注意: 以下の情報は PCT ニュースレターに当初掲載された時点では正しいものでしたが、一部の情報はすでに適用されない可能性があります。例えば、関係する PCT ニュースレターが発行されて以降、PCT 規則、実施細則、そしてPCT 様式に修正が行われた可能性があります。また、特定の手数料の変更や特定の出版物への参照は、すでに有効ではない場合があります。PCT 規則への言及がある場合は常に、実務アドバイスの掲載日に施行されている規則がその後修正されていないか慎重にご確認下さい。

欠落部分の補充に関する受理官庁の異なる手続

Q:当社は ePCT-Filing(ePCT 出願)機能を利用して定期的に電子形式で PCT 出願を提出しています。当形式での出願は確かに出願手続を簡素化し、形式的なエラーを防ぐことに役立ちますが、明細書又は請求の範囲をアップロードする際に間違ったファイルを選択しやすいといった面もあります。例えば、誤った請求の範囲一式が提出される場合に、PCT 規則で救済可能でしょうか。つまり、欠落要素又は部分の引用による補充に関する PCT 規則では、後日、すでに認められた国際出願日に影響することなく、誤った請求の範囲一式を正しいものに差し替える(国際出願が提出されるべきであった請求の範囲一式を含む先の出願の優先権の主張をしている場合)ことは可能ですか?

A:PCT 規則 4.18(引用により含める旨の陳述)、20.5(欠落部分)及び、20.6(要素及び部分を引用により含めることの確認)の規定は、国際出願に以下の何れも含まれておらず、関連する要素や部分が優先権が主張されている先の出願に完全に記載されている場合に、出願人を救済する目的で制定されたものです:

  • 明細書の全体又は請求の範囲の全体、若しくは
  • 明細書、請求の範囲の一部分又は図面全体又は一部分

上記必要な要件が満たされていれば、出願人は、基本的に、国際出願日を維持しながら、欠落要素又は部分を引用により補充することが可能です。この場合、受理官庁は国際出願に正しい要素を含めます(実際に間違った要素又は部分を"差し替える"ことはしません)。

PCT 受理官庁(RO)の大半は、上述される状況において、つまり、請求の範囲一式(又は明細書)が提出された後に、それらの請求の範囲が間違ったものであることが判明し、出願人が正しいものを含めることを望む場合、これらの規則を適用します。

しかしながら、以下の場合にご留意ください:

  • いくつかの RO 及び指定官庁(DO)(又は選択官庁)が、以下に説明する、引用による補充に関する当該官庁の国内法令と当該規則との間の不適合通知を提出している点
  • 欠落要素又は部分の引用による補充に関する当該規則を適用している官庁においても、全ての官庁が同じように当該規則を解釈しているわけではない点(以下で説明)

不適合通知

以下の官庁が RO の資格において PCT 規則 20.8(a)に基づき、不適合通知を提出しており、上述のいかなる状況においても引用による補充は受け付けません:

BE 知的所有権庁(ベルギー)

CU キューバ工業所有権庁

CZ 工業所有権庁(チェコ共和国)

DE ドイツ特許商標庁

ID 知的所有権総局(インドネシア)

IT イタリア特許商標庁

KR 韓国知的所有権庁

MX メキシコ工業所有権機関

以下の官庁は DO(又は選択官庁)の資格において PCT 規則 20.8(b)に基づき、不適合通知を提出しているため、出願人は上記のいかなる状況においても国内段階での引用による補充の恩恵は受けられません:

CN 中華人民共和国国家知識産権局

CU キューバ工業所有権庁

CZ 工業所有権庁(チェコ共和国)

DE ドイツ特許商標庁

ID 知的所有権総局(インドネシア)

KR 韓国知的所有権庁

MX メキシコ工業所有権機関

TR トルコ特許機関

しかし、関係する DO が PCT 規則 20.8(b)に基づく不適合通知を提出していない場合でも、DOの中には、限られた範囲内で、RO の引用による補充を許可する決定を再度確認することもあり(PCT 規則 82 の 3.1(b)から(d)参照)、RO の肯定的な決定が必ずしも受け入れられるとは限らない旨、ご留意ください。

上記一覧は以下のリンク先にてご覧頂けます(不適合通知の取下げの際に更新)。

http://www.wipo.int/pct/en/texts/reservations/res_incomp.html

なお、PCT ロードマップ(PCT/WG/2/3 及び PCT/WG/3/2 参照)において、PCT 規則の様々な規定に基づく不適合通知を取下げていない全ての国は、当該通知の取下げが可能になるよう国内法の必要な改正を成立させることを強く奨励されています。

様々な解釈

基本的に引用による補充に関する規定を適用している官庁間でも、実務において当該規則を正確に解釈する点に関しては様々な見解があります。例えば欧州特許庁を含むいくつかの RO では、PCT 規則 4.18、20.5、20.6 に従い、関連する要素が間違って提出された場合に、新しい完全な請求の範囲一式又は新しい完全な明細書を補充することを許容していません。これらの官庁は、定義上、請求の範囲又は明細書の要素の"欠落部分"とは、そのような要素のある部分は欠落していたが、その他の部分は提出されていたとみなす、と主張しています。つまり、"欠落部分"の引用による補充は、新しい要素の追加というよりむしろ、引用により補充されるべき請求の範囲又は明細書の要素の"欠落部分"が国際出願日の国際出願に含まれていたその(不完全な)要素を"完全なものにする"ということを求めています。

一方、例えば国際事務局(IB)や米国特許商標庁などの他の RO では、そのような手続は何れも許容されており、規則の文言と精神に忠実である立場の見解です。もしそうでなければ、提出した国際出願に何れの請求の範囲及び/又は明細書を含めていなかった出願人は、欠落要素の引用による補充により、それらの要素を国際出願に含めることが許可される一方、提出された国際出願にそれらの要素を含めようとしたが、誤って間違った請求の範囲及び/又は間違った明細書を提出してしまった出願人が、正しい要素を追加して誤りを訂正することが許可がされない、という結果になります。これらの官庁はまた PCT 作業部会が第 1 回会合にて(PCT/WG/1/16のパラグラフ 126 及び 127 参照)そのような手続は許容できるとの旨を提言した事実("作業部会は、国際出願日に必要な請求の範囲の要素及び明細書の要素(条約 11(1)(iii)(d)及び(e)参照)を含んでいる国際出願の場合には、優先権出願に含まれている請求の範囲又は明細書に関し、規則 4.18 及び 20.6(a)に基づき、欠落している"要素"として補充することはできない旨を留意した。しかし、そのような場合においても、優先権出願に含まれる明細書の部分又は全体、若しくは請求の範囲の部分又は全体に関し、欠落している"部分"としてそれらの規則に基づき補充することは可能であると考えられる。")、及び、受理官庁ガイドラインは、引用による補充により結果的に重複した明細書、請求の範囲又は図面の一式がある場合に、当該引用により補充された一式は、当初提出された一式の前に連続して配置するよう明確化するために修正された事実について言及しました。(これにより、例えば、国際調査及び国内段階での調査の目的で、どちらの請求の範囲一式を考慮すべきなのか明確にします。)

いくつかの PCT 会合(2015 年 5 月 26 日から 29 日まで開催された PCT 作業部会(PCT/WG/8/4参照)を含む)において上記の異なる RO の手続について議論されたにもかかわらず、本件に関する締約国間での一致した見解は得られていません。

本件に関して異なる解釈があることは最適ではありませんし、欠落部分の引用による補充に関しての法的な規定を明確化する努力を続けることは、おおむね認識されています。PCT 締約国と IB はこの長期にわたる問題の解決策を見つけようと努めています。差当たり、IB は、次回2016 年の PCT 作業部会での議論のため、誤って提出された要素及び部分に関する新しい規定案を準備すること(PCT/WG/8/25 議長の要約のパラグラフ 122 参照)、また RO の異なる手続が存在することを明示するための受理官庁ガイドラインの修正作業を締約国と進めること(同パラグラフ 123 参照)を求められました。

当然のことながら、電子形式で提出する国際出願を準備する際に、アップロードするファイルの選択には細心の注意を払うことが大変重要です。また誤った請求の範囲一式(又は明細書)を提出してしまった場合、引用による補充が可能なのかどうか RO の手続を(そのような間違いが起こる前に)確認しておくことをお勧めします。もし受理官庁が引用により正しい請求の範囲又は明細書を補充することを認めない場合には、考慮すべきひとつの方法として、問題のある国際出願を取下げて、正しい請求の範囲又は明細書で再度出願することです(そうする場合には、その間に優先期間が無効になってしまっていないかどうか確認する必要があります)。

欠落部分又は要素の引用による補充の請求に関する詳細は、PCT 規則 4.18、20.5、20.6、PCT Newsletter 2007 年 5 月号掲載の"実務アドバイス"、及び PCT 出願人の手引のパラグラフ 6.027から 6.031 をご参照ください。