注意: 以下の情報は PCT ニュースレターに当初掲載された時点では正しいものでしたが、一部の情報はすでに適用されない可能性があります。例えば、関係する PCT ニュースレターが発行されて以降、PCT 規則、実施細則、そしてPCT 様式に修正が行われた可能性があります。また、特定の手数料の変更や特定の出版物への参照は、すでに有効ではない場合があります。PCT 規則への言及がある場合は常に、実務アドバイスの掲載日に施行されている規則がその後修正されていないか慎重にご確認下さい。

特許による保護の代わりに実用新案による保護を求めること

Q: PCT出願を提出しました。多くの国で当方の発明が保護されるようにしたいのですが、費用を最小限に抑えたいとも思っています。PCT出願で"実用新案" による保護を請求することができ、この形式の保護の方が特許による保護よりも安く取得できると聞きました。特許の取得と比べてこの種類の保護のメリット及び/又はデメリットは何でしょうか?

A: 実用新案は、一定の限られた期間、権利者の承諾無しに他者が保護された発明を商業的に使用することを防ぐための独占権を付与することを通して、新しい技術的発明を保護します。この点において、実用新案は特許に似ていますが、以下に述べるようにいくつかの重要な相違点があります。実用新案を通しての発明の保護は特定の国でのみ可能です。いくつかの国では実用新案と同様の権利を提供しており、それらの権利は"小特許"、"イノベーティブ特許""、"短期特許"、"実用イノベーション"、若しくは"イノベーション特許" と呼ばれます。しかしながら、今回の"実務アドバイス" では、"実用新案" の用語は実用新案及びその他の同様の権利の両方を含むものとして使用いたします。

実用新案を取得するための公的な手数料は通常、特許を取得する手数料よりも低いです。大半の国では登録前の実用新案出願の実体審査が存在しないため、登録前の審査手数料の支払いはありません。また登録の手続は、特許の取得よりも簡素で早く、平均で6ヶ月を要します。実用新案の保護期間中の維持又は更新手数料の支払いは必要ですが、これらの手数料も通常、特許の手数料より低いです。
特許と比べると、実用新案を通しての保護の取得及び維持は安い場合があり、登録の手続はより簡素で早く進捗しますが、技術的発明の保護方法を決定する際に考慮する必要がある、実用新案と特許のその他の相違点を認識しておくべきです。

  • 実用新案による保護を取得する際の要件は通常、特許ほど厳しくありません。"新規性" の要件は常に充足する必要がありますが、実用新案の場合、当該要件は国内レベルでのみ適用される可能性があります。さらに、"進歩性"(若しくは"非自 明性" )の要件は、実用新案の場合、かなり条件が低いか若しくは全く存在しない場合があります。そのため実用新案による保護は、むしろ、特許性の基準を満たさない可能性がある、漸進的な性質をもつイノベーションに対して可能性があります。
  • 実用新案の保護期間は特許よりも短く、国によって異なります(通常は延長若しくは更新の可能性無しで7年から10年の間ですが、10年以上認める官庁も若干あります)。
  • いくつかの国では、特許と同じ技術分野で実用新案を申請できますが、その他の国では、特定の技術分野及び/又は機器や装置のような製品に関してのみ実用新案による保護を取得でき、方法や化学物質に関しては取得できません。実際、実用新案の対象となる主題は国によって大きく異なりますので、ある特定の指定(若しくは選択) 国において実用新案による保護の請求を検討している場合には、どのような種類の主題が対象となるのかを当該国の現地代理人に確認することをお勧めいたします。

このような保護を提供する様々な国々における実用新案に関する法律の詳細は、以下のリンク先の"IP legislation" からご覧いただけます。

www.wipo.int/wipolex/en/

結論として、実用新案による保護は取得と維持にかかる費用が安く、実用新案を取得するための要件はさほど厳しくありません。また、登録手続は実体審査がなく、通常、より簡素で早く進捗します。しかしながら、これは、実用新案による保護が全ての場合において特許による保護よりも望ましい選択肢であるという意味ではありません。実体審査の欠如は、登録された実用新案の有効性に関して法的安定性が低いことを意味するということを認識すべきです。加えて、その発明が長期間にわたり市場において関係すると予想される場合には、実用新案による保護では十分な保護を与えられない可能性があります。したがって、発明を保護する最善策を判断するためには、特定の国における実用新案制度及び特許制度の具体的な内容を、事例ごとに注意深く検討する必要があります。

多くの場合、実用新案による保護と特許による保護は必ずしも代替手段ではなく、実用新案による保護が特許による保護の補完として利用される場合があります。これは、特許の付与を待つ間に実用新案による保護を迅速に取得し得るためです。さらに、いくつかの国では、実用新案出願(若しくは実用新案)を特許出願(若しくは特許) へ変更すること、又はその逆も可能です。
実用新案に関する詳細については、よくある質問を含む有用な情報が以下のWIPOウェブサイトからご覧いただけます。

www.wipo.int/patents/en/topics/utility_models.html

次号のPCT Newsletter (2018年5月号) では、実用新案による保護を提供するPCT 官庁に関する情報や、国際出願に関してそのような保護を請求する方法について詳述いたします。