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サッカーのダービー: 「エル・クラシコ」、「フラ・フル」の商標権は誰の手に?

著者: Ana Clara Ribeiro(Baril Advogados (法律事務所) 知的財産弁護士兼パートナー (ブラジル・クリチバ))

2026/06/10

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サッカーの世界では、同じ都市、地域や国に本拠地を置くライバルチーム同士の対戦を「ダービー」と呼ぶことがしばしばあります。しかし、両陣営の歴史や根深い対立関係を「ダービー」の一語で片づけるのは、やや言葉足らずな感じがすることも否めません。つまり、場合によっては、独自のネーミングが求められるのです。




スペインでは、レアル・マドリードとバルセロナの対戦は「エル・クラシコ (伝統の一戦) 」として知られています。イタリアでの注目は、「デルビー・デッラ・マドンニーナ (聖母の戦い) 」です。これは、ACミランとインテルナツィオナーレという、ミラノを本拠地とする両チームの対戦です。そしてブラジルでは「フラ・フル」、つまりリオ・デ・ジャネイロに本拠を置くフラメンゴとフルミネンセの両チームの戦いが繰り広げられます。


時代の流れを経て、このようなニックネームは、フィールドでのプレーを超えて大衆文化に浸透し、世界中の数知れないファンやメディア、スポンサーが繰り返し口にするようになっています。こうした伝統的なダービーは、多くの点で、それ自体がブランドということができます。クラブ側もそれを認識し、スポーツジャーナリストによって幅広く取り上げられています。


知的財産 (IP) の分野に目を転じてみると、ある資産が複数の組織にまたがって共有されているようなケースにおいて、ブランドの所有権を判断するのは容易なことではありません。とりわけ、当事者である組織が敵対関係にある場合、事態は一層困難になる可能性があります。では、いったいどんな組織が、伝統あるダービーの名称に係る商標権を握っているのでしょうか。クラブやリーグ? それとも全く別の組織の手中にあるのでしょうか。


「エル・クラシコ」商標権を巡る争い


スペインリーグのダービーは、世界でも最大級の注目を集めるスポーツイベントで、2025年10月シーズンの視聴者数は6億5,000万人と推定されています。しかし、伝統的なダービーといえども、その多くは、当初からこれほど注目されていたわけではありません。長い年月をかけて現在の地位を築いていったのです。FCバルセロナとレアル・マドリードCFの両チームは、1902年の初対戦以来、伝説を積み重ねてきました。歴史に残る名勝負や劇的な対戦を通して、両チームのライバル関係はさらに激化しました。1943年のコパ・デル・レイでは、レアル・マドリードが11得点を挙げて、バルセロナに大勝していますが、これもそのような節目となった出来事の1つということができます。


最近では、バルセロナとレアル・マドリードの顔であるリオネル・メッシ (Lionel Messi) とクリスティアーノ・ロナウド (Cristiano Ronaldo) が、世界最高のサッカー選手としての評価を巡って、さらに熱いバトルを繰り広げています。


歴史に残るこのようなライバル関係が商業的に大きな関心を呼ぶことは、想像に難くないところです。2023年5月、バルセロナとレアル・マドリードが所属する「ラ・リーガ (La Liga、スペインの最上位サッカーリーグ) 」は、スペイン特許商標庁に対し、「El Clásico (エル・クラシコ)」の商標登録を申請しました。このニュースが知れると、関係するクラブの側でも、自ら商標登録に向けて動き始めました。


初めのうちは、クラブ側の試みもうまくいくかのように見えました。しかし、リーグ側はこの決定を不服として控訴したのです。そして2025年1月には、スペインの裁判所から、ラ・リーガ側を支持する判決が下されました。クラブ側の申請は却下され、先にリーグ側が行っていた商標登録が確定しました。


商標保護の最大の目的は、第三者により、類似する商品やサービスに商標が無断利用されることを完全に阻止するため、商標の所有者に、商標の使用に係る排他的権利を認めることにあります。これにより、商標の商業的利用、例えば商品企画、スポンサーシップ、ブランドが発信するコンテンツ (branded media content) などに影響が及ぶことになります。


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Getty Images/Alex Caparros – UEFA
UEFA女子チャンピオンズリーグでのFCバルセロナとレアル・マドリードCFの対戦。カンプ・ノウ (スペイン・バルセロナ、2026年4月2日)。

ただし、商業目的で「El Clásico」という標章を活用する権利はラ・リーガ側に認められたものの、ファンがスカーフをはじめとするグッズを購入して着用することを妨げるものではありません。同様に、ジャーナリストが記事の中で「El Clásico」という文言を使ったとしても、商標使用とみなされるものではありません。それとは対照的に、例えばクラブが、第三者 (この場合はラ・リーガ) に帰属する商標を使用してグッズやサービスを市場で売り出したり販売した場合は、商標の無断使用とみなされ、差し止められる可能性があります。


上述の「エル・クラシコ」のケースからは、ライバル関係にある両チームがあってこそリーグの看板試合が成立しているにもかかわらず、これをブランド化する権利は大会主催者側に握られていることが分かります。これは、このようなライバル関係が商標法の対象となり得ることを示す一例に過ぎず、同様の事例は枚挙にいとまがありません。


「フラ・フル」コンソーシアムと「グレナル」: ブラジルのライバルチーム同士が連携


ブラジルでは、リオ・デ・ジャネイロの「ビッグ4」クラブ、すなわちフラメンゴ、フルミネンセ、ヴァスコ・ダ・ガマ、ボタフォゴのいずれか同士が対戦する試合は、伝統的なダービーとされています。なかでも、フラメンゴとフルミネンセの対戦は、とりわけ象徴的な存在といえるでしょう。


「フラ・フル」の名付け親は、ジャーナリストのMário Filho氏で、1930年代のことでした。ブラジルの小説家Nelson Rodrigues氏はかつて、「フラ・フル」について、そのライバル関係にみられる激しさとドラマ性、そして感情的な深さをドストエフスキーの古典小説『カラマーゾフの兄弟』になぞらえて、「サッカー界のカラマーゾフ兄弟」と表現しました。しかし、激烈なライバル関係にあるクラブ同士といえども、フィールドを離れれば協力できることもあります。


フラ・フル・コンソーシアムとして知られるフラメンゴとフルミネンセは2019年、両クラブ共通のホームスタジアムであり両者の戦いが繰り広げられるマラカナン・スタジアムを共同運営するために提携しました。その5年後、両クラブに対して、スタジアムの管理を2044年まで監督する権利が認められました。


このような取り決めは、知的財産法に関する理解の一助となります。多くの国 (法域) では、複数人が商標を共有することがあります。これは、一般に共同所有と称するものですが、2人以上の個人または組織が同一の商標に対する法的権利を共有することを意味しています。


例えば、ブラジルのグレミオFBPAとSCインテルナシオナルは、ともにリオグランデ・ド・スル州に本拠地を置くライバルチームですが、両チームは2024年、互いのライバル関係を意味する名称「Grenal (グレナル)」の商標登録をブラジル産業財産庁 (INPI) に共同出願しています (商標出願番号937366293、第41類)。なお、本記事の執筆時点において、この出願案件は審査係属中です。


サッカーのダービー関連商標の共同所有を巡る課題


原則として、ライバル関係にあるクラブが両チームの伝統的な対戦を言い表す名称・ニックネームを共同で登録することは可能です。特に、このような名称によって両チームの戦いであることが明示される場合や、名称のアイデンティティが双方の戦いに由来する場合は、このケースに該当します。共有の商標は、当該試合の関連グッズやメディアコンテンツ、プロモーションキャンペーンのライセンス供与に活用することができます。


しかし、共同所有には課題も伴います。


商標法において理想とされているのは、ライセンスの供与、収益の分配、侵害への法的対応といった問題に関して、共同所有者間に明確な合意が形成されていることです。明確なルールが規定されていない状況下においては、共同所有する商標の利用や保護に係る権限が誰にあるのか、不明瞭になるおそれがあります。


ですから、法律上は共同所有が可能とされているものの、スペインの例にみられるように、伝統的なタイトルマッチの名称は、多くの場合、ライバル同士のクラブらではなく、リーグや連盟、または大会を主催するその他の団体によって登録されています。


サッカーのダービー名称を第三者が商標出願することは可能?


さらには、第三者である他の関係者が関与してくることもあり、特定クラブの名称がダービーの名称に含まれる場合には、問題がこじれるおそれがあります。このようなケースでは、出願しようとする商標が、クラブが既に登録している商標やその他の権利と抵触する可能性があります。


2009年、ブラジルのマーケティング会社Banana Mark Assessoria de Marketing社は、「Fla-Flu (フラ・フル)」を商標登録しようとしました (商標出願番号901848093)。この申請について、INPIは、フラメンゴの商標「FLA」および「FLA-TV」、ならびにフルミネンセの商標「FLU」および「FLU EDUCAÇÃO ESPORTIVA」を複製または模倣するものであるとして却下しています。


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Getty Images/Wagner Meier
ブラジレイロン2026大会でのフルミネンセとフラメンゴの対戦。マラカナン・スタジアム (2026年4月12日、ブラジル、リオ・デ・ジャネイロ)。

また、これもブラジルでの話ですが、2012年に個人が「Superclássico (スーパークラシコ)」という名称を商標登録しようとしました (商標出願番号904548333)。この名称は、アルゼンチンのボカ・ジュニアーズとリーベル・プレートの対戦をはじめ、多くのダービーで使用されているものです。INPIは、ブラジル産業財産法第124条第6項に基づいて、当該用語が一般的、必然的、共通、通常、または単に説明的性格なものであると判断し、申請を却下しています。


商標登録制度において先願主義を採用している国々では、第三者の方が、ダービー名称の出願を容易に行えることもあります。イタリアでは、公式スポーツ用品の製造販売を専門とする3R Sport社が、ACミランとインテルの対戦である「Derby della Madonnina (デルビー・デッラ・マドンニーナ)」 (別名ミラノダービー) を商標登録しています (登録番号2017000031338)。


出願に対しては、悪意による出願に該当するとして異議申し立てを受ける可能性があり、登録が悪意により取得されたことを正当な権利者が立証できる場合、商標登録が取り消されることがあります。


ダービーの商標の識別力


さらに、商標として利用される標章のなかには、登録や保護の対象とはならないものもあるかもしれません。歴史的・文化的な意義を持つ伝統的なダービーの名称であっても、商標登録の法的要件 (識別性や登録可能性など) を満たさないことがあります。したがって、ある名称について一般的なものであると判断される場合や、単に説明的であったり識別力に欠けるとみなされたりする場合、商標登録機関からその登録を拒否される可能性があります。


ラ・リーガは2021年、WIPOのマドリッド制度を活用して、結合商標「ELCLÁSICO」を国際登録 (IRN番号1619821) しました。しかし、ブラジルでは、この出願は当初認められませんでした。ブラジル商標庁は、「ELCLÁSICO」は一般に使用される表現であって、十分な識別力を有していないと判断し、登録することはできないと結論づけたのです (IRN番号1619821、ブラジル商標出願番号501619821)。ラ・リーガはその後、「LALIGA ELCLÁSICO」として商標登録することができました (IRN番号1777017、ブラジル商標出願番号501777017)。


ダービーの名称に係る権利は結局誰の手に?


法的な見地からすると、伝統的なダービー名に係る所有権の所在を決するのは、競技規則ではありません。また、FIFAなどの国際組織が、そのような命名権や商標権を規制しているわけでもありません。この問題を決するのは、一般的な商標法なのです。では、「伝統」の所有権は誰の手にあるのでしょうか。その鍵は、こうした名称に対する既定の権利がどこにあるかというよりも、誰がその名称を商標制度に持ち込んだかということにあるのです。


結局のところ、偉大なライバル関係は、サッカーという美しいゲーム自体をはるかに超えた領域にまで及ぶものです。ダービーの名称を巡って繰り広げられる戦いは、単なる行政決定を以て決着するものではなく、法廷を舞台として、あらゆる点で試合そのものに勝るとも劣らぬスリリングな戦いが、長期にわたって展開することになるのかもしれません。


著者について: Ana Clara Ribeiro氏は、弁護士を務める傍ら、作家、司法専門家、研究者としても活動しています。ブラジルのクリチバにある法律事務所Baril Advogadosの知的財産弁護士兼パートナーであり、INPI (ブラジル産業財産庁) の知財・イノベーション修士課程に在籍しています。