PCTニュースレター 05/2010: 実務アドバイス
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国際予備審査を請求するか否かの決定を行う際に考慮すべき要素-パート 2
Q: 国際調査報告及び国際調査機関の書面による見解を受け取ったところです。PCT 第 2 章 の国際予備審査の請求書を提出するかどうかを決定する際、何を考慮すべきですか。
A: PCT において、国際予備審査の請求を提出は任意のプロセスで、それぞれの国際出願において検査して、請求の有無を決定する必要があります。PCT Newsletter No. 4/2010 では以下の状況のうち、国際調査機関の見解がより肯定的な場合を取り上げました。
1) 出願人が、全ての請求項に対し、新規性、進歩性、産業上の利用可能性について肯定的である国際調査機関の見解を受理している場合。さらに、審査官による国際出願の不備等の指摘を受けていない場合。
2) 出願人が、全ての請求項に対し、新規性、進歩性、産業上の利用可能性について肯定的である国際調査機関の見解を受理している場合。しかしながら、審査官による一以上の国際出願の不備等の指摘を受けている場合。
3) 出願人が、一以上の請求項に対し、新規性、進歩性、産業上の利用可能性について否定的である国際調査機関の見解を受理している場合。
4) 出願人が、一以上の請求項に対し、新規性、進歩性、産業上の利用可能性について否定的である国際調査機関の見解を受理しているが、その情報が遅れて届いた場合。
5) 出願人が、国際調査報告、国際調査機関の見解書を受理していないが、PCT 第 17 条(2)(a)の規定による国際調査報告を作成しない旨の宣言を受理している場合。
国際調査機関の見解書では、請求項に係る発明について新規性、進歩性及び産業上の利用可能性に関する審査官の見解が示されます。否定的な見解は実体的、方式的にかかわらず、国内移行するすべての国の審査官に提供されます。特許審査過程のある時点で、出願人は国際調査機関の見解に指摘された否定的事項に対する応答を補正又は抗弁で行うことが合理的です。国内移行する各国官庁において複数の応答を作成・提出するのとは対照的に、第 II 章の手続(国際予備審査)では、出願人に対しこれらの応答の機会を一度与えられています。国際調査機関の見解に否定的見解が含まれている場合、各国官庁で複数の応答を行うことによる、出願人/代理人の時間、場合によっては代理人費用を節約するという点から、第 II 章の手続を利用することは妥当かもしれません。
3) 出願人が、一以上の請求項に対し、新規性、進歩性、産業上の利用可能性について否定的である国際調査機関の見解を受理している場合。
この状況では、出願人は、一以上の請求項に対し特許性の基本的要件(PCT 第 33 条に規定)を満たしていないという見解を受けています。国際調査報告で引用された文献が国内法の下で適用され、国内の審査官が国際調査機関の見解で指摘されている事項に同意する場合、指摘を受けた請求項に係る発明について特許付与されることはおそらくないでしょう。詳細な検討の結果、国際調査機関の見解での否定的な指摘事項が妥当なものであり、請求項にかかる発明の新規性・進歩性を回復するために請求項の補正及び/又は抗弁を行う必要がある場合、PCT では次の 2 つの方法を提供しています。
(a) PCT 第 19 条に基づいた請求項(のみ)の補正を行うことができます(補正書の提出方法に関する情報は近いうちに別の「実務アドバイス」で取り上げられるでしょう)。PCT 第19 条に基づく補正書及び添付される説明書は国際出願とともに公開されます。PCT 第 19 条を利用して国際調査機関の見解での否定的な指摘事項を解消することでは、特許性に関する国際予備報告(第 I 章)の実体的内容は変わらない点留意が必要です。特許性に関する国際予備報告(第 I 章)には、国際調査機関の見解書で提示された意見が記載されることになります。PCT 第 19 条に基づく補正を行い、第 II 章の手続で利用してもらうことは可能です。PCT 第 19 条に基づく補正は、その補正の公開により暫定的な保護を認めている国におけるその保護の確保を促進すること、並びに、補正及び抗弁の提出により、第 II 章のもとで、特許性に関する国際予備報告の作成の前に、新規性、進歩性、産業上の利用可能性に関する国際予備審査機関の審査官の判断を肯定的なものとすることが可能です。
(b) 新規性、進歩性及び産業上利用可能性について肯定的なものとするため、抗弁とともに請求の範囲、明細書及び/又は図面に関する PCT 第 34 条に基づく補正書を提出することができます。この手続は PCT 第 II 章の下で行なわれるものであり、この実務アドバイスのパート 1 で言及したように、国際予備審査の請求及び手数料の支払を適時に行わなければなりません。
肯定的な特許性に関する国際予備報告を利点は数多くあります。個々の事例の経験上、多くの特許庁において、新規性、進歩性、産業上の利用可能性について肯定的な特許性に関する国際予備報告(第 II 章)を重視(十分な信頼と信用にまで)されています。全ての PCT 国内又は広域官庁において特許性に関する国際予備報告(第 II 章)をそれぞれの国内段階での審査に活用しています。十分な審査官を確保している、又は、(グレースピリオドのような)PCT 第 33 条で定められている基準と異なる国内法を有する官庁では特許性に関する国際予備報告(第 II 章)での非拘束性の見解を考慮するものの、(国内での)完全な通常の審査を継続するでしょう。十分な審査官が確保できていない官庁では特許性に関する国際予備報告(第 II 章)をより信頼する傾向があります。
第 II 章の手続の有用性を評価する際、特許性に関する国際予備報告(第 II 章)に大きな信頼を置いている国における国内手続の時間及び費用が節約できることを考慮しなければなりません。何人かの実務家は、広範囲の国(50 以上の国)において肯定的な特許性に関する国際予備報告(第 II 章)は国内段階での審査に要する期間を 2、3 週短縮しうると見積もっています。さらに、国際予備審査を行った官庁での国内(又は域内)段階はさらに早い審査、及び/又は、国内手数料の減額の適用を受けることができます。また、特許性に関する国際予備報告(第 II 章)は国内段階移行の判断の際の非常に重要な情報になります。
いくつか、あるいは全ての請求項に係る発明について、新規性及び/又は進歩性がないとの国際調査機関の見解を受け取った場合、第 II 章において国際調査機関の見解の指摘事項に応答するコスト及び手間と、各国の国内段階で同様の(それに加えて他の)拒絶理由に応答するコストとを秤にかける必要があります。肯定的な特許性に関する国際予備報告(第 II 章)に大きな信頼を置いている国への移行を考えている場合には、第 II 章の手続は費用効果の高い選択肢でしょう。移行を検討している国において、特許性に関する国際予備報告(第 II 章)を参照のために一般的に利用されている場合、肯定的な特許性に関する国際予備報告(第 II章)の全体的な価値はより小さいものになるかもしれません。特許性に関する国際予備報告(第 II 章)において依然いくつかの請求項に係る発明について新規性又は進歩性がないと指摘されている場合であっても、第 II 章の手続において国際調査機関の見解で指摘された実体面での否定的見解を解消しておくことにより、国内段階での手続費用を減少させることができるでしょう。
一般的に、多数の国の国内段階に移行することが予想される出願に対して、第 II 章での国際出願の事前の審査は費用効果の高い選択肢です。移行国数が減少するにつれ、特許性に関する国際予備報告(第 II 章)の価値は減少していきます。否定的見解に対する応答をどの時点で行うことが費用効果の高くなるかは、移行国と当該国での報告書の利用方法によります。
国際調査機関の見解が方式面での不備を指摘している場合には、実務アドバイスのパート 1の(2)で議論したように、国際予備審査の請求の価値に付加する必要があります。
4) 出願人が、一以上の請求項に対し、新規性、進歩性、産業上の利用可能性について否定的である国際調査機関の見解を受理しているが、その情報が遅れて届いた場合。
PCT において、国際調査報告及び国際調査機関の見解は、国際調査機関による調査用写しの受領から 3 ヶ月の期間又は優先日から 9 ヶ月の期間のいずれかの遅く満了する期間までに出願人に送付されなければなりません。いつくかの国際調査機関で生じているバックログのため、この期限は守られないことがあります。出願人が国際調査報告/国際調査機関の見解を遅れて受領した場合、第 II 章の手続は依然利用可能であり、国際調査報告の送付から 3 ヶ月の期間(又は優先日から 22 ヶ月の期間のいずれか遅く満了する期間)までに国際予備審査の請求を行わなければなりません。しかし、この場合、この段階において第 II 章の手続が依然有用なものであるか否か検討する必要があります。
その回答は、国際調査報告/国際調査機関の見解がどの程度遅れているかによります。特許性に関する国際予備報告(第 II 章)が国内段階移行の判断までに作成されない場合、出願人は当該判断に利用するという利益を得ることができないでしょう。特許性に関する国際予備報告(第 II 章)が国内官庁による審査手続開始までに作成されない場合には、さらにその価値が下がってしまいます。一般的に、特許性に関する国際予備報告(第 II 章)が国内審査開始前に作成されるように、国際調査機関の見解が間に合って送付されない場合、第 II 章の手続のコストを負担するよりむしろ国内官庁に直接手続を行う方が最善でしょう。この場合、国内移行手続及び国際調査機関の見解の受領後すみやかに国内官庁に対し予備的な抗弁書及び補正書を提出することをお勧めします。このようにすることで、国内官庁の審査官は国内審査開始時に国際調査機関の見解で指摘された事項に対する応答を得ることができます。
5) 出願人が、国際調査報告、国際調査機関の見解書を受理していないが、PCT 第 17 条(2)(a)の規定による国際調査報告を作成しない旨の宣言を受理している場合。
出願人が国際調査機関から国際調査報告を作成しない旨の宣言(様式 PCT/ISA/203)を受理している場合、国際調査機関が調査を要求されていない対象(PCT 規則 39)に関する出願、あるいは、明細書、請求の範囲又は図面が有意義な調査を行うことができる程度にまで所定の要件を満たしていない出願(PCT 第 17 条(2)(a)(ii))のいずれかです。いずれの場合であれ、国際調査機関は国際調査機関の見解を作成しますが、請求項に係る発明についての新規性、進歩性、産業上の利用可能性に関する説明は含まれないでしょう。この状況では、PCT 規則66.1(e)によれば、国際予備審査機関は国際調査報告が作成されていない発明に関連する請求項の審査をする義務がないため、国際予備審査を請求し、手数料を支払うことは非常に限られた価値しかありません。
PCT 第 34 条に基づく補正を希望する場合、国際予備審査の請求は、優先日から 22 ヶ月の期間又は国際調査報告を作成しない旨の宣言の送付から 3 ヶ月の期間のうちいずれか遅く満了する期間までにすることができます。提出された補正は選択官庁に送付されますが、新規性、進歩性に関する見解は作成されません。国際段階での修正を希望する場合、第 II 章での補正は可能ですが、新規事項の追加はできない点留意が必要です。一般的に、国内段階で問題点を処理するほうが費用効果が高いでしょう。
第 II 章での国際予備審査は、一つの官庁による通知への応答で全ての PCT 加盟国での出願の審査を促進するための費用効果の高い方法です。多数の国に国内移行する予定である出願に対しては、国際調査報告及び国際調査機関の見解で指摘された事項の全てあるいは一部であっても解消によって得られる手続及び費用の節約は、これらの節約及び特許取得までの期間の短縮に有益であることは明らかです。国際調査報告及び国際調査機関の見解が作成されている PCT 出願に対して最も考慮すべき事項は、国際予備審査を請求し応答を行う費用と、第 II 章の手続で受理するものの価値との分析です。
国際調査報告/国際調査機関の見解が肯定的又は否定的にかかわらず、出願人の中には、全ての関連する先行技術文献の特定と国内/域内段階のプロセスの促進のために国際調査を行った国際調査機関とは異なる国際予備審査機関に対して国際予備審査を請求する者がいます。その代わりに、異なる国際調査機関による補充国際調査を請求することにより、先行技術の補充的な見解を得ることができます。