PCTニュースレター 09/2018: 実務アドバイス
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国際調査及び予備審査⼿続において作成されるさまざまな報告書の違い
Q: 国際調査報告書、国際調査機関の⾒解書、特許性に関する国際予備報告書(第I章) 及び特許性に関する国際予備報告書(第II章) の違いと概要を説明してもらえるでしょうか?
A: 国際調査及び予備審査機関や国際事務局(IB) によって作成される報告書にはさまざまな種類がありますが、それらの報告書は相互に強く関係しています。これらの報告書は通常、国際段階の異なる時期に作成され、報告書のいくつかは任意であって出願⼈の請求を受けてのみ作成されます。さまざまな報告書の簡単な説明と⽐ 較は、以下のとおりです。
1. 国際調査報告書(ISR)
ISR (様式PCT/ISA/210) は、(PCT 第17 条(2)(a) に規定されるISRを作成しない旨の宣⾔1を⾏っていない場合、) 国際調査機関(ISA) によって、ISAにおける調査⽤写し (つまり、国際出願のISA⽤のコピー) の受領から3ヶ月の期間⼜は優先⽇から9ヶ月の期間のうちいずれか遅く満了する期間に、作成されます(PCT 規則42)。
ISRは、ISAの⾒解書、特許性に関する国際予備報告書や、国際予備審査機関(IPEA) ⼜は指定(若しくは選択) 官庁による国際出願の審査の基礎となるものです。ISRにはとりわけ、請求の範囲に記載された発明に関連すると考えられる⽂献の引⽤、(国際特許分類による) 本発明の主題の分類、及び検索された技術分野の表⽰と共に、検索された電⼦データベースが記載されます。ISRは引⽤された⽂献が関連する請求の範囲を特定し、また、引⽤された⽂献のカテゴリの表⽰と新規性若しくは進歩性の評価に関する関連性も含みます。
さらに、ISRには、ISAが出願⼈の提出した発明の名称及び要約を承認する旨を表⽰し、⼜ は、これらの要素の⼀つ若しくは両⽅を承認しない場合には、ISRにはISAが作成した発明の名称及び/⼜は要約の本⽂を添付します(PCT規則44.2参照)。ISRには、⾒解の表明、理由、論証⼜は何らかの説明が含まれていない点(PCT規則43参照) に注意することが重要です。
ISRが作成されると、出願⼈とIBに送達されます。IBは国際出願が公開される⽇にPATENTSCOPE上でISRを公開します(ISRが公開の技術的な準備の完了後に受領された場合を除きます2。またその場合には受領後できる限り速やかに公開されます)。
出願⼈がISRに応答するための規定はありませんが、ISRを受け取った後、出願⼈はPCT第19条に基づき、国際出願の請求の範囲について1回に限り補正をすることができます。
2018年7⽉1⽇に開始された新たな協働調査及び審査の試⾏プロジェクトでは、主要なISAの5機関(IP5 Offices (五⼤特許庁)) の協働作業に基づいた⼀定件数のISRが作成されます。詳細については、PCT Newsletter 2018年7-8⽉号をご参照ください。
2. ISAの⾒解書
ISAはISRを作成すると同時に、本発明の特許性に関する暫定的かつ拘束⼒のない⾒解である⾒解書(WO-ISA) (PCT/ISA/237) を作成します。また⾒解書では、国際出願が条約及び規則の要件に適合しているのか否かを、ISAが点検します。WO-ISAには、ISRに含まれる参考⽂ 献の関連性の詳細な説明が含まれており、それらが本発明の潜在的な特許性にどのように影響するかを分析します。つまり、請求の範囲に記載されている発明が新規性を有するもの、進歩性を有するもの(つまり⾃明のものではない)、及び産業上の利⽤可能性を有するものと認められるかどうかです。本報告書は、国際予備審査の期間に国際予備審査機関 (IPEA) によって作成される⾒解書の対象(以下を参照) と⾮常に似ています。WO-ISAの⽬的上、関連する先⾏技術の⽇付は優先⽇であり、⼀⽅ISRの先⾏技術の⽇付は国際出願⽇である点にご留意ください。
WO-ISAは、ISRと同時にIB及び出願⼈に送達され、国際出願が公開される⽇にPATENTSCOPEでも公衆に閲覧可能になります(IBが公開の技術的な準備の完了後に本⾒解書を受領した場合を除きます。またその場合には受領後できる限り速やかに公開されます)。
PCT規則には、出願⼈がWO-ISAについて意⾒を述べる特別な規定はありませんが、WO-ISAに完全に満⾜しておらず、コメント、抗弁⼜は意⾒の提出を希望する出願⼈は、国際予備審査の請求を⾏わなかった場合には、IBへ"⾮公式コメント" を提出することができます(⾮公式コメントの提出に関する詳細は、PCT Newsletter 2015年1⽉及び4⽉号参照) (PCT規則43の2参照)。
3. 補充国際調査報告書
"主" 国際調査に加えて、出願⼈は、追加⼿数料の⽀払後、補充国際調査を提供するISAの⼀機関へ当該サービスを請求するオプションがあります。補充調査の⽬的で指定された機関は、補充国際調査の開始前にISAが作成したISR及びWO- ISAの書類が利⽤可能である場合には、それらを考慮して、提出された国際出願に関して調査を⾏います。補充国際調査報告書(SISR) (PCT/SISA/501) には⾒解書は添付されませんが、別の⾒解書に含まれていなかった引⽤や調査範囲に関する説明を含む場合があります。SISRは優先⽇から28ヶ月の期間内に作成されるものとし、IBが受領した時点でPATENTSCOPEで閲覧可能になります。当該サービスは完全に任意のものですが、先⾏技術のより完全な概観を希望する場合や、特に特定⾔語での調査が望ましい状況においては、関⼼ を持たれるかもしれません(PCT規則45の2参照)。
4. 特許性に関する国際予備報告書(第I 章) (IPRP Ch.I)
国際予備審査請求が提出されず、国際予備審査報告書が作成されない場合には、
WO-ISAは、IBがISAに代わって"特許性に関する国際予備報告書(特許協⼒条約の第I 章)" (以下、"IPRP Ch.I")(PCT/IB/373) という表題の報告書を発⾏ する際の基礎となります(PCT規則66.1の2(a)参照)。IBは、出願⼈により提出された⾮公式コメントとともに、指定官庁にIPRP Ch.Iの写しを送達します。また、優先⽇から30ヶ月の期間の満了後に公衆閲覧のためにPATENTSCOPEでも閲覧可能になります(PCT 規則44の2参照)。
5. 特許性に関する国際予備報告書(第II 章) (IPRP Ch.II) (いわゆる国際予備審査報告書)
国際出願に関する国際予備審査請求が提出された場合、IPEAがその逆の⾒解をIBに通知しない限り、WO-ISAは通常、最初の⾒解書としてIPEAにより利⽤されます。そして出願⼈は、PCT規則54の2.1(a)3 に規定する期間の満了前に、必要に応じてIPEAに答弁書を補正書とともに提出するよう求められます(PCT規則43の2.1(c))。
たとえWO-ISAがIPEAの⾒解書とはみなされないとしても、IPEAによって考慮されるでしょう。またIPEAは、ISRの作成⽇以降に発⾏された⼜はIPEAに利⽤可能となった関連する先⾏技術⽂献を発⾒するための必須の"トップアップ調査" も⾏います。IPEAは、例外的に、追加の⾒解書を発⾏することができ、その場合には、出願⼈は追加の補正書や答弁書を提出する機会が与えられます。
最後に、IPEAは発明の特許性に関する拘束⼒のない⾒解書である、IPRP Ch.II (PCT/IPEA/409) を作成します。本報告書には、新規性、進歩性及び産業上の利⽤可能性の基準に適合していると認められるかどうかについて、基本的にそれぞれの請求の範囲に関しての記述を含みます。また本報告書には、その結論を裏付けると思われる⽂献の列記も添付されます。本報告書が補正された形式の
PCT出願を基礎としている場合には、補正書を含む全ての⽤紙の写しが本報告書に添付されます。IPRP Ch.IIは通常、優先⽇ から28ヶ⽉が経過する前に発⾏され、出願⼈とIBに送付されます。IBは選択官庁に対して報告書の写しを閲覧可能にしますが、例えば国内段階への早期移⾏が請求されているような場合に出願⼈がPCT第40条(2) に基づき選択官庁に対して明⽰的に請求を⾏わない限りは、通常は優先⽇から30ヶ⽉が経過する前には⾏われません。本報告書は、優先⽇から30ヶ⽉が経過した後、PATENTSCOPE上で公衆の閲覧が可能になります(PCT規則70参照)。
- ISAが、当該国際出願の対象が規則により国際調査機関による調査を要しないとされているものであると認め、かつ、当該国際出願について調査を⾏わないことを決定した場合に起こり得ます。また、当該国際調査機関が、明細書、請求の範囲⼜は図⾯が有意義な調査を⾏うことができる程度にまで所定の要件を満たしていないと認めた場合も同様です。
- 国際出願の公開は通常、優先⽇から18ヶ月を経過した後速やかに⾏われます(PCT 第21 条(2)(a)。
- 国際予備審査請求は、次の期間のうちいずれか遅く満了する期間までに⾏うことができます。出願⼈へのISR (⼜はPCT第17条(2)(a) の宣⾔)、及びPCT規則43の2.1に基づき作成された⾒解書の送付から3ヶ⽉、⼜は優先⽇から22ヶ⽉。