WIPO Arbitration and Mediation Center
ADMINISTRATIVE PANEL DECISION
行政パネル決定文
ESMOD対Nayuki Nozaki
事件番号:D2011-0248
1. 当事者
申立人:ESMOD フランス国、パリ、75009、ルー ドゥ ラ ロシュフコー、10/12 (10/12、Rue de la Rochefoucauld、75009、PARIS、France)
申立人の代理人:日本国, 特許業務法人ウィンテック(WIN TECH Patent Office)
被申立人:Nayuki Nozaki (日本国大阪府大阪市中央区久太郎町1-9-26 3階(1-9-26-3F Kyutaro-cho、Chuo-ku、Osaka、541-0056 Osaka、Japan)
2. ドメイン名及び登録機関
紛争の対象となったドメイン名は「esmod.net」であり(以下「紛争ドメイン名」という)、紛争ドメイン名はMelbourne IT Ltd.に登録されている。
3. 行政手続の概要
申立人は紛争解決申立書を2011年2月7日に世界知的財産権機関(WIPO)仲裁調停センター(以下、「センター」という)に提出し、センターは、2011年2月7日にMelbourne IT Ltd.に紛争ドメイン名と関連した登録機関の確認を要請するEメールを発送した。2011年2月13日にMelbourne IT Ltd.は、センターにEメールで送った答弁を通じて、被申立人が登録人と記載されていることを確認し、登録人の連絡先を提供した。また、紛争ドメイン名の登録時に使用した登録約款は英語であることを確認した。センターは、紛争解決申立書が統一ドメイン名紛争解決規定(以下、「規定」という)に対する手続規則(以下、「手続規則」という)及び規定に対するWIPO補充規則(以下、「補充規則」という)による形式的要件を満たしているかを点検した。
センターは、2011年2月14日に手続上の言語を通知して、手続上の言語に関する当事者らの意見を求めた。これに伴い申立人は、2011年2月16日に行政手続を日本語で進行することを要請し、被申立人は答弁しなかった。センターは、2011年2月21日に当事者らに手続規則第11条により、今後選任されるパネルが手続上の言語を決める権限があることを通知すると共に、センターが(1)日本語で提出された紛争解決申立書を受け付け、(2)英語または日本語で提出された答弁書を受け付け、(3)可能な場合、二つの言語にいずれも堪能なパネル委員を選定することに決めたという事実を通知した。
センターは、手続規則第2条(a)項及び第4条(a)項により、2011年2月21日に紛争解決申立書が受け付けられた事実を被申立人に公式に通知して行政手続を開始した。そして手続規則第5条(a)項により、被申立人が答弁書を提出できる期限は2011年3月13日であった。被申立人はいかなる答弁書も提出しなかった。したがって、センターは、2011年3月14日に被申立人の答弁書未提出を通知した。
申立人の単独パネル指名意思にしたがって、センターは、本件の紛争解決のための行政パネルのパネル委員としてナム・ホヒョン(Mr. Ho-Hyun Nahm)を委嘱し、パネル委員としての受諾声明書及び公平性と独立性の宣言書を受け付け、手続規則第7条により、2011年4月1日にパネルを適法に構成した。
行政パネルは、申立人の手続上の言語に関する主張を検討した後、手続上の言語として日本語を希望する申立人の主張が妥当であると判断されて、手続規則第11条の規定により、手続上の言語を日本語とすることにした。
4. 事実関係
申立人は、ナポレオン三世の宮廷服飾師のアレクシス・ラヴィーニュ(Alexis Lavigne)によって、1841年に世界最初のファッションの専門教育機関としてパリに設立されて以来、169年の間、14カ国21校のファッションの専門教育機関を設立する等、世界的にネットワークを拡大していっているファッションの専門教育機関である。
申立人は商標<ESMOD>をドイツ、イタリア、スイス、中国、ロシア、韓国等の40カ国余りに登録している。そのうち、申立人の代表的な商標登録事項は以下のとおりである(甲第23号証及び甲第24号証)。
フランス
商標:ESMOD
登録番号:1534654
指定商品/サービス区分:16類(印刷物、学習資料等)、35類(人事管理業)、40類(織物裁断業)、41類(教習業、教育業等)
登録日:1989年6月5日
存続期間:2019年6月5日
日本
商標:ESMOD
国際登録番号:522602
指定商品/サービス区分:16類(印刷物、学習資料等)、35類、40類(織物裁断業)、41類(教習業、教育業等)、42類(ファッションデザイン業)
登録日:1988年2月5日
存続期間:2018年2月5日
被申立人は日本に居住する個人である。
紛争ドメイン名は2010年3月17日に登録された。
5. 当事者らの主張
A. 申立人の主張
第1に、紛争ドメイン名は申立人が1841年から世界的に使用してきた周知・著名商標であり、且つ申立人の登録商標である「ESMOD」と同一または混同を引き起こすほどに類似している。
第2に、被申立人は紛争ドメイン名の登録に対する権利または正当な利益を有していない。
第3に、被申立人が紛争ドメイン名を使用するサイトは申立人のウェブサイトを非常に酷似して模倣して使用しており、申立人の関連会社の「エスモード・ジャポン」のサイトに直結するようにし、電話番号もエスモ-ド・ジャポン東京及び大阪の番号と同じ番号が掲載されている。このサイトにはパンフレット申請のリンクバナーを設け、氏名、メールアドレス等の個人情報を取得する画面に誘導している。また、被申立人の同じサイトには、申立人のモデル図も使用している。このような目的で紛争ドメイン名を登録及び使用することは不正である。
したがって、紛争ドメイン名は申立人に移転されなければならない。
B. 被申立人の主張
被申立人はこれに対して何の答弁もしなかった。
6. 検討及び判断
A. 商標とドメイン名の同一・類似性
申立人の登録商標「ESMOD」と紛争ドメイン名を比較してみると、紛争ドメイン名の構成中「.net」は一般最上位のドメイン名の名称であるため、商標としての識別力がない部分に該当し、商標とドメイン名の同一及び類似性有無の判断時にこれらを除いて判断しなければならない。識別力がないこれらの部分を除いてみると、申立人の登録商標と紛争ドメイン名はいずれも「ESMOD」であって、その観念、外観、称呼が同一であるため、全体的に混同を引き起こすほどに類似している。
B. 被申立人の権利または正当な利益
申立人が提出した各証拠を総合してみると、被申立人は日本の個人としてその氏名は紛争ドメイン名とはいかなる関連もないと考えられ、紛争ドメイン名と同一または類似の名称が被申立人と関連があると知られていることも見出せず、被申立人が申立人の会社の経営陣でもその関連会社の代表者でも講師でもない(甲第295号証ないし甲第31号証)。また、被申立人は申立人の商標の使用権者でもなく、申立人とはいかなる関係もない。このような状況下で、被申立人が紛争ドメイン名に対し権利や正当な利益に関する主張・立証もないので、被申立人が紛争ドメイン名に関する権利または正当な利益を有していることは認められない。
C. 被申立人の不正な目的
申立人の標識が1841年からフランスで服飾デザイン教育業と関連して使用され始めて以来、被申立人が居住する日本を含むアジア、ヨーロッパ、アメリカ、オセアニア等の14カ国21校の名称として使用される等、世界各地でファッションデザイン教育業に160年以上広く使用されてきた事実は、申立人が提出した証拠によって分かることができる。
特に被申立人が居住する日本では、申立人は紛争ドメイン名が登録される遥か以前の1984年には東京で、1994年には大阪でESMOD教育機関を各々開設して使用してきた点、日本では1988年にESMODの商標が登録されて、紛争ドメイン名の登録当時、有効に存続していた点、及び被申立人が紛争ドメイン名を使用して運営するウェブサイトは、申立人の関連会社のESMODジャポンのウェブサイトの内容と酷似している点等、様々な状況に照らして、本パネルは、被申立人が申立人の商標が申立人またはその関連会社のものであることを認識し、本紛争ドメイン名の登録を確保したものと判断される。
さらに、被申立人が紛争ドメイン名を使用したウェブサイトで申立人の関連会社のエスモードジャポンのウェブサイトに酷似して模倣し、同じ場所でエスモードジャポンのウェブサイトに表示された男女モデルの図も表示し、個人情報を取得するバナーを設けて、個人情報を確保するのに紛争ドメイン名を使用することは、被申立人が不正な目的で紛争ドメイン名を登録して使用するものと判断される。
7. 決定
上記で検討したとおり、本行政パネルは規定第4条(i)項及び手続規則第15条にしたがって、ドメイン名<esmod.net>を申立人に移転することを決定する。
ナム・ホヒョン(Ho-Hyun Nahm)
単独パネル委員
日付:2011年4月14日