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遺伝子のハサミ:命の最先端で

2020年12月

James Nurton (フリーランスライター)

2020年10月7日、ドイツのベルリンにあるマックス・プランク感染生物学研究所の所長であるエマニュエル・シャルパンティエ教授と米国カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授が「ゲノム編集法について」ノーベル化学賞を受賞しました。CRISPR-Cas9という「遺伝子のハサミ」の発見は、これまでのところ、今世紀で最も重要な科学的発展の1つです。この遺伝子のハサミは、農業や医学の変革、そして、ハンチントン病、嚢胞性線維症、特定の種類の癌などの遺伝性疾患の治療の可能性を持っている技術です。しかし、この技術は、研究者自身が認識しているように、複雑な倫理的課題、特許に関する課題、政策的課題も引き起こしますが、その調査はまだ始まったたばかりです。

ジェニファー・A・ダウドナ教授(左)とエマニュエル・シャルパンティエ教授(右)は、21世紀の最も重要な科学的発展の1つであるCRISPR-Cas9「遺伝子のハサミ」の発見により、ノーベル化学賞を共同受賞しました。 (写真:KEYSTONE/dpa/Alexander Heinl)

シャルパンティエ教授とダウドナ教授の共同研究では、病原菌とRNA干渉に関する各教授の専門知識が結集されました。シャルパンティエ教授によれば、この研究は2011年に始まり、「短期間で集中的」なものでしたが、その影響は今後何年にもわたって実感できるでしょう。彼女たちの重要な研究成果は、細菌のDNAに見られる自然の防御メカニズムであるCRISPRと、酵素のCas9をプログラムして、任意の場所でDNA分子を切断できることを明らかにしたことです。

ノーベル化学委員会の委員長であるClaes Gustafsson教授は、スウェーデン王立科学アカデミーにより発行された論文で次のように説明しています。「この技術の開発により、科学者はさまざまな細胞や生物のDNA配列を変更できるようになりました。遺伝子操作はもはや実験的な制約ではありません。今日、CRISPR-Cas9技術は基礎科学、バイオテクノロジー、将来の治療法の開発に広く使用されています。」

一般的な用語

DNA: デオキシリボ核酸。遺伝的指示を運ぶすべての細胞に存在する分子。

RNA: リボ核酸。DNAの「いとこ」と呼ばれることもある一本鎖分子。

CRISPR: クラスター化された、規則的に間隔が空いた短い回文配列が反復されるDNA配列。

Cas: ウイルスDNAを切断するCRISPR関連タンパク質。93個あるうちの1個がCas9。

TracrRNA: CRISPR RNAをトランス活性化することで、CRISPR配列から作成された長いRNAをその活性型に変換することができる。

生物学的システムを形成する革新的なツール

「CRISPR-Cas9 pdf は、遺伝子編集をより速く、より正確に、より安く、より簡単に操作できるようにする強力なツールです。また、人間医学、農業、バイオ燃料など、多くの用途を持つ社会的に画期的な技術です」と英国ケンブリッジ大学の法医学生命科学センター所長であるKathy Liddell博士は述べています。世界保健機関のHGE(ヒトゲノム編集)レジストリによると、2020年10月の時点で、鎌状赤血球症やベータサラセミアなどの広範な遺伝病を含む、ヒトゲノム編集(HGE)技術を用いた115件の臨床試験が進行中です。2020年3月、小児失明の原因となり、現在、他に治療法がないLCA10と呼ばれる希少疾患を患っている人に対して、初めてCRISPER-Cas9遺伝子治療が行われました。このケースでは、病気の原因となる遺伝子(CEP290)の変異を除去するためにCRISPR-Cas9遺伝治療法が用いられました。

しかし、CRISPR-Cas9は、長く続く(そしてまだ解決されていない)特許紛争や「デザイナーベビー」に関する倫理的議論など、あまり好ましくない話題も生じさせています。これはCRISPR-Cas9が「過去40年間で最も重要なバイオテクノロジーの進歩」であるという事実を反映している、と米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校法学部のJacob S. Sherkow教授は述べています。「これにより、科学者、研究者、開発者は生細胞の遺伝子を正確に編集できます。つまり、人々を生かすソフトウェアを編集することができるのです。」と彼は付け加えています。

責任ある開発

ノーベル賞を受賞したシャルパンティエ教授とダウドナ教授は、早い段階で自らの発見の大きさに気づきました。ダウドナ教授は、2014年頃までに公の倫理的議論に参加する責任が高まっていると感じていたと述べました。2020年の初め、Financial Timesで次のように述べています。「このような強力なテクノロジーが及ぼすより広範な影響や、責任を持ってそれらを開発する方法について考える必要があります。」現在、ダウドナ教授は、米国カリフォルニア州バークレーを拠点とするInnovative Genomics Instituteの設立を支援し、同機関の会長兼ガバナンス委員会委員長を務めています。同機関は、世間の理解を促進し、より幅広いコミュニティに情報を提供し、遺伝子技術の倫理的な利用を導くことに取り組んでいます。

2018年11月、中国の科学者である賀建奎氏がCRISPR-Cas9を用いて遺伝子編集された双子の女の子を作り出したと発表した際、倫理的な問題が浮き彫りになりました。調査のためにすぐに香港(SAR)に飛んだダウドナ教授を含む科学者たちは研究を非難しました。その後、賀建奎氏は大学から解雇され、罰金を科され、3年間投獄されました。

遺伝子操作はもはや実験的な制約ではありません。

この事件は大変異常な事態でした。賀建奎氏の研究は規制も公表もされておらず、科学的にも信頼できませんでした(遺伝子組み換え胚はHIV免疫を与えるとの同氏の主張は非常に懐疑的なものでした)。Sherkow教授は、遺伝的疾患を回避したり、特定の特性を優遇したりするためにヒト胚を編集することについての倫理的議論は新しいものではなく、1970年代の体外受精(IVF)の導入以来存在していると述べています。「CRISPR-Cas9に関するいくつかの懸念は大きく誇張されています。これまでに行われていることとそれほど違いはありません」と述べています。

Liddell博士は、次のように述べています。「たとえば、英国では、体外受精や出生前スクリーニングなど倫理的論争の的となる問題について、幅広く実用的な審議を行ってきた実績があります。社会や人間の価値観に対して遺伝性の遺伝子編集による実害があるかどうかについての議論を精査することが重要です。」多くの国(英国を含む)では、IVFの研究は公的機関によって管理されているため、新しい問題が発生した際、それについて議論し、解決することができます。

特許制度の役割

CRISPR-Cas9によって提起された倫理的問題は、人間の生殖細胞系の編集に限定されません。生物学的システムを変革する可能性を考慮すると、次のような疑問が浮かびます。テクノロジーを誰がどのように使用できるかを誰が決定するのか?どのような使用が安全で社会的に受け入れられるのか?どの研究を優先すべきか?特に公的支払いに基づく医療制度において、治療ごとに数百万ドルの費用がかかる人生を変えるような治療への公正なアクセスを確保する方法とは?作物や燃料の遺伝子を改変することによる農民や農業労働者への社会的および経済的影響とは何か?そのような使用が生態系にどのような影響を与えるか?

こうした課題の一部は、社会全体の利益のためにイノベーションを奨励するように設計された特許制度の役割に必然的に関係します。研究者たちは過去10年間にCRISPR技術を含む何千もの特許出願を申請しています。これは研究と技術開発への投資を呼び込み、奨励する上での特許の重要性を示しています。ダウドナ教授自身、「これまでに開発されてきた膨大な知的財産の層があります。私たちが価値のある製品を作り出したときに、それが将来どのように機能するかを見るのが楽しみです。」と述べています。標準化団体MPEGLAは、関連する特許技術へのアクセスを促進するために、CRISPR-Cas9共同ライセンスプラットフォーム(またはパテントプール)の構築を提案しています。

研究の工程

1953年:Francis Crick教授とJames Watson教授がDNAの分子構造を特定する。

1987年:石野良純教授が原核生物のDNAの繰り返し構造を特定する。

1993年:Francisco Juan Martínez Mojica教授が「CRISPR」という用語を作り出す。

2005年: CRISPRが外来DNAに対する防御となることがMojica教授によって提案される。

2008:Erik Sontheimer教授とLuciano Marrafinni教授がCRISPRメカニズムを遺伝子編集ツールとして特定する。

2011年春:微生物学者のエマニュエル・シャルパンティエ教授と生化学者のジェニファー・ダウドナ教授がプエルトリコでの会議期間中に出会い、CRISPR-Cas9について初めて話し合う。

2012年6月:シャルパンティエ教授とダウドナ教授などが、Scienceにて「A Programmable Dual-RNA–Guided DNA Endonuclease in Adaptive Bacterial Immunity(適応細菌免疫におけるプログラム可能なDual-RNA–Guided DNAエンドヌクレアーゼ)」というタイトルで公開する。

2013年3月:ウィーン大学とカリフォルニア大学が「RNA依存性標的DNA修飾およびRNA依存性転写調節のための方法および組成物」というタイトルの米国特許出願を提出する(優先日2012年5月25日)。シャルパンティエ教授とダウドナ教授はこの発明者に含まれていた。

2012年12月:ブロード研究所のフェン・ジャン(Feng Zhang)教授が、CRISPRが真核細胞で機能することを示す論文を発表し、その後、米国特許を出願する。カリフォルニア大学バークレー校とブロード研究所の間の一連の米国特許商標庁(USPTO)特許インターフェアレンス手続が始まり、2020年9月に最新の決定が発表された。

2020年10月:シャルパンティエ教授とダウドナ教授が「ゲノム編集の方法の開発」でノーベル化学賞を受賞する。

後に続く特許紛争

シャルパンティエ教授とダウドナ教授は2013年に米国で最初の出願を行い、PCT出願(WO/2013/176772として公開)を通じて他の多くの国にも移行されました。2015年以降、カリフォルニア大学バークレー校およびウィーン大学(特許出願人)は、米国ブロード研究所との間で、出願の有効性を判断するための米国特許商標庁(USPTO)での特許インターフェアレンスをめぐる争いに拘束されています。同じ当事者間の紛争は他の法管轄でも発生していますが、それらはまだ解決していません。Sherkow教授が述べているように、さらなる法廷紛争が起こる可能性もあります。「大きな問題の1つは、なぜこれらの紛争が解決されていないのか、そして誰が解決することに対して消極的なのかということです。賭けの代償は非常に大きく、関係するさまざまな科学者からの証言とともに、誰が「single guide RNA」を最初に発明したかに関しての完全な裁判をまだ見ることができていません。」と彼は述べます。

これまでのところ、おそらく驚くべきことに、特許紛争は、特許性のある発明の対象ではなく、その範囲と優先権に関する問題に関係しています。英国ロンドンのクイーンメアリー大学のクイーンメアリー知的財産研究所の所長であるDuncan Matthews教授が述べているように、特許制度はCRISPR-Cas9などの「技術の全体的なガバナンスの一部」です。特に、多くの特許法には、道徳性または社会的秩序の観点から特許発明の対象を除外する規定があります。これらは国内特許法で定義されており、WIPO特許法常設委員会によって作成された文書(最終更新日2020年4月)にも記載されています。この特許発明の対象を研究するために特許とゲノム編集に関する専門家グループ pdfを招集したMatthews教授は次のように述べています。「道徳的例外を適用する必要がある欧州特許庁の特許審査官は、申請を完全に拒否するのではなく、ゲノム編集のための組成物またはベクター系(伝達方法)に対するクレームを許可することでうまく対応したと思います。彼らは記載されているとおりに法律を適用しています。他の特許制度では、[除外がどのように解釈されるかを]言及するのはおそらく時期尚早であり、道徳や自然の産物に関する例外についての論争はまだ見られません。」

強力なテクノロジーが及ぼすより広範な影響や責任を持ってそれらを開発する方法について考える必要があります。

ジェニファー A. ダウドナ

技術ガバナンスメカニズムとしての特許

Matthews教授は、特許庁がゲノム発明の特許を取得できるかどうかについて、さらなる対応をする必要があると考えています。「これまで、ヒトゲノム編集に関する議論で特許が取り上げられることはほとんどありませんでした。近年、ヒトゲノム編集のガバナンスの一部として特許を検討しているWHO専門家諮問委員会に証拠の提示を依頼されたことは喜ばしいことでした。」WHO国際専門家パネルは2018年12月に設立され、2019年7月にガバナンスと監視に関する声明を発表しました。

Matthews教授は、特許制度は不正な研究を防ぐ手段になる可能性があると指摘しています。「責任を持って特許を使用することで、倫理的ライセンス制度の下で規制されていない使用を阻止することができるでしょう。」

シャルパンティエ教授とダウドナ教授の発見により、細菌のDNAに存在する自然の防御メカニズムであるCRISPRと酵素のCas9によって、DNA分子をいつでも「切断」できることが明らかになりました。(写真:© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences)

大胆な未来

遺伝子編集の詳細は十分な知識を持っていない人には複雑に見えるかもしれませんが、科学者はCRISPR-Cas9のツールが比較的単純であるため、世界中の研究者が幅広い分野で利用できると語っています。特許争いが盛んに行われているにも関わらず、「CRISPRに関する学術研究は数年前に始まったばかりです。」とSherkow教授は述べ、「CRISPRの限界は人間の想像力です。」と指摘します。

ノーベル賞受賞者であるシャルパンティエ教授とダウドナ教授はこの研究に大きく貢献しており、それぞれの名前が数十件の特許出願に記載されています。シャルパンティエ教授はバイオテクノロジー企業のCRISPR TherapeuticsとERS Genomicsに知的財産のライセンスを供与し、ダウドナ教授はCaribou Biosciences、Intellia Therapeutics、Mammoth Biosciencesを共同設立しました。「2人の女性がノーベル化学賞を共同受賞したのはこれが初めてで、この功績は特に科学に興味のある世界中の女の子たちにインスピレーションを与えるでしょう。」とLiddell博士は述べています。

CRISPRの限界は人間の想像力です。

Jacob S. Sherkow

彼女たちの研究は、様々な生物に対するCRISPR-Cas9の使用に関する論文を発表した何百人もの研究者に影響を与えました。また、科学者たちは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査と治療を含め、Cas12aやCas13などの他のCRISPR関連システムの可能性を調査しています。この研究の一部では、機械学習やディープラーニング(深層学習)などの強力な人工知能ツールを使用して、予測可能性を向上させ、オフターゲット効果を減少させています。シャルパンティエ教授とダウドナ教授の画期的な共同研究から10年足らずで、すでに大きな進歩を遂げていますが、さらに多くの成果を近い将来に見ることができそうです。

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