注意: 以下の情報は PCT ニュースレターに当初掲載された時点では正しいものでしたが、一部の情報はすでに適用されない可能性があります。例えば、関係する PCT ニュースレターが発行されて以降、PCT 規則、実施細則、そしてPCT 様式に修正が行われた可能性があります。また、特定の手数料の変更や特定の出版物への参照は、すでに有効ではない場合があります。PCT 規則への言及がある場合は常に、実務アドバイスの掲載日に施行されている規則がその後修正されていないか慎重にご確認下さい。

国内段階で許容される特定の国内要件

Q: 私はまもなく国内段階へ移行するある国際出願の国際段階における代理人です。出願人の関心のある国々の現地代理人へ説明書を送付したところ、それらの代理人の一人が、出願の写しと認証された翻訳文、優先権書類の写しと翻訳文、及び国際出願日以降に発生した当方のクライアントへの権利の譲渡に関する譲渡書類の写しを提出するよう当方に求めてきました。これらの要請は正当なものでしょうか?また指定官庁が出願人へ要請することが可能なものは何かを説明していただけますか?

A: PCT第22条に基づく国内段階移行の要件は、以下のとおりであることにご留意ください:

  • 国際出願の写しの送達(PCT第20条に従い、国際事務局(IB)がまだそうしていない場合)
  • 所定の翻訳文(指定又は選択官庁(以下、DO)が要求する場合)及び
  • 国内手数料の支払い(DOが要求する場合)。

また、指定官庁の国内法令が発明者の氏名や発明者に関連する他の所定のデータの記載を求める場合であって、国際出願後に出願人にこれらの記載を提出することを許可している場合は、出願人 は、それらの事項が願書に記載されていた場合を除いて、当該国の国内官庁又は当該国のために行動する官庁に対し上述の記載事項を提出すべきです。

国内段階移行時若しくは移行後において、貴殿の質問で言及する要件や特定のDOに対し満たされるべき必要のある他の要件についての情報を、以下に提供いたします。

PCT出願の写し

DOは公開された国際出願の写しの受理を希望するか否か、希望する場合にはいつ希望するのかをIBへ通知します。幾つかのDOはIBからも出願人からも、そのような写しを要求することはありません。他のDOの場合においては、国際公開後又は官庁により指定されたそれ以降の時点に、
IBは国際出願の写しを送達します(PCT第20条(1)、PCT規則47.1(c)及び93の2.1;様式PCT/IB/308(最初の及び2回目の通知)参照)。結果として、国内段階へ早期に移行する場合である、例外においてのみ、出願人は特定のDOに対し国際出願の写しの提出を要求されます。

出願の翻訳文

出願された又は公開された言語がDOにより受理されない言語である場合には、国際出願の翻訳文を提出する必要があります。DOは特定の状況において他の要素の翻訳文も要求する場合があります:

PCT第19条の補正書:出願人がPCT第19条に基づく請求の範囲の補正書を提出した場合、DOは最初に出願された請求の範囲及び補正された請求の範囲両方の翻訳文を要求する場合があります。またDOは請求の範囲の補正書の説明書の翻訳文を要求する場合もあります。

PCT第34条の補正書:出願人がPCT第34条に基づく補正書を提出し、それらの補正書が特許性に関する国際予備報告(PCT第II章)の作成において考慮された場合、報告の付属書としてそれらの補正書の翻訳文を提出することは出願人の責任です。

出願人により提出された翻訳文に関しては、PCT第27条(2)(ii)及びPCT規則51の2.1(d)(i)は、国内段階移行のために提出される翻訳文が出願人又は出願を翻訳した者により証明されることを国内法令が要求できる旨を規定しています。翻訳文の証明とは、その知識の及ぶ限りにおいて、翻訳文は完全かつ正確である旨の、出願人又は翻訳者により署名された陳述をもって証明する必要があることを意味します。ただし、そのような証明を要求するのは幾つかのDOのみです。

DOは出願の認証された翻訳文を形式的に要求するわけではない旨ご留意ください。官庁が翻訳の正確性について合理的な疑義を有する場合に限り、公の当局又は宣誓した翻訳者が翻訳文を認証することを国内法令が要求する場合があります(PCT規則51の2.1(d)(ii)及び76.5)。

PCT出願人の手引では、該当する場合、関連するDOに関して翻訳文が何を含むべきかを、各国内編(概要)において列挙しています。

優先権書類

貴殿が国際段階で適用される期限内に優先権書類を提出した場合、いずれのDOも貴殿から優先権書類の原本を要求することはできません。要求するDOへ優先権書類の写しを送達するのはIBです(PCT規則17.2(a))。

優先権書類の翻訳文は、PCT第27条及びPCT規則51の2.1(e)に基づき非常に限定された状況においてのみ要求される場合があります。つまり、優先権の主張の有効性が、その発明が特許を受けることができるかどうかについての判断に関連する場合、また引用による補充として特定の頁をROが受理した場合の特定の状況においてです。それらの特定の状況においてのみ単なる翻訳文(認証されたものではない)が要求される場合があります(PCT規則17.2(a)、51の2.1(e)及び76.4)。

譲渡書類

貴殿のケースにおいて、言及されている譲渡が国際出願日以降に行われた場合、DOは関連する発明に関する貴殿の実体的な権利の証拠として譲渡書類の写しを要求する場合があります。IBの観点からすると、そのような譲渡書類は認証された又は法的な形式ではなく1、単なる写しの形式においてのみ要求される場合があります。幾つかのDOは、そのような変更が変更の記録の要請の対象になっており、IBからの通知(様式PCT/IB/306 "変更の記録の通知" )に反映された場合には、そのような証拠を要求することはありません。

PCT規則51の2に基づく特別な要件

国内段階移行要件及びPCT第27条に基づき認められる範囲以外の、国内法令の要件は、"特別な要件"と呼ばれます。それらの要件はPCT規則51の2に具体的に列挙されており、国内段階移行後に満たす必要がある場合があります。

PCT出願人の手引の関連する国内編の概要に様々なDOについての特別な要件が示されています。概要では、関連するDOが出願人に対し要件を満たすよう求めるか否か、又は求めがされない場合、要件を満たすべき期限が記載されています。しかしながら、特に指定官庁が一つ以上の要件を変更したにもかかわらず、その変更をまだIBへ通知していない場合などもありますので、当該国内編が発生し得る全ての問題に対応可能かは、IBでは保証できない点にご留意ください。

PCT第27条及びPCT規則51の2.1(a)に従い、官庁は通常、以下のものを要求することができます:

  • 発明者の特定に関する書類
  • 出願し及び特許を与えられる出願人の資格に関する書類
  • 出願人が先の出願をした出願人でない場合又は先の出願がされた日以後出願人の氏名が変更されている場合には先の出願に基づく優先権を主張する出願人の資格に関する証明を含む書類
  • 発明者であることについての宣誓又は申立てを含む書類
  • 特定の期間内における不当な行為に起因する開示、特定の博覧会における開示及び出願人による開示のような不利にならない開示に関する証拠又は新規性の喪失の例外に関する証拠

規則4.17(i)から(iv)に従い、出願人が申立てを提出した場合、DOは通常、関連する申立ての真実性について合理的な疑義がない限り、関連する申立ての内容に関する書類又は証拠を要求することはできません(PCT規則51の2.2)。しかしながら、規則4.17(v)に基づく不利にならない開示又は新規性の喪失の例外に関する申立ての場合には、DOは常にさらなる証拠を要求する資格があります。

関連するDOの要件にかかわらず、国内の代理人 は、いずれの場合においても、一件書類の一式を保有し、国内段階の過程で貴殿にアドバイスしやすい立場にいられるよう、所定の文書の写しを保有することを希望する場合があります。それ故、可能な限り、要請された場合には、国内代理人へそのような文書の写しを送付することが好ましいでしょう。そうは言っても、要請された書類が代理人の書類保有のためのものなのか、又はDOが要求するものなのかを明確にすることは貴殿にとって有益なことかもしれません。

国内段階移行の要件に関する詳細、及び国内段階移行後に遵守すべき特別な要件に関する詳細は、以下のリンク先から、PCT出願人の手引国内編のそれぞれ、第4章及び第5章をご参照ください。

www.wipo.int/pct/guide/en/gdvol2/pdf/gdvol2.pdf

  1. PCT規則51の2.1(d)では、特定の書類の認証化を国内法令が要求することをPCTが現在許容している唯一の例を規定しています。つまり、国際出願の国内段階用の翻訳文が、所定の条件のもとで認証される又は証明されるべきという要件です。譲渡書類、委任状等のような他の種類の書類/証拠に関しては同等の規定はありません。