PCTニュースレター 05/2019: 実務アドバイス
注意: 以下の情報は PCT ニュースレターに当初掲載された時点では正しいものでしたが、一部の情報はすでに適用されない可能性があります。例えば、関係する PCT ニュースレターが発行されて以降、PCT 規則、実施細則、そしてPCT 様式に修正が行われた可能性があります。また、特定の手数料の変更や特定の出版物への参照は、すでに有効ではない場合があります。PCT 規則への言及がある場合は常に、実務アドバイスの掲載日に施行されている規則がその後修正されていないか慎重にご確認下さい。
国際出願時に非公式図面を提出することから推測可能な結果
Q: 10カ月前に国内特許出願を提出しました。そしてこの度、先の出願の優先権を主張してPCT出願を提出したいと思っています。先の出願と共に提出した図面は非常に略式なものだったので、今回は国際出願と共にその略式な図面のままで提出し、規則に従った正式図面の作成後それを提出すべきか、または正式図面の作成を待ってからPCT出願すべきかどうか考えています。略式の図面の品質が非常に悪いため、正式図面とはかなり異なるものとして認識される可能性があることを心配しています。
A: 一部の国内官庁または広域官庁では、国内または広域の実務に従いより略式な図面を受理可能であり、その後問題なく差替えの正式図面を受理できる場合があります。ただし、PCTの手続に関しては、国際出願の提出時に正式図面を提出するよう強く推奨することにご留意ください。
国際出願時に正式図面を提出しなかった場合に発生し得る不利な点や、潜在的なリスクのいくつかを以下に検討します。
国際出願後に受理官庁(RO) に差替え図面を提出することに伴う潜在的な問題の1つは、図面の改善の性質によっては、方式な観点から見た場合、新しい図面が当初提出されたものとは実質的に異なっていると見られる場合です。そのような状況では、新しい図面が元の出願に新しい要素を追加する可能性となり得ることを方式審査官は懸念して、当初の図面の受理を躊躇する場合があります。したがって、PCT規則26に基づき図面を補充することはできないことがあります。ROまたは国際事務局(IB) の方式審査官は、主に国際出願の方式的な点検するための訓練を受けていますが、国際出願の主題(subject matter) に関する技術分野において必ずしも訓練を受けているわけではないことにご留意ください。ROが国際調査の目的で国際調査機関(ISA) に出願を送付されて初めて、関連する科学または工学分野で技術的に訓練された審査官によって確認がされます。そのため、その審査官は新しい図面に新しい事項が含まれているかどうかを評価する立場にあるでしょう。
提出された図面と差替え図面の相違により、PCT規則26に基づき図面を補充できないのであれば、ISAに対しPCT規則91に基づく"明白な誤記"の訂正を請求できる場合があります。しかし、国際出願日において、関連する書類に現れるもの以外の何かが意図されていること、および提出された訂正以外何も意図されていなかったことがISAにとって明白であることを規定するPCT規則91.1(c) に基づく要件を満たすことは、ほぼ難しいでしょう。
国際出願の手続において(差替えの) 正式図面が受理されないのであれば、国際調査の過程や該当する場合には国際予備審査の過程において審査官は、非公式図面の品質が非常に悪いという問題に直面するかもしれません。その場合、図面の品質の悪さが審査官の作業を遅らせ、調査/審査の品質にも影響を与えかねません。さらにIBは、規則に従った正式図面ではなく、国際出願と共に提出された略式の図面を公開するでしょう。そして指定(または選択) 官庁は、国内/広域段階移行時に略式図面にアクセスできるようになります。
国際公開前に正式図面が受理されていない場合に考慮できる1つの選択肢は、PCT第34条(2)(b) に基づく図面の補正と共に国際予備審査請求書を提出することです。この場合の補正は、PCT規則91.1(c) に基づく要件である"何も意図されていなかったこと" を満たす必要はありません。さらにISAでのケースのように、国際予備審査機関(IPEA) には関連する科学または工学分野で技術的に訓練された職員がいるため、当該機関は新しい図面は新規事項を含むかどうかを評価する立場にあるでしょう。IPEAが新規事項は追加されていない(かつ他の手続上の要件が満たされている) と結論付けた場合には、IPEAは正式図面を国際予備審査報告書の附属書として採用します。附属書に含まれる補正された図面は、国際公開の一部を構成することはありませんが(略式図面は依然として国際出願の一部として公開されます)、それらはPATENTSCOPEで入手可能になり、指定(または選択) 官庁も入手できます。ただし入手可能になるのは、優先日から30カ月が経過した後になります(PCT規則73.2(a))。また国際予備審査手続に伴う追加料金の支払いが必要なことや、IPEAによって図面が受理されるかどうかの確認を待たねばならず不確かな状況が⻑引く可能性のあることにご留意ください
国際段階においてPCT第34条に基づく図面の補正をしない場合には、指定(または選択) 官庁(DOs/EOs) は国内または広域段階移行の時点で、公開された図面を使用するでしょう。ただしあなたは、PCT規則52または78に基づいてDOs/EOsに補正された図面を提出する権利があります。適用する期間内に図面が受理された場合には、特許(または該当する場合はその他の種類の保護) を付与するかどうかを判断する際に考慮されます。国内または広域段階移行を希望する各DO/EOに対して補正を提出する場合は、出願前に補正を行うかもしくは国際段階期間中に補正を行うかのいずれと比較しても、通常はより費用がかかることにご留意ください。
国際出願の一部として提出されたすべての図面 は、PCT規則11.10から11.13に記載されている図面に関するPCT標準に準拠すべきことにご留意ください。図面に関する方式的な要件の詳細は、PCT出願人の手引の項目5.131から5.160にも説明されています。以下のリンクをご覧ください。
www.wipo.int/pct/ja/guide/index.html
提出された図面がPCT要件に準拠していないことをROが発見した場合には、出願人に対して命令書(様式PCT/RO/106を用いて) に設定された期間内(または公開の技術的準備が完了する前に補充された図面がIBに到達したことを条件にROにより付与されうる延⻑された期間内)に、欠陥の補充を求めます。出願人が図面の欠陥の補充を怠り、PCT規則26.5に基づき国際出願がPCT規則11の様式上の要件を満たしていないとROが判断した場合、ROは規定上、国際出願は取下げられたものと見做すことができます。しかしながら、図面の欠陥のために出願が取下げられたとROが見做すことは稀です。国際出願は、PCT規則11に定める様式上の要件が国際公開が適度に均一なものであるために必要な程度にまで満たされている場合には、当該様式上の要件を満たさないことを理由として取下げられたものとは見做さない、とのPCT規則26.5の規定により出願人はいくらか保護されているためです。
あなたの事例の結論としては、提出される国際出願に規則に従った正式な図面を含めることが望ましいですが、国際出願を提出する前に正式な図面 の作成時間がないのであれば、12カ月の優先期間内の出願を見逃すよりも略式の図面を使用して出願する(その後、公式図面への差替えを試みる) 方がより安全でしょう。
また図面や方式上の要件の準拠に関する以下の実務アドバイス記事の閲読も役立つかもしれません。
www.wipo.int/pct/ja/newslett/2005/newslett_05.pdf#page=2
ww.wipo.int/pct/ja/newslett/2007/newslett_07.pdf#page=38
www.wipo.int/pct/ja/newslett/2016/newslett_2016.pdf#page=22
以前お知らせしましたように、ePCTには専用のプレビュー機能1があります。当機能により、PDFまたはDOCX形式のいずれかで提供される図面が、その後の手続および公開目的でIBによりレンダリングされた状態のものを、ログインする必要なしで出願する前に確認することができます。この便利な機能についての情報は、PCT Newsletter 2019年4月号の実務アドバイスに掲載されています。以下のリンクからご覧ください。
www.wipo.int/pct/ja/newslett/2019/4_2019.pdf#page=8