WIPO Arbitration and Mediation Center

紛争処理パネル裁定

Philip Morris Products S.A. 対 Hiroshi Miyagawa

事件番号 D2018-2585

1. 紛争当事者

申立人は、Philip Morris Products S.A. であり、その住所地はスイス国ヌシャテルであり、申立人代理人は窪田英一郎であり、その住所地は日本国東京都である。

被申立人は、Hiroshi Miyagawaであり、その住所地は日本国東京都である。

2. ドメイン名および登録機関

紛争の対象であるドメイン名:<アイコスキャッシュバックキャンペーン.com>。

本件ドメイン名の登録機関:GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.com(以下「登録機関」という)

3. 手続の経過

本件申立書は、2018年11月13日にWIPO仲裁調停センター(以下「センター」という)へ提出された。センターは2018年11月13日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を登録機関に要請した。2018年11月16日に登録機関はメールによりセンターへ登録確認の返答をし、申立書に記載された被申立人および連絡先細目と異なる情報を当該ドメイン名の登録者として公開した。センターは申立人へ2018年11月16日に登録機関により公開されたドメイン名登録者および連絡先細目を通知した。それに伴い、申立人は申立書を訂正することができると案内された。申立人は2018年11月20日に申立書の補正書を提出した。

センターは申立書および補正書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下「手続規則」という)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則における方式要件を充足していることを確認した。

手続規則第2条および第4条に従い、センターは本件申立を被申立人に通知し、2018年11月21日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条に従い、答弁書の提出期限は2018年12月11日であった。Stevenと称する人は2018年11月21日及び22日にセンターへ電子メールを送ったが、被申立人は答弁書を提出しなかった。センターはパネリストの指名⼿続の開始を2018年12月12日に通知した。

センターは、Haig Oghigianを単独のパネリストとして本件について2018年12月26日に指名した。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認した。手続規則第7条の要請に従い、紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した。

4.紛争処理手続の言語

本件ドメイン登録合意書の言語は日本語であることから、手続規則第11条に定められる原則通り、本紛争処理手続の使用言語は日本語とする。

5. 背景となる事実

被申立人が答弁書を提出しなかったため、背景となる事実は、原則として、本件申立書に基づいて認定する。

申立人は、世界有数の国際的なたばこ会社であるPhilip Morris International Inc.(以下「PMI」という)のグループに所属する会社であり、PMIが開発し販売する製品の1つであるIQOSブランドを保護するために世界各国でIQOSに関する商標を有しており、また、国際登録も行っている(例えば、アイコス、日本における商標登録番号5768146、登録日2015年5月29日;IQOS(ロゴ商標)、国際登録番号1329691、登録日2016年8月10日)。

本件ドメイン名は2016年8月30日に登録され、galoo.jpによって提供されるウエブサイトへと導くための「アイコスを無料でGET」というリンク(ウエブ広告)を表示している。

6. 当事者の主張

A. 申立人

申立人は、本件ドメイン名の移転を求めている。

申立人は、本件ドメイン名が申立人が有する商標「アイコス」と同一または混同させるような類似性を有していると主張する。すなわち、本件ドメイン名<アイコスキャッシュバックキャンペーン.com>は、申立人の登録商標と完全に同一の名称を組み入れているなどと主張する。

また、申立人は、被申立人は本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないと主張する。すなわち、申立人は、被申立人に対してアイコスの商標を使用し、同商標を含むようなドメイン名を登録することを許可しておらず、また被申立人は本件ドメイン名の正当な非商業的使用またはフェアユースをしていないなどと主張する。

さらに、申立人は、本件ドメイン名が不正の目的で登録かつ使用されていると主張する。すなわち、商業的利益を得るために、本件ドメイン名の下で提供されるウエブサイト(以下「本件ウエブサイト」という)につき、消費者をして申立人が提供していると思わせて、実際には申立人と無関係の第三者によって提供されている別のウエブサイトへアクセスさせるよう促せるものであるなどと主張する。

B. 被申立人

被申立人は答弁書を提出しなかった。

7. 審理および事実認定

処理方針第4条(a)にしたがい、申立人は、ドメイン名の移転を求めるにあたって、次に掲げる要件を証明しなければならない;

(i) 被申立人のドメイン名が、申立人が権利を有する商標又はサービス・マークと同一であるか、又は混同を引き起こすほど類似すること;

(ii) 申立人が、当該ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないこと;及び

(iii)当該ドメイン名が、悪意で、登録かつ使用されていること。

A. 同一または混同を引き起こすほどに類似しており

処理方針第4条(a)(i)にしたがい、申立人は、被申立人のドメイン名が、申立人が権利を有する商標又はサービス・マークと同一であるか、又は混同を引き起こすほど類似すること、を証明しなければならない。

WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, Third Edition (以下「WIPO Overview 3.0」という)の1.11項によると、ドメイン名中のトップレベルドメイン(以下「gTLD」という)は標準的な登録要件であり、混同を引き起こすほどに類似しているか否かの判断上は無視される。

さらに、WIPO Overview 3.01.8項によると申立人の商標に記述的用語等を追加したとしても、争いとなったドメイン名及び当該商標間の類似性を避けられない。

申立人は、日本においてアイコスに関する商標権を有しており、また、その英文表記であるIQOSに関する国際登録も行っている。そして、本件ドメイン名<アイコスキャッシュバックキャンペーン.com> は、アイコスを完全に含み、これに記述的な表現「キャッシュフローキャンペーン」とgTLDである「.com」を追加したにすぎない。

したがって、本件ドメイン名は、申立人のアイコスの商標に混同を引き起こすほど類似している。よって、申立人は、処理方針第4条(a)(i)の要件を満たした。

B. 権利または正当な利益を有しておらず

処理方針第4条(a)(ii)にしたがい、申立人は、被申立人が本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないこと、を証明しなければならない。同第4条(c)は、被申立人がかかる権利又は利益を有することになる例示的な事情を提供する。かかる事情は以下のとおりである。

(i) 被申立人が、この紛争についての何らかの通知を受ける以前に、善意による商品又は役務の提供を行うために、当該ドメイン名を使用していた、又は、使用のための明白な準備をしていたこと;

(ii) 被申立人が、商標権を取得していなくても、そのドメイン名の名称で一般に知られていたこと; 又は

(iii) 被申立人が当該ドメイン名を、正当にして非商業的に又は公正に使用しており、その際に、消費者をそらす、又は、当該商標を毀損する意図を有していないこと。

申立人が、被申立人が当該ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないことを疎明した場合、立証責任が転換し、被申立人は、自己の権利又は正当な利益を示す適切な主張及び証拠を提出しなければならない。被申立人がそのような適切な主張及び証拠の提出に失敗した場合、申立人は、処理方針第4条(a)(ii)の要件を満たしたものとみなされる。

本件申立書によると、申立人は、被申立人に対して申立人の商標を使用することを許諾していないし、また、登録されたアイコス商標を含むようなドメイン名を登録することについても、承認していない。被申立人が本件ドメイン名の名称で一般に知られていたことを基礎づける証拠は一切提出されていない。更に、被申立人は本件ウエブサイトにおいて、商標権者である申立人との関係を正確に開示しておらず、本件ドメイン名を正当にして非商業的に又は公正に使用していたとは認められず、むしろ、商業的利益を得るために、本件ウエブサイトにつき、消費者をして申立人が提供していると思わせて、実際には申立人と無関係の第三者によって提供されている別のウエブサイトへアクセスさせるよう促していた。

以上からすると、申立人は、被申立人が本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないことを疎明したといえる。そして、前記のとおり、被申立人は、本件紛争処理手続に関して一切応答を行っておらず、自己の権利又は正当な利益を示す主張又は証拠を全く提出していない。

したがって、被申立人は本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないと認められる。よって、申立人は、処理方針第4条(a)(ii)の要件を満たした。

C. ドメイン名が悪意で、登録かつ使用されていること

処理方針第4条(a)(iii)にしたがい、申立人は、本件ドメイン名が、悪意で、登録かつ使用されていることを証明しなければならない。

前記のとおり、本件ドメイン名は、アイコスの商標が登録された後で登録されている。申立人の提出した証拠によると本件ウエブサイトには「アイコスを無料でGET」という広告が表示され、消費者に対し、申立人が提供しているとも思えるようなポイントプログラムをよそおっているが、実際には申立人と無関係の第三者のウエブサイトへアクセスするよう促すものである。また、本裁定の時点において、本件ドメイン名から本件ウエブサイトへはエラーメッセージが出てアクセスできず、本件申立の通知を受けて被申立人が使用を停止したことがうかがわれる。WIPO Overview 3.03.2.1項によるとこのことも被申立人の悪意の要素として考慮される。

被申立人は、センターからの通知にかかわらず、本件紛争処理手続に関して答弁書の提出を行っていない。

以上からすると、処理方針第4条(b)(iv)にしたがい、当該ドメイン名は、悪意で、登録かつ使用されていると認められる。したがって、申立人は、処理方針第4条(a)(iii)の要件を満たした。

8. 裁定

以上の理由により、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは当該ドメイン名<アイコスキャッシュバックキャンペーン.com>を申立人へ移転することを命じる。

Haig Oghigian
パネリスト
日付: 2019年1月8日