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デジタル経済: 新たなガバナンス・メカニズムの模索

2022年9月

著者: 國領二郎氏、慶応義塾大学総合政策学部、東京、日本

デジタル経済の拡大は、ビッグデータや人工知能 (AI) などの情報技術の利用、統治および規制に関する重要な倫理的問題を提起しています。急速に進化しているデジタル経済には以下に説明する特異性があり、効果的なデジタル・ガバナンス政策の策定に役立つ新しい哲学的原理の発見が必要です。

産業経済からデジタル経済に移行する中、現代市場経済の哲学的基盤を見直す時期に来ています。(写真:  Getty Images Plus / iStock / metamorworks)

産業経済からデジタル経済に移行する中、現代市場経済の哲学的基盤を見直す時期に来ています。デジタル・ガバナンスに対する新しいアプローチを模索するにあたり、視野を広げて、東洋哲学がどのようにして、すべての人に資するデジタル・ガバナンスへのアプローチに役立ち質を高めることができるかを検討する必要があります。具体的には、個人主義の役割と、派生的な所有権の交換に基づく近代制度を再考し、データの利他的な社会共有について考慮する必要があります。また、人間は宇宙の重要な要素ではあるが、宇宙の中心ではないということも、認識すべきでしょう。

産業経済の制度がデジタル社会の統治に不十分な理由

デジタル経済には産業経済と異なる特徴が少なくとも3つあり、こうした特徴に照らして現行制度を再考し、最近の経済に整合させる必要が生じています。

第1に、デジタル経済はデータの「ネットワーク外部性」によって再構築され、データが結びつくことによってデータの価値が飛躍的に高まります。1つのデータを例にとってみましょう。データは単体ではそれほど価値を生みませんが、何らかのパターンを示すデータの集まりの一部としては価値があります。すると、データを集める主体がデータの生み出す価値を独占できることになります。これが、データガバナンスが社会にとって重大な問題である重要な理由の1つです。データのネットワーク外部性は、データに対して所有権を主張してデータへのアクセスを制限するよりも、データを社会共有に供するのに、説得力のある理由と言えます。

デジタル経済の拡大は、ビッグデータや人工知能 (AI) などの情報技術の利用、統治および規制に関する重要な倫理的問題を提起しています。

デジタル経済の第2の特徴は、デジタルサービスの限界費用がきわめて低いことで、プラットフォームにユーザーを追加するコストは、最初にプラットフォームを開発する際の固定費に比べてごくわずかです。実際、プラットフォームにユーザーを誘致するために、さまざまな種類のオンラインサービスが無料で提供できます。デジタル経済のこの側面によって、リソースを配分するための市場価格形成が機能しなくなっています。無料デジタルサービスの需要と供給には、産業経済ではうまく機能していた価格決定メカニズムが働かないためです。

デジタル経済を特徴付ける第3の要素は、商品のトレーサビリティ (追跡可能性) の向上です。産業経済は、遠隔地の不特定の顧客に販売された大量生産品を追跡する能力には限界がある、という前提で発達しました。しかし今日では、センサー、自動識別システム、ワイヤレス技術などの情報技術により、さまざまな産業でサプライチェーン上の商品をわずかなコストで追跡する能力が大幅に向上しています。これにより、売り手は販売した商品がどこにあるかをモニターすることができ、買い手は元の売り手を特定し、その製品がどこからやって来たかを追跡することができます。

トレーサビリティの向上は、コントロールの仕組みを通じて管理される商品の共同使用に有利に働きます。例えば、「シェアリングエコノミー」では、家や車などの物理的対象物を、金銭と交換するのではなく、サブスクリプション・ベースまたは一時的な賃借契約を通じてサービスとして提供します。したがって、産業経済の重要な特徴である、市場で交換される商品に係る排他的所有権は、不要になります。

以上の3つの要素は、デジタル経済が産業経済の規範に合致しなくなり、現代社会の哲学的基盤の再考を促す新しい大きな力を生み出していることを示しています。

産業社会の特徴

新しい思考の必要性を認識するには、産業社会を理解する必要があります。

産業革命によって実現した大量生産は、大規模な市場での商品の大量販売を必要としました。現在のような優れた通信技術はなかったため、いわゆる「匿名経済」が生まれ、遠く離れた地の見知らぬ人同士が商品と金銭を交換することが一般的になりました。匿名経済を機能させるために、多くの仕組みや制度が発達しました。産業経済の柱は所有権 (財を処分する排他的権利) と市場であり、これらが継続して機能することを保証するために、強力な国家によるサポートがありました。このような仕組みは、モビリティを向上させた近代の輸送システムとともに、経済活動に不可欠でした。

産業革命以降、近代化の過程で、財やサービス、知識などの無形資産に所有権の概念が持ち込まれました。所有権は、産業社会と市場経済を支える西洋哲学の中心である個人主義の価値観とも密接に関係しています。個人主義の前提は、独立した人間には自律的な意思決定能力があり、自身の行為の成果物に対する請求権があり、自身の行為の結果に責任を負うという考えです。したがって、個人は不可侵の人権を享有し、それにはプライバシーの権利や市場で交換可能な所有権なども含まれます。

しかし、AIとビッグデータの登場により、産業社会の中核となる前提が疑問視されるようになり、特に、人間は知性を独占しているという前提が議論に晒されています。

ビッグデータのガバナンス: 緊張の高まり

デジタル経済の発展に伴う制度変化がもたらした基本的な流れは、さまざまな形で見られます。例えば、西側諸国は現在、データのプライバシーとビッグデータ (多数のオンラインユーザーの多数のソースから生成される膨大なデータセット) のガバナンスという問題に直面しています。

産業社会の視点で見ると、この問題の中心にあるのは、データの商業利用と、個人のプライバシーおよび尊厳の保護から生じる社会的利益とのバランスを取ることの必要性です。この文脈で、プライバシーは近代西洋社会の個人主義的な価値観と密接に関連しており、人間の権利と考えられています。

しかし、人々の相互信頼を基本とする東洋哲学の視点では、データを商業的に交換される個人資産ととらえるのではなく、データは公共の利益に資する共同資源であると認識され、貢献者は尊重されて保護され、報酬が与えられます。

儒教や仏教、アニミズムといった東洋の伝統的な利他の哲学は、データガバナンスとデータ共有に関するより効果的な選択肢を提供しつつ、個人の尊厳を守れるでしょうか。興味深いのは、受託者責任という概念が、この点に関して東洋と西洋の哲学に共通点があることを示唆していることです。

AIガバナンス: 異なる視点

AIのガバナンスと、機械の「マインド」と「自律性」の概念に関しても、同じように東洋と西洋の対比が見られます。西洋的なものの見方では、人間には「マインド」つまり知性と、知性から生じる自律性があるため、他の存在 (および機械) より優れていると考えます。

この見方では、人間に似た知性 (人間の知性を超える場合もあります) を想定している「汎用人工知能」の可能性は、人間による宇宙支配に対する深刻な脅威となります。ここでも、人間を自然の一部ととらえる東洋的なアニミズムの伝統は、興味深い別の見方をしています。

アジアでは一般的に、西洋と比べてロボットに対する受容度が相当高く、ロボットを心と感情を持った人間に友好的な仲間と見ています。ロボットやアンドロイドに対する西洋の見方はまったく対照的で、一般に支配者と被支配者の隷属関係とみなし、この関係が逆転することを脅威と考えます。

産業経済からデジタル経済に移行する中、現代市場経済の哲学的基盤を見直す時期に来ています。

日本の経験を踏まえて

日本は、アジアで初めて西洋の個人主義を受容した国です。19世紀以降、日本は西洋の技術と法規範 (知的財産に関するものを含みます) を受け入れ、主要な工業国となりました。しかし、この戦略はデジタル時代ではうまく機能していないようで、デジタル領域では他のアジア諸国が日本に追いつき、日本を追い越している場合もあります。このため、デジタル経済で成功を収めるには、工業化時代とはまったく異なるアプローチが必要だとの指摘もあります。

儒教とマルクス主義の伝統に支えられた中国のデジタル分野での目覚ましい成功は、データガバナンスは伝統的な東洋哲学に基づく方がよいのではないか、という議論に拍車をかけています。この新しい考え方から、共通の基盤を見出す必要性が高まっています。この基盤は、広く受け入れられる価値観を築く基礎となり、新しいデジタル社会のガバナンス・メカニズムを構築する中核となるものです。上述したように、受託者責任の概念が、この取り組みにふさわしい第一歩となる可能性があります。

図1:  交換経済から持ち寄り経済へ。注記:  「持ち寄り経済 (potluck economy)」という表現はTimothy Nash氏のブログに見られます。

個人主義を超えた新しいパラダイムの必要性

拡大するデジタル経済の経済的・技術的現状に対応するためには、産業経済における市場に基づくガバナンス・メカニズムの進化が必要であることは明白です。

すでに、サブスクリプション・モデルやシェアリング・モデルなどの新しいデジタル・ビジネスモデルが登場し、商品を使用する「利用権」が電子コミュニティの「信頼できるメンバー」の間で「ライセンス供与」されています。これらのビジネスモデルは、財産の所有権 (処分の排他的権利) が匿名で個人 (および企業) 間で金銭と交換される、産業市場経済のビジネスモデルとは対照的です。

図1は、トレーサビリティが向上した世界における経済設計を可視化したもので、このような世界では誰もが財 (データを含みます) を有します。財は他者の役に立ち、その財の使用権に寄与します。いわゆる「持ち寄り経済 (potluck economy)」では、物理的な財 (及びデータ) の共同使用は、社会によって監視され報酬を与えられます。このモデルでは、ライセンス供与を取りまとめるプラットフォームは、参加者/委託者の利益を保護する受託者責任を負うため、所有の概念が維持されます。

東洋の視点から見たサイバー文明

西洋哲学の個人主義に根差した政策決定者たちが、デジタル社会の拡大がもたらす課題に直面している今、アジアの利他の哲学が、新しいデジタル社会構造を統治するための基本的な哲学と倫理観の構築に貢献できる可能性があります。儒教、仏教、アニミズムは異なる信仰ですが、いずれも社会的主体や制度に置かれた信頼を尊重することを大切にしています。これに対し、西洋では個人の権利保護を重視します。

こうした見方の違いは、個人データの取り扱いにおいて浮き彫りにされます。近現代の西洋思想による見方では、個人には自身のデータを管理する権利があるとされ、プライバシーの侵害は、こうした個人の権利に対する侵害であるとみなされます。一方、東洋哲学では、プラットフォームに委ねられた個人データの悪用は、プラットフォームに置かれた信頼の裏切りとみなします。これらのアプローチの違いは微妙なものですが、ガバナンス・メカニズムをどのように設計するかという点で重要です。

西洋の見方では、データの収集・管理はデータを提供する個人の「意思」に従って行われるべきであり、個人がデータのコントロールを維持できることが重視されます。一方、東洋の見方では、データの収集・管理に対する明示的な許可の有無にかかわらず、データを委ねた人の「利益」に忠実な方法でデータを保護し使用することが重視されます。

この議論は、責任の認識という問題も提起します。AIガバナンスの分野では、人工物の故障に対して人間に最終的な責任を負わせ続けることが現実的か、という議論が活発に行われています。

人間は自律性と知性を独占的に有しているという西洋の前提に基づくと、人工物に対する最終的な権限と責任は人間にあります。これは西洋の民事・刑事法制度のさまざまな製造物責任法に反映されています。

その一方で、自然との友好的関係というアジアの知恵が指針となることも十分考えられます。その理由は、いずれ機械が少なくとも知性に似た能力を持つようになると考えられるからです。したがって、機械が人間と密接に作用し合うことを受け入れるのであれば、機械に人格を認める準備をする必要があります。

信頼に基づく一般的に認められうる原則に向けて

東洋と西洋の異なる見方を分析する目的は、データ主導の新しい世界に適した価値体系を新たに構築するための共通の基盤を見出すことです。両者が共有する受託者責任の概念は、すべての人に資するべく民主的な抑制と均衡を図るシステムを備えた有効なデータガバナンスの仕組みを構築するために、ふさわしい出発点と考えられます。人間には、このようなシステムを構築し、洗練された方法で人間が生み出した技術の大きな可能性を生かすだけの賢明さがあると私は期待し、確信しています。

本稿は國領二郎氏の「An Asian perspective on the governance of cyber civilization」 (Electron Markets、2022年) を要約・修正したものです。

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