米国著作権局

AIに関する米国著作権局のスタンス: 法律では依然として人間の創造性を重視

著者: Miriam Lord (米国著作権局 著作権副登録官および広報・教育室長)

2025/05/27

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米国著作権局は2023年、AIが惹起する著作権法と政策問題に関する調査活動を開始しました。本対談では、著作権局の著作権法専門家2名が、これまでに認識された音楽業界と知財関係者にとっての重要なポイントについて共有しています。

  • 米国著作権局は、無許可でなされた「フェイク・ドレイク」事件と、Randy Travis氏が行った録音支援ツールとしてのAIの正当な利用とについて検討を行います。

  • 完全にAIで生成した作品は著作権保護の対象にはなりませんが、AIの生成物に加えられた選択、配列、変更に十分な独創性が認められる場合には著作権保護の対象となる可能性があります。

  • AI著作権問題への国際的なアプローチについて。

最近の生成AIテクノロジー能力の向上は、どのような性質と範囲であれば人間の著作者性を認めることができるのか、大きな問題を投げかけています。芸術作品 (例えば1つの楽曲) にどの程度人間の手が加えられていれば、著作権保護の対象となりうるのでしょうか。

2023年初頭、米国著作権局 (以下、「著作権局」) は、著作権と人工知能 (AI) の交点に存在するこのような問題の調査に乗り出しました。著作権局の著作権副登録官で広報・教育室長を務めるMiriam Lord氏は、これまでの調査結果と最近下された決定について、同僚の顧問弁護士Chris Weston氏、副法律顧問Jalyce Mangum氏の2人と対談を行いました。

左から右へ: 長いブロンドの髪にネイビーのスーツを着たMiriam Lord氏。白髪交じりであごひげをたくわえ、眼鏡、ストライプのネクタイを締めたスーツ姿のChris Weston氏。そして、黒いスーツを着て巻き毛の黒髪を後ろで結んだJalyce Mangum氏。3人とも重厚な建物の内部に立っています。
米国著作権局
(写真左から右) Miriam Lord氏、Chris Weston氏、Jalyce Mangum氏。

Chrisさんにお伺いしたいのですが、AIに関して、米国の著作権制度で特徴的といえるのはどんなことでしょうか?

Chris Weston氏 (以下「CW」): オリジナルの表現作品は国内法で保護されており、特定国での保護はその国の法律の規定に従います。WIPOのような著作権に関する国際条約や協定は、国の枠組みを超えて各国が実行すべき保護水準について、より明確に義務を定めています。

音楽に関して言えることは、たとえ1つの楽曲であっても、そこには作曲と録音の双方の権利が存在し、多くの場合、このような権利が複数の権利保有者に跨っていることを認識する必要があるということです。

米国の著作権法は、著作権登録の申請を著作権局で審査する仕組みが存在することなど、いくつかの点で他国と相違しています。登録は義務ではありませんが、登録することで大きなメリットが得られます。著作権局の審査官は、AIで生成した素材を構成要素とする作品も含め、「著作物性 (copyrightalibity) 」の問題に日常的に対処しています。ですから、この課題に関して、著作権局はある種の「天然の実験室」だということができます。

Jalyceさん、AIと著作権法について、著作権局ではどのような研究をしているかお聞かせいただけますでしょうか。

Jalyce Mangum氏 (以下「JM」): 著作権局では、AI問題への幅広い取り組みを通じて、新たに発生してきたこのような課題に対処していこうとしています。それから、AIで生成した素材が作品の構成要素�����含まれる場合、どのように著作権登録申請を行ったらよいか、作品の制作者が理解しやすくなるようにガイダンスを発行しました。私たちは、一般の人々から意見を聴取することを目的としたセッションやウェビナーを開催し、さらに専門家や利害関係者との面談も実施しました。また、一般からのコメント募集も行いました。

驚いたことに、1万件を超えるコメントが寄せられ、結論の方向づけに大きく寄与しました。これを基に、議会と一般向けの報告書の作成にとりかかりました。そして2024年7月31日に、「Copyright and Artificial Intelligence (著作権と人工知能) – Part 1: Digital Replica (第1部: デジタルレプリカ)」を公表しました。2025年1月29日に公表された「Part 2: Copyrightability (第2部: 著作物性)」では、生成AIによる生成物の著作物性に焦点を当てています。今後数か月以内に、著作権で保護された作品をAIモデルの学習目的に使用する場合、法律面でいかなる影響が想起されるかについて、政策報告書に取りまとめる予定です。これには、ライセンスに関する考慮事項や、発生し得る責任の配分が含まれます。

「有名人だけではなく、すべての人々を保護する新たな権利を連邦レベルで整備することが急務であるとの結論に至りました」

著作権局での調査の過程で、音楽業界の関係者から共通して提起された懸念にはどのようなものがありましたか?

JM: パフォーマー、ソングライター、作曲家、音楽出版社、レコードレーベル、業界団体、支持団体からのフィードバックは、私たちが推し進めていきたいことを包括的に考えていく上で、非常に重要な役割を果たしました。その懸念事項は主として5つの点にありましたが、それは、クリエイターとその作品の保護に関する幅広いコンセンサスにも一致するものでした。

寄せられたコメントを整理すれば、第1は、人間の著作者性と、AIが人間の創造性に与える影響に関するものでした。第2は、仕事への影響です。すなわち、人間の手による作品が、瞬時に生成されるAIコンテンツに、市場で圧倒されるという懸念です。第3は、自らのペルソナ (人格) と著作権を有する作品の双方の使用を適切に制御でき、補償が得られるかということです。第4は、イノベーションの側面に関する認識です。すなわち、創造的なプロセスの支援のみならず、既に世を去ったアーティストのパフォーマンスも、AIによって可能になるということです。そして第5に、ライセンシングのあり方についてです。すなわち、自発的、集団的、または強制的なライセンスのうち、どのような形態が望ましいかを考えることです。それは、端的に言えば、オプトインとオプトアウトのどちらにすべきかということです。

不正なデジタルレプリカとはどのようなもので、著作権局はどのようなアプローチを推し進めようとしているのでしょうか?

JM: 2023年には、DrakeとThe Weekndの声の特徴を模したと思われる楽曲が配信されましたが、ソーシャルメディアでの再生回数が1,500万回を超え、Spotifyのリスナーも60万を超えました。一部の人々から「フェイク・ドレイク」と呼ばれるこの事件は、生成AI技術が急速に洗練され、容易に利用できるようになった結果、高度の専門知識がなくとも、説得力のあるデジタルレプリカを作ることが可能になったという事実を示すものです。

私たちの調査を通じて、音楽業界関係者から、ボイスクローンの急増により収入源を絶たれるのではないか、また、AIが録音に使用されるようになれば人間の労働がAIに奪われるのではないかと心配する声が寄せられました。

米国における個人の肖像や声の権利を定める法律は、現状では寄せ集めのような状態で、どのような種類の行為から誰の権利を保護するのかについて、食い違いがあり、一貫性もありません。有名人だけではなく、すべての人々を対象とする新たな権利を連邦レベルで整備し、肖像や声の不正使用から保護することが急務であるとの結論に至りました。

「AIシステムの学習、開発、展開は世界中で進められています。米国外の事象にも関心を持つことが必要です」

著作権局は最近、グラミー賞を受賞したアーティスト、Randy Travis氏の録音作品を登録しました。AIを利用した同氏の録音を例にとってみますと、創造的なツールとしてのAIと、人間の創造性を代替する存在としてのAIとは、どのようにすれば区別できるのでしょうか。

JM: アーティストは過去何十年にもわたってテクノロジーを使用して作品に磨きをかけ、変更を加え、新たな要素を付加してきました。これは何も目新しいことではなく、このような行為を行ったとしても、著作権保護が認められる人間の著作者性の要件に影響が及ぶわけでもありません。著作権局のガイダンスは、作品中のAIで生成された要素につき、その事実を公表して権利を放棄するよう求めており、著作権局には、この指針に従った作品が1,000点以上登録されています。著作物性の分析を行うに当たっては、AIが作品制作の補助として利用されているのか、または人間の創造性を代替するために利用されているのかを区分することが重要です。つまるところ、問題は、人間による表現の充実にAIが寄与しているのか、それともAIが表現にかかる選択の根源を成しているのかということにあるのです。

報告書の第2部では、専らAIで作成された素材や、表現要素に対する人間のコントロールが十分に及んでいない素材は、著作権保護の対象とはならないことを確認しています。Randy Travisさんが最近録音した「Where That Came From」は、その特徴的な声をAIクローンで作成したものですが、AIを補助的に活用した良い例と言えるでしょう。健康上の問題で十分な発声ができなくなった同氏ですが、制作チームは、新譜を出すという夢を叶えるために、実在する歌手の音声トラックを取得し、AIをツールとして利用することで音声に変更を加え、同氏ならではの声を再現したのです。

「問題は、人間による表現の充実にAIが寄与しているのか、それともAIが表現にかかる選択の根源を成しているのかということにあるのです」

ここで、国際的な状況にズームアウトしてみましょう。Chrisさんにお聞きしたいのですが、他の国では、AIの利用を巡る著作権問題にどのように取り組んでいるのでしょうか。

CW: AIシステムの学習、開発、展開は世界中で進められています。著作権局では、米国外の事象にも関心を持つことが必要だと認識しています。米国以外の国々でも、この問題についての検討が進められています。全く同じアプローチが採用される可能性は低いですが、ある程度の一貫性が確保されれば、国際間の取引が円滑になるでしょう。

各国の取り組みには、類似点と相違点の双方が認められます。米国では、人間の著作者性が著作権保護の要件となります。ほかにも一部の国がこの方式に従っています。

中国では最近、AIを使用して作成した画像の著作権を認める判決が下されています。人間である著作者がAIツールにプロンプトを入力し、出力結果を修正したプロセスに、十分な創造性が発揮されたと認定したものです。また、韓国では、AIが生成した構成要素の選択、調整、配列に人間の創造性が加えられている事実に基づいて、AIが作成した映画が編集著作物 (compilation) として登録されています。

世界中のカウンターパートとの間で、アイデアや経験についての情報交換を継続的に行っています。ある面では共通認識が生じつつありますが、意見が相違しそうな分野も存在しています。

詳細情報

この対談は、著作権副登録官で広報・教育室長のMiriam Lord氏が広報・教育室の広報専門官Ann Tetreault、Nora Schelandの両氏のサポートを得て質問を行い、政策・国際関係局の顧問弁護士Chris Weston、法律顧問室の副法律顧問Jalyce Mangumの両氏が回答する形で実施されました。

 

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米国著作権局は、法律により米国著作権法を所管しています。著作権局の使命は、「国の著作権法を管理し、万人の利益に適うよう、著作権法と政策に関する公平で専門的なアドバイスを提供することにより、創造性と表現の自由」を促進することにあります。WIPOや世界中の知的財産庁と同様に、著作権局は、クリエイティブ経済を促進するクリエイターやユーザーに情報を提供し、教育することを最も重視しています。米国著作権局: copyright.gov