WIPO Arbitration and Mediation Center
紛争処理パネル裁定
Novo Nordisk A/S 対 Whois Privacy Protection Service by MuuMuuDomain / Katsumi Nagashio
事件番号 D2016-2553
1. 紛争当事者
申立人:Novo Nordisk A/S, Bagsvaerd, Denmark 申立人代理人:青和特許法律事務所, Japan。
被申立人:Whois Privacy Protection Service by MuuMuuDomain, Fukuoka, Japan / Katsumi Nagashio, Tokyo, Japan。
2. ドメイン名および登録機関
紛争の対象であるドメイン名:<novo-nordisk.net> 本件ドメイン名の登録機関:GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.com.
3. 手続の経過
本件申立書は、2016年12月16日にWIPO仲裁調停センター(以下、「センター」)へ提出された。センターは同日付のメールにより本件ドメイン名の登録確認を登録機関GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.comに要請した。2016年12月19日にGMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.comはメールによりセンターへ登録確認の返答をし、被申立人がドメイン名登録者であることを確認し、その連絡先細目を通知した。センターは申立人へ2016年12月20日に登録機関により公開されたドメイン名登録者および連絡先細目を通知した。それに伴い、申立人は申立書を訂正することができると案内された。申立人は申立書の補正書を2016年12月21日にセンターへ提出した。センターは申立書および補正書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則 (以下、「補則」)における方式要件を充足していることを確認した。
手続規則第2条(a)項および第4条(a)項に従い、センターは本件申立を被申立人に通知し、2016年12月23日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条(a)項に従い、答弁書の提出期限は2017年1月12日であった。被申立人は答弁書を提出しなかった。したがって、センターは被申立人の義務の不履行を2017年1月13日に通知した。
センターは、近藤惠嗣を単独のパネリストとして本件について2017年1月18日に指名した。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認した。手続規則第7条の要請に従い、紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した。
規則11条は、本件紛争の手続言語は、当事者間で別段の合意または登録合意書に別段の定めがない限り、手続言語は登録合意書の言語とする、と定める。本件ドメイン名の登録合意書の言語は日本語であるので、本件紛争の手続言語は日本語とする。
4. 背景となる事実
申立人は、デンマークに所在する製薬会社であり、ノルディスク インスリン研究所とノボ テラピューティスク研究所の合併によって1989年に設立された。申立人は、日本において、「Novo Nordisk」の文字商標及び「Novo Nordisk」の文字と牛の図形からなる商標について、国際登録番号第1062677号及び第759747A号並びに「ノボノルディスク」の文字商標について日本国登録番号第4568605号の各商標権を有している。以下、これらのうち、国際登録番号第1062677号に係る登録商標を「本件商標」という。
5. 当事者の主張
A. 申立人
(1) ドメイン名は、申立人が有する商標及び役務商標(サービスマーク)に同一又は混同させるような類似性を有している
本件ドメイン名(novo-nordisk.net)のうち、「.net」の部分は、ドメイン名の種類を示す部分で識別力が無い。
本件ドメイン名(novo-nordisk.net)のうち、「novo-nordisk」の部分は、本件商標にはNovoとNordiskの間にスペースがあるが本件ドメイン名には「-」(ハイフン)があり、本件商標は2つあるNが大文字でそれ以外が小文字であるが本件ドメイン名にはそのような違いはない、というわずかな差異があるが、両者の外観は酷似し、称呼及び観念は同一である。
本件ドメイン名が本件商標と同一又は混同させるような類似性を有することは明らかである。
(2) 被申立人は、当該ドメイン名について権利または正当な利益を有さない
申立人は、被申立人に対し、本件商標はもとより、その他Novo Nordiskに係る申立人保有商標及び申立人の社名の使用を許諾したことはない。
被申立人が「novo-nordisk」の名称で一般に知られていた事実はない。
Novo Nordiskは、「新しい」を意味するラテン語に由来する「Novo」とデンマーク語で「北欧」を意味する「Nordisk」からなる。これは、申立人の歴史を経て形成された独特な社名であって、申立人の社名又は本件商標を認識することなく「novo-nordisk」が偶然に使用されることは考えられない。被申立人が、申立人の本件商標を知らずに善意で利用したと解する余地はない。
被申立人は、本件ドメイン名を「出費がかさむときに役立つキャッシングはこれです!」と題するウェブサイトに使用している。同ウェブサイトには、カードローンサービスを提供する会社のサービス内容及び評価の説明が記載されていると共に、カードローンサービスを提供するサイトへのリンクが設定されている。このような使用態様を見れば、被申立人は、本件ドメイン名を正当にして非商業的又は構成に使用しているものでないことは明らかであり、むしろ、本件ドメイン名を使用することで、消費者の誤認を惹き起こし、商業的利益を得る意図を有していたと解される。
その他、被申立人の本件ドメイン名の使用を正当なものであると考えるべき事情はない。
(3) 当該ドメイン名は、不正の目的で登録かつ使用されている
申立人の社名又は本件商標を認識することなく、「novo-nordisk」の組み合わせを偶然に採用することは考えられない。被申立人は、本件ドメイン名が本件商標と同一ないし類似するものであることを知ったうえで、本件商標の下で形成・蓄積された信用を利用する意図であえて登録したことは明らかである。
申立人は糖尿病治療分野において長年の実績を有しており、75カ国に約4万1500人の従業員を擁し、製品は180カ国以上で販売されている。申立人の日本法人も1980年に設立されていたことから、申立人の社名及び本件商標は、日本を含む世界中で広く知られていたと解される。
インターネットのユーザーは、申立人が本件ドメイン名が使用されたウェブサイトを運営していると誤解して訪問することがある。また、本件ドメイン名が使用されたウェブサイトが申立人と提携関係があるように受け取られるおそれもある。さらに、本件ドメイン名が使用されるウェブサイトで紹介されているカードローンサービスについて、申立人がスポンサーシップ、取引提携関係ないしは推奨しているなどという誤解が生じることもある。
被申立人は、本件商標に化体する申立人の信用にただ乗りしつつ、このような誤解を巧みに利用することによって商業的利益を得る目的で利用していたものであることは明らかである。
以上から、本件ドメイン名は、不正の目的で登録かつ使用されているといえる。
B. 被申立人
被申立人は、申立人の主張に対してなんら応答しない。
6. 審理および事実認定
(1) 本件ドメイン名が申立人の商標に混同を引き起こすほど類似していること
本件ドメイン名は、「novo-nordisk」に「.net」を加えたものである。このうち、「novo-nordisk」は、申立人が有する本件商標を構成する「Novo」及び「Nordisk」のそれぞれの「N」を小文字の「n」として「novo」と「nordisk」の間に存在するスペースを「-」に変えただけのものであり、本件商標と混同を惹き起こすほどに類似している。そして、「.net」はジェネリックトップレベルドメイン(g-TLD)であり、本件商標との類似性判断に影響しない。
したがって、本件ドメイン名は申立人の本件商標に混同を引き起こすほど類似している。
(2) 被申立人が本件ドメイン名に対して正当な利益も権利も持たないこと
被申立人は、本件商標の使用について、申立人から一切許諾を得ていない。
被申立人は、「novo-nordisk」の名称で知られていない。
本件ドメイン名を使用したウェブサイトには、カードローンサービス会社の評価が記載されリンクが設定されているが、「novo-nordisk」の名称で商品やサービスの提供は行われていない。
したがって、被申立人は本件ドメイン名に対して正当な利益も権利も一切有していない。
(3) 被申立人が本件ドメイン名を悪意で登録し使用していること
申立人は世界中で事業を展開し、1980年には申立人の日本法人も設立されている。また、申立人は糖尿病治療分野において長年の実績を有しており、75カ国に約4万1500人の従業員を擁し、製品は180カ国以上で販売されている。これらの事実に照らせば、本件ドメイン名が登録された2015年8月30日時点において、被申立人は、日本国内においても、少なくとも、糖尿病治療関係者及び糖尿病患者の間で本件商標が広く知られていたことを認識していたと認定できる。
「novo」はラテン語で「新しい」を意味する単語であり「nordisk」はデンマーク語で「北欧」を意味する単語である。被申立人がこれら異なる言語の単語を組み合わせてnovo-nordiskという単語を考え付いたとは考えにくい。さらに、言語の違いを無視してこれらを組み合わせた場合には、「新しい北欧」という観念を生ずるが、被申立人と「新しい北欧」とという観念とを結びつける事情は全く存在しない。したがって、上記のとおり、少なくとも糖尿病治療関係者及び糖尿病患者の間で本件商標が広く知られていたことからすれば、被申立人は、申立人の社名又は本件商標を知りながら、あえてそれに類似する本件ドメイン名を登録したと認められる。
したがって、本件ドメイン名は悪意で登録されたといえる。
次に、被申立人は、本件ドメイン名を使用したウェブサイトにおいて、カードローンサービス会社の評価を記載し、リンクを設定している。このような使用方法は、本件ドメイン名の転売目的や不正の利益を取得する目的などの積極的な悪意による使用を示すものではない。
しかしながら、本件商標に類似する本件ドメイン名を使用することで、本件ドメイン名を使用したウェブサイトの運営者が、あたかも申立人又は申立人の提携関係会社等であるとか、申立人からスポンサーシップを受けているかのような誤認が生じ得る。また、申立人のウェブサイトを検索するインターネット・ユーザーが誤って被申立人のウェブサイトに誘導される可能性も極めて大きい。登録時の悪意も考慮すれば、まさに被申立人は、そのような誤認を利用して商業的利益を得ることを目的として本件ドメイン名を使用していると推認できる。
したがって、本件ドメイン名は悪意で使用されているといえる。
7. 裁定
以上の理由により、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは当該ドメイン名<novo-nordisk.net>を申立人へ移転することを命じる。
近 藤 惠 嗣
パネリスト
日付: 2017年1月26日