PCTニュースレター 06/2021: 実務アドバイス
注意: 以下の情報は PCT ニュースレターに当初掲載された時点では正しいものでしたが、一部の情報はすでに適用されない可能性があります。例えば、関係する PCT ニュースレターが発行されて以降、PCT 規則、実施細則、そしてPCT 様式に修正が行われた可能性があります。また、特定の手数料の変更や特定の出版物への参照は、すでに有効ではない場合があります。PCT 規則への言及がある場合は常に、実務アドバイスの掲載日に施行されている規則がその後修正されていないか慎重にご確認下さい。
国際調査機関 (ISA) による発明の単一性の欠如の判断に対処する手段
Q: ISAが国際出願が発明の単一性の要件を満たしていないと判断したため、ISA発行の追加して納付すべき手数料の納付命令書 (様式PCT/ISA/206) を受け取りました。ISAの通知によると、追加手数料が支払われない場合、ISAは国際出願の請求の範囲に最初に記載された発明に関連する部分に限って国際調査報告 (ISR) を作成されます。当方は、ISAによる単一性の欠如の判断には同意しておらず、全ての請求の範囲が調査されることを希望しています。追加手数料を支払わずに、単一性の欠如の判断に対処する手段はあるのでしょうか?
A: 調査手数料は、国際出願に関してISAが国際調査を実施する (並びに調査に関連する他の全ての業務を行う) 費用を賄うものです。ただし、当該出願が発明の単一性の要件を満たしている範囲に限ります1。ISAが発明の単一性の欠如を認めた場合、各追加の発明に対する追加調査手数料の支払を出願人に求めることができます (PCT規則40.1)。
出願人が命令書の郵送日から1か月以内に追加調査手数料を支払わなければ、ISAは当該追加手数料が求められている発明の調査は行いません。そのため出願人は、国際出願の請求の範囲に最初に記載された発明 (「主発明」) に関連する部分に限って調査されたISRとISAの見解書 (WO-ISA) を受け取ることになります。つまり、様式PCT/ISA/206に記載された特定の請求の範囲のみが調査の対象となります。上述した期間内に請求された追加調査手数料の全額が支払われた場合には、出願の全ての発明に関する調査結果がISRに含まれることになります。全ての請求の範囲の調査を受けるには、ISAが決定した追加手数料を支払う必要があります。
出願人が、ISAによる発明の単一性の欠如の判断に合意しないのであれば、異議を申し立てて追加手数料を支払うことができます (PCT規則40.2(c))。異議の申立てを行うには、以下の行為が必要となります。
- (適用される期間内に) 追加調査手数料 と、ISAが異議申立て手数料2を課している場合には、かかる手数料を支払うこと。該当するISAの情報は、PCT出願人の手引の附属書Dをご参照下さい。また、
- 国際出願が発明の単一性の要件を満たしている旨の理由を示した陳述書、又は要求された追加手数料の額が過大である旨の理由を示した陳述書を提出すること。
手数料が支払われた後、ISAの枠組みにおいて設置される検査機関が異議を審理します。そして、当該機関が、異議を正当と認める限度において追加手数料の全額又は一部料金を出願人に払い戻すことを命じます。支払われた異議申立て手数料については、当該機関がその異議を完全に正当であると判断した場合にも全額が返金されます。異議及び当該異議についての決定の書面は、出願人の請求により、国際調査報告とともに指定官庁に通知されます(PCT規則40.2(c) )。
出願人が、ISAに対する追加手数料を支払わず、その後、国際予備審査の請求を行った場合、国際予備審査機関(IPEA) は、ISRが作成されていない発明に関する請求の範囲を審査する義務はなく (PCT規則66.1(e))、また実際のところ審査は行わないであろう点に注意して下さい。またIPEAは、発明の単一性の欠如の問題についてISAとは異なる結論を出す可能性がある点にもご留意下さい。なお当該機関が、発明の単一性の要件が満たされていないと認めた場合において、出願人の選択により請求の範囲を減縮する又は追加手数料を支払うことを出願人に求めることができます (PCT規則68.2)。
また出願人は、ISAの見解書に関して非公式コメントを提出することができますが、これは当該国際出願が発明の単一性の要件を満たしていないとするISAの所見に反論するものです (非公式コメントの提出は、国際予備審査請求の手続きで正式な反論を行わない際にご利用いただけます)。非公式コメントは審査されませんが、国際公開日からPATENTSCOPEにて公衆に利用可能となり、国内段階での判断のため指定/選択官庁に転送されます。非公式コメントについての詳細は、PCT ニュースレター 2015年1月号と4月号に掲載された「実務アドバイス」を以下のリンクからご参照下さい。
https://www.wipo.int/edocs/pctndocs/en/2015/pct_news_2015_13.pdf (英語版)
/pct/ja/newslett/2015/newslett_2015.pdf (日本語版)
補充国際調査を請求する場合、出願人は、ISAにより特定された発明のうち一の発明に補充国際調査を減縮する旨の表示を記載することができます (PCT規則45の2.1(d))。また補充国際調査機関 (SISA) は、IPEAと同様に、国際調査の対象とならなかった請求の範囲を調査対象から除外することができます (PCT規則45の2.5(d))。特定の機関が実施する補充国際調査に関する詳細は、PCT出願人の手引 のSISAの附属書をご覧下さい。
PCT第28条に基づき、出願人は、国内段階への移行時に発明の単一性に関する国内要件を満たすために、各指定官庁 (場合によってはPCT第41条に基づき各選択官庁) において請求の範囲について補正をする機会を与えられます。ただし、指定 (又は選択) 国の国内法令で認められていない限り、その補正は出願時の国際出願の開示を超えてはならないことに注意して下さい(PCT第28条(2) 及び第41条(2))。さらに、PCT第17条(3)(b)及び第34条(3)(c)に従って、指定 (又は選択) 国の国内法令は、当該指定国の国内官庁がISAによる発明の単一性の欠如の判断を正当であると認める場合に、調査が行われなかった国際出願の部分は、当該国に関する限り、出願人が手数料を支払った場合を除き、取り下げられたものとみなすことを定めることができます。実際に、一部の官庁は、調査が行われなかった部分の国内調査のために追加手数料の支払を要求しているのに対し、他の官庁では、分割出願の提出と関連出願の手数料の支払を要求しています (詳細は、PCT出願人の手引の関連する国内編に記載されています)。ただし、いくつかの事例では、指定 (又は選択) 官庁がISAの判断に合意しない場合、例えば、出願人がISAの見解書に関する非公式コメントを通じて説得力ある議論を行った場合、あるいはIPEAの見解書に対する反駁により発明の単一性の要件が満たされると判断される場合、当該官庁は、追加手数料や分割出願の提出を要求せずに、追加の調査と審査を行うことがあります。
結論として、追加手数料を支払わずに、発明の単一性の欠如の判断に対処したり、全ての請求の範囲の調査を受けることはできません。ですが、もし出願人が国際段階で追加手数料を支払わないと決めたとしても、上述したように国内段階でこの問題に対処できる可能性はまだあります。ただし、調査が行われなかった部分について各指定官庁に対して特別な手数料の支払い、又は分割出願の提出が必要となる場合があります。
発明の単一性の要件に関する詳細は、PCTに基づく実施細則の附属書Bに掲載されています。以下のリンクからご参照下さい。
/pct/en/texts/ai/annex_b.html (英語版)
また、PCT出願人の手引 の国際段階の5.114から5.123項及び7.015から7.021項も、以下のリンクからご参照下さい。
/pct/guide/en/gdvol1/pdf/gdvol1.pdf (英語版)
/pct/guide/ja/gdvol1/pdf/gdvol1.pdf (日本語版)