(2020年1月1日より施行)
目次 | |
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I. 総則規定 | 第1条-第5条 |
用語定義 | 第1条 |
規則の適用範囲s | 第2条-第3条 |
通知・期間 | 第4条 |
センターへの提出が要求される書類 | 第5条 |
II. 仲裁の開始 | 第6条-第13条 |
仲裁申立て | 第6条-第10条 |
申立てへの答弁 | 第11条-第12条 |
代理 | 第13条 |
III. 仲裁廷の構成および設置 | 第14条-第36条 |
仲裁人の数および選任 | 第14条 |
当事者の合意に基づく手続による選任 | 第15条 |
単独の仲裁人の選任 | 第16条 |
3名の仲裁人の選任 | 第17条 |
多数の申立人または被申立人がいる場合の3名の仲裁人の選任 | 第18条 |
選任がない場合の選任 | 第19条 |
仲裁人の国籍 | 第20条 |
当事者と仲裁人候補者の間の連絡 | 第21条 |
不偏性・独立性 | 第22条 |
受任可能性、受諾および通知 | 第23条 |
仲裁人の忌避 | 第24条-第29条 |
任務からの退任 | 第30条-第32条 |
仲裁人の交替 | 第33条-第34条 |
縮小仲裁廷 | 第35条 |
仲裁廷の管轄に関する申立て | 第36条 |
IV. 仲裁の実施 | 第37条-第60条 |
>仲裁廷の一般的権限 | 第37条 |
仲裁地 | 第38条 |
仲裁言語 | 第39条 |
準備会合 | 第40条 |
請求陳述書 | 第41条 |
防御陳述書 | 第42条 |
更なる書面 | 第43条 |
請求ないし防御の修正 | 第44条 |
当事者と仲裁廷の間の連絡 | 第45条 |
参加 | 第46条 |
併合 | 第47条 |
暫定的保全措置・請求および費用の担保 | 第48条 |
緊急救済手続 | 第49条 |
証拠 | 第50条 |
実験 | 第51条 |
現地視察 | 第52条 |
合意の上での手引書および模型 | 第53条 |
営業秘密およびその他の機密情報の開示 | 第54条 |
審問 | 第55条 |
証人 | 第56条 |
仲裁廷による専門家の選任 | 第57条 |
懈怠 | 第58条 |
審理の終結 | 第59条 |
権利放棄 | 第60条 |
V. 仲裁判断およびその他の決定 | 第61条-第68条 |
紛争の実体、仲裁および仲裁合意の準拠法 | 第61条 |
通貨および利息 | 第62条 |
議事決定 | 第63条 |
仲裁判断書の記載事項と送付 | 第64条 |
最終仲裁判断書の交付の期限 | 第65条 |
仲裁判断の効力 | 第66条 |
和解またはその他の終結事由 | 第67条 |
仲裁判断の訂正および追加仲裁判断 | 第68条 |
VI. 手数料および費用 | 第69条-第74条 |
センター手数料 | 第69条-第70条 |
仲裁人手数料 | 第71条 |
予納金 | 第72条 |
仲裁費用に関する判断 | 第73条 |
当事者の負担した費用に関する判断 | 第74条 |
VII.秘密保持 | 第75条-第78条 |
仲裁の存在に関する秘密保持 | 第75条 |
仲裁手続中になされた開示の秘密保持 | 第76条 |
仲裁判断の秘密保持 | 第77条 |
センターおよび仲裁人による秘密の維持 | 第78条 |
VIII.雑則 | 第79条-第80条 |
免責 | 第79条 |
名誉毀損訴権の放棄 | 第80条 |
I. 総則規定
用語定義
第1条
本規則において、
「仲裁合意」とは、当事者間で既に発生し、または将来発生するかもしれない紛争について、そのすべてまたは一部を仲裁に付託する旨の当事者間合意のことをいう。仲裁合意は、仲裁条項を契約の中に盛り込む方式によっても、別個の契約という方式によっても可能である。
「申立人」とは、仲裁を申し立てる当事者をいう。
「被申立人」とは、仲裁を申し立てられた者であって、仲裁申立書にその者として記名された者をいう。
「仲裁廷」とは、単独の仲裁人、あるいは2名以上の仲裁人が選任されている場合にはそのすべての仲裁人を含むものとする。
「WIPO」とは、世界知的所有権機関のことをいう。
「センター」とは、WIPO仲裁調停センターのことをいう。
文脈によっては、単数形で用いられている用語が複数形の意味を含み、また複数形で用いられている用語が単数形の意味も含むものとする。
規則の適用範囲
第2条
仲裁合意において、WIPO仲裁規則に基づく仲裁が規定されている場合には、本規則はその仲裁合意の一部を構成するものとみなされる。紛争は、当事者間に別段の合意がない限り、仲裁の開始日に効力を有する本規則に従って解決されるものとする。
第3条
(a) この規則は仲裁に適用される。但し、この規則のいずれかの条項が、仲裁に適用される法律であって、かつ、当事者がこれを潜脱することのできない法律の規定と抵触するときは、その法律の規定が優先するものとする。
(b) 仲裁に適用される法律は、第61条(b)項に従って定められる。
通知・期間
第4条
(a) この規則に基づいて可能または必要とされる通知その他の通信は、書面によって行われるものとし、速達の郵便もしくは宅配便または電子メールその他の記録を残せるテレコミュニケーション手段によって交付されなければならない。
(b) 当事者による宛先の変更の届出がないときは、もっとも直近に知りえたその当事者の住所または営業所の所在地が、通知その他の通信のための有効な宛先とみなされる。通信は、いずれにせよ指定された方法で、またそのような指定がないときは当事者間の交渉の過程で行われていた慣行に従って、当事者に対して行うことができる。
(c) 期間の開始日の確定については、通知その他の通信は、本条(a)および(b)項に従ってそれが配達された日に受領されたものとみなす。
(d) 期間の遵守の決定については、通知その他の通信は、それが本条(a)および(b)項の規定に従って期間満了の日以前または期間満了日に発送されているときは、送付されまたは送信されたものとみなす。
(e) この規則における期間の計算については、期間は通知その他の通信が受領された翌日から開始するものとする。この期間の末日が、名宛人の住所または営業の所在地における公休日または休業日であるときは、期間はそれに続く最初の営業日まで延長される。期間の進行中に生じる公休日または休業日は、期間の計算に含まれる。
(f) 当事者は合意の上で、第11条、第15条(b)項、第16条(b)項、第17条(b)項、第17条(c)項、第18条、第19条(b)項(iii)、第41条(a)項および第42条(a)項で定める期間を短縮または延長することができる。
(g) センターは、一方当事者の申立てによりまたは職権で、第11条、第15条(b)項、第16条(b)項、第17条(b)項、第17条(c)項、第18条、第19条(b)項(iii)、第69条(d)項、第70条(e)項および第72条(e)項に定める期間を延長することができる。
センターへの提出が要求される書類
第5条
(a) センターが仲裁廷の設置を通知するまでの間、この規則によって要求されまたは許されているすべての陳述書、通知およびその他の通信は、当事者によってセンターに提出されるものとし、同時に、その写しが、その当事者によって相手方当事者に対しても送付されなければならないものとする。
(b) センターに送付すべきすべての陳述書、通知およびその他の通信は、選任予定の仲裁人に1部ずつ配布しまたセンターに1部配布するのに必要な部数の写しが送付されなければならないものとする。
(c) センターが仲裁廷の設置を通知した後は、すべての陳述書、通知およびその他の通信は、当事者によって直接仲裁廷に提出されるものとし、同時にその写しがその当事者によって相手方当事者に提供されるものとする。
(d) 仲裁廷は、仲裁廷が行った命令およびその他の決定の写しをセンターに送付しなければならない。
II. 仲裁の開始
仲裁申立て
第6条
申立人は、センターおよび被申立人に仲裁申立書を送付しなければならない。
第7条
仲裁の開始日は、仲裁申立書がセンターによって受理された日とする。
第8条
センターは、申立人および被申立人に対して、仲裁申立書を受理したことおよび仲裁の開始日を通知しなければならない。
第9条
仲裁申立書には、次のすべての事項を記載しなければならない。
(i) 紛争がWIPO仲裁規則に基づく仲裁に付託される旨の申立
(ii) 当事者および申立人の代理人の氏名および住所、ならびに電話、電子メールその他の連絡方法
(iii) 仲裁合意の写し、または別個の準拠法選択条項があるときはその条項の写し
(iv) 紛争の性質および状況に関する簡単な説明。紛争に関係する権利および財産ならびに紛争に関係する技術に関する指摘を含む。
(v) 求める救済に関する陳述、および可能な限りにおいて、請求額の表示
(vi) 第14条から第20条までの規定に定める仲裁人の指名、または申立人が当該規定との関連で有用と考える意見
第10条
仲裁申立書には、第41条に定める請求陳述書を添付することができる。
申立てへの答弁
第11条
被申立人は、申立人の仲裁申立書を受領した日から30日以内に、センターおよび申立人に対して申立答弁書を送付しなければならない。この申立答弁書には、仲裁申立書におけるすべての事項に対する意見を記載するものとし、また反対請求あるいは相殺の主張を記載することもできる。
第12条
申立人が第10条の規定に基づいて仲裁申立書に請求陳述書を添付しているときは、申立答弁書に第42条に定める防御陳述書を添付することができる。
代理
第13条
(a) 当事者は、自己の選択によって、とりわけその者の国籍および職業資格にかかわりなく、代理人を立てることができる。代理人の氏名および住所ならびに電話、電子メールまたはその他の連絡方法は、センター、相手方当事者および仲裁廷が既に設置された後は仲裁廷にも通知されなければならない。
(b) 各当事者は、その代理人が迅速に仲裁を遂行するに足りる十分な時間を確保するものとする。
(c) 当事者は自己の選択による補助者を伴うことができる。
III. 仲裁廷の構成および設置
仲裁人の数および選任
第14条
(a) 仲裁廷は、当事者によって合意された数の仲裁人によって構成されるものとする。
(b) 当事者が仲裁人の数について合意していないときは、センターが、その事例のすべての状況を考慮して、その裁量により、3名の仲裁人で構成された仲裁廷が適当であると決定した場合を除いて、仲裁廷は単独仲裁人により構成されるものとする。
(c) 当事者による第16条、第17条および第18条に基づく仲裁人の選任は、第22条および第23条の要件が満たされていることを条件に、センターにより確認されなければならない。当該選任は、センターの当事者に対する通知をもって効力を生じるものとする。
当事者の合意に基づく手続による選任
第15条
(a) 当事者が、仲裁人選任の手続について合意しているときは、その手続に従うものとする。
(b) 仲裁廷がかかる手続に従って当事者の合意した期間内に設置されないとき、または期間に関する合意がなく仲裁開始から45日以内に仲裁廷が設置されないときは、仲裁廷は、第19条の規定に従って場合に応じ設置または完成されるものとする。
単独の仲裁人の選任
第16条
(a) 単独の仲裁人が選任されるべき場合であって、当事者が選任の手続に合意していないときは、単独の仲裁人は当事者が共同して指名するものとする。
(b) 単独の仲裁人が当事者の合意した期間内に指名されないとき、または期間に関する合意がなく仲裁開始から30日以内に仲裁人が指名されないときは、単独の仲裁人は第19条の規定に従って選任されるものとする。
3名の仲裁人の選任
第17条
(a) 3名の仲裁人が選任されるべき場合であって、当事者が選任の手続に合意していないときは、仲裁人は本条に従い選任されるものとする。
(b) 申立人は、仲裁申立書の中で、1名の仲裁人を指名しなければならない。被申立人は、仲裁申立書を受領した日から30日以内に、1名の仲裁人を指名しなければならない。当該2名の仲裁人は、第2の仲裁人の選任後20日以内に、仲裁廷の長である仲裁人となる第3の仲裁人を指名しなければならない。
(c) (b)項の規定にかかわらず、第14条(b)項の規定に基づくセンターの裁量権の行使の結果として3名の仲裁人が選任されるべきときは、申立人は、仲裁廷が3名の仲裁人によって構成される旨のセンターの通知を受領した後15日以内に、センターと被申立人に通知することによって、1名の仲裁人を指名しなければならない。被申立人は、上記の通知の受領後30日以内に1名の仲裁人を指名しなければならない。当該2名の仲裁人は、第2の仲裁人の選任後20日以内に、仲裁廷の長である仲裁人となる第3の仲裁人を指名しなければならない。
(d) 前各項に規定する期間内に仲裁人が指名されないときは、仲裁人は第19条の規定に従って選任されるものとする。
多数の申立人または被申立人がいる場合の3名の仲裁人の選任
第18条
(i) 多数の申立人および/または多数の被申立人がおり、かつ、
(ii) 3名の仲裁人が選任されるべき
場合には、場合に応じて、多数の申立人は、仲裁申立書において共同で1名の仲裁人を指名し、および/または多数の被申立人は、仲裁申立書の受領の日から30日以内に共同で1名の仲裁人を指名するものとする。所定の期間内に共同指名がなされないときは、センターが1名または両方の仲裁人を選任することとする。当該2名の仲裁人は、第2の仲裁人の選任後20日以内に、仲裁廷の長である仲裁人となる第3の仲裁人を指名しなければならない。
選任がない場合の選任
第19条
(a) 一方の当事者が、第15条、第17条または第18条に定められた仲裁人の指名をしないときは、センターは直ちに仲裁人を選任するものとする。
(b) 第15条、第16条、第17条または第18条の規定による単独または仲裁廷の長である仲裁人が選任されないときは、その選任は以下の手続によって行われるものとする。
(i) センターは、各当事者に同一の候補者リストを送付する。リストには、通常少なくとも3名の候補者の氏名がアルファベット順に記載されるものとする。リストには、各候補者の資格に関する記述が記載または添付されるものとする。当事者間で仲裁人の特別な資格について合意のあるときは、リストにはかかる資格を満たす候補者の氏名が含まれるものとする。
(ii) 各当事者は、選任に異議ある候補者の氏名を削除する権利を有し、残りの候補者に優先順位の番号を記載しなければならない。
(iii) 各当事者は、リストを受領した日から20日以内に、マークを付したリストをセンターに返送しなければならない。その期間内にマークを付したリストを返送しなかった当事者は、リストに現れているすべての候補者に対して同意したとみなされる。当事者からのリストの受領後、またはこれがなされないときは前号に定めた期間の経過後、センターは、可及的速やかに、当事者によって表明された優先順位および異議を考慮して、リストから単独または仲裁廷の長である仲裁人となる者を選任する。
(iv) 当事者からのリストの受領後、またはこれがなされないときは前号に定めた期間の経過後、センターは、可及的速やかに、当事者によって表明された優先順位および異議を考慮して、リストから単独または仲裁廷の長である仲裁人となる者を選任する。
(v) 返送されたリストの中に、双方の当事者にとって仲裁人として受け入れられる者がいないときは、センターが単独または仲裁廷の長である仲裁人を選任する権限を有するものとする。同様に、センターによる単独または仲裁廷の長である仲裁人としての招待をその者が受諾することができないかもしくは受諾することを希望しない場合、またはその者が単独もしくは仲裁廷の長である仲裁人となることを妨げるその他の理由が存在するように見える場合であって、かつ、リストに双方の当事者にとって仲裁人として受け入れられる者が残っていない場合にも、センターは単独または仲裁廷の長である仲裁人を選任する権限を有するものとする。
(c) (b)項の規定にかかわらず、センターは、(b)項の手続が当該事件に適当でないとその裁量で判断するときは、単独または仲裁廷の長である仲裁人を選任する権限を有するものとする。
仲裁人の国籍
第20条
(a) 仲裁人の国籍についての当事者の合意は、尊重されなければならない。
(b) 単独の仲裁人または仲裁廷の長である仲裁人の国籍について当事者が合意していないときは、特別な資格を有する者を選任する必要があるなどの特別の事情がない限り、その仲裁人は、当事者の国籍と異なる国籍の者でなければならない。
当事者と仲裁人候補者の間の連絡
第21条
いかなる当事者あるいはその代理人も、一方的に、仲裁人の選任に関して仲裁人候補者と連絡をとってはならないものとする。但し、仲裁人候補者の資格、受任可能性あるいは当事者との関係における独立性について論じる目的の場合はこの限りではない。
不偏性・独立性
第22条
(a) 各仲裁人は不偏かつ独立でなければならない。.
(b) 仲裁人予定者は、選任を受諾する前に、当事者、センターおよび既に選任されている他の仲裁人に対して、仲裁人の不偏性または独立性に関して正当な疑いを招くおそれのあるすべての状況を開示するか、あるいはそのような状況がないことを書面において確認しなければならない。
(c) 仲裁のいずれの段階においても、仲裁人の不偏性または独立性に正当な疑いを招くおそれのある新しい状況が生じた場合には、仲裁人は速やかにその状況を当事者、センターおよび他の仲裁人に開示しなければならない。
受任可能性、受諾および通知
第23条
(a) 各仲裁人は、選任を受諾することにより、仲裁を迅速に遂行し完了させるのに十分な時間を割くことにつき同意したものとみなす。
(b) 各仲裁人予定者は、書面によって選任を受諾し、その受諾をセンターに通知しなければならない。
(c) センターは当事者に対し、仲裁廷を構成する各仲裁人の選任および仲裁廷の設置を通知するものとする。
仲裁人の忌避
第24条
(a) 仲裁人は、その不偏性または独立性について正当な疑いを生じさせる状況が存在する場合、当事者により忌避され得る。
(b) 当事者は、自らが指名しあるいは指名に同意した仲裁人については、指名後に明らかになった理由に基づいてのみ忌避し得る。
第25条
仲裁人を忌避する当事者は、センター、仲裁廷および相手方当事者に、当該仲裁人の選任通知後15日以内に、あるいは仲裁人の不偏性または独立性について正当な疑いを生じさせると自らが認める状況を認識してから15日以内に、忌避理由を記載して、通知書を送付しなければならない。
第26条
仲裁人が一方当事者によって忌避された場合、相手方当事者は、当該忌避に反論する権利を有し、この権利を行使する場合は、第25条に規定する通知を受けた日から15日以内に、センター、忌避を申し立てた当事者、および選任された仲裁人に対して、反論の写しを送付するものとする。
第27条
仲裁廷は、裁量により、忌避が申し立てられている間、仲裁手続を中断させ、または継続させ得る。
第28条
相手方当事者は、忌避に同意することができ、あるいは仲裁人は、自発的に退任し得る。いずれの場合においても、仲裁人は、忌避の根拠が有効であるという含みなく交替するものとする。
第29条
相手方当事者が忌避に同意せず、かつ、忌避を申し立てられた仲裁人が自発的に退任しない場合、忌避に関する決定はセンターがその内部手続に則って行うものとする。このような決定は手続的性質のものであり、最終である。センターは、その決定について理由を述べることを求められることはない。
任務からの退任
第30条
仲裁人は、自らの申請に基づき、当事者の同意またはセンターの判断により、仲裁人を退任することができる。
第31条
仲裁人からの申請の有無にかかわらず、当事者は共同して仲裁人を解任することができる。当事者はその解任をセンターに速やかに通知しなければならない。
第32条
仲裁人が、法律上あるいは事実上、仲裁人としての義務を果たせなくなった場合、あるいは果たさない場合、センターは、当事者の申立てまたは自らの判断により、仲裁人を解任することができる。この場合、当事者は解任に関して自らの意見を明らかにする機会を与えられなければならず、第26条から第29条までの規定が準用されるものとする。
仲裁人の交替
第33条
(a) 必要な場合はいつでも、後任の仲裁人が、交替する仲裁人の選任に適用された第15条から第19条までに規定される手続に従って選任されなければならない。
(b) 当事者により指名された仲裁人が、指名の時点で当該当事者が知っていたあるいは知りうべきであった理由によって忌避され、忌避が認められた場合、または第32条に従って解任を受けた場合、センターは、裁量により、当該当事者が新たな選任を行うことを認めないことができる。センターがこの裁量を行使するときは、センターが後任の選任を行うこととする。
(c) 当事者間に反対の合意が存在しない限り、交替が完了するまでの間、仲裁手続は停止するものとする。
第34条
後任の仲裁人が選任される場合、仲裁廷は、当事者の意見を斟酌して、独自の裁量により、従前の審理のすべてあるいは一部をやり直すかどうか決定するものとする。
縮小仲裁廷
第35条
(a) 3名の仲裁廷における仲裁人のうち1名が、適正に通知されたにもかかわらず、妥当な理由なく、仲裁廷の任務に従事しなかった場合、他の2名の仲裁人は、当事者が第32条に基づく申立をしなかった場合には、第3の仲裁人の不参加にもかかわらず、他の2名の仲裁人の独自の裁量により仲裁を継続し、仲裁判断、命令あるいはその他の決定を下す権限を有するものとする。他の2名の仲裁人が1名の仲裁人の参加なしに仲裁を継続し、仲裁判断、命令その他の判断を下すかどうかを決定するに際しては、仲裁の進行状況、第3の仲裁人によって不参加の理由が明らかにされているときはその理由、および、他の2名の仲裁人がその事例において考慮するのが適当であると思うその他の事柄を考慮に入れるものとする。
(b) 他の2名の仲裁人が、第3の仲裁人の参加がなければ仲裁を継続しないと決定した場合、センターは、当該仲裁人が仲裁廷の任務に参加しなかったことについての十分な証明を得た上で、当該職務の空席を宣言しなければならず、当事者間に別段の合意がない場合には、第33条に規定する裁量の行使により、後任の仲裁人がセンターにより選任されなければならない。
仲裁廷の管轄に関する申立て
第36条
(a) 仲裁廷は、第61条(c)項に従って審査される仲裁合意の形式、存在、効力あるいは範囲に関するあらゆる異議を含めて、仲裁廷の管轄に対する異議について、聴聞し決定する権限を有する。
(b) 仲裁廷は、仲裁合意がその一部をなし、あるいはそれが関連するいかなる契約の存在あるいは効力についても決定する権限を有する。
(c) 仲裁廷が管轄をもたないという申立ては、防御陳述書の提出までになされなければならない。また、反対請求や相殺の主張については、それに対する防御陳述書の提出までになされなければならず、これに従ってなされなかった場合、そのような主張は、それ以降の仲裁手続においても、またいかなる裁判所に対しても申し立ては許されない。仲裁廷が権限範囲を逸脱しているとの申立ては、仲裁手続中において権限範囲を逸脱しているとされる事柄が挙げられた後に、迅速に申し立てられるべきものとする。いずれの場合においても、仲裁廷は、申立ての遅滞が正当化されると認めるときは、遅れた申立てを許容することができる。
(d) 仲裁廷は、(c)項に定められた申立てを予備的な問題として決定することができ、また、独自の裁量により、最終判断の中でそのような申立てを決定することもできる。
(e) 仲裁廷が管轄権を欠いているという申立ては、センターの仲裁管理行為を妨げるものではない。
IV. 仲裁の実施
仲裁廷の一般的権限
第37条
(a) 第3条に従い、仲裁廷は自らが適当と認める方法で仲裁を遂行することができる。
(b) あらゆる場合において、仲裁廷は、当事者が平等に扱われ、各当事者が事件につき意見を述べる機会を公平に与えられることを保証しなければならない。
(c) 仲裁廷は、仲裁手続が迅速に行われることを保証するものとする。仲裁廷は、例外的な場合には、当事者の申立てまたは自らの判断により、この規則ないし仲裁廷により定められた期間、または当事者間の合意により定められた期間を延長することができる。緊急を要する場合には、このような延長は仲裁廷の長である仲裁人のみによって認められることができる。
仲裁地
第38条
(a) 当事者間に別段の合意のない限り、仲裁地は、当事者の意見および仲裁の諸事情を考慮して、センターが決定する。
(b) 仲裁廷は、当事者との協議の上、自らが適当と認める場所において、審理を実施することができる。仲裁廷は、適当とみなすいずれの場所においても評議することができる。
(c) 仲裁判断は仲裁地において下されたものとみなす。
仲裁言語
第39条
(a) 当事者間に別段の合意のない限り、仲裁言語は、仲裁合意の言語とする。但し、仲裁廷は、当事者の意見および仲裁の諸事情を考慮して、別様の決定を下す権限を有する。
(b) 仲裁廷は、仲裁言語と異なる言語で提出された文書の一部または全部を、仲裁言語に翻訳するよう、命令することができる。
準備会合
第40条
仲裁廷は、通常は仲裁廷の設置後30日以内に、その後の手続の有効かつ安価な運営および日程を決めるために、当事者と何らかな適切な形式で準備会合をもたなければならない。
請求陳述書
第41条
(a) 請求陳述書が仲裁申立書に添付されていない場合、申立人は、センターからの仲裁廷設置の通知を受領した日から30日以内に、請求陳述書を被申立人および仲裁廷に送付しなければならない。
(b) 請求陳述書には、事実の包括的な記載および求められる救済の記述を含めて、請求を根拠づける法的主張が記載されなければならない。
(c) 請求陳述書には、可能な限り、申立人が論拠とする証拠およびその一覧表を添付しなければならない。証拠が特に膨大な量になる場合には、申立人は提出の準備をしているその他の証拠の目録を添付することができる。
防御陳述書
第42条
(a) 被申立人は、請求陳述書の受領日あるいはセンターからの仲裁廷設置の通知の受領日のいずれか遅い時点から30日以内に、防御陳述書を申立人および仲裁廷に送付しなければならない。
(b) 防御陳述書は、第41条(b)項に基づく請求陳述書に記載された事項に応答しなければならない。防御陳述書には、第41条(c)項に定められた方法で、被申立人が論拠とする証拠を添付しなければならない。
(c) 被申立人による反対請求あるいは相殺の主張は、防御陳述書においてなされるものとする。但し、例外的な場合に、仲裁廷の判断により、仲裁手続の後の段階でなされることもあり得る。そのような反対請求や相殺の主張には、第41条(b)および(c)項に定められた事項と同じ事項が含まれなければならない。
更なる書面
第43条
(a) 反対請求が申し立てられあるいは相殺が主張された場合には、申立人はそれに関する事項に応答しなければならない。第42条(a)および(b)項がこの応答に準用されることとする。
(b) 仲裁廷は、裁量により、更なる書面の提出を認め、あるいは要求することができる。
請求ないし防御の修正
第44条
当事者間にこれと異なる合意がない限り、当事者は、仲裁手続中において、請求、反対請求、防御あるいは相殺の主張を修正し、あるいは補足することができる。但し、仲裁廷がその修正の性質または修正時期の遅滞、ならびに第37条(b)および(c)項の規定により当該修正を不適当と考える場合には、この限りではない。
当事者と仲裁廷の間の連絡
第45条
本規則において別段の定めのある場合、あるいは仲裁廷によって許可されている場合を除いて、いかなる当事者あるいはその代理人も、仲裁の実体的内容に関して、一方的に仲裁人と連絡をとってはならないものとする。但し、本項は、審問の物的設備、場所、日時といった純粋に運営的性質の事柄に関する一方的な通信を禁じるものではない。
参加
第46条
仲裁廷は、一方当事者の申立てにより、追加の当事者を含めた当事者すべての合意を条件とし、仲裁に追加の当事者を参加させる命令を発することができる。そのような命令では、仲裁の進行状況を含めた関連するすべての事情を考慮に入れるものとする。この申立ては、仲裁申立書もしくは申立答弁書と共に、または当事者が参加に関連性があると認める事情を後の段階で認識した場合は当該当事者がその事情を知った後15日以内に、行われなければならない。
併合
第47条
本規則に基づくまたは同一の当事者に係る仲裁手続に既に係属している紛争の内容と実質的に関連する内容に係る仲裁が開始された場合、センターは、すべての関連当事者および係属中の手続において選任された仲裁廷と協議の上、すべての当事者および選任された仲裁廷の合意を条件として、既に係属中の仲裁手続に新しく開始された仲裁を併合する命令を発することができる。そのような併合では、係属中の手続の進行状況を含めた関連するすべての事情を考慮に入れるものとする。
暫定的保全措置・請求および費用の担保
第48条
(a) 一方当事者の申立てにより、仲裁廷は、仲裁廷が必要とみなす保全命令あるいはその他の暫定的措置を講じることができる。これには、第三者への寄託あるいは腐敗しやすい物品の売却命令など、差止あるいは紛争の対象となっている物品の保全に関する措置も含まれる。仲裁廷は、申立てをした当事者による適当な担保の提供を条件として、この措置を認めることができる。
(b) 一方当事者の申立てにより、仲裁廷は、相手方当事者に対して、請求や反対請求および第74条に定める費用についての担保を仲裁廷が決定した方式により提供するよう命ずることができる。
(c) 本条が意図している措置および命令は、暫定的判断の方式をとることができる。
(d) 一方当事者によって司法機関に対してなされた暫定命令の申立て、請求もしくは反対請求の担保提供の申立て、または仲裁廷によって認められた措置あるいは命令の実施を求める申立ては、仲裁合意と矛盾するもの、あるいは仲裁合意を放棄するものとはみなされない。
緊急救済手続
第49条
(a) 当事者間に別段の合意がない限り、本条の規定は、2014年6月1日あるいはその日以後に締結された仲裁合意に基づく仲裁に適用するものとする。
(b) 仲裁廷の設置に先立って緊急の暫定的救済を求める当事者は、そのような緊急救済の申立てをセンターに提出することができる。緊急救済の申立てには、第9条(ii)項から(iv)項に定められる事項ならびに求められる暫定的措置についての陳述およびかかる救済が緊急ベースで必要な理由の陳述を含めるものとする。センターは、緊急救済の申立ての受領を、相手方当事者に通知するものとする。
(c) 緊急救済手続の開始日は、(b)項に規定する申立がセンターによって受領された日とする。
(d) 緊急救済の申立ては、緊急救済手続の開始日に適用される手数料表に従った実施手数料および緊急仲裁人手数料の当初予納金の支払いの証明を条件とする。
(e) センターは、緊急救済の申立ての受領後速やかに、通常2日以内に、単独の緊急仲裁人を選任するものとする。第25条および第26条に規定する期間を3日として、第22条から第29条までの規定が準用されることとする。
(f) 緊急仲裁人は、自らの管轄の決定権を含め、第36条(a)および(b)項に基づき仲裁廷によって既得された権限を有するものとする。第36条(e)項の規定が準用されることとする。
(g) 緊急仲裁人は、申立ての緊急性を適切に考慮し、自らが適当と認める方法で手続を遂行することができる。緊急仲裁人は、各当事者がその立場を述べる公平な機会を与えられることを確保しなければならない。緊急仲裁人は、審問に代えて、電話会議または書面の提出による手続を行うことを認めることができる。
(h) 仲裁地について当事者が合意している場合は、当該仲裁地が緊急救済手続の場所となるものとする。そのような合意がない場合は、センターが、当事者による見解および緊急救済手続の諸事情を考慮して、緊急救済手続の場所を決定するものとする。
(i) 緊急仲裁人は、自らが必要とみなすいかなる暫定的措置をも命令することができる。緊急仲裁人は、申立当事者による適当な担保の提供を条件として、当該命令を発することができる。第48条(c)および(d)項の規定が準用されることとする。申立てにより、緊急仲裁人は命令を変更または取り消すことができる。
(j) 緊急救済手続の開始日から30日以内に仲裁が開始されない場合、緊急仲裁人は緊急救済手続を取り消さなければならない。
(k) 緊急救済手続の費用は、緊急仲裁人により、センターと協議の上、緊急救済手続の開始日に適用される手数料表に従って当初定められ割り振られるが、仲裁廷が第73条(c)項に基づき当該費用の割り振りを最終的に決定する権限に服するものとする。
(l) 当事者間に別段の合意がない限り、緊急仲裁人は、当該紛争に関するいかなる仲裁の仲裁人にもなることはできない。
(m) (m) 緊急仲裁人は、仲裁廷が設置されると、それ以降の執行権限を有しない。当事者の申立てにより、仲裁廷は、緊急仲裁人が命令した措置を変更または取り消すことができる。
証拠
第50条
(a) 仲裁廷は、証拠能力、証拠の関連性、証拠の重要性および証拠の優越性を決定するものとする。
(b) 仲裁廷は、仲裁手続の間はいつでも、当事者の申立てまたは自らの判断により、必要あるいは適当と認める文書、あるいは他の証拠の提出を当事者に命じ、あるいは、一方当事者に対して、仲裁廷あるいは仲裁廷が選任した専門家ないしは相手方当事者による調査または検査のために、占有または管理する財産を提供するよう命ずることができる。
実験
第51条
(a) 当事者は、仲裁廷および相手方当事者に対して、審理に先立つ合理的な時点において、その当事者が論拠とするために特定の実験を行ったことを通知することができる。その通知には、実験の目的、実験の概略、実験の方法ならびに結果および結論が明記されなければならない。相手方当事者は、仲裁廷への通知により、その実験のすべてを自己の面前で再度行うことを求めることができる。仲裁廷がその申立てを正当と認めるときは、仲裁廷は実験の再現の日程を決定する。
(b) 本条において、「実験」とは、試験あるいは立証に関するその他の手続を含むものとする。
現地視察
第52条
仲裁廷は、一方当事者の申立てまたは仲裁廷自らの判断により、適当とみなすあらゆる場所、財産、機械、設備、製造過程、模型、フィルム、材料、製品あるいは工程を検証しあるいは検証を求めることができる。当事者は、審問に先立ついかなる合理的な時期においてもかかる検証を求めることができ、また仲裁廷は、かかる申立てを認めるときは、検証の時期を決定し手配を整えるものとする。
合意の上での手引書および模型
第53条
仲裁廷は、当事者が合意するときは、当事者が共同して以下のものを提出するよう決定することができる。
(i) 争点となっている問題を十分に理解するのに必要な、科学的、技術的その他の専門の情報の背景を記述した技術的手引書、および
(ii) 仲裁廷あるいは当事者が審理において参照目的で要求した、模型、図面その他の材料
営業秘密およびその他の機密情報の開示
第54条
(a) 本条において、機密情報とは、その表現媒体にかかわらず、以下の情報を意味するものとする。
(i) 当事者の所持するものであり、
(ii) 公衆が利用できないものであって、
(iii) 商業的、財務的、または産業的重要性を持ち、かつ、
(iv) 所有する当事者によって機密として扱われているもの
(b) 仲裁廷によって指名された専門家への提出を含めて、仲裁に提出しようとするまたは提出を求められている情報の機密性を主張する当事者は、仲裁廷への通知および相手方当事者へのその写しの送付によって、その情報が機密扱いと分類されることを求める申請をしなければならない。当事者は、その情報の内容を開示することなく、その通知において、当該情報が機密であるとする理由を提示しなければならない。
(c) 仲裁廷は、その情報が機密扱いとして分類されるべきか、および手続上特別な保護措置が講じられないことが機密性を主張する当事者に深刻な害を生じさせるであろう性質のものかを判断しなければならない。仲裁廷がそのように判断した場合には、仲裁廷は、いかなる条件のもとでまた誰に対してその機密情報の全部あるいは一部が開示されるべきかを決定しなければならず、またその機密情報が開示される者に対して適当な秘密保持を確約する旨の署名を要求しなければならない。
(d) 例外的な場合に、仲裁廷は、情報が機密扱いと分類されるべきか、および手続上特別な保護措置が講じられないことが機密性を主張する当事者に深刻な害を生じさせるであろう性質のものかを自らが判断するのに代えて、一方当事者の申立てまたは自らの発議により、そして当事者との協議の上で、その情報が機密扱いと分類されるべきか、さらに、もしそうであればいかなる条件のもとでまた誰に対してその機密情報の全体あるいは一部が開示されるべきかを判断する機密性アドバイザーを選任することができる。そのような機密性アドバイザーは、適当な秘密保持を確約する旨の署名を要求される。
(e) また仲裁廷は、一方当事者の申立てまたは自らの発議により、機密情報を保有しない当事者および仲裁廷のいずれに対してもその機密情報を開示することなく、その機密情報に基づいて、仲裁廷により指定された特定の事柄につき仲裁廷に報告させるために、機密性アドバイザーを第57条に従って専門家として選任することができる。
審問
第55条
(a) 一方当事者の申立てがあったときは、仲裁廷は、専門家証人を含めた証人による証拠の提示、もしくは口頭弁論、またはその双方を行うために、審問を行うものとする。かかる申立てがない場合、仲裁廷がそのような審問を行うかを決定する。審問が行われない場合、審理は文書およびその他の資料にのみ基づいて進められる。
(b) 審問が行なわれる場合、仲裁廷は、審問の日時および場所について、当事者に適切な事前の通知を行う。
(c) 当事者間に別段の合意がない限り、すべての審問は非公開で行われるものとする。
(d) 仲裁廷は、審問について記録がとられるべきか、またとられるとすればどのような形態でとられるべきかを決定しなければならない。
証人
第56条
(a) 仲裁廷は、審問に先立って、当事者に対し、事実証人あるいは専門証人の如何にかかわりなく、呼び出そうとする証人の身元、証言の主題および争点との関連性について通知を求めることができる。
(b) 仲裁廷は、重複していることあるいは無関係であることを理由として、証人の出廷を制限あるいは拒絶することができる。
(c) 口頭で証拠を提示する証人は、仲裁廷の指揮のもとに、各当事者によって尋問される。仲裁廷は、証人尋問のいずれの段階においても質問をすることができる。
(d) 証人の証言は、当事者の選択によりあるいは仲裁廷の指揮により、署名によるものであれ宣誓供述書によるものであれまたはそれ以外の方法であれ、書面によって提出することができる。この場合において、仲裁廷はそのような証言が認められる場合を、口頭による証言が可能な証人に限ることができる。
(e) 当事者は、自らが呼び出そうとする証人の事務的手配、費用および出席について責任を負うものとする。
(f) 仲裁廷は、審理の間いつでも、とりわけ他の証人の証言中に、証人を退廷させるかどうかを決定しなければならない。
仲裁廷による専門家の選任
第57条
(a) 仲裁廷は、準備会合においてまたは後の段階で、当事者との協議の上、仲裁廷により指定された特定の争点につき仲裁廷に報告させるために、1名ないし複数の独立の専門家を選任することができる。当事者の意見を斟酌した上で仲裁廷により確定された専門家への委託事項の写しは、当事者に通知されるものとする。専門家は適当な秘密保持を確約する旨の署名を要求されることとする。
(b) 専門家の報告を受けたときは、仲裁廷は、第54条に従いつつ、その報告書の写しを当事者に送付しなければならない。当事者には報告書に対する自らの意見を書面によって表明する機会が与えられる。当事者は、第54条に従いつつ、専門家が報告書において論拠としたあらゆる文書を精査することができる。
(c) 一方当事者の申立てにより、当事者は審問において専門家に質問する機会を与えられる。審問において、当事者は、争点について証言するための専門家証人を呼ぶことができる。
(d) 付託された1つあるいは複数の争点に対する専門家の意見は、事件のあらゆる事情を考慮して、これらの争点を評価する仲裁廷の権限に服するものとする。但し、当事者が特定の争点について専門家の判断を終局的なものとすると合意した場合はこの限りではない。
懈怠
第58条
(a) 申立人が、十分な理由を示すことなく、第41条に従った請求陳述書を提出しないときは、仲裁廷は手続を終了するものとする。
(b) 被申立人が、十分な理由を示すことなく、第42条に従った防御陳述書を提出しなくても、仲裁廷は仲裁手続を進め、仲裁判断を下すことができる。
(c) 仲裁廷は、一方当事者が十分な理由を示すことなく仲裁廷が定めた期間内に事件について意見を述べる機会を利用しなかったときは、仲裁手続を進め仲裁判断を下すことができる。
(d) 当事者の一方が、十分な理由を示すことなく、本規則の規定もしくは要件または仲裁廷の指示に服しないときは、仲裁廷はこれにつき自らが適当と認める判断を下すことができる。
審理の終結
第59条
(a) 仲裁廷は、当事者が見解表明および証拠提示のための十分な機会を与えられたと考えるときは、審理の終結を宣言するものとする。
(b) 仲裁廷は、例外的な事情により必要であると認めるときは、自らの判断または当事者の申請により、仲裁判断を下す前であればいつでも、終結を宣言した審理を再開することができる。
権利放棄
第60条
本規則の規定、仲裁合意における要件または仲裁廷の指示が遵守されていないことを知り、かつ、そのような不遵守に対して速やかに異議を申し立てずに仲裁手続に従っている当事者は、異議を申し立てる権利を放棄したものとみなされる。
V. 仲裁判断およびその他の決定
紛争の実体、仲裁および仲裁合意の準拠法
第61条
(a) 仲裁廷は、紛争の実体について、当事者によって選択された法あるいは法規に則って判断しなければならない。特定国の法の指定は、別段の表明がなされていない限り、その国の抵触法規ではなく、その国の実体法規を直接指定するものと解釈されなければならない。当事者による選択がない場合、仲裁廷は仲裁廷が適当と考える法あるいは法規を適用するものとする。あらゆる場合において、仲裁廷は、関連する契約の条件に適切な注意を払い、適用される取引慣行を考慮に入れて、判断しなければならない。仲裁廷は、当事者からの明示の授権がある場合にのみ、友誼的仲裁人として、あるいは衡平と善に従って決定できるものとする。
(b) 当事者が他の仲裁法の適用につき明示的に合意しており、かつ、その合意が仲裁地の法によって許されるものである場合を除き、仲裁の準拠法は仲裁地の仲裁法とする。
(c) 仲裁合意は、(a)項により適用される法もしくは法規、または(b)項により適用される法、のいずれかの形式、存在、効力および範囲に関する要件を満たす場合に有効とみなされる。
通貨および利息
第62条
(a) 仲裁判断の金額は、いずれの通貨によっても表示することができる。
(b) 仲裁廷は、支払いを命じられた当事者に単利を課し、あるいは複利を課す判断をすることができる。仲裁廷は法定利息の利率にとらわれず、適当と認める利率を自由に決定し、また利息が支払われるべき期間についても、自由に決定することができる。
議事決定
第63条
当事者間に別段の合意がない限り、仲裁人が複数の場合には、仲裁廷による仲裁判断、命令その他の決定は多数決によってなされるものとする。多数決による決定が整わない場合には、仲裁廷の長である仲裁人が単独仲裁人であるかのように仲裁判断、命令その他の決定を行うものとする。
仲裁判断書の記載事項と送付
第64条
(a) 仲裁廷は、異なる争点につき、異なる時期に別個の仲裁判断を下すことができる。
(b) 仲裁判断は書面によってなされるものとし、仲裁判断がなされた日付を記載しなければならない。第38条(a)項に基づく仲裁地についても同様とする。
(c) 仲裁判断書には、根拠となった理由が記載されていなければならない。但し、当事者が理由の記載を不要とすることに合意しており、かつ、仲裁の準拠法が理由の記載を求めていない場合にはこの限りではない。
(d) 仲裁判断書には仲裁人の署名がなければならない。過半数の仲裁人による仲裁判断書への署名、あるいは第63条第2文の場合においては仲裁廷の長である仲裁人による署名で足りるものとする。仲裁人が署名しなかった場合には、仲裁判断書中において当該署名が欠けている理由が明示されなければならない。
(e) 仲裁廷は、仲裁判断書の記載事項の問題について、とりわけ仲裁判断の執行力の確保について、センターと協議することができる。
(f) 仲裁廷は、当事者、仲裁人およびセンターに配布するのに必要な部数の仲裁判断書の原本を、センターに送付しなければならない。センターは仲裁判断書の原本を当事者および各仲裁人に正式に送付するものとする。
(g) 当事者の申立てにより、センターは、有料で、センターによって認証された仲裁判断書の謄本を提供するものとする。そのように認証された謄本は、1958年6月10日の外国仲裁判断の承認と執行に関するニューヨーク条約第4条1項a号の要件を満たしているものとみなす。
最終仲裁判断書の交付の期限
第65条
(a) 合理的に可能である限り、防御陳述書の送付日あるいは仲裁廷の設置日のいずれか遅い時点から9ヶ月以内に、仲裁審理が進められ、審理の終結が宣言されるものとする。最終判断は、合理的に可能である限り、その後3ヶ月以内になされるものとする。
(b) 審理が(a)項に定められた期限内に終結しない場合、仲裁廷はセンターに仲裁の状況に関する報告書を送付し、各当事者へその写しを送付しなければならない。審理が終結していない場合、3ヶ月毎に、仲裁状況に関する報告書をセンターに送付し、各当事者にもその写しを送付しなければならない。
(c) 最終判断が仲裁審理終結から3ヶ月以内になされない場合、仲裁廷は遅滞理由の説明書を書面でセンターに送付し、各当事者にもその写しを送付しなければならない。最終判断がなされるまで、1ヶ月毎に、理由説明書をセンターに送付し、各当事者にもその写しを送付しなければならない。
仲裁判断の効力
第66条
(a) 本規則による仲裁への合意によって、当事者は遅滞なく仲裁判断を実行する義務を負い、準拠法上有効な限りにおいて、上訴あるいは裁判所またはその他の司法機関に訴える権利を放棄する。
(b) 仲裁判断は、第64条(f)項第2文に基づきセンターによって送付された日から効力を生じ、当事者を拘束するものとする。
和解またはその他の終結事由
第67条
(a)仲裁廷は、適当と考える時期に、当事者に対して、調停の開始を手段とする方法も含めて、和解を試みるよう勧めることができる。
(b) 仲裁判断がなされる前に当事者が紛争の和解に合意したときは、仲裁廷は仲裁を終了することとし、当事者が共同して申し立てるときは、仲裁廷は和解を同意判断の方式で記録することとする。仲裁廷は、そのような仲裁判断を下すための理由を示す義務を負わないこととする。
(c) 仲裁判断がなされる前に、(b)項で掲げられている理由以外の何らかの理由により、仲裁の継続が不要あるいは不可能になった場合には、仲裁廷は当事者に仲裁終了の意思を伝えるものとする。当事者が仲裁廷の定める期間内に正当な理由のある異義を申し立てない限り、仲裁廷は仲裁終了の命令を発する権限を有するものとする。
(d) 同意判断書あるいは仲裁終了命令は第64条(d)項に基づいて仲裁人によって署名されるものとし、仲裁廷は、当事者、仲裁人およびセンターに配布するのに必要な部数の原本を、センターに送付しなければならない。センターは、同意判断書あるいは仲裁終了命令の原本を各当事者と各仲裁人に正式に送付するものとする。
仲裁判断の訂正および追加仲裁判断
第68条
(a) 仲裁判断書の受領後30日以内に、当事者は、仲裁廷に通知するとともにセンターおよび相手方当事者にその写しを送付して、仲裁廷に、仲裁判断書の誤記、タイプミス、計算上の誤りの訂正を申し立てることができる。仲裁廷がその申立てを正当と考える場合、申立て受領後30日以内に訂正を行わなければならない。訂正は別個の覚書の形式で行われ、第64条(d)項に従って仲裁廷が署名することにより、仲裁判断の一部となるものとする。
(b) 仲裁廷は、(a)項で定められた誤りを、仲裁判断の日から30日以内に自ら訂正することができる。
(c) 仲裁判断書受領から30日以内に、当事者は、仲裁廷に通知するとともにセンターおよび相手方当事者にその写しを送付して、仲裁廷に、仲裁手続中に現れた請求であって仲裁判断では扱われなかった請求について、追加判断をするよう申し立てることができる。仲裁廷は、当該申立てについて決定を下す前に、当事者に審問の機会を与えなければならない。仲裁廷がその申立てを正当と考える場合には、合理的に可能であるならば、仲裁廷は申立ての受領後60日以内に追加判断を下さなければならない。
VI. 手数料および費用
センター手数料
第69条
(a) 仲裁の申立にあたっては、センターに登録手数料を支払うものとする。登録手数料は返還されない。登録手数料の額は、仲裁申立書がセンターによって受領された日に適用される手数料表に従って定められるものとする。
(b) 被申立人による反対請求にあたっては、センターに登録手数料を支払うものとする。登録手数料は返還されない。登録手数料の額は、仲裁申立書がセンターによって受領された日に適用される手数料表に従って定められるものとする。
(c) 登録手数料が払われるまでは、センターは仲裁の申立あるいは反対請求に対していかなる措置もとらない。
(d) 申立人または被申立人が、センターからの書面による督促から15日以内に登録手数料を支払わない場合には、仲裁の申立または反対請求は取り下げられたものとみなす。
第70条
(a) 実施手数料は、申立人がセンターより額の通知を受領してから30日以内に、申立人によりセンターに支払われるものとする。
(b) 反対請求の場合もまた、実施手数料は、被申立人がセンターより額の通知を受領してから30日以内に被申立人によって支払われるものとする。
(c) 実施手数料の額は、仲裁開始日に適用される手数料表に従って計算されるものとする。.
(d) 請求や反対請求が増額された場合、実施手数料の額は(c)項において適用される手数料表に従って増額されることができる。その増加額は、場合に応じて、申立人または被申立人が支払うものとする。
(e) 当事者が、センターからの書面による督促から15日以内に実施手数料を支払わない場合、当該請求あるいは反対請求、もしくは請求あるいは反対請求の増額請求は取り下げられたものとみなす。
(f) 仲裁廷は、適切な時期に、請求および反対請求の額、およびその増額分を、センターに報告しなければならない。
仲裁人手数料
第71条
仲裁人手数料の額と通貨およびその支払いの方法と時期は、仲裁人および当事者と協議した後に、仲裁開始日に適用される手数料表に従って、センターにより決定されるものとする。
予納金
第72条
(a) 仲裁廷の設置に関するセンターからの通知を受領した場合、申立人および被申立人は、第73条に定められる仲裁費用の前払金として、それぞれ同額を予納しなければならない。予納額はセンターによって決定される。.
(b) センターは、仲裁手続の途中で、当事者に追加的な予納金を求めることができる。
(c) 求められた予納金がその通知の受領日から30日以内に全額支払われない場合、センターは、当事者のいずれかが当該支払いを行うことができるよう、当事者に対し通知するものとする。
(d) 反対請求の額が請求の額を著しく超える場合あるいは著しく異なる問題の審査を含んでいる場合、もしくは事情により他の方法が適当と認める場合には、センターは裁量により請求および反対請求の額について別々の予納金を定めることができる。別々の予納金が定められた場合、請求に関する予納金の総額は申立人が、また、反対請求に関する予納金の総額は被申立人が支払うものとする。
(e) 当事者が、センターからの書面による督促から15日以内に求められた予納金を支払わなかった場合、当該請求あるいは反対請求は取り下げられたものとみなされる。
(f) 仲裁判断が下された後、センターは、仲裁判断に従って、受領した予納金の精算報告書を当事者に提出するとともに、未使用額については当事者に返還し、また不足額については当事者に支払いを求めるものとする。
仲裁費用に関する判断
第73条
(a) 仲裁廷は、仲裁判断の中で仲裁費用を確定する。仲裁費用は次の各号に定めるものからなることとする。
(i) 仲裁人手数料
(ii) 適正に生じた仲裁人の旅費、通信費およびその他の支出
(iii) この規則に基づいて仲裁廷により要請された専門家の助言その他の援助の費用、および
(iv) 会合費や審問実施費など、仲裁手続の実施に必要とされたその他の支出
(b) 上記の費用は、可能な限り、第72条に従い要求される予納金の中から支出するものとする。
(c) 仲裁廷は、当事者間に合意があるときはこれに従いつつ、仲裁のあらゆる事情および仲裁の結果を考慮して、仲裁費用、センター登録手数料および実施手数料を当事者間に割り振るものとする。
当事者の負担した費用に関する判断
第74条
仲裁判断において、仲裁廷は、当事者間に反対の合意のあるときはこれに従いつつ、仲裁のあらゆる事情および仲裁の結果を考慮して、当事者の一方に、法定代理人および証人の費用を含めて、相手方当事者が事案の提示に要した合理的な出費の全部または一部の支払いを命じることができる。
VII. 秘密保持
仲裁の存在に関する秘密保持
第75条
(a) 仲裁に対する裁判所への異議申立あるいは仲裁判断執行のための訴訟に必要な範囲を除いて、当事者は仲裁の存在に関する情報を、第三者に対して一方的に明らかにしてはならない。但し、法律あるいは権限ある機関によって開示することが求められている場合には、次の方法に限って開示することが認められる。
(i) 法的に要求されている内容を超えては開示せず、かつ
(ii) 開示が仲裁実施中になされる場合には仲裁廷および相手方当事者に、また開示が仲裁終了後になされる場合には相手方当事者にのみ、開示の内容およびその理由を説明する
(b) (a)項の規定にかかわらず、当事者は第三者に対して仲裁当事者の名前および請求されている救済を、当該第三者に対して負う誠実義務を充足する目的で、開示することができる。
仲裁手続中になされた開示の秘密保持
第76条
(a) 第54条の下で利用できる特定の方法に加えて、仲裁手続において当事者あるいは証人によってもたらされた文書もしくはその他の証拠は秘密として扱われるものとし、そのような証拠が公の場に現れていない情報を含む限りにおいて、専ら仲裁への参加の結果としてのみ当該情報に接することができた当事者は、当事者による同意あるいは管轄裁判所の命令なしにこれを利用し、またその情報を第三者に開示してはならない。
(b) 本条においては、当事者によって呼び出された証人は、第三者とはみなさない。証人が、仲裁において入手された証拠あるいはその他の情報に接することが証言に備えるために許されている限りにおいて、その証人を呼び出した当事者は、証人が当事者と同等の秘密保持義務を負うことについて責任を負うものとする。
仲裁判断の秘密保持
第77条
仲裁判断は当事者によって秘密として扱われるものとし、次のいずれかの場合に必要な範囲でのみ第三者に開示することができる。
(i) 当事者間に合意がある場合
(ii) 国の裁判所あるいは他の権限ある機関における訴訟の結果、公の場に現れるに至った場合
(iii) 当事者が自らに課された法律上の要件に従うために、あるいは第三者に対する自らの法的権利を確認しあるいは保護するために、開示しなければならない場合
センターおよび仲裁人による秘密の維持
第78条
(a) 当事者間に別段の合意のない限り、センターおよび仲裁人は、仲裁、仲裁判断および、公の場に現れていない情報を含む限りにおいて、仲裁において開示されたあらゆる文書その他の証拠の秘密を保持しなければならない。但し、仲裁判断に関わる訴訟その他法律上要求される場合にはこの限りでない。
(b) (a)項の規定にかかわらず、センターは、当該情報によって当事者あるいは紛争状況が特定されないことを条件に、センターの活動について公表する累積的な統計データの中に当該仲裁に関する情報を含めることができる。
VIII. 雑則
免責
第79条
故意の不法行為による場合を除き、仲裁人、WIPOおよびセンターは、当事者に対して、仲裁に関するいかなる行為または不作為についても責任を負わない。
名誉毀損訴権の放棄
第80条
当事者および選任を受諾した仲裁人は、仲裁の準備ないし実施の過程において、自らまたはその代理人によって使用された書面または口頭によりなされたいかなる陳述あるいは発言をも、名誉毀損、文書による名誉毀損、口頭による名誉毀損、その他これに類する申立を内容とする訴訟の基礎としたり、あるいはこれを維持したりするために持ち出すことができないものとすることに同意する。本条は、そのような訴訟に対する抗弁として援用することができる。