中小企業が知的財産に関して検討すべき主要事項

2021年6月

Phil Wadsworth氏、クアルコム社イノベーション会議 (Innovation Council) 上級顧問 (元主席特許法律顧問) 、Jennifer Brant氏およびPeter Brown氏、イノベーション会議

中小企業 (SME) は、拡大を続けるイノベーション経済にとって極めて重要です。彼らは新たな技術を生み出し、既存の技術を大きく改良します。彼らはまた、これらの新たな技術と改良された技術を具体化する製品の開発、製造および販売を行い、そうすることで高賃金の雇用を生み出します。これらの理由から、中小企業は世界経済全体にとって極めて重要な支柱です。国際労働機関 (ILO) のスコア・プログラム (SCORE Programme) 調査 (2020年) によると、これらの企業は現在世界の企業の約90%を占めており、世界の労働人口の約70%を雇用しています。

彼らの知的資産を保護および管理し、それらの潜在的価値のすべてを活用する際に、中小企業は、特許、営業秘密、著作権、意匠権および商標など、様々な知的財産権を利用することができます。 (写真: pixdeluxe / E+ / Getty Images)

中小企業が各国の経済にとって最も重要であることは明確ですが、彼らが確実に成功するよういかに支援するかが大きな問題です。これに関しては、彼らの知的財産 (IP) 資産をいかに保護し管理するかについて、中小企業の認識を高めることが重要な第一歩です。

言うまでもなく、知的財産権を保護することは簡単な仕事ではありません。多くの場合、中小企業が導入する技術は、政府機関、大学および他の企業など他の組織との協力から生じます。そしてこの事実によって複雑な判断が求められます。

幸い、彼らの知的資産の潜在的価値を活用する際に、中小企業は様々な知的財産権を利用することができます。これらに含まれるのは、特許営業秘密 (ノウハウを含む)、著作権意匠権および商標です。

発明の保護: 特許

特許は研究開発 (R&D) の成果を保護するための有力な方法です。特許権によって、中小企業は彼らの特許発明を他社がその製品に使うのを防ぐことができます。中小企業はまた、市場で自由実施権 (freedom to operate) を維持するために、その技術を導入 (in-license) することが可能であり、そのような技術を他の組織にライセンス供与して使用料収入を得ることもできます。

中小企業は世界経済全体にとって極めて重要な支柱です。

R&D活動では、その当初から内部プログラムを構築することで、発明を生み出し、それに対する特許権保護を獲得し、そしてそれに伴う特許ポートフォリオを管理および維持するためのプロセスを管理することが非常に重要です。

R&Dチームは、彼らの技術的な成果の秘密を維持することが全体的に必要であることを理解しなければなりません。発明の情報が特許出願書類提出前に公開されると、その特許性が危うくなるためです。

R&Dチームはまた、アイデアの形成から発明の実現まで (「発明の具体化」と呼ばれる) 、彼らの仕事の各段階を文書化することの重要性も理解する必要があります。誰がその技術を発明したか、あるいはその特許権を所有する権利は誰にあるかといった問題に関して紛争が起きた場合に、そのような文書化は非常に役立ちます。

厳格な文書化プロセスに加えて、企業は発明の開示および評価手続きを構築する必要もあります。これには通常、他の技術スタッフが特許保護の可能性に備えて評価するため、発明の主要な特性を十分な技術的詳細とともに記録するための発明開示様式が使われます。理想的には、このプロセスは、上級技術専門家および知的財産弁護士から成る発明評価チームが注意深く監視します。彼らは、この発明を保護するための最良の選択肢 (例えば、特許で保護するか営業秘密とするか) を特定します。このチームはこの発明の他の技術との類似性を検討し、他の企業がそれを使用する可能性があるか否かを問います。例えば、それは他の企業が競争力を維持するために導入しなければならないゲーム・チェンジャーかといった質問です。このチームはまた、この発明の潜在的市場規模 (とりわけその特許のライセンス供与が事業計画の一部である場合) と、その発明を具体化した製品をどこで販売または製造するかを検討します。

中小企業が各国の経済にとって最も重要であることは明確です。彼らの確実に成功するよういかに支援するかが大きな問題です。中小企業の間で知的財産の意識を高めることが、非常に重要な第1歩です。 (写真: gradyreese / E+ / Getty Images)

こうして最終的に、中小企業は戦略的特許ポートフォリオの開発および管理プログラムの構築に成功するでしょう。これらのプログラムは、特許弁護士もしくは社内の技術および/または事業スタッフによって運営される可能性があります。特許が法的強制力を持つのはそれを付与した国においてのみであり、また特許維持年金は特許期間を通じて支払う必要があるため、そのプログラムによって、特許保護を求める国とその期間を決定することが可能になります。これらの変数は、発明の対象となる市場と製品に含まれる発明の耐用年数によって決まります。特許プロセスは中小企業にとって負担となる可能性がありますが、WIPOが運営する特許協力条約 (PCT) は、複数の国で保護を求める場合に費用対効果の高い選択肢を提供します。例えば、PCTに基づいて国際出願を1通提出すれば、出願人は、国際化に関連する一部のかなりの額の特許出願手数料の支払いを2年半延期でき、発明の商業的価値を評価するための時間を得ることができます。さらに、ますます多くの国が中小企業に割引を提供しており、プロセスがより安価になっています。

営業秘密

もう1つの方法として、中小企業は彼らの革新的な成果とその他の非公開情報を営業秘密として保護することができます。

ほとんどの国が、営業秘密を含む機密情報のための法的保護を、何らかの形態で提供しています。そのため営業秘密保護プログラムは特許保護プログラムとともに無理なく両立しており、すべての企業の知的財産戦略の極めて重要な一部となっています。営業秘密は登録されない形態の権利であり、それらを得るための特許庁での正式手続きはありません。

営業秘密プログラムは、技術および事業の機密情報を特定し、そのような情報を潜在的パートナー、サプライヤーおよびその他と共有する場合は、必ず秘密保持契約が結ばれることを求めます。営業秘密プログラムはまた、スタッフが業務において触れるすべての技術および事業の機密情報について、守秘義務を守ることを義務付ける条項が雇用契約に含まれることを保証します。

中小企業は、資本調達、R&D活動への参加、製品の市場への投入、あるいは自社の特許技術の他社へのライセンス供与のために、頻繁に他社と協力します。知的財産の所有者は、この協力に持込む知的財産資産の価値を明確に認識する必要があります。 (写真: SDI Productions / E+ / Getty Images)

真に機密である文書化された情報のみが、そのようなものとして指定されます。すべての文書を機密扱いしたくなるかもしれませんが、過度に包括的な機密プログラムは、結果的に真に機密の情報が保護されていない状態を招く可能性があります。したがって、機密および非機密情報を区別することが非常に重要です。

営業秘密プログラムはまた、機密情報には、業務を遂行するためにそれを知る必要のある従業員だけがアクセスできることを保証します。これによって、機密情報が企業外に公開されるリスクは減少します。

営業秘密と特許それぞれの保護活動を緊密に連携させることは非常に重要です。営業秘密として保護するのが最適な発明もあるでしょうが、その他の発明も、特許を取る可能性があれば、関連する特許を出願するまでの間は営業秘密として扱う必要があります。

著作権およびクリエイティブ・コンテンツ

中小企業はまた、著作権保護を彼らの事業に役立てる方法を慎重に検討する必要があります。著作権によって、著作者は自分の関連する製作品の他人による無断コピーを防ぐことができますが、その権利は広範囲におよび独創的創作物、例えば、コンピューター・ソフトウェアや宣伝用資料が含まれます。

著作権は、すべての独創的製作品を創作した時点で即時かつ自動的に発生します。つまり、登録は通常必要ありません。しかしそれでも、会社の手を離れるすべての創造的製作品に著作権表示を行うことは適切な行為です。著作権表示によって、その企業が著作権を主張する意向であることを広く知らせ、いわゆる権利侵害者が、その製作品が保護されていることを知らなかったと主張できなくなります。著作権の登録は公式な要件ではありませんが、一部の国では自主的な登録システムが存在する場合があり、また他の国では、権利を行使するためには登録が前提条件となる場合があります。このため、これらの事柄について法的助言を求めることをお勧めします。

もう1つの方法として、中小企業は、デジタル・タイムスタンプ・サービスを使って、特定の時間と日付に製作品が既に創作されて (かつ著作者が保有して) いたことを証明することが可能です。このサービスは使いやすく価格も手頃です。

商標およびブランディング

中小企業はまた、マーケティング・チームの支援を受けて、しっかりとしたブランディング・プログラムを構築することにより大きな利益を得ることができます。

商標はすべてのブランディング・プログラムの中核です。商標によって、顧客との信頼関係を構築すること、自社の商品とサービスを競争相手に対し差別化すること、そしてその商業的評価を確立することが可能になります。

商標保護は商標権が与えられた市場でのみ有効です。そのため、マーケティング・チームは、商標専門家と緊密に連携して、対象市場における当該商標の利用可能性を判断する必要があります。商標権の管理においては、社内ガイドラインを策定し、特に製品およびサービス、ならびにマーケティング資料における商標の適切な使用を確保すると共に、登録商標の名称が法的強制力のない一般名称になることを防ぐのが優れた対応です。

WIPOのマドリッド協定は、国際商標登録のための1件の出願を行うことで最大124カ国において商標権の登録 (およびその後の管理) ができる、コスト効果が高く利用しやすい方法を提供します。

知的財産権によって、中小企業は、彼らの技術的イノベーションを保護する機会と、事業の遂行を最適化する柔軟性を得ることができます。

この場合も同様に、商標は私権であるため、乱用または権利侵害行為の監視のすべては商標権の所有者が行わなければなりません。商標権の行使は、権利侵害が発生した国の裁判所で、通常製品およびサービスに関する商標登録の個別の通知を規定している国内の商標法に従って行う必要があります。中小企業は、権利侵害事件において最大限の損害裁定を得るために、これらの条件に従う必要があります。

意匠権

中小企業はまた、彼らのデザインによってそのブランドと市場での評価を向上させることができます。デザインは、すべての製品の商業的成功を決定する最大の要因であり、すべての企業が着目する重要な点です。良いデザインは製品の市場価値を高め、それを市場で際立たせます。中小企業はデザインへの投資を意匠権で保護することができます。それは一部の法域では意匠特許と呼ばれています。意匠権は、形状、模様および色彩など製品の装飾的外見を保護するものです。中小企業にとって、多くの個々の国における意匠権の申請とその後の権利の管理は、真の難題となる可能性があります。WIPOが運営するハーグ協定は、意匠の国際登録のための1件の国際出願により意匠権の迅速かつ容易な取得、管理および更新が、90カ国を超える国において同時にできる国際的な仕組みを提供します。

権利侵害者への対応

前述したとおり、権利の不正使用に対応するのはすべて中小企業の責任です。どのような選択肢があるでしょうか。知的財産権が侵害されたことが明白であれば、中小企業は状況を新たな商機に変えることができます。その方法は。ライセンス契約の交渉です。もう1つの方法として、その企業は裁判で権利を行使することができます。初めに専門家の法的助言を得ることをお勧めします。一部の法域では、該当する知的財産権の告知を製品に表示することで、中小企業が裁判で勝訴した場合に最大限の損害賠償を得ることができます。この表示によって、権利侵害者が侵害の通知を受けた時点から、表示のある製品の権利侵害が実際に始まった時点へと、損害賠償の該当期間の開始が早まります。

偽造品や海賊品の輸入によって販売が脅かされた場合、侵害訴訟の結果が出るまでの間、権利侵害が疑われる商品の国境における差止めを求める申請を税関に行うことができます。犯罪者が偽造または海賊版の製造を商業規模で行う場合は、民事の法執行では効力がない可能性があり、警察または市場検査官の介入が必要になるかもしれません。

協力

中小企業は、資本調達、R&D活動への参加、製品の市場への投入、あるいは自社の特許技術の他社へのライセンス供与のために、頻繁に他社と協力します。一般的に、そのような協力は知的財産権によって裏打ちされています。

これらの関係を取決める際に、知的財産の所有者は、この協力に提供する知的財産資産の価値を明確に認識する必要があります。第三者による知的財産評価を利用することでさらに明確なイメージを得ることができ、利用できる資金や投資額が増える可能性があります。知的財産権を担保として利用する企業が増えています。これによって中小企業の資金調達に新たな道が開かれる可能性がありますが、債務不履行が発生した場合に自社の最も重要な資産を失うリスクも伴います。同様に、知的財産資産をライセンス供与する場合、中小企業はそのライセンスが彼らの特許の恒久的な負担となり、その結果この特許の価値を低下させる (例えば破産発生の場合) ことがないように注意する必要があります。

政府資金による研究活動

多くの中小企業が、彼らのR&D活動を維持するために、政府資金による学術研究機関と契約上の取決めを結んでいます。そのような関係は大きな利益を生む可能性がありますが、中小企業はそれらを締結する前に様々な要因を検討する必要があります。

1つ目として、中小企業は、このベンチャーから生まれる知的財産の所有権および管理に関する政府の方針を理解する必要があります。中小企業は、所有権の譲渡またはライセンス契約により、この知的財産の自由な利用を確保する必要があります。この分析では、買収企業が知的財産を利用できるか否かを含む、中小企業の出口戦略を検討しなくてはなりません。

2つ目として、R&Dの協力契約が知的財産のすべての形態に対応しており、彼らが商品化のために必要なすべての権利を得ることを保証する必要があります。例えば、この協力を通じて開発された独自の製造プロセスがあれば、中小企業はそれに具体的に言及すべきでしょう。そのプロセスが登録商標によって保護されている場合は、中小企業はその登録商標を自社のマーケティング資料で使用する権利を得る必要があります。

3つ目として、この契約では、ライセンシーが当該製品の製造、利用および販売ができるように、ライセンスの範囲、期間、対象となる製品およびその他について慎重に定義しなければなりません。

4つ目として、政府資金による研究契約の当事者は、ライセンス製品に対する改良の取扱い方法について合意し、それらの改良によって具体化されたすべての知的財産への十分なアクセスを当事者に提供する必要があります。

最後の考察

様々な種類の知的財産権によって、中小企業は、彼らの技術的イノベーションを保護する機会と、事業の遂行を最適化する柔軟性を得ることができます。知的財産権の恩恵を最大限に受けるために、統制のとれた戦略的知的財産保護プログラムを最初から構築することは、中小企業にとって極めて重要です。そのようなアプローチによって、代替的な事業アプローチや選択肢が容易になります。知的財産権によって、中小企業は彼らの事業の発展につれて、協力の成功、商品化および他の前向きな結果を後押しする明確な事業の枠組みを作り上げることができます。

まず初めに、WIPOの知的財産診断 (IP Diagnostic) を確認してください。.

WIPO Magazineは知的財産権およびWIPOの活動への一般の理解を広めることを意図しているもので、WIPOの公的文書ではありません。本書で用いられている表記および記述は、国・領土・地域もしくは当局の法的地位、または国・地域の境界に関してWIPOの見解を示すものではありません。本書は、WIPO加盟国またはWIPO事務局の見解を反映するものではありません。特定の企業またはメーカーの製品に関する記述は、記述されていない類似企業または製品に優先して、WIPOがそれらを推奨していることを意図するものではありません。