インドネシアのクリエイティブ経済を活用する

2019年10月

著者Catherine Jewell、WIPO出版部

インドネシアは東南アジア最大の経済圏で、生物学的多様性および文化的多様性の両方の点において世界で最も多様な国の一つです。2015年、ジョコ・ウィドド インドネシア大統領は、インドネシアのクリエイティブ経済の大きな可能性を活用する政策を開発および調整する任務に取り組む非大臣省庁のインドネシアクリエイティブ経済庁(BEKRAF)を設置しました。BEKRAFのIPR促進・規制部門担当副会長インドネシアのクリエイティブ経済庁IPR促進・規制部門担当副会長Ari Juliano Gema 氏が、インドネシアのクリエイティブ事業の成功を支援するための組織の取り組みについて紹介します。

インドネシアのクリエイティブセクターの規模はどれぐらいですか?中核となる強みとは何ですか?

「インドネシアのクリエイティブ経済には未開発の可能性がありま
す。」とインドネシアのクリエイティブ経済庁(BEKRAF)IPR促進
・規制部門担当副会長Ari Juliano Gema 氏は述べました。
(写真: BEKRAF提供).

インドネシアのクリエイティブ経済は、非常に多様で、16のサブセクターで構成されています(ボックス参照)。近年の実績により、その確かな成長の可能性を実証しています。2017年、 当セクターはGDPの7%以上を創出し、約1,590万人に対する雇用機会を創出しました。また、2020年までには、およそ1兆9240億インドネシアルピア(約1億3000万米ドル)になることが予測されています。

インドネシアのクリエイティブ経済には未開発の可能性がありますが、多くの課題にも直面しています。セクターの大半が、いまだに国内でのみ商品を販売している中小企業で構成されています。知的所有権が事業に与える価値に関する知識がほとんどなく、オペレーションを拡大するために必要な金融資本や技術にアクセスすることもできません。

私たちが享受している人口ボーナスと同様、文化的多様性が中核となる強みです。2030年までに、1億8000万人の若年層が労働力として経済活動に参加するようになります。現在、若年層の間でクリエイティブ経済に対する熱意が多く見られます。多くの若者が新興企業を設立し、優秀なクリエイティブコンテンツやクリエイティブイベントを開発しています。また、成功を収めている多くのパフォーマー、歌手、YouTuber(ユーチューバー)を輩出しています。

観光もまた、当セクターの発展を支援する重要な役割を担っています。例えるなら、観光業は皮膚で、クリエイティブ産業は筋肉であり肉体であると言えるでしょう。観光客がインドネシアを訪問する際、私たちが生産する製品を見て、家に持ち帰りたいと思うのは良くあることです。観光業を支援するための動きとして、政府は10カ所の主要観光地を指定しました。BEKRAFは、これらの観光地が現地の文化やクリエイティブ産業の可能性を活用し、観光客にとっていつまでも魅力的な場所でいられるように、彼らを支援しています。

インドネシアのクリエイティブ経済

インドネシアのクリエイティブ経済は以下16サブセクターで構成されています。:

  • アプリおよびゲーム開発
  • 建築
  • インテリアデザイン
  • ファッション
  • 製品デザイン
  • ビジュアルコミュニケーションデザイン
  • 映画、アニメーション、ビデオ
  • 写真
  • 工芸品
  • 料理芸術
  • 音楽
  • 出版
  • 広告
  • パフォーマンス芸術
  • 美術品
  • テレビおよびラジオ

これらサブセクターは、インドネシアのGDPおよび輸出と雇用の促進に大きく貢献することが期待されています。

BEKRAFの役割とは何ですか?

BEKRAFの主な役割とは、インドネシアのクリエイティブ事業がその生産力を促進し、成功できるようなエコシステムを築き上げることです。クリエイティブ経済庁には、「調査、開発および教育」、「資金へのアクセス」、「インフラ、マーケティング、ファシリテーション」、「知的所有権の規制」、「政府間関係」、「地域間関係」の6つの機能があります。私たちは、クリエイティブ経済支援プログラムを確立した他の政府機関と協力し、私たちの取り組みがそれらと整合し、首尾一貫しているかを確認します。私たちの最も重要な目標は、クリエイティブ経済が国家の経済パフォーマンスの主力となる状況を構築することです。

インドネシアのクリエイティブ経済で優秀なセクターとは何ですか?

ファッション、料理、工芸品のサブセクターが最も成熟しており、GDPに最大の貢献をしています。例えば、ファッションに関しては、バティック作りの長く続いてきた豊かな伝統があり、才能溢れる現代のデザイナーが多くいます。私たちの目標は、このサブセクターの高いレベルのパフォーマンスを維持することです。

「文化的多様性は私たちの強みです。それは、知的所有権の効果的な使用に基づいて築かれた安定したクリエイティブ経済を発展するための手段を提供します。」

また、映画、音楽、コンピューターアプリおよびゲーム産業にも、安定した成長を見せる興味深い発展があります。特に興味深いのは、インドネシアの映画産業の発展です。例えば、2018年、10作品のインドネシア映画がインドネシアの映画館に100万人以上の観客を動員しました。Falcon Pictures 製作の「Warkop DKI (ワルコップDKI)」はインドネシア国内で約700万人の観客を動員しました。これは初めてのことでした。インドネシア映画は国際的にも成功を収めています。「Marlina the Murderer in Four Acts(殺人者マリーナの四幕)」は最近、アメリカで封切られ、「Sekala Niskala (スカラ ニスカラ) 」は、2018年ベルリン国際映画祭でグランプリを受賞した初めてのインドネシア映画となりました。その後、アジア太平洋映画賞、アデレード映画祭の国際特集フィクション賞を受賞しました。

これらサブセクターを実際にはどのように支援していますか?

ファッションは、インドネシアで最も成熟し、活気があり、
経済的に重要なクリエイティブサブセクターの一つです。
(写真: Picture Capital / Alamy Stock Photo)

インドネシアのクリエイティブ事業を支援するために、効果的な規制の枠組みを確立するよう取り組んでいます。また、彼らが開発および成長に必要な資金にアクセスできるよう支援しています。各セクター内では様々なイニシアチブを主催しています。例えば、映画セクターでは、若い映画制作者たちが イタリアのTorinoFilmLabに滞在し、技術に磨きをかけける機会を設けました。また、何名かの映画製作者を国際映画祭に、他にも数名をアカタラインドネシアクリエイティブファイナンシングフォーラムに招待し、アイデアを投資家に売り込む機会を提供しました。フォーラムは今年、これまでに映画館で公開された5作品に融資をしており、他にも複数の映画を制作中です。外国人投資家の間ではインドネシア映画の共同制作または共同監督に多くの注目が集まっています。約2億5000万人を抱えるインドネシア市場は大変魅力的なのです。

同様に、音楽セクターでは、国内および国外市場でインドネシアのクリエイティブな才能を発掘、促進、売り出す包括的プログラム、インドネシアクリエイティブ社団法人(ICINC)を企画しています。また、音楽業界から音楽のプロを一堂に集め、次世代の音楽家たちに彼らの知識や洞察を共有するイベント、Musikologiも運営しています。私たちが企画するクリニックでは、若い音楽家たちが音楽事業や知的所有権について学ぶためのサポートを提供しています。BEKRAFもまた、印税率の設定およびアーティストへの収益の収集と再分配を担当するインドネシアの共同管理組織の促進に取り組んでいます。

そして、マスタークラスとクリニックのシリーズを組み込んだBEKRAFディベロッパーデーを通じて、ソフトウェアの専門家が新しい技術を習得したい若い愛好家に彼らの知識を共有する機会を提供しています。インドネシアでは、このようなトレーニングを受ける機会へのアクセスが非常に限られているため、これらのイベントは大変に人気があります。また、有望な新興企業は、政府出資による様々なイニシアチブを通じて、アメリカで開催されるSXSWコンファレンスやスタートアップワールドカップのような国際的なイベントに参加することができます。このようなイベントへの参加を通じて、インドネシアに非常に才能のあるソフトウェア開発者がいることを世界に示します。

インドネシアで最も成熟している最大セクターのファッションでは、例えば、ファッショントレンドを調査したり、次世代のデザイナーに政府からの補助金を提供したりすることで、補助的な役割を果たしています。同様に工芸品セクターでは、Inacraftのようなイベントを支援しています。また、世界最大の工芸品イベント、NY Nowのような国際的な集いにアーティストが参加できるようサポートしています。バティックの作り手のためのワークショップを通じて、これらアーティストの職業的地位と作品の質を向上し、競争力を高めるための支援をしています 。

インドネシアでは、テクノロジーで競合することはできませんが、創造力と文化で競争に参加します。

インドネシアの文化的資産価値を高めるうえで、知的財産はどのような役割を担いますか?

知的財産はクリエイティブ経済の中核にあります。知的財産保護なしでは、生産物-はただの商品となり、そこに付加価値はありません。そのため、知的財産資産の戦略的使用により創出される利点について、クリエイティブセクター全体で認識を高めることは最優先事項になります。

2017年、 インドネシアのクリエイティブセクターは、9億9000万インドネシアルピア(790万米ドル)、GDPの7%以上を生み出し、約1,590万人もの雇用機会を創出しました。「2020年までには、およそ1兆9240億インドネシアルピア(約1億3000万米ドル)になることが予測されています。」とAri Juliano Gema氏は述べました。 (写真: 〜の厚意による BEKRAF).

有名なインドネシア映画「Ada Apa Dengan Chinta(ハンター氏の恋人は作家)」のプロデューサーが達成したことは、知的財産の戦略的使用による近年の成功例です。2004年に公開された映画は大ヒット作品となりました。その人気を利用するチャンスに気づいたプロデューサーは、テレビシリーズと商品化(Tシャツやその他のファッションアイテムなど)のライセンス契約を結びました。そうすることで、もう一つのヒット作品で、後に映画と同名のコーヒーショップもオープンすることとなった「Filosofi Kopi(コーヒー哲学)」に融資する十分な資金を作ることができました。BEKRAFの役割は、インドネシアのクリエイティブ事業に対する資金の流れを調整し、知的財産資産に関してより戦略的に考えるようクリエイティブ事業を促すことで、国内の多くのクリエイティブ資産を収益化および商業化するための支援をすることです。

どのようにして認識を高めていますか?

インドネシアで知的財産の認識を高めることは非常に困難です。インドネシアのクリエイティブ経済の中で、知的所有権を取得した関係者はたった11%です。この状況に対応するため、全国の都市で知的財産啓蒙活動を定期的に企画しています。これらのイベントは、クリエイティブ事業が知的財産に関して学び、潜在的な投資家と接触する機会になります。知的財産関連の問題を扱う報道各社の数は増えており、これは私たちが着実に前進していることを意味しています。

また、BEKRAFは近年、モバイルアプリ、BIIMA(モバイルアプリによるBekraf IPR情報の提供)を発表し、知的所有権に関する基礎情報をユーザーに提供しています。アプリを開き、製品(多くの選択肢がある)を選択し、権利を取得するには何をする必要があるのか、そうするにはいくらかかるかなど、関連する知的所有権についての情報を得ることができます 。私たちの目標は、2022年までにユーザー100万人を達成することです。開発に6ヶ月を要したこのアプリは2016年7月に公開され、現時点では、1,500人の登録者がいます。BIIMAは小企業や職人コミュニティの間で知的財産に関する理解を深めるための実用的なツールで、これにより知的財産利益のより良い保護を実現し、知的財産資産の価値を活用できるようになります。

偽造や著作権侵害は大きな問題ですか?

はい、多くの国で問題となっているように、当地域でもこの課題に直面しています。BEKRAFは海賊版対策委員会を設置しました。知的財産侵害の事例を調査する権限はありませんが、クリエイティブ事業に商品が侵害された場合の実用的なガイダンスとアドバイスを提供しています。つまり、私たちはクリエイティブ経済の当事者と施工当局の橋渡しをしています。クリエイターが知的財産侵害の事例を報告しなければ、施工当局は何もできないため、これは大事なことです。

また、多くの人がいまだに正規のストリーミングプラットホームへのアクセスを持たないため、インターネット上の著作権侵害も現在、大きな問題です。しかし、著作権侵害が増加している理由は、正規の商品へのアクセスの困難さや高額すぎる料金に限られたことではなく、中毒性のある行動も大きな要因となっています。悪いことだとわかっていながらも、一部のオンラインユーザーは尚もクリエイティブ作品の海賊版を購入します。これにはどのように対処すればよいでしょうか?厳しい制裁を科すことはあまり効果的ではありませんでした。このような行為を変えるには、教育が鍵となります。私たちは著作権侵害や偽造がもたらす損害をできるだけ若い年齢のうちに人々に教える必要があり、そのような教育は包括的かつ継続的に行う必要があります。

インドネシアのクリエイティブ経済の発展についてどのようにお考えですか?

クリエイティブ経済は、インドネシア経済を支える柱となるでしょう。すでに年間1兆1000億インドネシアルピアを創出しています。文化的多様性は私たちの強みです。それは、知的所有権の効果的な使用に基づいて築かれた安定したクリエイティブ経済を発展するための手段を提供します。これにより、インドネシアは経済的野望を実現し、社会の進歩と文化の発展を促進することができます。インドネシア人全員が、クリエイティブ経済の継続的な発展および拡大により生み出される富の恩恵を受ける立場にあります。

インドネシアのクリエイティブ事業に対してメッセージはありますか?

2030年までにインドネシアは世界最大の経済圏の一つになることが予想されています。この経済発展を活用するために、クリエイティブ事業は、イノベーションとクリエイティブな作品の経済的利益を完全に享受する唯一の方法が、知的所有権で作品を保護することだと理解する必要があります。人々はもっと知的財産に精通する必要があります。急速な進化を遂げるビジネス環境で作品の価値を活用できるようにする戦略やシステムを開発する必要があります。ですから、私のメッセージは、「これからもイノベーションに取り組み、自分の作品を知的所有権で保護し、その成果を楽しんでください!」ということです。

BEKRAFの将来の目標は何ですか?

私たちの現在の目標は、クリエイティブ経済をインドネシア経済の新しい柱とし、インドネシアが2030年までに世界的なクリエイティブ経済の当事者としての地位を確立することです。この目的を達成するために、2018年、BEKRAFは、機会均等とインクルージョンの手段としてのクリエイティブ経済を促進するために「包括的な創造性」をテーマにした初めてのクリエイティブ経済に関する世界会議をバリで主催しました。この観点に沿って、BEKRAFはクリエイティブ産業界内外で、知的財産の抜け目のない 保護と管理の利点に関して理解を促す取り組みに引き続き注力していきます。これは、国際市場でクリエイティブ事業が成功を収めるための環境を構築する際に必要不可欠です。

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