当する場合)(PCT 受理官庁ガイドライン、第 166 号 G 参照)。RO/IB に提出した場合には、自動的に最初に相当な注意に基づいて検討され、それから、故意ではないが適用されます。
RO を選択する際に、支出の面を考慮したい場合には、各官庁に支払う送付手数料と優先権の回復請求手数料を検討することができます。送付手数料は、RO/EP は現在 EUR 110、RO/GB が GBP 55、RO/IB が EUR 64 を請求しています。優先権の回復請求手数料については、RO/EP が EUR 550、RO/GB 及び RO/IB は無料となっています。
期限間際の遅延による問題や、優先権の回復を請求しなければならなくなり、保護を求めている官庁全てでは優先権主張が有効でなくなることを避けるために、12 ヶ月の優先期間が終了する十分前に出願することを強くお勧めします。
優先権主張の回復に関する詳細は、PCT Newsletter の No. 09/2009 及び No. 04/2007 の「実務アドバイス」、PCT 出願人の手引きの国際段階、パラグラフ 98A から H、及び、「よくある質問:PCT 規則の修正(2007 年 4 月 1 日)」の優先権の回復に関する部分、をご参照ください。
http://www.wipo.int/pct/en/faqs/april07_faq.html#2007_restoration
PCT Newsletter No. 10/2009 の実務アドバイスに関する追加情報
上記「実務アドバイス」の「受理官庁に適用される優先権の回復のための基準による受理官庁の選択」というタイトルのものをご参照下さい。そこでは、故意ではないの基準に基づき優先権の回復を要求する場合について、一般的に、優先期間に提出しなかったのは意図的ではないことを示す説明を提出すれば十分であると説明されていました(PCT 受理官庁ガイドライン、第 166 号 G 参照)。
実務アドバイスの主なメッセージは、「故意ではない」を満たすテストの方が「相当な注意」より容易であるというものでした。166 号 G のパラグラフの最初の文に述べられているように、次のことにもご注意下さい。つまり、受理官庁は、理由の陳述を裏付ける申立てその他の証拠を提出することを、あるいはもしいくつかの証拠がすでに提出されている場合にはさらに証拠を提出することを要求するかもしれません。一例として、「故意ではない」の基準のみを適用する受理官庁であるイギリス知的所有権庁(特許庁の運営名称)(RO/GB)は、故意ではないの基準が満たされたかどうかを考慮に入れて、国内法に基づいた同種の要求の場合と同様のアプローチをとること、また、なぜ優先期間に間に合わなかったかを判断することができるよう理由および証拠を提出することを要求する旨、国際事務局に対して通知しています。
出願人は、もし必要な場合、それぞれの官庁に対し、優先権の回復の要求の裏付けとしていかなる種類の証拠が要求されるのか確認することをお勧めします。